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第二十六話 『人々を判断するのはその人の肌の色ではなく、人格の中身でなければならない』                      マーティン・ルーサー・キング・ジュニア




 人類の歴史が始まって以来、いや、むしろ始まる前から、人類という欠陥だらけの生き物は集団生活を営むことで、他の生き物とは違う生存戦略で、今日まで生きながらえてきた。

 

 個として完成された存在でもない。

 かと言って、集団で生きていても、それはツギハギだらけの見るに耐えないもの。


 しかし、もっとも世界で大切で、共有されている絶対不変の価値観。

 弱い人間は強い人間が守り、弱い人間は強くなってまた弱い人間を守ることで生きながらえる。

 共生と使命によってのみ種を残すことが許された。


 したがって、人は、人と違うことを嫌い、恐れる。

 それは自分だけに限らず、他人にも押し付ける。

 自分と違う人間を攻撃して、自分と違う人間を引き摺り下ろし、自分と違う人間を排除する。

 争いすらも共生に必要なものであると豪語するかのように、その行為は振るわれる。

 

 世界に必要のない、否、集団にとって異端分子となる、集団にとって必要のない『人間じゃない半端者』は排除されるだけだ。






 *




 

 自我を持つ頃には、自分が周りと違うことくらいは理解していた。

 同年代の子どもたちとは似ても似つかない背丈で、背の低い人間の母親と同じくらい、あるいはそこまではないにしても、齢7つにしての体躯と考えれば、不気味がられるのは当たり前のことなのかもしれない。

 

 きっと私もそちら側であれば、私を、化け物を見るような目で見て、ただ純粋に、疑問や戸惑いから「変な人」や「怖い」という、心無い言葉をかけていたかもしれない。


 「怖くない」というのは、実はとても難しい行為である。

 これは相手から恐怖心を払拭するために、一度相手と心の距離を詰めて、誤解を解くために、心から親身に寄り添わなければならない。

 その上で「怖くない」という言葉を使わなければ、ただ不審者が「怖くない」と言いながら近づいてくるのと変わらない。

 私は齢10で配慮というものを、生き残るためだけに覚えた。


 「悪者をやっつけろ!!!」


 この言葉が聞こえてくれば、たとえ街中でも、教会でも、場所を度外視にして勧善懲悪のドラマが始まる。

 男の子は集団で私を囲み、足を持って戦った。

 女の子は集団で私を囲み、その様子を楽しげに笑うのだ。

 そして私は、空気を壊さないために、「や、やられた」と、頭から血を流しながら呟くのだ。

 そうして全ての物語が終わると、演者たちはそれぞれの生活に戻る。


 人は正義で、それ以外は悪。

 私の人生の最大のテーマにして、最大の呪いは幼少期からずっと変わらない。私の心の楔で、既に錆びついて、手の施しようのないものだ。

 生まれ故郷であるスカンディアは、国民全員が『光輝教団』の信徒である。

 熱心に教えを守る者や、平気で戒律を破るものなど千差万別、信仰心に大小あるが、その教えの全てが人間を貴ぶものであった。


 私は巨人族で、両親も巨人族で、「どうして救ってもくれない神を信じるのか」と、怒られても仕方がないような問いかけをしたことがある。

 その時に両親がかけてくれた言葉は、今でも忘れないでいる。

 「神は人であれ、巨人族であれ、正しい行いをするもののみ助ける。正しい行いをしていたのがたまたま人だけだったからそういうふうに伝わったんだろう。

 だから、卑屈にならずに神を信じるんだ。」と。


 衝撃だった。

 きっと両親も巨人族ということで苦労してきたであろうに、これだけのことを言えるのは、恨み言一つ言わずに言い切れるのは、立派で、自分もそうありたいと思った。

 

 齢11のときのことだった。

 街の子供達が毎日通っている教会で、勉学や魔術について勉強するようになる年齢。


 そのころには既に、私は大人の男を大きく上回るだけの身長となっていた。

 人々の視線というのは悪意を孕まない。

 ただ物珍しいからという理由で向けられるその視線は心を疲弊させるばかりか、私のパーソナルスペースを大きく狭めることになっており、完全に内向的な子に仕立て上げた。


 当時の私の夢は、神父であった。

 魔術を使って人々を導く神官であった。

 そうすれば、いずれ人々は私を、1人の人間として慕ってくれるのではないかと思っていた。信じていた。確信していた。

 勉強が好きだった。勉強は夢を実現するために欠かせない。

 ずっと続けている。

 ただ、


 「ぐぶぉ」

 「だ、大丈夫か!!」


 巨人族は、その種族柄魔術適正が著しく低い。

 そんなことを、齢11になるまで知らなかったのかって?

 そんなことはないと断言しよう。むしろ、知っていながら、私は魔術を極めたいと考えていた。


 魔術一発打つだけで血反吐吐いて半日寝込むような幼少期であっが、それでも偉大な人間は成長するにつれて大成すると。

 そう信じて、毎日、毎日、日が登って、日が傾くまで、目が覚めたら、意識を手放すまで、何度も、何度も魔術を行使した。


 「メラクってすごいよな。」

 「えぇ、なにが?」


 「すごい」という言葉に期待をしてしまった。

 しかし、私の考えとは似ても似つかない返答くる。


 「授業も真面目に受けてるし、その、身体能力が俺ら一般人とは違うっていうか、両手剣を片手でブンブン振り回したり、あれは異次元だわ。

 いいなー、巨人族に生まれて。

 絶対立派な騎士になれるぞ!!」


 「あ」


 私は魔術適性の低さとは相反するように、身体能力は他のそれを上回っていた。

 これも例に漏れず、人間とは骨密度も筋肉量も体格も違う。

 力の差が出ても当然だ。


 「・・・・・」





 *






 私は物心着く頃から動物や可愛いものが好きで、よく野原に出ては野生の生き物と戯れるような子供であった。

 

 たくさんの動物に触れてきた。

 その中には、魔物だっていた。

 魔物は戒律として、見つけ次第処分するべきとされていたが、幼い私は、「どうしてこんなに無害で可愛い生き物の命を奪う必要があるのだろう」と感じていた。


 それは、スライムの、「ポムちゃん」。


 傷ついていたところを、薬草や水を与えて餌付けした。

 齢8つのころからの友達で、街の子供達と馴染めなかった私の、唯一の友達で、心の支えで、誰にも打ち明けることができない秘密であった。


 その年頃で、友達のことを両親に話さなかったのは、それまでの私の人生がそうさせなかったのだと思う。

 私は周りの人間に怖がられたくないと思い、こちらが心を開いているふりをしながら、内心では心を閉じて、見せかけの仮面を取り繕いながら誤魔化していただけに過ぎなかった。


 ポムちゃんはいつも弱々しくて、簡単に殺すことはできただろう。

 子供の私が戒律に従えば、奪うことのできる、そんな弱々しくてどうしようもない命を、守ることが人間なんだと思った。

 両親もきっと、魔物も正しいことをすれば神様が救ってくださると、そう言ってくれるだろうと思っていた。

 ただ、心のどこかで、世界は残酷であると耳元で誰かが囁いてくるような気がして、私は誰にも打ち明けたことはなかった。




 *



 

 「化け物〜!」

 「早く魔人族の国(くに)に帰れ〜!」


 品性のかけらもないような、幼稚で思いやりの欠ける言葉を無数に浴びながら育つ世界を、終わらせて、逃げ出したいと思うことは自然なことで。


 「なにしてるの」


 教会の屋上の手すりに足をかけた、その時だった。

 その人は、幼くも力強さのある声と、小さな体ではあるが優しさを服のように着て歩いている女性で。


 「コカブさん、、、」


 同級生、密かな重い他人であるコカブとの初めての会話であった。


 「何してるのって、聞いてるのよ。」

 「えっと、」


 突然重い他人に話しかけられて、それも自殺現場を目撃されて、動揺せずにいられようか。

 私がしどろもどろになっていると、思いやりのある手つきで私の手を取ると、


 「そんなところにいたら、いくらあなたでも危ないわよ。こっちにきて!」

 「わわわ!」


 ぐいっ手を引かれるがびくともしない。

 そりゃあ、そうだ。人間で言えば大人と子供くらいの体格差があるのだから。

 それでも、私は彼女に強引に助けられたという演出が欲しくて、わざと手すりから降りた。

 それに気づかないで彼女は、


 「にしても、変な子ね。どうして男子って高いところに登りたがるのかしら。」

 「そこに希望を見出してるからじゃないかな。」

 「そうなの?

 落っこちたら痛い痛いなのに。」


 彼女さ優しい感性を持っていた。

 彼女は私を人として扱ってくれる唯一の人だ。

 救われるような想いであった。

 




 *




 ポムちゃんとは相変わらずの関係で、弱虫で思い人に好意を伝えることはおろか、話しかけることすらもできないでいた私の遊び相手でいてくれた。

 だから、そんなことにはならないとばかり思っていて、


 「メラクくん、なにしてるの!」

 「こ、コカブさん。その、これは、違くて。」


 私とポムちゃんだけの、秘密を他人に知られてしまった。

 それも、私にとってもっとも知られたくない相手で。

 それを知ったら、人々は今まで以上に私を拒絶されるとわかっていたから。

 ポムちゃんとは距離を置くべきだと、ずっと頭でわかっていたのに、それでも、1人になることは寂しくて、そんなことは到底できなかった。

 その結果、コカブに知られてしまった。


 こんな時でも私は弱い。

 「誤魔化すためにポムちゃんを、、、」

 意を決して拳に力を込めて大きく振りかぶると、それを制止するように心地いい声と、柔らかな手つきが私の腕を包んで、


 「待って!」


 コカブの腕に包まれていた。

 私の故郷、スカンディアでは全ての国民が『光輝教団』の信徒である。

 例外はない。

 『光輝教団』は魔物の排除を掲げている。

 存在することを許さない。

 だから、コカブにバレたなら、ポムちゃんとの関係は終わらせなくてはならなくて、


 「泣いてるの?」

 「えぇ」

 「やっぱり、メラクくん。泣いてるじゃない。」


 私は、好きな人に心配されながら、自分の大切なものを手放すと見せかけの決意を見抜かれて止められたのだ。

 それでも、私が腕を止める理由にはならない。

 だって、私のやっていること、彼女が止めたことは、紛れもなく戒律に反することで、


 「どうしてだ、どうして止めるんだ。

 これは魔物だ。スライムだ。

 弱い魔物で、コカブさんでも殺せるかもしれないけれど、それでも魔物で」

 「見てたもの!!」

 「!!!」

 「ずっと見てたもの。あなたがその魔物と仲良くしているの。最初は私も怪しんで見てたけど、それでも私は、メラクくんが理由なく魔物と仲良くするなんて考えられなくて、なにか理由があると思って、誰にも話したことなんてないの。

 それでね、ずっと見てきて思った。

 ポムちゃん(その子)は悪い魔物じゃないんでしょ?

 だって、メラクくん、私に見せたことないような笑顔を、その子の前だけ見せてた。

 見せてたもん。」


 そういう彼女の声は震えていて、絞り出すような彼女の可憐な姿に、触れたい、抱きしめたいと思うようになった。

 ただ、それと同時に、こんな自分がそんな感情を持つことも、向けることも、許されるはずがない。許されるわけない。許していいはずがないと、そう世界に言われているようで、もしこのか弱い体に触れてしまったら、私のような怪物が触れてしまったら、この美しさは崩れてしまいそうで、


 「そうだったんだね。だったら、2人だけの秘密ですね。」

 「!!!

 うん!!!」


 彼女の好意に気がついていながら、自分の弱さに気がついていながら、私は、よく深くも自分のやりたいことを優先し、禁断の愛を求めるようになってしまった。




 *




 「メラクは神父になりたいのか、、、、

 神官職はやっぱり魔術が使えないと結構厳しいと思うぞ〜先生は。」

 「わかってますよ、それでも私は」

 「あ〜ここだけの話な、みんなお前が騎士になることを期待してるんだよ。

 お前はみんなの期待を裏切るのか?

 お前はみんなにない、特別な才能があるんだから、そこで活躍するのが、生まれ持った者の使命だろう。

 きっと、神もメラクのそんな姿が見たいって言ってるんじゃないのか?」


 「・・・・・・・・・・・・・」


 「だからな、お前は騎士になれ。

 いろんなところからオファーが来てるぞ。

 いずれは教皇直属の騎士団に選ばれるかもしれない。

 神官だけが、神の教えを伝える者じゃない。

 お前のやりたいことはわかるよ。

 でもさ、しょうがないじゃん。

 お前は、才能ないんだから。」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 夢が空に舞った。

 落ちた。 

 破裂した。

 心を傷つけた。

 それは生まれの血のせいなのか?

 どういう理由で神は釈明するのか。

 

 夢が色を変えた。

 虹が黒に。

 そして見えなくなった。

 誰のための人生でしょう。

 他人のためね、きっとそうでしょう。


 夢の欠片集めた。

 足りなかった。

 寝ずに修復試みた。

 足りないのは努力なの?

 それとも人の心なのだろうか?


 夢は美しかった。

 希望与えてくれた。

 そんなに儚いものだと知っていたら。

 もっと大切にしていたろうに。

 誰も教えてくれないのはどうしてですか。


 



 *





 私は騎士になることに決めた。

 それが神の導きであるならば、それが正しいことで、私が人になれるための、権利であるというのであれば。

 夢は人になること。 

 私はブレてなんてない。

 私は芯が通ってる。

 ずっと最初から変わっていない。

 夢も、目標も、ずっと、ずっと。


 「ちくしょう・・・・・・・」


 涙が溢れ出して、大きな体を、小人のように縮こめて、嗚咽を噛み殺して、本当は弱虫で泣き虫で、誰よりも寂しがり屋なのに。

 こんな日は、ポムちゃんに慰めてもらおう。

 慰めてもらうのが、一番いい。

 きっとそこにはコカブさんもいて。

 私が弱音を吐けば、いつものように、優しい手つきと、昔から変わらない声音で抱擁してくれる。

 それだけで、それだけで、いいのだ。


 本当に神官になるというのは、人間になるために必要だから、そのためのものとしか考えていない卑しい人間らしい生き物なんだ。

 そうに決まっているんだ。

 魔術でたくさんの人に信頼されたいなんてのは、人間らしく扱ってもらうための、1つの例だから。

 別に神官じゃなくても、騎士でもいいんだ。

 私は、私は、、、、




 *




 「グルアアアアアアアアアアア!!!!」


 いつもの、2人だけの秘密基地に向かうと、そこにはお呼びでない、場違いな来訪者が来ていた。

 種類から、何かしらのクマであることはわかる。

 大きさは私と同じくらいか、でもこんなところに来たことなんて、、、


 「   」


 コカブ、、、?

 

 いや違う。コカブはそんなに赤くない。

 赤のような暖かみはあるのだが、そんなに冷たくなる赤ではなくて。

 鮮烈な気持ちのいい人であるが、そんなに脳の掻き立て方はしてこず、無性に私を安心させるもので。

 臭いも特徴的で、花の香りのするとてもいい匂いで、だからこんな血生臭い匂いはしなくて。


 でも、コカブ以外に、こんな山奥に来る人間は、私だけで、、、、


 「あああ、ああ。あああああああああ!!!!」


 握っていた両手剣を本気で振り抜き、クマの首を一刀両断する。

 死体に手を伸ばし、その表情を伺う。

 誰だかなんて判別できない。

 できるはずもない。

 こんなに傷だらけで真っ赤で痛々しくて、だから可憐で可愛く幼さが残るコカブとは違くて。

 でも、何度も抱いたその体は、まさしくコカブのもので間違いなくて。


 「        」




 *




 「メラク、あなたは戒律を破り、魔物と親睦を深めようとしたそうですね。違いありませんか?」


 「    はい。   」


 「なるほど、、、、、、」



 

 私の祖国は、国民全員が、例外なしに『光輝教団』の信徒である。

 『光輝教団』の戒律を破った者への罰を、知らなかったわけではない。

 私は決まっていた就職先はなくし、当然両親も職を追われて、私はさらに、国外追放処分を受けた。

 隣国であるヴァルドライヒへと送られることとなった。


 もういいんだ、全て、全て投げ捨てて。

 そう思った時、飛び降りようとした時、懐かしい視線を感じて。


 「なにしてるの、メラクくん。」

 「コカブ、、、?」

 「こっちにきちゃ、だめ。」


 これは二度目だ。

 だが、一度目と違い、私は抵抗する。つもりだったが、信じられない。

 彼女の体からは考えられないような超パワーで押し戻される。


 「どうして、私は君がいないと、、、。」

 「あなたに生きていて欲しいから。」

 「  !  」


 そういう彼女の表情が、私を拒絶する者であればどれだけ幸せだったことか。

 そんな、そんな愛おしいものを見るような目で私を見ないでくれ。

 違う、私は君を殺した化け物を一撃で殺せるような、化け物なのに。


 「化け物なんかじゃない。メラクくんは、誰よりも優しい私の神父さま。」


 違う、神父じゃない、騎士でもない。

 私は、何にもならなかった、人にもなれなかった半端者なんだ。

 だから、だから、


 「あなたを愛していました。メラクくん。」

 「  」

 「だから、どうか、生きて」

 「待って!」


 まだ、離れたくない。一緒にいたい。

 すきだと、伝えたい。

 愛していると、伝えたいのに。

 



 *



 

 夢を見せてくれた。

 君の勝ちだ。

 僕は1人になった。

 それすらも否定するのでしょう。

 どうしてそんな残酷なことを。


 夢の先にいった。

 消えていった。

 現実だけ残して。

 明日からどう生きればいいの。

 それすらも知らない子供みたいね。


 夢と共に生きた。

 生きたかった。

 あなたが夢でした。

 あなたと暮らすことだけが。

 きっと私の夢だったでしょう。


 夢と共に散った。

 笑顔だった。

 それに縛られていた。

 きっと死んでしまったら。

 あなたのことも思えなくなるのでしょう。




 *



 彼女の夢を見たのは、国外追放になった初夜だけであった。

 私は何度も、自殺しようと試みた。

 でも、


 「生きて」


 「愛していました」


 「化け物なんかじゃない」


 化け物が、自分の都合のいいように、頭の中の空想で作り上げた幻想に縋った。

 みじめで、滑稽で、哀れで、死人に口なしとばかりに言って欲しいセリフを言わせただけに違いないのに。

 それなのに、私は。


 「今日も死ななかった。死ねなかったか。」


 呪いだ。

 呪いだ。 

 呪いだ。

 呪いだ。


 呪いだ。

 呪いだ。

 呪いだ。

 呪いだ。


 呪いだ。

 呪いだ。

 呪いだ。

 呪いだ。


 呪いだ。

 呪い

 呪

 ・

 ・

 ・

 ・



 違う。違う。

 あの夢は、確かに私が見たかった、言って欲しかった言葉を形作った私の幻想に過ぎないかもしれないけれど。

 私が独善的な解釈と、甘えたい弱さの象徴なのかもしれないけれど。

 

 それでも、それでも、彼女がやってくれたこと、私に残していってくれたことは。

 私に、きっと彼女ならこういうと、言わしめてくれるもので。

 私が初めて心から信頼できた人で。

 初めて好きになった人で。

 初めて、『巨人族(化け物)』から『人間』にしてくれた人だから。


 私から全てを奪った『光輝教団』を捨てる。

 そんなこと、できるわけがない。

 私の全てを奪った憎たらしい組織だけれど、それでも、私の人生の全てを、無かったことになんてできない。

 

 彼女と過ごした教会も、自宅で勉強した時間も、毎晩血反吐吐きながら収斂した魔術も、全部全部無かったことになんて出来ない。

 これは、好きな人も、魔物も、人間になりたいという私の欲望を、全て手に入れようとしたことが誤りだったのだ。

 誰か一つだけ、どれか一つだけにしていれば。

 私は、きっとこんな苦しい思いをしながら、泣き叫ぶことなんてなかった。


 私は騎士じゃない。騎士になんてなれない。

 だから、もう剣は握らない。

 他国ならきっと、スラヴォニアほど『光輝教団』の影響も強くない。

 他国でなら神父になれる。

 

 私はこれから、ここから、全て、全てを抱えてやり直すんだ。

 『化け物』だった過去も、神父になりたいと思った夢も、手に届かなくなった愛しい人も、そして、愛しい人を失い、『人間』から『化け物』に逆戻りした今も。

 全て抱えて生きていく。

 私は、神父になりたいと思った、未練がましい『人間』見習いの『化け物』、メラクだ。




 ***



 

 「はぁ、、はぁ、、、」


 倒しても倒してもキリがないのかアンデットの恐ろしいところだ。

 その魂を浄化しなければ消滅することはない。

 それが、レオがメラクの常備していた聖典から得ていた情報である。


 その時のレオの頭の中には、そんなもの使えるかというのが大半を占めて、どうにか行使する術を考えても、なにも浮かばなかった。


 「まったく、うちの総大将様は、敵将を口説き落とすのが遅すぎるんですよ。」

 「悪かったって、でも、これでこの絶望的状況を振り切ることが出来そうなんだからさ。」


 そう言って、レオたち4人、いや、5人は手を繋いで一列になる。


 「この魔術は」

 「わかっているとも新たな友や。

 これは仲間の信頼がカギ。大丈夫。 

 同じ人間を仰ぐものは全て味方だ。」

 「そうですよ、ボクたちは最初から、メラクさんと仲良くできると信じてましたから!!」


 メラクの隣で手を握るポラリスがそう呼びかける。

 左からマルカブ、アンティリエ、レオ、メラク、ポラリスの順に手を繋いでいる。


 聖典にはいくつかの『浄化魔法』が書かれていた。

 その中には、1人では到底行使できないようなものもあるが、それはそれだけその術が強力であることの裏付けでもある。

 みんなの魔力(ちから)を一つにして、大技を決める。


 不安がるメラクにアンティリエは笑いかけ、


 「大丈夫ですよ、アンテはなんだかんだいって魔力量には自信がありますから。レオくんとメラクさんが魔力貧乏でも富豪アンテが支払いますって。」

 「アンカスまたノンデリー。

 でも、ボクの魔力量も結構あると思うので、あんしんしてください!!!」

 「少年、じゃあ、掛け声を頼む。」


 マルカブの問いかけに頷く。

 レオたちの目の前には大量の鎧骸骨たちがいるが、そんなものは、一致団結したレオたちにとって怖くもなんともない。


 「みんな、せーの!」


 「光よ! 穢れを焼き払え! 清浄の輝き、此処に降臨せよ! 闇を裂き、純白の息吹を! 『聖なる(サンクトゥス・ル)(ーメン)』」


 詠唱を完了すると、レオたちの前に円形の真っ白な魔法陣が組み上がる。

 その光は虹色に光り、少しずつそのまばゆさを増していく。

 カタカタと鎧骸骨たちの体が軋む音が聞こえる。

 それはまるで、「ありがとう」と言っているような気がした。

 

 光が強さを増して、鎧骸骨たちが消滅する。

 途端、アンティリエとポラリスがその場にへたり込む。


 「ぐおおおお」

 「うわあああああ」


 「ふ、2人とも!?」

 「おそらく、魔力の使い過ぎでしょう。私たちとは破綻している割合が違うのですよ。」


 レオたちが1割も提供していないのに、アンティリエたちは6割とはぶんどられたりしたのだろうかなどとレオは考える。

 まあ、アンティリエならいいかと思い、ポラリスを支える。

 そうしようとする前に、すでにメラクが彼女を支えていた。


 「!!!」


 その光景に、レオは絶句する。


 〜「お前にポラリスと握手させてやる」〜


 その言葉は、思わぬ形で実っていた。

 レオは自然と笑いが出てきた。

 そんなレオをみて、「くそ、アンテが苦しんでいるのに笑いやがって、人の痛みを知れー」と怒っている。

 でも、今は、この光景をレオはしっかりと目に焼き付けておこうと思う。

 

 メラクは何も語ってくれなかったし、教えてもくれなかった。

 でも、きっと彼の中で心境の変化があったのだ。

 それは、彼の長い長い間縛っていた偏屈な考えを、少しは是正させてあげたなんて言わない。

 彼は自分の力で立ち上がるだけの力を持っていた。

 それだけだ。


 「レオ殿。」

 「ん、なんだよ。随分とかしこまるじゃないか。

 俺はもっとトチ狂ってるお前も嫌いじゃないぜ。」

 「はは、いつのことだか。」

 「自覚ねぇのかよ!!」

 

 なにも違和感を感じていなかったことが怖いわ、とレオは呟く。


 「レオ殿、ありがとう。」

 「ん? 別に俺は何もしてねぇよ。ただ、お前が俺が思ってるより強くて驚きはしたぜ。

 俺が助けなきゃダメかと思ったけど、お前は1人でも立ち直れた。そういうことなんだろ。」

 「はは、ははは。君は卑怯な人だな。」

 「げ、毒盛ったやつがそれいうのかよ!」


 なんの話をしているのかとメラクに見られるがそれはいいだろう。

 

 「少年、この景色を見せてくれてありがとうな。」

 「ああ、マルさんには何度も救われましたから、こっちも感謝してますよ。」


 今回のMVPは間違いなくマルカブ。

 逆MVPはアンティリエかな。

 なんせ殺されてるし。

 

 ポラリスとメラクが楽しそうに話せているのを見るのは悪くない。

 メラクもどこか懐かしいものを見るような、そんな雰囲気を纏わせているように感じた。

 彼の目からは一筋の涙が。

 

 それはきっと、見なかったことにするのが吉だろう。


 「おっしゃ、アンティリエ、マルさん、一緒に扉開けるの手伝ってくださいよ!」

 「ちょっと、待って、アンテはまだ満身創痍で」

 「いいから、ほら、いくぞ!!!!」

 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 マルカブと共にアンティリエの肩を担いで無理やり歩かせる。

 メラクの涙はポラリスだけが知っていればいいんだ。

 そういうお節介くらい、何もしてないレオに焼かせて欲しい。

 ヤガミ家のお節介餅は高くつくぞ。あとで請求書見てビビるなよ。


 「ふんぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」


 くそ、なかなか開かない。


 「ふんぬぬぬぬぬぬぬぬ、ぬぬぬぬぬ」


 なんて、こんなに重かったか?


 そんな様子を見ていたメラクとポラリスがこちらにやってきて一言。


 「それ、内開きですよ。」


タイトルの元の文を載せておきます


I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin, but by the content of their character.

  

Martin Luther King Jr.

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