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第十六話



 おーはーよーおー

 

 今回の依頼主であるマルコ・サレスティノ。

 この国では名の通った商人であるらしい。

 ルミオールという通貨の原料となる、ルミナイトやその他宝石、香水や化粧品など主に貴族や大商人の夫人向けの商品が中心の商会のボス。


 ここセレスティア省の北部ではルミナイトの一大産地であるらしく、それを川を降って運ばれ、港から世界に輸出される。

 利権というやつだ。

 

 実際は何人かの商人で運営されているようだが、その組織の中にも上下関係は存在するのだろうことは想像に容易い。

 

 「おはよう荒くれども。俺は今回の依頼主からお前ら冒険者を纏めるよう指示されているタロスだ。

 わかっていると思うが、アズール省を占領している海賊が、この永青海(えいしょうかい)で商船や軍艦を襲う事件が頻発している。

 なにかの情報を聞きつけて、マルコ商会の船を襲う可能性もある。

 というか、必ず襲ってくる。それをぶちのめすのがお前ら荒くれ者の仕事だ。

 簡単だろ?」


 船は全部で10隻。商船が3隻。護衛船が7隻。

 俺は護衛船の右舷の真ん中の船に乗ることになった。

 陸を壁沿いにすると、右側がアズール省と近づくため一番最初に戦いが起きる可能性の高い場所。

 もっとも危険な場所だ。

 あれだな、囮船だな。

 一隻あたりだいたい8〜12人。

 

 海賊の規模は過去最大では、70人程度だったらしいし、その1.5倍以上の戦力なら妥当なところか。


 錨を上げていざ出航。


 ***


 永青海は内海ということもあり、船酔いするような要素もなく、実に穏やかなこった。

 しかし、穏やかじゃないことだってある。


 「南、3隻、旗なしです!!」

 「一応、旗が上がってきないと伝え」

 「そんな必要はない!

 すぐに魔術で撃沈しろ!!」

 「でも、それじゃ」

 「情報にあった海賊船だ。沈没させても問題ない!!」


 知らない人がたが何やら言い争いしている。

 うちの船には魔術を使えそうな人は1人だけ。


 別の船から土魔術を放つ。

 人間大砲、ボーリング玉サイズの岩が放物線を描きながら海賊船?目掛けて飛んでいく。

 そのままヒットすることなく、船の前に落ちる。

 遠くからでも水飛沫がよく見える。

 

 今度は海賊船から火球が飛んでくる。

 それをまた別の船の魔術士が消し去る。

 海賊船は背後からも迫ってくる。


 「どうする?」

 「できる限り魔術で削って、乗り込んでくるようなら肉弾戦だ!!」


 俺は馴染めていないため話には加わっていないが、方針は決まったようだ。 

 しばらくは魔術戦だな。

 

 土魔術の応報が続く。

 一撃でも着弾すれば船は沈む。

 結界魔術などで船を守りながら進むが、海賊船はどんどんとこちらへと距離を詰めてくる。

 奴らは商船以外は沈没させるきなのか、まったく躊躇いがないな。


 「くっそ、暇で暇で仕方ねえ!!

 船長、やつらぶっ飛ばしに行きましょうや!!」

 「ダメだ、海賊の定石は周りの護衛艦を砲撃で沈没させ、その後に狙いの船を拿捕する。

 ここで離れたら隙を見て商船に乗り込まれる。」


 戦いを進言したクルーは悔しそうに扉を閉めて部屋へと入っていった。

 甲板で魔術の応報を見ているといるというのは確かに暇だし、なにも展開が進んでいないように見えるが、実際はそんなことないんだろうな。


 そういえば、セレナさんは湾口防衛何ちゃらの副司令だったよな。

 あの人のスキルなら、ああいう海賊船とか消し飛ばされるんだろうな。

 海軍向きのスキルということか。

 

 現代でも通用しそうな破壊力だったし、今いて欲しいランキングどうどうの第一位です。


 「あの船から潰せ!!」


 敵船のマストから数名海賊が飛び降り、乗船してくる。

 なんじゃそりゃと腰を抜かして驚いている場合ではないな。

 すぐに乗り込んできた海賊と甲板での肉弾戦が繰り広げられる。

 

 接近戦を得意とする冒険者たちが待ち侘びた仕事の時間に腕を躍らせる。

 拳を、剣を、槍を、己の最も信頼を寄せているものを構えてみせる。


 すぐに海賊と衝突し、人と人との本気の殺し合いが始まった。

 俺はというと、参加はするが後ろの方で声を出してそれっぽく存在していた。

 鮮血舞い散る甲板での攻防戦。

 舵輪のあるシートでは今もなお魔術士同士の魔術戦が展開されている。


 「クソガキ、隠れてねぇで前に出てこい!」


 1人の海賊が群れを抜けてきて後方まで突っ切ってくる。

 背は俺より少し高いか、片手に剣をもち、もう片方の手には盾を持っている。

 振り上げられたのを見て、『剛体化Ⅰ』を起動する。

 海賊が勢いに任せて俺の脳天目掛けて剣を振り抜く。


 「雑魚かよ!」

 

 海賊は勝ちを確信したような笑みを浮かべながら返り血のついた盾を己の顔面の前に構える。

 なるほど、俺の頭を割って、割ること前提で飛沫を防ぐつもりであるようだ。

 随分と人殺しに慣れているようだな。


 海賊の振り抜いた剣が俺に傷をつけることはない。

 髪の一本も切やしない。

 剣は弾かれ、そのまま海へと落ちていく。


 「ま、まさかお前」

 「ふん」


 『加速Ⅲ』で体当たりして船から押し出し海に突き落とす。

 海賊は水平投射されながら海へと落下する。

 

 1人片付けて周囲を確認する。

 まだまだ海賊たちはマストから俺たちのいる船に乗り込んできている。

 こちらもかなりの数の冒険者が深刻な怪我を負っている。

 対して海賊は殺されている人も多い。

 その都度冒険者たちが死体を海へと投げ捨てている。


 「皆殺しじゃアアアアアアア!!!」

 「コッチのセリフじゃアアアアアアア!!!」


 これでは埒が開かない。


 「よそ見とは、なぁ!」


 船のギリギリに立っていた俺を突き落とそうとした男のタックルを避ける。

 

 「くあ」


 そのままほっといたら落下するだろう。

 ただ、一つ反撃するのもあり。


 男の首後ろの服を掴んで引っ張る。

 腕をばたつかせながら全身を大きく後ろに引かれた男は海に落下するはずだった体躯が尻餅をつく。


 「ってて」

 「本当に痛いのはこれからだぞ。」

 「はあ?」


 疑問符を浮かべる男の足を掴んで『加速Ⅲ』を付与し円運動させる。

 遠心力でどんどんとコチラが引っ張られそうになるが、力一杯振り回す。


 「せーの!!」


 そのまま海賊船へと投げ飛ばす。

 狙う先は船の左後ろ。さらにながら直前に『加速Ⅲ』で推進力を高める。

 野球のレーザービームのように真っ直ぐ海賊船へと顔から突撃する男。


 バリイイイイイインという音を立てながら木製の船の左側が崩壊を始める。

 そこには大きな穴が空いている。

 まさか人が突撃したとは思うまい。


 「なんだ、魔術の直撃か!?」

 「あいつらの船が沈没するぞ!」


 甲板で戦っていた冒険者や海賊たちも爆音を聞きつけてなにやら騒いでいる。

 もっと騒いでいる奴らもいる。当然、沈みゆく船に乗る海賊たちだ。

 右往左往しながらマストに乗り込もうと何人もハシゴを登る。


 見切りをつけて海に飛び込むものもいる。

 そう言ったものたちは魔術士の格好の股で、背後から後頭部を撃ち抜かれて殺された。

 えげつない。


 その間にも、マストへと登る人の自重に、とうとう耐えきれなくなった船が倒壊を始める。

 ギシギシ、メキメキメキメキと音を立てながらゆっくりと船がコチラに傾いてくる。

 このままだとぶつかる。

 そう思った時、魔術士軍団が大岩で沈みゆく船を吹っ飛ばす。


 最初からやってくれればいいのに。


 「くっそ、今のうちに逃げないと殺される〜」

 「なんだよ、こんなこと聞いてないぞ!!」

 「お前ら逃げるな!! 俺は逃げるけど」


 こちらの船に残された海賊たちも大混乱で、連携なども取れるはずなくどんどんと撃破されていく。

 乗船された時はどうなるかと肝を冷やしたが、案外なんとかなるもんだな、と玲央は思った。


 ***


 襲撃を乗り越えて船で一休み、後処理は俺たちの仕事ではない。

 玲央は陽の光に煌めく青い海とその上を飛ぶ鳥を眺めていた。

 そんな玲央に近づく人影があった。


 「そんなところで何やってるんだ」

 「んん?」


 声の主に振り返ると、玲央より少し歳は上であると思われる男がいた。

 腰には一振りの剣を携えており、無精髭を蓄えている。


 「海を見ていたんだ。」

 「海か。海はいいよな。」

 

 海の青さが今の傷心していた玲央には効いた。

 綺麗なものを眺めて少しでも気を紛らわせていたかった。


 見た目は荒くれ者のそれである男だったが、案外芸術や文化的な話ができるのかもしれないと感じた。


 「名前は?」

 「玲央」

 「レオか、俺はガレルバ。」

 「そうか。」


 穏やかな海原を2人して眺める。

 この船に乗って初めて誰かと会話をした気がする。


 「レオはどうしてこの依頼を受けたんだ?」

 「ヘレニアに行こうと思ってな。その経路上にあった依頼だから受けた。ガレルバは?」

 「金回りがいいからな。」


 だと思ったよ。

 眺めていた海の先に大きな島が見える。


 「見えた島(アレ)が目的地か?」


 指を刺して玲央は確認した。

 その確認にガレルバは「いや」と首を振って答える。


 「あの島はもともとアドリアノヴァの領土だったんだけどな、一つの海賊団が強襲して、乗っ取られたんだ。」


 かなり大きな様に見えるが、その海賊はなかなかの実力の持ち主なのだろう。

 

 「取り返さなくていいのか?」

 

 とは聞いたものの、冒険者であるガレルバにとって国の領土の奪った奪われたなんてものは関係のない話であったと玲央は質問してから感じた。

 しかし、レオの予想とは裏腹に、ガレルバの返答は違った。


 「取り返さなきゃいけない。何度も取り返そうとしたんだけど、その度に返り討ちにあってる。」

 「そか。」


 遠目ではわからないが、きっと要塞化していたりするのだろう。

 

 「さっきの海賊も、もしかして」

 「そうだな、羅刹会(らせつかい)。やつらはそう名乗っている。知らなかったのか?」

 「知らないと何も、ここに来たのは本当に数日前とかなんだ。知らないことばかりだし」


 そこまでいい、レオはまずいという表情を浮かべる。

 自分の事情を、先ほど知り合ったばかりの人間に、こんなにベラベラと喋ると、後から痛い目を見るということがスッポリと頭から抜け落ちていた。

 そんなレオの表情を見て何かを悟ったガレルバは、微笑を浮かべると、


 「何か勘違いしてるな。俺は別にレオをどうにかしようとか考えてないから安心しろ。

 それに、さっきの戦いの決定打になった海賊船の沈没。

 あれは海賊をレオが船に投げ飛ばしたことが原因だろ?

 俺はあの現場を見てしまっているし、レオに手を出すつもりなんかない。

 出したら返り討ちに合いそうだしな。」


 別にレオじゃなくても言いふらしたりしないよ、と付け加えながら高らかに笑う。

 しかし、レオにはガレルバのその言葉をそっくりそのまま受け取るのは困難だった。

 その言葉の裏には何が潜んでいるのか。

 何を企んでいるのか。

 仲良くなったふりをして、自分を利用しようとしているのではないのか。

 利用した挙句、ていよく捨てられるのではないのか。

 そんな悪い発想ばかりがレオの脳内をグルグルと旋回していた。


 「もうすぐ日が傾く。今日一緒にメシにいかないか?」

 「ガレルバの奢りならよろこんでゴチになるよ。」

 「なかなか食い意地の悪いやつだなレオは。」

 「何言ったんすか先輩。いやー人の金で食うメシがなんという甘美!!」


 ***


 商船が一度港に着くと、冒険者たちは商会の紹介で宿で泊まることとなっている。

 天引きされるらしいため、人によっては使わない人もいるが、夜襲なども考えられるため指名された人は絶対泊まることになっている。


 レオとしては、変な宿に泊まるくらいなら商会を通した宿の方がヨシとみてそちらを選んだ。

 

 「むにゃむにゃ、もう食えない、、、」


 レオたち冒険者たちが常世の深い場所へと沈み込んでいった時のことだ。

 リンリンリンリンという金の音に弾くように意識が覚醒する。

 予想されていた襲撃者の到来を知らせるその鐘の音は、ぼんやりとした意識でいた冒険者たちの意識をシフトさせるには十分な効力を発揮する。


 急いで部屋を飛び出し船のある港へと向かう。

 宿から船までは本当に目と鼻の先。

 すぐに辿り着くとそこには昼間とはまた違う光景が広がっている。

 何も見えない闇の中を、金属のぶつかり合う鈍い音が何音も響き渡る。

 いまだに警報としての鐘の音は鳴り止まず、レオの心臓はバクバクと強く胸を内から叩く。


 走り出した足に『加速Ⅲ』を乗せて勢いをつけ、『剛体化Ⅰ』で固めた拳で海賊と交戦を始める。

 敵味方の判別がつかない。

 

 「うおおおお!!」

 「くそ、」


 味方の冒険者からの被弾を肩に受ける。

 肩口には今までに感じたことのないような激しい痛みと熱が全身を伝播する。

 あまりの痛みにその場に倒れ込み、息が上がる。

 

 「フレア・サークル!!!」


 戦場を囲むように炎が円形にレオたち冒険者と海賊を取り囲む。

 仲間の魔術士と思われる人物がやってのけたことだろう。

 そして、周囲を確認して驚嘆する。

 そこに広がっていた光景はあまりにも衝撃的で、レオたち冒険者は悲鳴を上げる。

 そこには冒険者が倒れていた。否、冒険者だけが倒れていた。


 もっと正確に表現すると、冒険者たちが冒険者たち同士で殺し合っていた。

 それに気づいた途端、冒険者たちは急いで船に目をやる。

 レオは一つの考えに辿り着く。そして声を張り上げ、


 「鐘は海賊のフェイクだ!!!

 奴ら、俺たちを同士討ちさせるために敢えて鐘の音を鳴らしたんだ!!!

 本当の狙いは商船だ!!!」


 全冒険者が一斉に船へと突撃する。

 レオはというと、その場でへたりこんでいた。

 味方の冒険者から斬られた肩が未だな悲鳴をあげており、戦えるような状態ではなかった。

 もし戦えていてもあまりの痛みに足手纏いになるだけだと感じていた。


 そんなレオの元に、1人の魔術士が近づいてくる。


 「大丈夫かい? 肩から血が溢れているね。

 今すぐ治さないと。」

 「治癒術士さんか。お願いします。」


 そう言ってレオはその術士に患部を見せる。

 この痛みには早くおさらばしたい。

 ただ、なかなか簡易的な治癒魔術では治りそうもない。

 これだけの傷を治せるような人間が冒険者をやっているなんて、大した変人だなとレオは思った。

 この国は商人の街。商人の国。商売が中心の世界だ。

 金 is 正義

 それだけの実力があるなら大富豪専属の、、、

 そこまで考えて、脳に嫌な考えが巡り、レオは飛ぶように『加速Ⅲ』を起動させて飛び跳ねる。


 その瞬間、キーンといつ金属が地面を叩く音がレオが寸前までいた場所から響く。

 レオがいた場所に金属棒を振り上げ、下ろした治癒術士は「ッチ」と舌打ちをして飛び上がったレオを見据えていた。


 「どうして気づかれたんだ〜」

 「勘」

 「勘の一言で済ませられた。まあ別にいいけどさ。

 どのみち君の相手はワタシの仕事だし。」

 「?」


 魔術士が着ていたローブをたくし上げて脱ぎ捨てる。

 脱ぎ捨てたそれは、細身の女性。

 ただ、少し布面積は小さく、高校男子一年生のレオには刺激が強いなと感じる、、、余裕はない。

 今にもジンジンと常軌を逸した痛みが肩口からレオのことを肉体的にも精神的にも追い込みそんな常識はずれの女の登場など考える余裕はない。


 「ワタシは羅刹会幹部、セラ・シャドウレイル。」

 「ご丁寧なことで。俺はへの攻撃ももっと礼節を求めたいものだ。」

 「あいにくと海賊にそんなこと求めちゃダメだぞ!

 坊や〜、君の相手はちょっとウチの部下には厳しそうだからさ〜。 

 お姉さんと遊ぼ!」


 全く嬉しくない遊びの誘いを受けたものだとレオは内心悪態をつく。

 後ろに一度手をやると、セラと名乗った羅刹会幹部の奴は一直線にこちらへ拳を握って突貫してくる。

 『剛体化Ⅰ』でその拳を防ぐも、後ろへと飛んでいく。

 

 「いっつー。なんて硬さ。それだけの硬さでどうしてそんな致命傷受けてるのー。謎〜。」

 「謎なのはそっちの方だろ。」


 レオの『剛体化Ⅰ』した体に拳を入れて、痛いの一言で済んでいることに文句をつけたくなる。

 こちらメインスキルがこの体たらくで先が思いやられると嘆きたくなる言葉をぐっと飲み込み相対する。


 「どんな手品を使ったのか教えてよ〜」


 セラは何度も参考方向を変えながらこちらへ接近してくる。

 あまりの動きの異様さにレオは唖然とする。

 バネでもついているのかと疑いたくなるが、そんなものは見えないし、レオのもつ『加速』と似たようなスキルを保持していると見て良さそうだ。


 「そっちこそ、どんなスキル隠してやがるんだってんだ。」

 「ハハ、女の子は、秘密が多い生き物なんだぞ〜。」


 そういうと息のかかりそうな距離まで顔を詰めてき、瞬間『剛体化Ⅰ』を起動するも、いつのまにかセラは視界のどこにもいない。

 セラが消えたと認識したと同時に、後ろから衝撃を受ける。

 石畳をひっくり返しながら地面を転げ回る。

 何も型が増えることはない。

 しかし、先ほど受けた肩の痛みはレオの思考をどんどんと極端なものへと変化させていく。


 「うーん、背後をとってもダメか〜。

 坊や、お姉さんにだけ秘密教えてよ〜。」

 「そんなことして一体なんの得があるんだか。秘密知りたきゃ自分で暴きなよ!」


 とは言うものの、レオも彼女の秘密に見当をつけながら戦わなければならない。

 こちらから何かアクションを起こしたいとは思っているものの、思うように体は動かず、一方的に攻撃されるばかりとなる。

 何度も彼女からあらゆる角度で攻撃されるが、こちらは『剛体化Ⅰ』を使っているためダメージが通ることはない。

 通ることはないのだが、レオの肩には時限爆弾がついている。

 この場を切り抜けなければレオはいずれ出血多量であの世へとトラベルすることになる。


 「肩痛むの? すぐに楽にしてあげるのに。楽にしてあげよっか?」

 「遠慮する。それより、も!」


 レオは『加速Ⅲ』で今までに見せてこなかった速度で接近し、『剛体化Ⅰ』で彼女の腹を、肩の怪我をしていない左腕で振り抜く。

 彼女の目が見開かれ、すぐに防御姿勢に入る。

 両手の平を腹の前に持っていくと俺の拳を受け止めようとする。

 

 ただ、俺のメインスキル『剛体化Ⅰ』は変形することがない。貫通力には自信がある。

 その防御を貫いて、、、


 振り抜いた拳に衝撃を感じる。

 確かに殴った。殴った感触が拳が伝って左腕へ、左腕から脳に伝わる。

 彼女は弾かれたように後方へと飛んでいく。

 彼女の腹には怪我を負っている様子ない。

 内臓にダメージがいったのか?

 そう言うふうにも見えない。


 「へえ〜。ひやっとする。」


 ボソリと後方に吹き飛ばされながらセラは呟くと両手を後ろに下げる。

 すると突然動きが止まり、その場で真逆に加速する。

 そして、元いた場所へと飛んで帰るようにレオの眼前まで迫ってくる。


 『剛体化Ⅰ』を起動させていたためダメージはこちらもない。

 しかし、どんどん建物を破壊しながら飛んでいく。

 傷口に瓦礫が入り、あまりの痛みに絶叫する。


 「ああああああ、はあ、はあ、ああ。」

 「坊や、今のは本当に怖かったな〜。女の子に普通そこまでするぅ〜?」


 肩に傷を負っていることが苦戦の要因としてあることは否めない。ただ、それを差し引いてもこの女は強い。

 レオはここにきて本気で殺すことを視野に入れる。

 やらなければやられる。

 この世界で実感していた唯一普遍の絶対法則。

 その効果は絶大で天地がひっくり返っても覆り用のないことであると感じている。

 

 「こんなに強いなら他の幹部と一緒に袋にすればよかったな〜なんて。」

 「ああ、ぐっ、どうして、俺を。」

 「そんなの、君が一番危険だからよ坊や。仲間から聞いてるの。今回の護衛で一番強いのは坊やだって。それはそれはもう熱心に語ってたは〜。

 幹部であるワタシにも気をつけるようにって、生意気だとも感じだけれど、忠告されていた通りの実力だった。

 ちゃんと聞いててよかった〜。部下を信じるワタシって結構いい上司だと思うよね?」

 「知るかバーカ!!」


 セラに悪態をつきながら、あっかんべーをして睨みつける。

 そうでもして、気を大きくしないと痛みで頭がおかしくなりそうだった。

 彼女は出した言葉から、色々と頭の中を駆け回る情報が多々ある。

 情報と情報が枝葉のように繋がってレオの思考が共鳴していく。

 仲間とはだれだ。あのとき逃げ延びた残党?

 それとも後方で見ていた偵察部隊などがいたって言うのか?


 「坊やを直接殺すのは難しそう、でも、血が流れすぎてるわよねぇ〜。」

 「うるせえよ。俺の血は無限に流れてるからへっちゃらなんだい。」

 「どれだけ強い戦士も所詮は人間。自然の摂理には抗えない。死への恐怖を克服することはできない。

 その恐怖に支配された時、狩人は獲物を逃さないものなんだよ〜!」


 薄気味悪い笑を貼り付けた女の表情をみたレオの背筋に悪寒が走る。

 言っていることは至極真っ当で、死への恐怖は、刻々とレオの精神を削り、思考がどんどん狭まっていく。

 

 だれだ。だれが俺のことをこんな意味のわからない女に話した?

 俺が強い?

 誰が言った?

 誰か言ってた?

 あのときの、あいつ、名前は、ガレルバ。

 あいつか? あいつが俺を売ったのか?

 いや、売ったのではなく、最初から敵だったらのか?

 あのとき、海賊を憎むような、寂しい目をして、メシを奢ると言って、誘ってくれたのはすべて、すべてすべて俺を騙すための、騙すための罠だったとでもいうのか?


 「坊や、さっきから息が荒いわよ〜。すっきりしていくぅ〜?」

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 「そんな興奮しちゃダ〜メ! 硬くならずに、リラーックス、リラーックス。」


 嘘で、嘘で騙したのか。

 

 痛いのと怖いのと焦りでどんどんと何も考えられなくなってくる。

 頭が白くなり、ぼやけていくのがわかる。

 いまだに鳴り響いている鐘の音は、今度は命の警鐘を鳴らしているように感じていた。


 「うおおおおお!!!」


 レオに止めを刺そうとしていたところに、1人の男が飛び込んでくる。

 そちらに目を向けると、一振りの剣を握ったガレルバがこちらへと雄叫びを上げながら走り出していた。

 アイツ! と喉から叫ぼうとするも声を絞り出そうとしても、弱々しい喘ぎ声だけしか出ない。


 わざわざトドメを刺しにきたのか?

 死に際さえも、あざけろうとでもいうのか?

 いやだ、いやだいやだいやだいやだ。

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。


 動かないでいる俺から視線を逸らしたセラはガレルバへと視線を向けるとそちらへと急発信して彼の鳩尾に掌底を叩き込む。

 血反吐を吐きながら、苦悶の表情を浮かべながら後方へと飛んでいくが、目には光が宿っており、手にはまだ剣を力強く握っており、いまだに雄叫びを上げながらセラへと立ち向かっている。


 「ああ、かっ」


 腹から声を出そうとするもうまく出ない。

 どうなっているんだ。どうして仲間内で殴り合いを?

 殴り合いというより、セラによる一方的な暴力と表現する方が適切かもしれないが、戦いは続いている。

 ガレルバはというと、綺麗な顔は見る影もなく、全身、満身創痍になりながら、それでも闘志を絶やさず、目の前の強敵に立ち向かっている。

 それ以上戦えば、死ぬかもしれないのに。


 「やっかいな男。僕ぅ? しつこい男は女の子から嫌われちゃうわよぉ?」

 「くほっ、がは。」


 口から血の塊を吐き出しながら、全身から血を流しながら、それでもセラには爛々とした眼を向けて望んでいるガレルバ。


 「お前らのような外道、嫌われて、いい。

 みんなの仇敵は、俺が、くは。」


 片膝をついてその場に倒れ込むガレルバ。

 そんな様子を見ていて、本当に退屈そうな表情でガレルバを見下しながらセラは止めを刺そうと、、、


 「撤退、撤退いいいい!!!」


 商船から海賊たちの悲鳴と共に多くの人々が飛び出してくる。

 そこからは海賊を追いかけるように冒険者たちが溢れ出てくる。

 それを見てか、セラが最後にガレルバだけでも殺そうと手を振りかぶる。


 「ぐ、ああああああああああああ!!!」


 全身の痛み、恐怖、それらを無理やり蓋をして、見ないふりをして『加速Ⅲ』と『剛体化Ⅰ』で背後から不意打ちの「お地蔵さんアタック」を喰らわせる。


 苦鳴を上げながら海へと放り出されるセラ。

 その瞬間、耐え難い激痛がレオの全身を駆け抜けていく。

 動けば反動が来ることは想像していた。

 その反動はとてつもないものであることは予想していた。

 しかし、その痛みは、およそ安住の国日本で暮らしていたレオの体が耐えることのできるものではなかった。

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 骨が軋むような、肉がちぎれるような、脳が焼けるような、血が沸騰するような、神経が切断されるような激痛が稲妻のような速度でレオの全身を駆け抜ける。

 瞬間的な激痛は、途切れかけていたレオの意識を無理やり覚醒させる。

 いっそのことなら、その激痛によって意識を手放した方がよっぽど楽だっただろうにというレオの甘えた考えを許さないと言われているようだった。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 

 「レオ、レオオオオオオオオ!!!」


 満身創痍のレオに、これまた満身創痍のガレルバが近づく。

 ゆるり、ゆるりと全身を這いながらレオに近づく。

 

 しかし、その頃にはレオはすでに、意識を暗闇の中に落としていた。

 

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