第二十一話
「実はですね、こことは少し違う、似たようなものですけど。
下の階にもあるんですよ!!」
「あ、ああ。」
「ん? お兄さん、どうしたんですか。」
「あ、あああああ。」
また時間を遡ったのか。
考えるのは後だ。
今は一時の危険の回避に努める。そうしなきゃ『蚊王』に殺されてしまう。
「レオくん、顔また青くなってますよ。」
「おそろっちですね! お兄さん!」
「っと、3人とも何も聞かずに俺についてきてくれ。」
「え!? ちょっとどうしたんですか!?」
何も説明しない俺に不満があるアンティリエ。
当然の反応と言えるが、ここは俺に従ってもらう。
レオはポラリスの手を取ると生き残れた時同様に黄金の鳥の像の後ろに隠れる。
文句一つ言わずについてきてくれるマルカブには感謝していた。
彼がレオに素直に従うため、アンティリエも文句を言いつつも従ってくれているからだ。
「あの、突然こんな隅まで来ていったいどうしたっていうんですかレオくん。」
「そうですよお兄さん。ちょっと強引なところいいなって思ったですけど。女の子には、行動より言葉にしてほしいこともあって」
「2人とも、ちょっと黙ってろ。」
突き放すようなレオの言葉に、アンティリエは眉を顰め、ポラリスはショックで固まってしまう。
しかし、騒いでいてバレるのはいやなのだ。
バガアアアアアアンという爆発音と共に、黄金の扉が空き缶のように軽々しく飛んでいく。
『蚊王』が、レオたち3人が息を切らしながら開いた、質量ある扉を、まるで感じさせない勢いで開いたようだった。
その勢いが伝播して、扉が壁から離れて一直線に突き進む。
瞬間、4人は息を呑んだ。
文句を言っていたアンティリエも、ショックを受けていたポラリスも別の感情が胸中を支配して、先程の言動なぞどこかへ飛んで行った。
ここから、ここからどうしたものかと考える。
カン、カン、という足音が、レオの心臓を跳ね上げさせる。
部屋へと足を踏み入れると、首を360°回転させながら周囲を伺う。
そして何度か回転した後、突然その回転は停止した。
見たかったのだ。
そう、ここで目を閉じるな!!
レオ目掛けて『蚊王』が腰を曲げて踏ん張り、直進する。
黄金の床は亀裂が入っておりその衝撃の強さを物語っていた。
繋いでいた手を強引に振り払い、ポラリスを突き飛ばす。
右でもいい、左でも。
どっちかに飛べば回避できるはず!!
***
「実はですね、こことは少し違う、似たようなものですけど。
下の階にもあるんですよ!!」
「・・・へえ〜。だそうですよ、レオくん。レオくん?」
「んあ、っと、みんな、分散してくれ。できるだけ部屋の隅に。」
それだけ言うとレオは、他の3人の返答も聞かずに黄金の鳥の像へと駆け出す。
レオの後ろ姿を見ていたマルカブは、
「よくわからんが、俺は少年を信じるぜ!!」
と、いってレオとは反対に駆け出す反響が背中から聞こえてきた。
文句を言いつつも、アンティリエもポラリスも四方八方へと散り散りになる。
アンティリエはかなり扉に近くの黄金の像の近くに隠れたらしい。
その対角線上、つまりガラスケース中に格納された本があるところ。
「ポラリス!」
と、叫んだ瞬間。
バガアアアアアアンという爆発音と共に、黄金の扉が空き缶のように軽々しく飛んでいく。
『蚊王』が、レオたち3人が息を切らしながら開いた、質量ある扉を、まるで感じさせない勢いで開いたようだった。
その勢いが伝播して、扉が壁から離れて一直線に突き進む。
砂埃が立ち込める中、複眼を光らせている悪魔。
部屋へと足を踏み入れると、首を360°回転させながら周囲を伺う。
砂埃が失せると、瓦礫の中に頭から血を流して意識を失っている男の姿があった。
それがアンティリエだとわかったのは、直前に彼が位置取った場所に覚えがあったからだ。
もし覚えていなかった判別できなかっただろう。
すると突然、円の空間のど真ん中に、金色に輝く魔法陣のようなものが発生する。
「キュラララララララララララララララララララララララララララ!!!!!!!!!」
咆哮はまるで和楽器のような音色で美しく、聞く者の心を癒し、鳥の囀りよりも旋律に近い。
魔法陣から姿を現したのは、周りに着飾られた黄金の像と形状は似ているものの、サイズが違いすぎる。
その姿は頭部から順に魔法陣から出てきた。
頭部は鷲や鷹のように鋭く、高貴な形状を持ち、威厳に満ちていた。
孔雀のような華やかな冠羽や燃えるような羽。
嘴は鋭く、獲物を捉えると言う形状よりも、むしろ神秘的な力を持つ象徴のように見えた。
目には燃えるような赤や黄金色で、知性と永遠の美しさを感じさせる輝きを放っている。
首は長く優雅なカーブを描き、羽毛は滑らかで羽一枚一枚に光沢があった。
胴は筋肉質でありながらもスリム、飛行に適した体といえよう。
翼は大きく力強く広がり、先端が細く尖っている。
赤、オレンジ、緑、白と炎のようなグラデーションが特徴的で、はためかせた姿はさながらゆらめく焔のよう。
尾は長く幾つもの束のようになっていた。
鮮やかに色が混在し、それを、優雅に揺らしていた。
毛先は灰のような色であった。
足は長く、攻撃的な印象よりも高貴な印象を受ける。
猛禽のそれに近いがそれよりも繊細であった。
「・・・・・・・・・・」
あまりの美しさと浮世離れした姿形に、呆気に取られていたレオであったが、その後の展開がすぐに現実へと引きずりもどす。
『黄金の鳥』の優美な登場に無慈悲にも飛び掛かる一匹の、『蚊王』。
今まで聞いたこともないような羽音を立てて『黄金の鳥』へと向かうと、未だ発光し続けている魔法陣から強引に『黄金の鳥』を引き抜くと、そのまま手の鎌でミンチにしてしまう。
「あっ、、、」
ヤツにはお約束など通じない。
返信中には攻撃しない。合体中には攻撃しない。
そういう紳士的な戦いをする生き物ではない。
ひたすらに狩人なのである。
出現してそうそう殺された『黄金の鳥』に興味を失ったのか、またしても頭部を回転させる。
そして何度か回転したのちに、レオの目と『蚊王』の複眼とか交錯する。
「ちょっとまっ」
羽音と共に『蚊王』が飛び掛かる。
やつは瞬間移動する化け物だ。
どれだけ回避行動を取ろうとしても殺される。
しかし、絶命の瞬間は来ない。
むしろ、『蚊王』が燃えていた。
途端に、室内の温度が急上昇したのがわかる。
ジリジリと身を焦がすような熱がレオに伝わると自然と発汗する。
もともと汗はかいていたが、それとは性質が違う。
『蚊王』による冷や汗が恐怖ならば、今の熱によるものは純粋な体温調整としての汗。
『黄金の鳥』がいたところが熱源であることがわかった。
メラメラと燃えて、世界が揺らめく。
いつのまにか肉塊だったはずの『黄金の鳥』は元の姿を取り戻していた。
そこで、レオはある空想上の生物のことを思いだす。
「『不死鳥』!!」
火だるまになっていた『蚊王』がのたうちまわりながら鎮火する。
全身が溶けていることにレオは驚嘆する。
あの鋼鉄のような肉体が一瞬のうちに溶かされたのだ。
『黄金の鳥』あらため、『不死鳥』がその体躯に炎を纏わせて突撃する。
高く飛び上がると一直線に『蚊王』へと衝突し、その余波でレオも浮かび上がる。
「うああああああああ」
その余波は絶大であり、レオは視界が暗転したのを感じた。
耳からはなにも情報が入ってこない。
違和感を感じた耳に触れると、べっとりと温かい液体があった。
見えなくも臭いから自らの血であることはわかった。
そして違和感を感じていた目元を確認するがないのだ。
目がない。
「あ、」
目元を確認した時に、何かがちぎれるような「プチっ」という音がした。
瞬間、レオの瞼の裏に耐え難い激痛と燃え上がるような苦痛が二重パンチで襲いかかる。
「うああああああああああああああああ」
手をバタバタさせながら絶叫する。
瞬間、尻に衝撃を感じた。
「あああああああああ、うううううううああああああああああああああああああああああ!!!!」
バキバキバキバキという嫌な音だけが直接脳に届いた。
数秒間空中にいたのは落下していた感触と共にわかっていた。
そのまま、尻餅をついたのだ。
数メートル先から落下したのだ。
「あああああああああ、いたああああああああああああああああああああああああ。」
目から流れるのは涙なのか血なのか。
声から溢れる絶叫はレオの耳には届かない。
尻の骨は粉砕し、身動きを取ることすらもままならない。
「ああああああああ、はぁはぁはぁ。」
心臓が跳ね上がる。
血管が広がり沸騰するように全身が燃え上がる。
瞬時に、『不死鳥』と『蚊王』の戦いに巻き込まれたのだと理解する。
皮膚が縮こまり、毛穴が引き締まるのを感じる。
それは一瞬の出来事であるはず。
すぐに表皮が膨れ上がり、まるで水泡が無数に浮かぶように膨張する。
皮膚の細胞は熱に耐えきれず内部から蒸気が噴き出すように破裂する。
肉体はまだ形状を保っていたが、表面は赤黒く変色し、ひび割れた土のようであった。
「 」
思うように声が出ない。
しかし、苦しみに絶叫していた。
心の中では恐怖と抵抗が渦を巻いていた。
逃れたいという本能の叫び、しかしその叫びは炎の轟音にかき消されていると感じた。
意識は炎に縛られて、逃げ場のない牢獄に閉じ込められているかのようだった。
内臓への侵食は、さらに残酷だった。
炎は皮膚と筋肉を突き破り、腹部に到達した。
胃や腸が熱に炙られ、内部の水分が蒸発する音が、意識の中で響いた。
臓器は縮み、黒く焦げ、液体のように溶け始めた。
心臓はまだ鼓動を続けていたが、その鼓動は不規則で、まるで炎に合わせて痙攣しているようだった。
血液は沸騰し、血管内で気泡を生みながら流れを止め、ついには血管そのものが破裂した。
内臓の崩壊は、肉体の中から自分の存在が消えていく感覚を呼び起こした。
心象の中では、かつての自分を形作っていた記憶や感情が、、、
***
「実はですね、こことは少し違う、似たようなもので」
「ぎゃあああああああああああああいやあああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああがぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「え、は、なに。レオくん!?」
「お、お兄さん!?」
「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い」
脳が焼けるような、皮膚が焼けるような、心が焼けるような熱が、文字通りレオに焼き付いている。
それは、「時間を巻き戻った」先でも変わらなかった。
今まで数多の「死」に直面してきたが、ここまで苦しかったことはなく、正気に戻れない。
「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助け助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて」
「お、落ち着いてくださいお兄さん!!」
絶叫し、黄金の床の上で暴れるレオに、ポラリスが抱きついて抑えようとする。
しかし、レオにとって刺激は全てあの『炎』へと変換される。
そういう脳みその回路ができている。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナ」
ポラリスの顔面を蹴り飛ばす。
黄金の床にはのたうち回るレオと、レオに蹴られたポラリスの残骸が飛び散っている。
その様子に、マルカブは絶句して、アンティリエは、
「おいおいおいおい、それはダメでしょ。」
ポラリスの頭からは簪は落ちて、髪は解けてしまっていた。
その様子に顔面の半分を抉られたポラリスは絶望した表情でいた。
その表情をみたアンティリエは苦虫を噛み潰したような表情を作ると、
「なにいきなり発狂したんですかレオ!!!
頭おかしいんでないですか!!
女の子を、、、こんな表情にさせるなんて!!」
「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様」
「本当にどうなってるんだよ!!」
と、ぷちパニックに陥いるアンティリエ。
彼からすれば、突然レオが絶叫し出したわけだ。
もうわけがわからないと言ったところだろう。
何もできないで騒ぎ立てるレオと、レオに突き飛ばされて茫然自失状態のポラリス。
どうしたのだと説得するアンティリエとマルカブ。
その瞬間はレオたちの事情など待たない。
***
「実はですね、こことは少し違う、似たようなもので」
「ぎゃあああああああああああああいやあああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああがぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「え、は、なに。レオくん!?」
「お、お兄さん!?」
*
「実はですね、こことは少し違う、似たようなもので」
「ぎゃあああああああああああああいやあああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああがぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「え、は、なに。レオくん!?」
「お、お兄さん!?」
*
「実はですね、こことは少し違う、似たようなもので」
「ぎゃあああああああああああああいやあああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああがぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「え、は、なに。レオくん!?」
「お、お兄さん!?」
*
「実はですね、こことは少し違う、似たよ
*
「実はですね、こことは少し
*
「実はですね、ここと
*
「実は
*
*
*
「実はですね、こことは少し違う、似たようなものですけど。
下の階にもあるんですよ!!」
「・・・へえ〜。だそうですよ、レオくん。レオくん?」
何度同じ結末を迎えたのか正確にはわからない。
ただ、その回数は異常で、今まで以上に冷静さを取り戻すのに時間を要したことだけはわかった。
あるいはこの数十秒だけで何日も費やしたのではと感じていた。
「お兄さん、顔色悪いですよ。真っ青だし。」
「えあ、」
そう言って触れてくるポラリスの手のひらは冷たくて気持ちいい。
思わずその手を頬につけたまま、頬ずりをしてしまう。
「うびっ、」
驚いたように跳ねるポラリスをよそにレオは頬ずりをやめない。
「おっほん」という先払いをしたアンティリエ。
そして、首根っこを叩いたマルカブによってレオは少し世界を俯瞰して見ることができた。
「ポラリス」
「は、はいっす。」
背筋をピンと伸ばして呼びかけに呼応するが、その表情を緩み切っている。
ニマニマとだらしない笑みを浮かべており、思わず頭を撫でて、
「アンティリエ」
「えあ、はい。」
「アンカス」、と呼ばれなかったことにアンティリエは少し驚きつつも、レオの呼びかけに返事をした。
それと同時にさっきまでとは比べ物にならないほど荒んだレオの目つきと、その目つきからは考えられないような朗らかな笑みに思わず気持ち悪いものをみたと感じた。
「マルカブ」
「ふん!」
いつものニッカとした笑みを向け、ピースでレオの呼びかけに応答する。
そこで、アンティリエが一言、
「まて、まて、マル輩の歯ってそんな黄ばんでましたっけ。なんか異次元の黄色さしてません?」
「むう? そうか、俺自分ではわからないからな!」
「いや、明らかに数秒前とは比べ物にならないならないレベルで黄色いよ。」
そう驚嘆するアンティリエに触発されてレオも笑顔のマルカブの歯をみる。
それは確かに、明らかに黄ばみが進行していた。
ここ数分で変化するとかそんな次元のレベルじゃない。
明らかに違う。
こんなノンデリ発言、アンティリエなら通常運転であり、指して驚くことではないが、彼のノンデリ発言がなければ、精神がどこか上の空気味なレオは気づかなかった変化。
いや、やめよう。
「黄ばんでるというより、黄色じゃないか?」
そう尋ねるレオにアンティリエは、
「間違いなく、黄色そのもの。
絵の具でもなったみたいになってる。なんで、こわいよ。
もしかして、この黄金の部屋にきたら歯が金色になるとか。
その進行過程で歯が黄ばむの!?
てことはアンテの歯も黄ばんでたりしてる?」
そう言って両頬を人差し指で引っ張り前歯をレオとポラリスに見せるり
しかし、そこにはいつも通りの白い歯と、八重歯が見えるだけだった。
不安気味なアンティリエへとレオは首を振る。
レオから視線を外してポラリスに向けると、ポラリスも首を横に振る。
「よかった〜」
とその場で安堵しているアンティリエ。
しかし、当の本人であるマルカブはというと、
「いったい、どういうことなんだ!
なぜ、俺だけが体の変化を、くぅ〜」
と、訳のわからないことを言っている。
こちらも歯の色以外は通常運行だ。
そこで、レオは何度目かの「時間の巻き戻り」について思い出す。
たしか、今くらいの時間で、
*
「実はですね、こことは少し違う、似たようなものですけど。
下の階にもあるんですよ!!」
その言葉は何度耳を叩いかことだろうか。
「あ、あの〜、お兄さん?」
「みんな、、、」
何度も殺された。
同じ時間を繰り返していた。
レオの中には一つの策が思いついていた。
しかし、それはレオのトラウマを刺激するもので、立ち向かうには勇気があることで。
その作戦での役割を、他の誰かに押し付けることだってできた。
それでも、レオという人間はどこまでも馬鹿で。
失敗すれば、火だるまになったときと同じだけ「時間の巻き戻り」をすることになるかもしれない。
そうすれば、また何度も殺され、その度に仲間を傷つけて、心配させるかもしれない。
しかし、あの苦しみを目の前にいる3人に、たとえ時が戻るとしてもさせるのか?
「いいか、今すぐ扉の近くに行ってくれ。
でも、扉の前には行くな。近くだが距離を取る。
それでいて、壁に張り付く。俺のお願いを、今だけは聞いてほしい。じゃなきゃみんな『蚊王』に殺されるんだ。」
そう言い切るとアンティリエは、
「それはまた「巻き戻ってきた」ということ?」
「ああ」
「どんな理由であれ、俺は少年の指示に従うぜ!!!!!!」
「ありがとう」
「よくわからないけど、ボクはお兄さんの指示に従うからね!!」
「うん」
そう言って、扉から見て右側の、少し離れた壁沿いに3人が待機するのを確認し、俺はその対角線上へと向かう。
それを見ていた3人、特にポラリスは、驚いた表情を見せる。
レオも今になってわかるが、あの『不死鳥』を見たことがあるのはレオとポラリスだけ。
うっかりしていたポラリスであったが、そのおかげでレオはこの窮地を切り抜けるための作戦が思いついた。
その代償として、レオは精神がすり減り、何度も時を遡ることとなったのだが。
それでも、なんとか帰って来れた。
バガアアアアアアンという爆発音と共に、黄金の扉が空き缶のように軽々しく飛んでいく。
『蚊王』が、レオたち3人が息を切らしながら開いた、質量ある扉を、まるで感じさせない勢いで開いたようだった。
その勢いが伝播して、扉が壁から離れて一直線に突き進む。
砂埃が立ち込める中、複眼を光らせている悪魔。
部屋へと足を踏み入れると、首を360°回転させながら周囲を伺う。
砂埃が失せると、瓦礫の中には誰もいない。
そのことに安堵するのも束の間。
円の空間のど真ん中に、金色に輝く魔法陣のようなものが発生する。
「キュラララララララララララララララララララララララララララ!!!!!!!!!」
咆哮はまるで和楽器のような音色で美しく、聞く者の心を癒し、鳥の囀りよりも旋律に近い。
魔法陣から姿を現したのは、周りに着飾られた黄金の像と形状は似ているものの、サイズが違いすぎる。
その姿は頭部から順に魔法陣から出てきた。
眼前に見つけたレオと『蚊王』の目が合う。
そして、
「何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もやってくれたなああああああ!!
蚊王の相手は不死鳥だあああああああああ!!!!」
と、ビシッと指差した先には召喚途中の『不死鳥』がいる。
言語は通じていない。
しかし、『蚊王』の反応は目の前で睨みつけてくるレオよりも、咆哮をあげて隙を見せている『不死鳥』を狙って、殺せと囁いている。
その本能に従い、『蚊王』の肢体がまだ完全に顕現していない『不死鳥』へと向かう。
「っし!」
その様子を見ていたレオは、してやったらとガッツポーズをして台座から降りると、急いで壁沿いを走り抜ける。
『蚊王』が『不死鳥』を細切れにして、レオへと視線を向ける。
その視線を感じたレオは、一瞬だけ全身がすくみ上がるのを感じるが、走りながら『蚊王』の背後を指差して、
「そんな簡単に」不死鳥が死ぬと思ってんのか?
おあいにく様、多分俺やお前がどれだけ殺そうとしても命に手をかけることはできねーよ。」
その言葉の後、『蚊王』は火だるまになる。
と同時に、レオは3人と合流する。
「急いでこの部屋を出るぞ。
じゃなきゃやばいことになるから!!」
レオとしえは眼球が飛び出る経験なんてもうしたくない。
さっさと退散するがよし。
そんなレオの切羽詰まった様子にアンティリエは、
「もうアンテは何があってもレオくんの指示に従うよ。さすがにあれだけの姿を見せられたら、疑うのも馬鹿らしい。頼むよレオくん。」
「できれば俺からの指示が最後になればいいんだけどな。」
「そんなこと言うな、俺を拒絶するのか?」
と、嘯くのはマルカブだ。
なぜ指示を出さない=マルカブを拒絶になるのかはレオにはわからない。
わからない理由は今現在スキルが使えず、『演算』が停止しているからだと考えておこう。
「お兄さん、すごいです。かっこよかった。
あの蚊王相手に強気で、しかも不死鳥をぶつかるなんて策を考えつくなんて。
すごい、すごいすごい!!!」
「もうあいつらと会うのはごめんだよ。」
黄金の回廊を走る4人は、爆発音と衝撃波と熱波を背後に語り合う。
そのどれもがレオを称賛してくれるもので、思わず頬が緩む。
数分前まで理性が吹っ飛んでいたと、レオは考えられないなと感じた。
しかし、しかしだ。
この、絶望的状況を、なんとか切り抜けた。
「最初は詰んだと思ったけど、なんとか、何とかなった。」
時間が巻き戻った先が、考えを巡らせるいとまも与えてくれないと言うハードモードに最初は心が折れた。
あらゆる選択をすれば悪い方に転がって何もできずに殺され続ける時もあった。
そして殺され続けて冷静さを取り戻せた。
「字面にすると、明らか俺が異常者じゃねぇか。」
「何言ってるんですか! レオくんはとっておきの異常者ですよ!
なんせ、あの『蚊王』から正面切って逃げたんですもの!!」
「褒めるのか貶すのかどっちかにして!!」
何はともあれだ。
俺たちは、何とかこの地獄のループを脱した。
そのいくつかのループで、アンティリエやマルカブ、ポラリスにはありえないほどの迷惑をかけ続けてきたと思う。
それこそ、一生分の迷惑を。
もうレオの中では勝手にベストフレンド認定をしていた。
彼らにとっては数分の出来事でも、レオにとっては濃密な時間であった。
支えてくれようとしていたのを覚えている。
励ましてくれているのを覚えている。
叱ってくれたのを覚えている。
信じてくれたのを覚えている。
「くっそ、」
「し、少年!? 泣いているのか!?」
「ぐぞ、泣いてないやい!!!」
「あー、お兄さん泣いてる〜!!
お兄さんなのに〜!!!!」
「だがら泣いでないやい!!!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、レオは廊下を駆け抜けていった。




