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第二十三話



 「へぶぐぅ」


 背中になにかぶつかった衝撃があった。

 うめき声も聞こえてきたため、誰かがレオの背中に衝突したのだろう。

 そこで、視界が少し鮮明になる。

 レオが巻き戻ったのは鎧骸骨たちがいた部屋に向かうための廊下。

 あと数分も歩けば目的地に着くというところ。

 レオに衝突した、アンティリエが腕を振り回しながら、


 「ちょっと! 突然歩くのやめないでくださいよ!

 ぶつかっちゃったじゃないですか!!

 レオくんにはもう少し、レオくん?

 おーい、レオくん?」


 「うえ、あー、おう。」


 時が巻き戻る直前の死の瞬間を想起する。

 アンティリエを庇ったものの、生に執着したアンティリエに突き飛ばされ、レオは骸骨たちにその錆びた武器を何度も振り下ろされて、出血多量による死亡、あるいは重要な内臓の損傷で死亡。

 どんな死であったかは定かではないが、冬のように寒くて、最後の瞬間は感覚がなかったのを覚えている。


 レオの突然の様子の変化に、違和感を悟ったのはマルカブであった。

 彼はレオの肩に左手を置くと、


 「あの先でなにかあったのか?」

 

 と、レオが言いたいであろうことを先回りして尋ねる。

 マルカブの言葉に、自身や仲間たちが閉じ込められて殺された過去を思い出す。

 マルカブは木剣を折られ、レオを助けようとして背中を切られていた。

 ポラリスはレオより先に死んでいたと思う。

 アンティリエは、アンティリエはどうだったか。

 彼の姿だけあまりよく覚えていない。

 あの後彼はどうなったのだろうか。

 1人物思いに耽っていると、見かねたマルカブがレオの頭に頭突きをお見舞いする。


 「っつー。マルさん!」

 「どうするんだ。引き返すのか。このまま向かうのか。」

 「え、もしかしてまた巻き戻りました!?」


 マルカブの言葉に一連の違和感の正体に気がつき、アンティリエが正しい結論に至る。

 アンティリエの思っている通りだ。

 今もなお心臓が胸をつよく強打していることがなによりの証左である。

 あんな結末を送るなんてごめんだ。

 ここで撤退するのが一番であろう。


 「そうだな。あの先に行ったら、たぶん俺たちはまた死ぬ。だから、ここは一度引き返してーー」


 言い切る前に、マルカブの横を見覚えのある手斧が直線運動する。

 同刻、青い粘性のある物体が弾けて空を散る。

 

 「帰すわけには行かないんですよね。あなたたち4人はここで私が仕留めるのですから。

 こんなチャンスを捨てるわけには。」


 「、、、、メラク。」


 斧が投げられた方角に視線を向けると、そこには『蚊王』より一回り大きな体躯をもつ巨人族の男が立っていた。

 そいつはレオの直前の死に直結する人間で。

 原因で、元凶で、レオたちへの殺意を隠さない。


 「まずは魔物から。いやー魔物も急所は頭なんですね。魔物のくせに人間の真似事のようなことをしていて、碌な戦力じゃないから最後に仕留めるべきなんでしょうが、我慢できませんでした。」


 ポラリスは死んだ。

 頭部を背後から投げられた斧に潰されて死んだ。

 その場に膝から崩れて、彼女の肉体を両腕で抱える。

 すると、少しずつ彼女の体が原型を止めなられなくなる。

 人型だった彼女の体は、徐々に、徐々に粘性の液体化していく。

 あまりに残酷で唐突の出来事であった。

 レオの心を鮮烈に染め上げる感情が、腹の奥で爆発して、血管を伝って目に流れ込む。


 「ポラリス、嘘。嫌だ、俺は、お前を!」

 「ポラリスさん、ポラリスさん!

 なんで、どうして! ほら、見てくださいよ!

 レオくんがポラリスに自分から抱きついてますよ!

 こんなこと滅多にないですよ!

 今、、、見ないと、、、こんなチャンスーー」


 込み上げてきた悲しみの感情が、器に収まり切らない量の寂寥感が、自分の気持ちの捌け口を見つけることに難渋する。

 

 「ああ、あああああああああああああ!!」


 涙を流しながら短い足で走り出す。

 腰に携えた木剣を構えて、妹分を殺した相手への敵討へと火蓋が切って落とされた。


 マルカブが握った木剣がメラクの左腕に来襲する。

 剣先には淡い橙色の妖気を纏わせていた。

 

 「うおおおお!!!」


 淡く輝く木剣を振り下ろすが、バックステップで距離を取ったメラクは回避する。

 リーチのある巨体を生かして、右足を前に出してマルカブの心臓目掛けて酸鼻な蹴りをくらわせる。

 マルカブは木剣を振り下ろした反動で上手く動けないでいる。

 しかし、このままではマルカブまでやられてしまう。


 「うらあああああ!!」


 ここで八神玲央の能力についてもう一度確認しておく。

 


<<<ヤガミ レオ 16歳

 体力   D+

 筋力   B-

 防御力  D

 魔力   E

 魔法防御 D

 瞬発力  C


 メインスキル  『剛体化Ⅰ』

 サブスキル   『演算Ⅱ』

 ユニークスキル 『逆転Ⅰ』

 コモンスキル  『加速Ⅲ』

         『無反応性化』



 魔術  『土魔術・初級』>>>


 

 筋力や瞬発力には一定の期待が持てそうであるが、防御方面や魔力には普通の人と遜色ない。

 あるいは、一歩劣るといったところであろう。

 一度でも魔術を撃てばどうなるか。


 メラクの足に岩砲弾が着撃する。

 そのままの勢いで後方へと吹っ飛んで、壁に衝突すると、衝撃音と砂埃が同時に発生する。

 

 八神玲央の魔力はE。

 こんな人間が魔力を使って魔術を使えばどうなるのか。

 一撃、一撃だったとしてもどうなるのか。

 

 「ぐぼ、、、」

 「レ、レオくん!」

 「し、少年!」


 先行していたマルカブがレオの方へと駆け寄る。

 隣に立っていたアンティリエはレオの様子を確認する。

 レオは喉を壊しているようだった。

 口からは血が溢れ、歯は真っ赤に染まっていた。

 目は充血し、頭を両手で押さえて悶えている。

 

 全身から汗が溢れて、脳を直接鎖で縛り上げられているような感覚に陥る。

 締め付けが増して、痛みに絶叫し、頭を何度も爪で抉る。

 

 「少年、今助けてやるからな!」


 そういうとマルカブは、今度は木剣を淡く黄緑色に発光させると、その光をレオの頭へと近づける。

 淡い光に視界を包まれると、不思議と頭の痛みが和らぐのを感じた。

 喉には刃物が刺さっているような感覚があったがそれも薄れていく。

 

 「ーーーぐほ」


 血の塊を吐き出すと、自然と体は楽になった。

 すると様子を伺っていたマルカブがレオの顔に自身の顔を近づける。

 彼の顔は穏やかで、こちらを気遣ってくれているのが痛いほどわかった。

 3人でメラクの方を見る。

 いつもの大声とは違う。

 隣にいるレオとアンティリエに聞こえる声で、


 「俺は2体の淡妖精と契約している。橙色の淡妖精(チェン)黄緑色の淡妖精(キューラ)。チェンは身体強化、キューラは治癒。それ以外のことはできないし、一度に2人の淡妖精の力を使うことはできない。

 使うなら交互に、切り替えながらだ。

 戦ってみたが、メラク(アイツ)は俺が勝てるような相手ではない。隙を見て逃げるしかなさそうだぞ。」


 マルカブが妖精使いというのは嘘ではなかったようだ。

 てっきりレオはマルカブは可哀想な小太りのおじさんと思っていたが。いや、可哀想ではあるのだが。

 そんなことに驚いている場合でもないということだ。

 しかし、せっかく彼が手の内を明かしてくれたのだ。こちらも明かすべきだろうが、


 「俺はあんまり頼りにならないと思う。肉弾戦主体だけど、メラクと渡り合えるとは到底、、、

 魔術は土魔術だけ、でも使えば体が悲鳴を上げる。

 諸刃の剣だよ。」

 

 2人が視線だけアンティリエの方へと向ける。

 目の前には、頭から血を流し、右足の膝が赤黒く変色した巨人が迫ってきていた。

 彼はレオの魔術で足に怪我を追い、機動力は落とせたものだと思う。

 走ってこないで、足を引き摺っているのが証拠だ。


 「アンテは水魔術と、、、」

 「ーーと?」

 「いや、アンテも水魔術くらいです。肉弾戦は得意じゃないけど。」


 記憶が正しければ、確かにアンテは水魔術を使って鎧骸骨たちと戦ってはいた。

 本当だろう。ただ、何か深みのある言い方にレオは引っかかった。

 それを話してくれるとは思わない。もちろん、話してほしいとは思っているが、彼が話してくれるのを待つのが一番だろう。

 3人が自身の手札を仲間に開示しているとき、巨人が語りかけてくる。


 「いったいですね。まさかレオ殿が魔術を使うとは。予想外でしたよ。」

 「俺たちからすれば、ポラリスを殺されたことが一番驚いてるんだよ。

 どうしてポラリスを」

 「わかったことを聞くなよ!! 下臈めが!!!

 人でありながら魔物の女に拐かされ、あまつさえ救ってくれた私を攻撃するなんて言語道断!

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!

 ふざけるなよおおおおおおおお!!!!

 人として、魔人族や魔物を殺すことの義務を、矜持を捨てて欲に実直な姿を、許せない許せるわけがない許していいはずがない許すことなど言語道断!!

 ふざけた論理だ! 言語道断!!!

 あなた方は魔物を殺せば目が覚めるという一縷の望みすらも、私のこの思いすらも無碍にして、私を攻撃するなんて言語道断!道断!道断!!!!

 絶対に殺す。殺して壊してなぶって抉って屠って潰してすり潰してぐちゃぐちゃのメタメタにして何度も何度も切り裂いて細切りにして人としての原型を奪ってあの魔物のように液状のドロドロの死体にしてやる。

 人間として死ねると、思うなぁああああああああああああ!!!!!!」


 唾を飛ばしながら膝を曲げてレオの腹に巨岩のような拳を叩き込む。

 肋骨が折れて肺に骨が突き刺さる。

 そのまま宙に浮かぶと、首を掴まれて、


 「ぐがああああ」


 頭を握られるが、手のひらサイズの氷がメラクの腕に突き刺さると、苦鳴を上げながらレオの首から手を離す。


 「ううううげ、うげぼ」


 呼吸できなかった肺に空気を取り込もうとするが、骨が突き刺さっており上手く取り入れられないどころか呼吸することするたびに激痛が走る。

 呼吸すらままならないなんて生まれてきて初めてのことだった。

 肺に穴が空いているのか、あるいは筋肉が痙攣して上手く動かないのか。


 「少年!」

 

 こちらに走ってくるマルカブ。彼はレオを治癒しようとしているのだろう。

 しかし、レオはそれを拒む可能ように震える指をメラクへと向ける。

 その意図、自分のことは後にして、あの狂人を討ってくれ、それが伝わると、苦虫を噛み潰したような表情のままブレーキをかけてUターンしてメラクに襲いかかる。

  

 木剣がメラクの巨体に突き刺さる。

 右肩に刺さった木剣を抜くと、そのまま一回転し、勢いをつけて首を狙う。

 しかし、その攻撃を右腕で受け止めると、そのまま長い左腕でマルカブの顔面を殴りつける。

 レオの時同様に、マルカブは宙を舞う。

 彼の足を捕まえると、そのまま壁に叩きつける。


 ドガアアアアアンという衝撃音と共にマルカブが壁に衝突する。

 流石に怪我を追いながらの攻撃で、メラクもその場に膝をつく。

 その気を逃すまいとアンティリエが氷の礫をマルカブが突き刺した幹部へと放出する。

 それ気がついて、彼は両腕を前に出して、即席の盾をつくる。

 その腕に三本の氷の礫が突き刺さる。

 しかし、決定打とはならず。

 その場から立ち上がると、瓦礫を手に取りアンティリエへと投げ飛ばす。


 「あっ、」


 アンティリエに直撃する瓦礫を、ギリギリのところでレオが体で防ぐ。

 しかし、その勢いは止まるところを知らずに、2人して壁に激突する。


 瓦礫はレオの胸部に直撃した。

 胸骨は骨折。心臓の鼓動がより一層強く感じる。

 背後に嫌な感触が。

 生暖かく、そしてすこし鉄臭い。


 「レオ、くん。」

 「アンティリエ!」


 アンティリエは後頭部から血を流していた。

 鼻もレオの頭に押されて潰れていた。

 歯も何本か折れている。


 「アンティリエ殿、レオ殿のせいで死にそうですね。

 可哀想に。彼の側に、魔物の側についたばかりに。

 命がもったいないですねぇ。もったいないもったいない。なんてもったいない使い方をするんだ。

 私だって『光輝教団』の信徒。人を殺したいだなんて思わない。ただ、人の身でありながら、魔物の側に組み伏すなんて、神の祝福を受けている我々の義務の放棄。

 そんなことを許せるわけない許せるはずがない許していいわけがない絶対許さない許さないだああああああああああああああ!!!

 マルカブ殿も、アンティリエ殿も、全部あなたが、レオ殿、あなたがポラリスなんて名乗る魔物を信じて騙されて乗っかって人間を裏切って魔物の側について、それを助けようとした私の話を聞かずに魔物にばかり耳を傾けていたからこんなことになったんだ。

 はは、可哀想に哀れに神に愛されながらその愛に背くなんてなんたる不敬なんたる無礼なんたる不敬虔。

 アンティリエさん、今なら、今あなたが人間に戻るというのならば、私はあなただけでも助けてあげますとも。」


 「え、」


 命の燃え尽きる直前で、悪魔のような提案をする。

 その言葉に声にならない声を出したのはアンティリエだ。


 「あなたが今ここで、魔物に唆された、人の身でありながら許されざる許されない許されてはいけない許されるはずがない領域に足を踏み入れた大罪犯罪大犯罪に身を投じた半人間を殺せば。

 きっと、きっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっと!!!!

 慈愛に満ちた神は、哀れな、一度穢されてしまったあなたの魂を浄化して、もう一度人として生きることを許可してくれることでしょう。

 どうですどうですかどうなんですかどうするんですかあなたはあなたの決断ですあなたが決めるんです決められるんです人として生き返るのか魔物に組み伏した半人間としてここで『光輝教団』の信徒たる私に殺されるのか!!!

 あなたの決断を、神は見ています。神の期待に神の慈愛に神の喜びに神の祝福に神の神の神の神の神の神の神神神神神神神神神神神神神!!!

 あなたは、認められるかもしれないのです。

 どうするんでしょうか。決めるのは、あなた。

 あなただけが、神は見離さない。」


 何を言っているのかさっぱりわからない。

 痛みですこし頭がヘンテコな様子のメラクにドン引きしていると同時、恐怖と嫌悪が同時にレオの全身にまとわりつく。

 全身に寒気がするのは果たして恐怖からなのか出血多量によるものなのか。


 背中にアンティリエの手が添えられる。


 「ーーーーえ?」


 勢いよく後ろから押し飛ばされる。

 そのまま冷たい石畳に顔を擦り付け、顔面に衝撃が走る。

 額からは血が流れ、鼻は曲がり、歯は折れて顔のパーツが崩れていく。

 

 「ああああああああああああ!!!」


 まただ、またアンティリエに殺されてしまう。


 「おおおおおおおおおお!!!!

 よく、よくよくよくよくやりましたよアンティリエ殿。あなたは私が見込んだ通り、一度魂が穢されたとしても必ず必ず必ず必ず必ず必ず人の道にもどれると、脱線しても逸れても脇道に逸れても趣旨を違えても必ず帰ってきてくれると信じていました。

 他の2人はダメですね。もう魔物に骨の髄まで侵食されて犯されて脅かされて手の施しようがなくなって神に見放されていましたから。」


 アンティリエが立ち上がると、ふらりふらりとレオの元から離れていく。

 そのまま巨人なのか狂人なのか、判別のつかない魔人のもとへも向かうと、


 「デオくんを、ごろせは、アンデは、だふけえ、くれるおか?」

 「はい、神はあなたを見捨てません。神はどんなに悪事に手を染めた人間でも、その関係を断ち切ると誓えば助けてくれますとも。」

 「ーーーー、ほんおか?」

 「本当ですよ。大丈夫。あなたは一時、悪魔に取り憑かれて心を奪われて魅了されて拐かされて騙されて踊らされて熱に浮かされて酔って狂って盛って正常な判断力を失っていただけです。

 これを機に、少しづつ回復していきましょう。

 その時は、私と、神がついていますから。」


 ふらり、ふらりと千鳥足でアンティリエがメラクの元から離れる。

 違う、アンティリエ。

 お前は騙されてなんかいない。

 お前は恐れているだけだ。

 迫り来る死に、ただ怯えているだけ。

 その弱みに漬け込んで、心の隙間を埋めようとする奴なんかに、そんな奴なんかに負けるわけにはいかない。

 

 「メ、、、ラグ」

 「レオ殿、いや、人でも魔物でもない半端者。

 あなたは神に見離されました。

 当然の報いですよ。だってあなたは神の愛を拒んで無視して嘲って魔物なんかに靡いて媚を売って悦に浸って喜んで楽しんで私たちを馬鹿にして笑って愉悦に浸って、許されない許されるわけがない許されるはずがない許されていいわけがない。

 あなた、あなたあなたあなたあなたあなた!!!

 あなただけは、神は許さない。許してくれない。許してくれるはずがない。許されるわけがない。私も許さない。許してあげない。許してあげるはずがない。許すわけもない。

 独りよがりなあなたは、仲間だと思っていた、実際は騙して捕まえて洗脳して壊して人格を滅茶苦茶にして自分好みに作り変えて気に食わなかったらまた洗脳して押し付けて変形して整形して神に背いて背いて背いて背いて背いて!!!

 天国じゃない。地獄だ。地獄に行くんだ。地獄に行くべきなんだ。地獄に行かなきゃいけないんだ。地獄に行って苦しんで悲しんで自分を恨んで後悔して焦って謝って謝って謝って謝って謝って謝って謝って謝罪謝罪謝罪謝罪謝罪謝罪謝罪謝罪謝罪謝罪謝罪謝罪。

 それなあなたの、(カルマ)ですよ。」


 「はは、カルマね。」

 「ああ?」

 「お、、れが、背負ってるのはなぁ、地獄なんて生ぬるい。」

 「何を言っているんですか。気持ち悪い。反吐が出る。」

 「ーーー、地獄なんて言葉じゃ言い表せない。

 俺は決めているんだ。アンティリエを1人になんかさせない。

 させてやるもんか。

 お前はあいつのことなんも見てやってないだろ。

 あいつの孤独な瞳を見てないだろ。

 ふざけんな、お前なんかにアンティリエはやらねぇよ。ポラリスもやらねえ。他のみんなもだ。

 謝罪もしない。俺は俺が間違ってるなんて思わない。

 少なくとも、お前のやり方を俺は真っ向から否定できるだけの自信もあるし、大義だろうがなんだろうが担いだ戦ってやる。

 自分が正しいなんて言わない。だが、お前が間違ってることだけはわかる。

 なにが押し付けているだ。ふざけんな!!!

 お前のやり方が一番押し付けがましいんだよ。

 人の弱に漬け込んで、助けてあげて救世主にでもなりたいのかよ。お前の言う神様に、なりたいとでも、なれるとでも思ってんのかよ。

 『光輝教団』を俺はよく知らないし、お前の言う『神』は立派なのかもしれない。

 ただなぁ、お前は違う。頭ごなしに相手を否定して、自分と考えの違う相手の考えを悪だと決めつけて、言うこと聞かなきゃ殺すなんて、その方がよっぽどイカれてるんだよ。

 そんなお前なんかに負けない。負けるもんか。

 最期にな、言っておくよ。」

 

 「はあ!?」


 訝しむようにレオを見下しながらため息をつく。

 そのため息をよそに、


 「俺はアンティリエも救う。アイツをひとりぼっちにさせない。

 ポラリスも守る。初めてできた仲間なんだ。アイツにとって俺たちは。絶対に守る。

 そして、お前のその凝り固まった、偏屈な考え方も変えてやる。変えて、変えてお前にポラリスと握手させてやる。

 これは俺の中で決めたことだ。お前が拒もうと関係ない。

 俺はお前に、いい魔物だっているんだってことを教えてやる。

 今のお前は可哀想な奴だよ。側から見てても哀れで見れたもんじゃない。見てて痛々しくて。」


 「貴様、貴様キサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマアアアアアアア!!!

 キサマは、神にでもなると言うのか!!

 神になって、救いを差し伸べてやるなんて、なんて、なんてなんてなんてなんてなんて傲慢なんだ。

 傲慢不遜。恥知らず。不敬不快不当不適不満不現実不可能不可解ありえんありえんありえんありえん。」


 「馬鹿馬鹿しいって思ってるんだろう。

 でも決めたんだ。今のお前は全然怖くねえ。何も怖くねえ。

 心からの本心だよ。嘘偽りない真実だ。」


 「そんなのおかしい!

 その苦しみは、その痛みは、その恐怖は、そのそのそのそのそのそのそのそれはああああああ!」


 「ここまで来るのに俺は随分と時間も手間もかけちまったみたいだぜ。

 どうしようもない俺だけど、あんだけのこと経験すりゃ、そりゃ変化もするか。」


 アンティリエに突き放されたなんて思わない。

 先に突き放したのは紛れもなくレオからだ。

 だから、もう一度レオを信じてくれるように努力する。

 信じてくれないのなら、もっと努力して信じてもらうようにする。

 支えて寄り添って気持ちを共有して、あの時ポラリスを守ろうと誓った思いは、偽物なんか、紛い物なんかじゃないと心から言える。


 「し、しょう、ねん。」

 「!!!!! マルさん!!」


 瓦礫の中から、頭から土を被り、服を真っ赤に染め上げ、折れた木剣を片手に、左足をひきつってよろめきながらこちらに向かってくるマルカブの姿があった。


 「マルさん、生きていたのか!!」

 「へへ、勝手に殺すない。

 俺は、こんなところで寝てるわけにはいかないんだ。治癒しながら聞かせてもらった。

 そして、俺の判断はずっと正しかったんだと確信が持てたよ。ありがとう少年。

 逆にお前、メラク!

 お前を俺は許さない。お前のやり方は人として間違っている。そんなこと、神様だって喜ばないぞ!!」

 「お前が、お前がお前たちがお前たちなんかがお前たちなんかがお前たちなんて奴らがお前たちのような奴らが神を神を神を神を神を神を神神神神神神神神神神神神神イイイイイイイ!!!

 を、()()()()。」


 近くにあった瓦礫を握るとマルカブへと投げつける。

 その瓦礫をマルカブは回避して、握っていた木剣を振り抜きメラクを叩き切る。

 

 「うおおあおおおおおお」

 「ぐあああああああああ」

 

 勢いよくメラクが壁に激突する。

 その反動で、木剣が完全に壊れて、マルカブも元々満身創痍だったことも祟り、大の字に横に伏す。


 「マルさん!」

 「キューラ、少年を!」

 「は、ざけんな!! 

 マルさんの方が重症だろうが!!

 キューラさん、マルさんを頼む!!」

 「無駄だ。」


 一言言ってマルカブはレオの手を払いのける。

 その言葉の通り、キューラと呼ばれる淡妖精は、指示通りレオの傷を癒していた。

 それでも微々たるもので、レオが立ち上がれるほどではない。

 マルカブは、根性で立ち上がる。

 そして、壁の中にいるメラクの元へと向かう。


 そこで、ある言葉を思い出す。

 マルカブは一度に1人の妖精からしか力を使えない。


 「マルさん!!! やめて!!!」

 「いいんだ、少年。」


 彼は、妖精の支援なしに、己の体一つで、満身創痍の状態でメラクの元へと向かう。

 チェンのバフ効果は期待できない。

 その状態は『剛体化』のないレオと遜色ない。

 それをわかっていながら戦いに行かせることにレオは心が苦しむ。

 

 「うがっ、」


 立ちあがろうとするも足が思うように動かずその場で倒れる。


 「うらあああああ!!!」

 「オソイ!!!!」


 殴りかかるマルカブの拳を受け止めて、逆の手で拳を作り、何度もマルカブの顔面を殴る。

 それを、ただ見てるだけなんてできない。

 なんとか治癒で動けるだけまだ回復し、レオはメラクに飛び掛かる。


 「うおおおおおおおおおお!!!!」

 「うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 そのままメラクの首に噛み付く。

 メラクが絶叫を上げながら、空いた手で何度もレオの背中を殴る。

 それでも噛み付くのをやめない。

 歯は折れている。

 折れて離れかけていてと噛むのをやめない。


 「むうううううううううう!!!!」

 「キサマキサマキサマアアアアアア!!!

 そんな醜態、人間が晒していいはずがない。

 もうその領域まで落ちたか! 人ではなくなったか!!

 噛み付くなんて化け物の、魔物のやることで魔物になった証拠で殺さなくちゃいけない理由で殺す必要がある結論で殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!」


 何度瓦礫で後頭部をぶたれても噛むのをやめない。

 部外が割れて、そこからピンク色の脳みそが顔を出していたとしても、噛みつき抉るのをやめない。

 離さない。絶対に離してなるものか。


 「むうううううううううううううううう!!!」

 「ぐわああああああああああヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ」

 「ぬううううううううううううううぐうううううううううううう!!!」

 「ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ」

 「くうううううううううううううううう!!!」

 「ヤメロ、、、、ヤメロ、、、ヤメ」


 「ヤメロ」


 「ヤメロ」


 「ヤメロ」


 「ヤメ、、、」


 「ヤメ、、」


 「ヤ、、、、」


 首を噛まれていたメラクが気を失った。

 そこで漸く首元から口を離すと、その場に立ち上がる。

 キューラが治癒し続けてくれなかったら、レオは殴られながらも噛み続けることはできなかった。 

 少しでも痛みや苦しみから目を背けさせてくれたことに感謝を。


 「あ、アンティリエは、」


 メラクを落として、マルカブと共にアンティリエを探す。

 視線を動かして、


 ヒュー、ドン。


 「かっ」

 「少年!!!!!!!!」


 美しい放物線を描きながら飛んできた斧がレオの頭をかち割った。

 その斧の勢いのままレオは後方に倒れる。

 頭から倒れる。

 そして、その勢いのまま、すでにヒビの入っていた頭蓋に衝撃が走る。

 その衝撃で頭蓋は開き、脳みそが飛び散る。


 





 俺は、俺はまたアンティリエに殺された。

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