第二十話
真面目組とそうでない人で6人を4人と2人とわけていたが、実際は3人と3人だと言う衝撃の事実が露呈すると言うびっくりイベントもあったが、合計8人、ここからでたいと言う気持ちは一緒であると思っている。
気絶させられたメラクのことは、アルゲディとメサルティムが監視すると言ってくれた。
ポラリスの同行はというと、自分の知っている範囲でこの、『ヴァンデミアトリックス幽域』を案内してくれるとのこと。
「ポラリスにこの幽域内の案内について行く人なんだが。」
「お兄さん、一緒に行きましょう!!」
「俺?」
ポラリスがレオの服の裾をギュッと握って自分の方へと力強く引き寄せる。
隣に並ぶと足りない身長で頑張って腕を伸ばして、回してくる。
すこしひんやりとした体温が熱を持ったレオの体熱を奪う。
「魔物に懐かれるなんて、今の姿をメラクに見られでもしたら殺されるわね。」
「冗談でもそんな物騒な話しないでくれ。
ただでさえキモい虫の怪物に追いかけ回されてるんだ。勘弁してくれってんだ。」
レオだって魔人族や魔物には思うところがある。
ポラリスのようにコミュニケーションの取れない魔物であれば問答無用で殺していただろう。
あるいは、センドルワヤーのような人間に明確な敵意をもった魔人族なら、その危険性を考慮して速やかな排除に舵を切ったと思う。
しかし、ポラリスはどうだ。
あまり魔物について詳しくはないが、スライムなんて雑魚モンスターだろう。
たしか冒険者ギルドでの説明や、初心者向け討伐依頼で受ける人がいるくらいの魔物。
ハズレスキルだと散々揶揄されてきたレオだが、スキル持ちというだけで十分協力。
そこは、異世界人としての強みを存分に生かし、強力な魔獣や魔人族とも渡り合ってきた自負もある。
メラクほどポラリスに嫌悪感はなかった。
「つっても、俺も魔物が嫌いなわけじゃない。
あまりくっつきすぎるのも複雑だな。」
「ぷー、頭ガシガシしてくれたのはお兄さんなのに。」
「けど・・・」
俺がポラリスとの問答で押し黙っていると、
「案内はお兄さんは確定で連れて行きますから!!」
と、女の子からデートの約束をされた。
強引な誘いで、本来は嬉しいはずなのに、なぜかな。全然嬉しくない。
「だったら俺も連れて行け!
きっと、みんなの役に立つ。なぜなら俺は、世界最高の」
「あのおじさんも連れて行くの?」
「置いて行ってもたぶん勝手についてくるぜありゃ。ポラリスさん的にはあのおじさんは受け入れがたし?やすし? どんな感じ?」
「キモい」
「だそうだぜマルカブさんよ。」
「ふふふ、だがしかし、俺の最終奥義の前には誰もからもがひれ伏すことに、あ、な〜る。」
「わざわざ際どい感じに歌舞伎役者風装うのやめてね。
他のみんなは、龍怜さんとか。どうする?」
そういうレオの問いかけに龍怜は、
「私はここの部屋についてもう少し調べようと思うわ。なにせ、魔物が住み着いていた場所。それも自我がある魔物が。
なにか不思議なものがある可能性だってあるわけだし、外の探索は任せますね。」
「了解! って言っても外にはでられないんだけど。
アンカスは、〜なんとなく予想つくけど。」
レオの疑問に、自身の耳についた大量のピアスの中の一つ、チェーン付きのハート型ピアスをいじっていた手を止めると、真紅の瞳レオに向けて、
「アンテはメサルティムさんと一緒にいようと思いますよ!!」
そう、底抜けに明るく、見ていて人を安心させるような満面の笑みでいうが、実態が下心100%なので、ただただ、性欲に実直な人間となっている。
そのアンティリエの発言を耳にして、裏葉色の瞳を細めて、
「アンティリエさん、レオさんたちとともに探索、おねがいしますね?」
と、怒気の孕んだ声音で突き放すように言うと、アンティリエは、「うっ、」とまるで心に深いダメージを受けたかのように胸部を押さえて、「あらららららららら」と呟きながら自不満の足に絡まってその場にへたりこんだ。
アンティリエの奇行をまるで犯罪者を見るような目つきで、侮蔑するように舌打ちして目線を逸らした白いコートに身を包んだ少女は、アルゲディの元までそそくさと去って行った。
「とんりあえず、とんりあえず、全員の同行は決まったわけだしさ。俺たちレオ・マル・アンテはポラリスの案内にしたがってこの『ヴァンデミアトリックス幽域』の探索にでも行きますか。」
「おう。」
「うわー、女の子といたかったー。」
なかなかに濃いメンツだ。俺とアンテは多分年が近いだろうが、マルカブについては外見年齢だけなら40代後半。
その年齢でその言動はと突っ込みたくなる気持ちを抑えて、レオたち3人は部屋を後にした。
***
ポラリスが生活していた空間、仮にそこを『安地』とでと呼ぼうか。
『安地』を出るとそこは今まで居たような、黄色と白と緑を基調とした廊下が続いていた。
出口を閉じると、まるで違和感がなく、まさかここからあの『安地』につながっているなど想像もつかない。
扉の後のような線もない。本当にミリ単位、ナノとかミクロとかまでいくと思わせるほどに精巧な作りの扉であった。
こんな秘密基地、自身も作りたいと、持ちたいと思っていたなとレオは感慨に耽っていた。
数分廊下を歩くと、目の前に螺旋階段が現れる。
上行きと下行き。ポラリスは上行きを指さし、
「こっちは『鳥さんの部屋』がある方」
と言い、今度は下行きを指差すと、
「こっちは『蛇さんの部屋』がある方」
と言った。
すると、レオに褒めて欲しいのか、「すごいでしょ?」とでも言いたげに鼻を高くして腕を腰に据えて、胸を張って喉を鳴らしている。
それを無視してレオは、
「アンカスはどっちに行くべきだと思う?」
「アンカスいうな!!」
「ええ、ボクのこと無視ですか!?」
と、2方向から鋭いツッコミを受ける。
「アンテは鳥か蛇なら、まだ鳥の方が交尾できそうだし、上かな〜。」
「判断基準がまじで気持ち悪いななんとかできないわけ。」
「どっちに行くか決める前に、ボクにいうことあるでしょーがー!」
プンスカプンスカという擬音が聞こえてきそうな、可愛げのある表情でレオの左腕を掴んで前後にブンブンと振る。
まるで子供が親に構ってほしくて注意を向けようとしているようにも見えた。
「マルカブさんはどうしますかね。」
「むう? 俺に対して「さん付け」だなんてしなくていいぞ!」
確かに!
「俺とお前とはもう仲間だ!
気安く『パンパン』と呼んでくれ!」
「わかった。でも、一応歳は上なわけで、」
「それは触れるな!!」
「・・・パンパン先輩と呼ぶことにします。」
「いいな。そのあだ名は!!」
「確かに、パンパンとパイが入ってた勃起しそう!
アンテもこれからパンパン先輩って呼ぼう!!」
パンパン先輩、パンパンと連呼しているアンティリエを放置する。
ポラリスが「パンパン先輩?」「勃起する?」と子供のような反応を見せており、心が痛む。
この異常者たちと一緒にいたら純真無垢な魔物の女の子が汚されてしまわないか心配だ。
「お兄さん、勃起するってなに?」
「それはねポラリスちゃげふ!!」
わざわざ単語の意味を教えようとするアンティリエの頬をぶん殴る。
「ポラリス〜、それは悪魔の言葉だから、何度もいうとバカ怖い虫の化け物が命を奪いにくるんだ〜。
彼らは怖いもの知らずだから言ってるけど、俺たちは普通の人だろ?
くれぐれも、人前で言っちゃダメだよ。」
俺の忠告を素直に聞き入れた青い髪の少女は、「はーい」と返事をしながら右腕を上げて、了解の意を示した。
頬を殴られて赤くなっているアンティリエは、何か言いたげにコチラを見ている。
「なんだよ、言いたいことがあるなら言ってくれ。」
「どうして殴った!!」
「は? アンカス、お前まじで言ってるのかよ。」
メサルティムへの過度なセクハラを見ていて、薄々感じてはいたが、嫌がらせしていることへの悪意や、悪いことをしているという自覚がない。
無邪気を装う悪なのか、ただの邪気なのか。
首にベルトをつけているような頭のおかしい男なため相手にするだけ無駄なのだろうが。
アンティリエは少し解けた自身の髪から、銀色の簪を引き抜いて、お団子を作って留め直す。
その一連の仕草、手つきは妙に慣れていて様になっていた。
「アンカス、お前って黙ってた方がいいって言われたことなくないか?」
「むしろそんなことしかないことにびっくりしてるくらいには。」
「だろーな。」
日本にもホストでいそうな容姿しているし、細身、、、、ガリガリなのも彼の体型の良さに磨きをかけているような気がする。
アンティリエの簪を見ていたポラリスが指さし、
「お兄さん、あのキラキラ欲しい。ボクもできるかな?」
「ん? でもお前、髪にも神経通ってるタイプの魔物だろ?
てか、髪って呼べるのかよ。」
スライムの魔物で、今の姿も変形しているだけにすぎない。
仮にそんなもの刺して死んだらどうするんだ。
その言葉を聞いてか、アンティリエが裏ポケットから一つ簪を取り出す。
その簪はアンティリエのモノに、青いガラスで花の装飾された簪だった。
それを見たポラリスは目を輝かせて、
「つけて!!」
とアンティリエに頼んでいた。
俺も一言、「痛くてもしらないぞ。」とは忠告しておいた。
ただ、彼女がやりたいというならやらせてあげよう。
「へへ、任せたかな嬢ちゃん!」
ニマニマとした笑みを貼り付けながらポラリスの髪を結っていく。
お団子を後ろではなく、右後ろに作ると、件の簪を刺し入れる。
簪が刺さると、ポラリスが小さくうめき声を上げて、目に涙を作る。
「やめておくか?」
「平気だし。」
「痛くなったらやめとけよ。」
「それはどうだろ。」
震える声で返事をするが、余裕のようには見えないな。
そんなやりとりをしていると、アンティリエはポラリスの髪を少し引っ張ってボリュームを持たせていく。
「別の簪刺してもいいかな?」
「へ、平気ですけど?」
口笛を吹きながら目線を合わせずアンティリエの問に返すポラリス。
仕方ないか。
俺は足を曲げて屈むと、ポラリスの前で腕を開く。
「へ?」
その俺の様子を見て、ポラリスは不思議そうに固まっていた。
「痛いんだろ?
ぎゅってしてやるからこっちにこい。」
ほいほい、と手招きすると、目線を逸らしながら俺の胸に飛び込んでくる。
スライムの体は冷たくて少し気持ちいい。
学校のプールをほど冷たくはないけど、冷めた風呂よりは冷たいくらいな?
「痛くなったらはずせよ。」
「痛く、ないもん。」
そういうポラリスの抱きしめる力が増すのを感じた。
「ふいふいふいと!」
プラス2本、合計3本の簪がポラリスの頭に突き刺さる。
涙聲で「ありがと、アンカス」とお礼を言っている。
しかし、彼の方は見ずに俺の腕の中でだ。
抱いたまま立ち上げてあがって、後ろを向くとアンティリエと顔を合わせた。
気まずかったのか、すぐに肩に乗せていた顔を俺の胸の下に埋めてくる。
「ポラリスちゃんの体って、全身がどこの部位にもなる可能性を秘めているわけじゃないですか。
つまり、実質アンテは童貞を卒業したってことにならないですか?」
「は? 何言ってんのお前。」
「だーかーらー、ポラリスちゃんの処女膜をアンテの簪がげぶふ。」
「だから変なことばかり口にしないでくれ。」
彼の股間に目掛けて膝蹴りをお見舞いすると、脚部を押さえながら悶絶している。
口が滑った[レベル100]みたいなことしないでくれ。
「処女膜?」
「それも悪魔の言葉だから。」
アンティリエという存在がR-18にヒヤヒヤさせられっぱなしだ。
レオが頭を抱えていると、怯えたような表情でレオを見据える青い瞳があった。
レオの左手を両掌でぎゅっと握って自身の方へと引っ張ると、
「似合ってる?」
と、小首を傾げながら訊いてくる。
そう尋ねる少女へのアンサーを、レオは知っている。
飾りとして見られていたといえども彼女がいたのだ。
その返答はもちろん、
「似合っているよ。とても可愛い。」
「うへへへ」
声を漏らし、青い頬を綻ばせる少女。
ただ話しているだけなら魔物だとは微塵も思えない。
様子を見ていたマルカブが階段へと足をかけて、
「さあ、可愛くなった少女よ!
俺たちにこの幽域の案内をしてくれ!
俺は探検家として、未知の世界を踏破したいという欲求が胸の奥で蠢く衝動に耐えるのに限界が近い!
上でも下でもどちらでもだ!!」
「それもそうだな。こんなところで油売っているとアルゲディに何言われるか分かったもんじゃない。
ただ、よくよく考えて見たんだがな、『蚊王』から俺たちは下に逃げてきたんだ。
今進むなら、普通は下の階なんだじゃないのか?」
「でもさでもさ、もしアンテたちが下の階に降りて探索してる時に、『蚊王』が一緒に降りてきたら逃げ場なくならない?
本当に真面目な話するなら上の階にするべきだと思うんですよね。」
「たしかに、、、」
自身の意見とは真っ向から違えているアンティリエの意見に、珍しく筋が通っており傾聴した。
ここはチームワークを尊重するという意味で、上の階へと向かうことにしよう。
「そうだな。アンカスの言う通りなのかもしれない。
よし、ポラリス。案内頼めるか?」
「あいあいさー!」
***
螺旋階段を登った先の空間は、構造自体は似ているものだが、配色は少し異なる。
金箔でも部屋に使っているのかというのか、煌びやかな装飾に満ち満ちており、まるで玉座への回廊。
「レオくん、これ全部売ればいくらになると思いますかね?」
「マジもんの金なら俺たちだけで豪遊暮らししてもお釣りが来るレベルだな。
初めて空き巣の気持ちがわかったかもしれない。」
などと、会話しているレオとアンティリエをよそに、ポラリスが壁を眺めてポージングしていた。
その様子は、カメラを前にしたモデルのようであり、反射する己の姿を確認しているようだ。
目線は上、髪の方へと吸い寄せられている。
「そんなに確認しなくても似合ってるから。
それより、本当に痛くないのか?」
「へ、平気ですよ!!
スライムには自己再生能力があるので!
ボク、昔記憶を無くした直後のことですよ、『蚊王』さんに半身持ってかれたことあったんです。
目の前でボクの体を啜っていて、トラウマです。
でも、すっごい時間が経って元通り!!
今も時間と共に痛みますけど、その傷より早い速度で自己再生されてるので!
大丈夫ですよ!!」
両手でグットマークをつくり笑顔でそう嘯く。
ポラリスの頭に伸びた手を止めて、顎下へと持っていく。
レオの手の仕草に息を呑むが、
「今頭を触ると崩れちゃうかもだしな。」
「っな」
瞑っていた目が見開かれる。
頬を撫でると、その拍子からは少しの怒りが。
何やら訴えようとしている様子であるが、羞恥心が優ったのか、
「お兄さんの、バーカ」
とだけいい、金色の壁から離れて、アンティリエとマルカブの元へとスタタタと小走りに去っていった。
そのあとを追うようにレオも駆け出す。
この階層にもいろんな部屋があり、中には金銀財宝にしがみ付きながら白骨化した遺体が眠る部屋などもあった。
人の欲望とは存命中と同じく、死後もそれを誇るようだ。
墓場荒らしをするような真似はしない方がいいと思ったが、財を見ていたアンティリエは迷わず飛び込んだので、その場で手刀を喰らわせた。
「最後に、ここが最奥の部屋になるんです!!」
荘厳な雰囲気を滲ませている扉を開き、室内へと足を踏み入れる。
あまりの扉の重さに、俺とアンティリエとマルカブは顔を真っ赤にして開いたのは内緒だ。
室内は広く、天井も高い。円形の間とでもいうのか。
周囲をずらりと囲むように、黄金の鳥の像が囲んでいる。
統一感のあるそれは、まるで孔雀のようだった。
そして扉と対をなす位置には、一冊の本が、ガラスケースにしまわれている。
ガラスケースには本が建てられているのではなく、紫の布の中に割れ物の贈り物のように大切にしまわれているのだけが見える。
「あの本はなんだ!!」
と、レオと同じことを思っていたマルカブがポラリスに問う。
その質問に対して、困ったように唸りながらポラリスは、
「ボクも調べようとしたことがあるんですけど、その度に鳥さんに襲われたので、一度も中身を確認したことがないんですよね。
今は鳥さんいないですけど、本に近づくと突然出てくるので、あまり近づかない方がいいですよ。
鳥さん、怖い怖いなので。」
そういうと、両の手のひら翼のようにバタつかせ、「コケー」と鳴いてみせる。
なにやってるんだ、と思ったが、彼女の見た『鳥さん』とやらの真似をしているのだろう。
「それはなんというか。ゲームのボス部屋で宝箱はボスを倒してからじゃなきゃもらえないって考えで良さそうだな。」
「少年! 何を言っているんだ!?」
「んー、異世界人になんて説明すりゃいいんだ。
そうだな、あの本を衛る門番を倒さなきゃみたいな?」
「あー」と納得半分、疑問半分といった声音で答えるアンティリエと、「???」とまるで何もわかっていないという表情と、黄ばんだ歯を除かせながら笑みを見せているマルカブ。
ポラリスは目を輝かせてこちらを見ている。
が、この子は通常運転だ。
「実はですね、こことは少し違う、似たようなものですけど。
下の階にもあるんですよ!!」
「ん? なにが?」
と、口にするポラリスに思わず聞き返す。
その問いに対し、指を下に向けながら、
「あの階段の下にいくと、こことは似た作りの別の部屋に繋がるんですよ。」
つまり、
「別の部屋のボスもいる、と。」
いう認識で相違ないはず。
探索するという名目で来ている以上、そこに未知が広がっているならば調べ上げるのが男というもの。
ポラリス以外の2人に目線をやると、同意というニュアンスを含んだ返答が返ってくる。
重たい扉を開こうとすると、逆にとんでもない衝撃を頬に感じる。
「うぐぼ」
***
「実はですね、こことは少し違う、似たようなものですけど。
下の階にもあるんですよ!!」
「・・・へえ〜。だそうですよ、レオくん。レオくん?」
「少年! 少年!!」
「お兄さん、どうしたんですか急に!!」
「あぁ、」
少しずつ、白んでいた脳内に色がつき始める。
えーと、なんだっけか。
「いや、えっと。また、か?」
「またって、あの時間が巻き戻ったって言ってたやつですか?」
そう尋ねてくるアンティリエに小さく顎を引く。
どんなわけか、俺は時間を巻き戻っていた。
「なんですか、時間が巻き戻るって。」
不思議そうにこちらを見ているポラリス。
そうか、この子には説明していなかったな。
「いやさ、ここに来てからというもの。定期的に時間が巻き戻る症状? みたいなものに悩まされててさ。
この空間特有のものだと思うんだけど。どうにも。」
ワンチャン『逆転』の能力であるかもしれないと脳を掠めたこともあるが、多分違う。
もし、『逆転』であるならば、『剛体化』や『加速』といったスキルが発動できないことに説明がつかない。
むしろ、ここがゲームの世界のダンジョンのようなものと捉えるならば、ギミックとして「時間の巻き戻り」を受けていると考えるのが妥当だろう。
「特有か〜。でもアンテはまだその「時間の巻き戻り」したことがないんですよね〜。
幽域の女神様に愛されてないのかな〜。」
「そんな選抜みたいなことするのか女神様が。」
「ワンチャン男神だったりして。」
「やめてくれよ気持ち悪いなあ。だいたい、神にしちゃさっきから随分と手心のない巻き戻りで、」
そこまでいってふと思い出す。
「時間の巻き戻り」前の出来事を。
あの時たしか、今頃だろうか。突然扉に押されるような衝撃がレオの頬を叩きつけて、
バガアアアアアアンという爆発音と共に、黄金の扉が空き缶のように軽々しく飛んでいく。
何者かが、レオたち3人が息を切らしながら開いた、質量ある扉を、まるで感じさせない勢いで開いたようだった。
その勢いが伝播して、扉が壁から離れて一直線に突き進む。
「まって」
レオが言葉を言い切る前に、黄金の扉はレオの全身を叩く。
その勢いには十分な殺傷能力があり、
***
「実はですね、こことは少し違う、似たようなものですけど。
下の階にもあるんですよ!!」
「・・・へえ〜。だそうですよ、レオくん。レオくん?」
「少年! 少年!!」
「お兄さん、どうしたんですか急に!!」
「あぁ、」
少しずつ、白んでいた脳内に色がつき始める。
えーと、なんだっけか。
これは、前にもやったやりとりのような。
記憶を辿れば、あの時感じた頬への衝撃は勢いよく開かれた扉にやるものだったのかと合点がいった。
それと同時に、これから起きることへと脳がシフトする。
「また時間が巻き戻った。
ポラリスにはあとで話す。みんなにも。
今はここにいちゃまずい。一旦あの像の後ろにでも隠れて!!」
扉を背にして右側の像を指差す。
それを聞いて、アンティリエは疑いの眼差しを向けてくる。
ポラリスも、「どういうことですか?」と怪訝な様子。
意外にも、マルカブだけは、「了解したぜ!!」と前見たときより黄ばんだと思う歯を見せて像の方へと向かってくれた。
マルカブに触発されてか、アンティリエもボヤきながら小走りで向かう。
レオもポラリスと手を繋いで扉の前から離れる。
「一体なぜアンテたちはこんなに広い部屋に来たのにも関わらず輝く像の後ろに、狭いのに。隠れなきゃならないのか。」
「本当に頼むよ。ちゃんと事態が収束したら説明するから。」
「大丈夫、皆まで言うな!
俺だけはお前のことを信じ」
言い切る前にあの瞬間が訪れた。
バガアアアアアアンという爆発音と共に、黄金の扉が空き缶のように軽々しく飛んでいく。
何者かが、レオたち3人が息を切らしながら開いた、質量ある扉を、まるで感じさせない勢いで開いたようだった。
その勢いが伝播して、扉が壁から離れて一直線に突き進む。
その様子を側から見ていて理解できたことがある。
①扉は完全に破壊されたわけではなく、部分的に破壊されてその破片がレオへと直撃したのだろうと言うこと。
②破片は部屋の中央付近でなにか見えない物体にぶつかると停止した。
③この一連の騒動を引き起こした、その正体。
砂埃が立ち込める中、複眼を光らせて姿を表せるそいつに、レオは見覚えがある。
否、それはレオのことも何度も何度も殺したであろつキルリーダー。
腕が4本、足が2本。筋肉質な見た目だか体は外殻に覆われ、背中には6枚の羽が備わっている。
獰猛な瞳をもち、長く尖った口が印象的。
頭からは2本の触覚が生えており、触覚の見た目はフサフサの毛がたくさん生えているように見える。
手先は鎌のように尖っている。
『蚊王』その人である。
カン、カン、という足音が、レオの心臓を跳ね上げさせる。
部屋へと足を踏み入れると、首を360°回転させながら周囲を伺う。
そして何度か開店した後、突然その回転は停止した。
見つかったのだ。
「ちょっとまてよお」
***
「実はですね、こことは少し違う、似たようなものですけど。
下の階にもあるんですよ!!」
「・・・へえ〜。だそうですよ、レオくん。レオくん?」
「少年! 少年!!」
「お兄さん、どうしたんですか急に!!」
「あぁ、」
少しずつ、白んでいた脳内に色がつき始める。
えーと、なんだっけか。
扉が破られ、破った張本人が部屋へと入ってきて。
それは『蚊王』であり、レオたちを捉えると狩人のように接近してきた。
そして、
「即死だったのか。なにをされたんだ。」
瞬きをした瞬間のことだった。
そして目を開いた時には「時間が巻き戻り」、この時間まで帰ってきていた。
もうこれは時間の巻き戻りと言うべきなのか。
レオが『蚊王』に殺された時に発動するものとでも考えるのが丸いのか?
そもそもどうして『蚊王』がここまできていた。
ずっと前から来ていたが、逃げ場がなくなるまで待機していたのか?
だったら、『蚊王』はそうとう頭が切れると言うことになる。
強くて賢い。
逃げることも困難。そして死ねば時間が巻き戻る。
「詰んでる。」
切り抜け方がわからない。
思いつかない。
さっきから何度も繰り返している。
何回死んだ?
三回か?
ここに来てからだと多分五回。それも『蚊王』1人にだ。
いくらなんでもレベルが違う。
センドルワヤーとかそんな次元の話じゃない。
あまりの絶望的状況にその場にへたり込む。
「おい、まじでどうしたんですかレオくん。」
「少年! 何があったかは聞かん!
でも、何かあったのはわかる!
頼むから指示を!!」
「えあ、えっと、」
そうだった。考えてる時間はないのだ。
なぜなら頭を使って考えることに時間を使ってしまえば、あの瞬間を避けられない。
そう思い至って重量のある、黄金の扉へ目を向ける。
まだ、爆発はしていな
バガアアアアアアンという爆発音と共に、黄金の扉が空き缶のように軽々しく飛んでいく。
何者かが、レオたち3人が息を切らしながら開いた、質量ある扉を、まるで感じさせない勢いで開いたようだった。
その勢いが伝播して、扉が壁から離れて一直線に突き進む。
「あって」
***
「実はですね、こことは少し違う、似たようなものですけど。
下の階にもあるんですよ!!」
「あ、ああ。」
「ん? お兄さん、どうしたんですか。」
「あ、あああああ。」




