第十四話
「魔獣の掃討は完了したか。」
ウェーブルスがセレナさんの爆盛り波動砲で焦げ鯨になったのを見たのち、すぐに街へと向かって魔獣の掃討の手伝いをした。
ほんの数時間の出来事だが、街はほぼ壊滅状態。
「テロだもんな、、、。」
「八神、、、」
懐かしい元クラスメイトたちから声をかけられる。
俺を見る目は、、、、あまり友好的とは言えないな。
セレナさんに連れられて会議室の一角まで来ていた。
「まずはみんな、この街を守るのを手伝ってくれてありがとう。本当に感謝しているわ。」
「すみません、八神玲央に聞かなきゃならないことがあるので。」
セレナさんの言葉を遮って石原が告げる。
「まずはじめに、お前はどうしてこんなところに来ているんだ。」
「それはお互い様じゃないか。」
「俺たちは国王陛下から直々にここに言ってくれと頼まれたんだ。
魔人族が国境を超えてきたかもしれないから、いざって時に備えて欲しいと。」
「そうだったのか。俺はアドリアノヴァまで行く予定があってだな。」
「淵上たちを連れてか?」
「、、、、ああ。」
「お前ってやつは本当、、。異世界の女にまで手出してたのかよ。」
「それは誤解だって。」
「誤解も何も、あの獣人族の子たちはなんだよ!」
廣川が指差す先には眠っているエレナと、手を握っているエルノーラがいた。
「それに、気になることがもう一つある。」
「なんだ?」
「お前、淵上さんのこと奴隷にしてるだろ。」
その言葉を聞いて胸がドキリと跳ねる。
心拍数が上がるのがわかる。
「それも誤解だって。」
「奴隷にしてるのは事実なんだな!」
「だから説明」
「は、聞いてやるけど、信じるつもりはないぞ。
淵上さんが起きてから話を聞く。」
「無理だろ。奴隷にされてるんじゃ。」
「ッチ。クズが。」
なんとでも、いいやがれ。
どうせアイツらの中での俺の評価なんてどん底なんだ。
何を言っても聞いてもらえない。
そんな中、セレナが一言ぼやいた。
「あの3人は、心から玲央を慕っているように見えたけどな。」
「ちょ、ちょっと副官殿、それはあいつの、」
「お前らは見てないだろ。」
「そ、それは、そうなんですけど。」
歯切れが悪いな。
別にいいのに。俺なんか庇わなくて。
「ねえ、レオくん。」
「ん?」
「エレナと、カンナちゃんが、、、全然目を覚さないの、、、。」
「なっ、」
急いで眠っている二人の元へと駆け寄る。
脈は、、、ある。
「おい、カンナ、カンナ。嘘だろ。淵上?
待てよ待てよ待て、これからお前の奴隷紋を解除しに行くために国境を越えようとしてたんだぞ?
嘘だろ、嘘だろ、またなのか。また俺が目を離したから。」
あの時、あの時、あの時、あの時。
俺が、センドルワヤーを無視して、街の人なんか、関係ない人なんか気にしないでいたら。
淵上のことは守れていたんじゃないのか。
自然と涙が流れる。と同時に、嗚咽が止まらなくなる。
止まって欲しいのに、我慢すればするほど涙が溢れて、呼吸がし辛くなる。
「どおして、こんな、ことに…………」
「エレナ、、、私、あなたを解放したくて、、、」
何が問題だ。
どうすればいいんだ。
憎い、憎い憎い憎い。
いいことがあるとすぐこれだ。酷い夢を見ているようだ。
「八神、」
「っぐ、なんだよ。」
「いや」
俺の顔をみて目線を逸らすまたクラスメイト。
涙で表情はよく見えないが、声音が少し震えていたような気がした。
「くそっ、くそっ、、」
「カトリゼリュファって魔将と戦ったんだ。」
セレナがぽつりと、俺の肩に手を置いて離し始めてくる。
「淵上とエレナは共にカトリゼリュファの爪で引き裂かれた。
私は原因はあいつだと思ってる。」
誰だそいつ。
「あの時のアイツか!」
「だれだ! 教えてくれ!」
食ってかかるように元クラスメイトへと距離を詰める。
そこで話に聞いたカトリゼリュファという魔将の特徴はセンドルワヤーと酷似していた。
同じ魔将だし、何か接点があるのか?
「なんとなくだけど、お前がやりたかったことがわかった気がするよ。疑って、悪かったな。」
「、、、いや、気にするなよ。」
そう。
そうだ。
そうだよな。
「コロス、妹をこんな目に合わせたアイツらが、許せない。」
エルノーラの呟きは、他の人には聞こえていなかった。
「なんか辛気臭えーし、僕ちょっと外に出てる。
セレナちゃん、終わったら教えてー。」
長身の男が部屋を出る。
魔剣を周囲に置いて戦っていた男だ。
とんでもなく強かったことだけ覚えている。
「今回のことで色々迷惑もかけたな。淵上とエレナが目を覚ますまで、ヴァルガス家で面倒見ようと思う。」
「エレナどうする?」
その提案は正直ありがたい。
いつ起きるかわからないし、本当に起きるかもわからないし、なによりカトリゼリュファとかいうクソ野郎をぶっ飛ばすためには二人を抱えていては不可能だろう。
「私は、エレナを眠ったままにした奴を殺す。」
「俺も同意だ。」
「ただ、もう君とは同行できない。」
「ど、どういうことだよ。」
「私は今回のことでよくわかった。己の未熟さ、甘さ、弱さ。
全部全部私が弱いからこんなことになった。
だから、一度故郷に帰って鍛え直す。
鍛え直して、今度はカトリゼリュファをぶっ殺す。」
殺意を迸らせている獣人族の少女の提案を、断れるだけの意気もない。
「わかった、ただ、殺すのは俺にも手伝わせろよ。」
「わかってる。その時は協力ね。」
「おう。」
目に光はない。
きっと俺も似たような顔をしている。
こうやってまともに思考ができているだけ自分はマシだと思う。
ただ、どうしようもなく魔人族が憎々しい。
「じゃあ、2人はうちで責任をもって保護するわ。
レオとエルノーラが面会したい時、いつでも会えるとは思わないで欲しい。
その時は、私のところまで来て。基本的にこの辺り一帯で仕事してるから会えると思うわ。」
しばし沈黙が訪れる。
「それじゃ、私は後始末に戻るわ。
今日はみんなうちで泊まって行って。」
それだけ言い残し、セレナは部屋を後にした。
また沈黙が場を支配する。
「八神、、、話してくれないか。異世界に来てからのこと。
なんだか、お前が長谷川さん脅してたってのも嘘が本当かよくわからなくなってきたんだよ。
変だよな。忘れてくれ。」
「わかった。話すよ。」
「わかってくれたか。ならもう忘れてってええ!」
俺は、自分の知る全てを話した。
あの時不当に追い出されたこと。
その先で淵上とあったこと。
首都から離れたら村で魔人族と戦ったこと。
それを淵上が助けてくれたこと。
勲章の男に身柄を捉えられかけたこと。
助けようと思って淵上を逃したこと。
そのせいで淵上が奴隷になってしまったこと。
武闘会で金を稼ごうとしたこと。
武闘会でエルノーラに出会ったこと。
2人で金を稼いで、俺は淵上を、エルノーラはエレナを取り戻したこと。
奴隷紋は消えなかったこと。
契約を解除する間に外国まで行こうとしていたこと。
自分で話していて、また涙が溢れてきた。
ここにきてから、これ感情がジェットコースターみたいに上がり下がり。
忙しいな本当。
ちっとも休ませてくれやしない。
外国に行けなかったこと。
理由が今回の魔人族のせいであるということ。
そこで、5人と再会したということ。
戦いの後、こんな情けないことになったこと。
恥ずかしいことばかりな気がする。
「すまなかったな。謝って許してもらえると思わないけど、謝らせてくれ。」
廣川が頭を下げてきた。
それをみて、衣笠、沼、出嶋も謝ってきた。
他の4人の様子を見て、頭をぽりぽりとかきながら石原が前に出てくる。
「俺はまだ、お前の言葉を信じてるわけじゃないけどさ。
お前も苦労してるってことはわかったよ。
なにも、知らないで、酷いことしてたんだな。
その、悪かったよ。」
「いいんだ。もう、いいんだ。」
センドルワヤーにカトリゼリュファ。
魔将、魔人族。
やつらの目的はなんなんだ。
どうして人を襲うんだ。
どうしてテロばかり起こすんだ。
魔人族の行動原理が全くわからない。
なにがどうして、どうなっているんだ。
「俺たちもさ、一応魔王を倒すためにここに呼ばれたわけだし、魔将を殺すのは、手伝えると思うんだ。
カトリゼリュファと戦う時は、お前ら2人だけでやるのかなしだからな。
ちゃんと俺らを巻き込めよ。」
「……………ああ。」
***
「んあ、セレナちゃん話終わったの?」
「一応、なにか知り合いのようだったし、私は公務があるし」
「そーんな、せっかく会えたんだから久しぶりに、飯でもいこーぜ。」
こんなことがあった後なのに、この男は能天気だなとセレナは思った。
「2時間だけだぞ。お前に付き合うのは。」
「やりー!
んで、戦闘の件だけどよ。」
「ん」
「あんな大群、どう考えても普通じゃない。
なにか転移装置を開発したとしか考えられないんだよな。」
「同感だ。それにあれはウェーブルスだろ。」
「学生の頃に授業で習った奴。生きてる間に見れるとはねー。世の中何が起きるかわかったもんじゃないね。」
「『地獄の門』って、やつだもんな?」
カイエンの問いに、セレナは顎を小さく引いた。
「どうするんだよ。セレナちゃんの父さんはなんか言ってた?」
「今から報告するところだよ。
首都に行ってるから。お前の父君もだろ?」
「さあ、僕べつに親父と仲良くねーし。話さねーよ。」
「少しは親孝行をしろ。」
街で復興のために炊き出しをやっている。
「あ、セレナ様!!」
「この度は我らを魔人族から救っていただき、ありがとうございます。」
「わたし、あのような巨大なウェーブルスを見たのは初めてで、本当に死を覚悟したのですが、セレナ様のおかげで、あの波動砲のおかげで生き残ることができました。」
「ぜひ、少ないですが食べて行ってください。」
「ありがとう、ぜひともだ。」
屈託のない笑みで答えるセレナをみていたカイエンは変顔をしていた。
否、別に変顔をしたかったわけではない。
そんな笑顔を見たことがなく、心底驚いているという顔なのだ。
「セレナちゃんどしたの?」
「冗談は顔だけにしてくれ。」
「なんだよその言い草。僕でも傷つくぞ、ってだから脛を蹴るな!」
群衆から、少し離れた場所で飯を囲む。
「仮に魔人族の攻撃がこれから頻度や激しさを増すなら、僕たちの国は滅びるぞ。」
「こればかりはどうしようもないのが現状だ。」
「魔人族みたいに『地獄の門』とかの大型転移装置はないしね。ないかな人間バージョンの転移装置とか。」
「そこはそうだな。
一方的に領土を侵され続けるのは、ね。」
カイエンは少しでもセレナが明るい表情をできるようにと仕事から離そうとしたが、やはり彼も公爵家の人間である。
国のことは常に頭の中にあるのか、仕事の話ばかりしてしまうなと頭の中でぼやいていた。
「魔国とはかなり距離もある。言い方悪いけど、緩衝国も結構ある。
それら飛び越えてガロネシア襲ってきたってのは世界中激震だろな。」
国境を察している国は、知らず知らずのうちに魔人族が通過していたのだから笑えない。
そして、今回ポート・ヴァルドが襲撃された理由が必ずあるはず。
「どうして、ポート・ヴァルドなのよ。」
「……………」
その言葉への返答はカイエンには思いつかなかった。
カイエンも歴史の授業をサボっていたわけではないことはないこともないことはないが、ガロネシアが歴史的に魔国に特別恨まれるようなことはない。
人類全体への恨みはあれど、わざわざピンポイントで攻撃してきたのは謎が残る。
人口増加によって西方生存圏として進行したする可能性が高いと見られているのが国際情勢の一般的な考え方であるため、一都市攻撃は、本当に意味がわからなかった。
「また何があるかわからないし、しばらくはポート・ヴァルドにいよっかな。」
「あなた、自分のとこの領土はどうするの。
そっちはヴァルドライヒと国境を察しているのよ?
その方がよっぽど戦争の可能性だってあるのに。」
「別に俺1人いようがいまいが関係ないでしょ。
親父や、兄弟姉妹だっているんだ。なんとかなるでしょ。」
「そ。」
そっけなく返しつつも、セレナは心強いと思った。
学生時代はなんとも憎たらしい存在で、会えば問答無用で波動砲を放っていたような相手なのに。だ。
「それに、今回みたく、用があれば遠慮なく呼べよ。
俺たち2人いれば、敵なんかいねえよ。
魔王だって、ヴァルドライヒよ皇帝だって怖くない。」
「ヴァルドライヒの皇帝は怖いわよ。」
「ビビるなってブラザー」
「私は女よ。」
「そんな深く考えるなよーブラジャーって、波動砲撃つな!!!」
しばらく談笑したのちに、2人は公務と街復興へと戻るのだった。




