第十三話
淵上たちがカトリゼリュファと死闘を繰り広げている中、森の中では八神玲央とセンドルワヤーによる別の戦いが行われていた。
「やっぱりな、そのふざけた防御力。魔王様ですらそんなに防御力が高くないぞ。
生身の人間にそこまでの身体能力があるのか。」
「お前は俺とだけ戦え。」
他の人に危害がいかなきゃそれでいい。
俺が適当にこいつの相手をする。
お互い決定打に欠ける今、下手な手を打つ必要もない。
「それって愛の告白?」
「さあな、どう捉えてもらっても結構。」
『加速Ⅱ』に経験値を突っぱし、『加速Ⅲ』に進化させる。
新たに、「自由ベクトル操作」なるものを手に入れたが、使い方はよくわからない。
「前より速度が上がって」
「あああああ」
進化した『加速Ⅲ』の速度上昇幅は凄まじい。
もののコンマとゼロがたくさん付くだろう時間でセンワヤへと急接近して腰を掴む。
そのままの勢いで空まで飛んでいく。
「どこまでいく気だよおおおおおおお」
「らあああああああ」
そのまま真逆にベクトルを変化させ、センワヤを地面に叩きつける。
「ああああああああああ」
絶叫しながら落下していくセンワヤ。
俺はというと、ゆっくりと地面に着地するため速度を落とす。
投げて1秒と立たずにセンワヤが地面と衝突。
遠くからでも落下音が聞こえてくる。
金属かよ、と突っ込みたくなるが、あいつはこの程度では死なない。
よく見えないが、肉の塊になっていることはよくわかる。
優雅に地面に降り立つ。
目の前には少しずつ再生している魔人族の姿があった。
「バケモノだな。」
「どの口が。」
センワヤが洋頭影を異空間から取り出す。
そのまま刀身を指でなぞると赤紫の揺らめく、炎に似ているが、熱さは感じない。なぞの物質? が刀身を覆う。
「せーの!」
大きく振りかぶった刀が俺の頭目掛けてまっすぐ振り下ろされる。
回避すると、洋頭影が地面を切り裂く。
え、地面って切れんの!?
やっば。
そのまま刀俺に振り抜く。
また回避して、今度は『剛体化Ⅰ』パンチをお見舞いする。
バックステップで回避しながら、アサルト・パレードを打ってくる。
『無反応性化』を使って防ぐ。
その隙に、蛇のように滑らかな身のこなしで振りかぶりながら距離を詰めてくる。
振り下ろされる刀身を、『剛体化Ⅰ』を使って受け止める。
「ぐっ、これでもダメか。」
センワヤは一度距離を取ると、洋頭影を闇の中にしまう。
「こい、魔獣『ウェーブルス』」
センワヤの体が大きく裂けるとそこになぞの模様が浮かび上がる。
あいつも奴隷なのか?
いや、関係ないか。
紋様が発光し始める。
ここにいたらまずい、と直感で感じて少し距離を取る。
「ボアアアアアアアアアアアアア!!!!」
人とは思えない、低音の方向と共に、漆黒の鯨がセンワヤの中から出てくる。
デカい。このとき八神が正確な大きさを図ることはできなかったが、全長50mになる怪物が飛び出してきたのだ。
「ボアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「くっそ、なんなんだこいつは!!」
「レオ、お前は私を釘付けにしたいとみた!!」
「、、、」
「私もお前と戦いたいよ? 同じ闘いに身を捧げたものとしてね。」
別に捧げた覚えはないよ。
変な設定つけるな!
「ただ私も仕事があるからさ、そっちを優先しようと思うの。だから君の相手はその鯨だよ〜」
「ボアアアアアアアアアアアアア!!!!」
そういうと、センワヤはコウモリのような翼を羽ばたかせて街の方へと飛んでいった。
と同時に、街から極太のレーザーが射出されたのが見えた。
あれは、セレナの『波動砲』じゃないか。
そうだ、あれがあればこいつだって怖くないやい!
センワヤ、誤算だったな、うちには大砲があるんだよ。
ウェーブルスがたくさんの魔法陣を生成すると、そこから灰色の人型の模型が降ってくる。
なんだ、ありゃ。
地面にその模型? 石像が落下すると、瞬間、見たこともないような爆発と、聞いたこともないような爆音が森を揺らす。
魔法陣をさらに展開し、優に50は超えている。
なんだよあれ。
八神は知らなかったが、魔獣ウェーブルスは餌として食べた人間を強力な爆弾に変え、それを排泄するという災害のような魔獣であった。
その排泄物は、通称『ヒト爆弾』と呼ばれている。
ヒト爆弾が降り注ぐ森の中を、ただ茫然と立ち尽くしていた。
こんなものがもし街に来たら。
センワヤは、人の命を多く奪うことよりも、俺をここに留めることにしたらしい。
やられた。
『加速Ⅲ』で急接近して空飛ぶ鯨に拳を入れようとする、しかし、腹の下に隠れていたシャチのような魔獣に阻まれる。
「くっそ、なんてこった。」
ずんずんと森を離れ、ゆっくりと街へと向かっている。
これを、一人で止めろっていうのか?
いやまて、これだけデカければ流石にセレナが気づくはず。
そしたら、あの光の柱みたいなレーザーみたいなやつで消し飛ばしてくれるはず。
セレナが来るまで、俺はこの化け物を引きつけなければならないらしい。
どんどんヒト爆弾を投下して森が燃えていく。
森林破壊とか、山火事とか、こいつ一匹で起こすのかよ。
再び距離を詰め、今度は無数にいるシャチやろうをぶん殴る。
センワヤのような再生能力を有していないのか、殴った側から即死。
ゆらゆらと宙を舞い、やがて地面に衝突した。
あと何体、、、『演算Ⅰ』を使っていっきに数える。
、、、、、48!!
んなばかな!
さらに、ウェーブルスの進行速度的に、、、あと10分もすれば街に着くぞ。
おいおいまてまて、俺は結構センワヤを遠ざけたぞ。
それで、嘘だろ。
『演算Ⅰ』で導き出した結果に絶望する。しかし自分の能力なのて疑いようのない事実。
しかし、やらなきゃ街があの凶暴なヒト爆弾によって破壊されるだけ。
なんとしてでも止めなくてはならない。
「うおおおおおおおおお!!!」
勢いよく迫ってくるシャチたちを『剛体化Ⅰ』と『加速Ⅲ』を使って薙ぎ倒していく。
こいつらは魔獣だからか、ものすごい勢いで経験値が入っていく。
なんとしでも、ウェーブルスを止めないと。
このポート・ヴァルドは陥落する。
***
カトリゼリュファが情けなくも逃げ出したあと、それを追った異世界組4人が街から森へと向かっていった。
街から森へ、ウェーブルスが接近していることには気が付いていなかった。
「やっほーお姉さん!」
「あなたは、、、?」
ぐったりとしていたセレナの元に、また新たな魔人族が現れた。
「私は魔将、センドルワヤーっていうの。さっきのはカトリゼリュファよね。彼結構強いのにすごいわね。私とも戦わない?」
回復していない体と、ほとんど残っていない魔力。
とっくに限界を超えており、全身から悲鳴が上がるのが、立ち上がるだけでわかる。
魔剣・氷顎を構える。
それを見ていた衣笠も臨戦体制へと入る。
「はあ、はあ、、うう」
「弱ってる人を殺すのは、武人として恥じるべきことよね。」
「だったら」
衣笠がそう溢したのも束の間。
「でもここは戦場。覚悟はいいわね?」
「当然よ。」
VS魔人族第二弾を迫られたセレナは、自分は本当についていないなと感じていた。
さっきのカトリゼリュファに引き続き、1日に二人も魔人族、それも魔将と戦うことになろうとは。
翼を大きくはためかせ、地面を強く蹴り抜き放った刀と魔剣が衝突する。
その勢いのまま、セレナは吐血してしまう。
横腹を蹴られ、地面に倒れ伏す。
魔剣を杖のようにしながら立ち上がる。
こちらに指を向けている。
咄嗟の判断でこちらも手のひらを前に出す。
そして、魔力を振り絞る。
「アサルト・パレード」
「波動砲!!!」
赤紫の光がセレナの肉を抉る。
と同時に、波動砲がセンドルワヤーを消しとばす。
しかし、セレナは知っている。
嫌というほど見た光景。
魔将は、たとえ詠唱し威力が上がったゼロ距離波動砲でも殺せない。
真っ黒の肉塊がみえる。
あれがセンドルワヤーで間違いなさそう。
そう思い、氷顎を振りかぶる。
が、受けたダメージは計り知れない。
そのまま力が抜けて片膝をつく。
瞬時に肉体を再生したセンドルワヤーがセレナに向けて爪を立てる。
しかし、それは氷顎によって防がれた。
「なっ」
氷顎はセレナの手の中にはなかった。
誰の手の中にあったのか。
誰の手の中にもなかったのだ。
「おっまたー。セレナちゃんやばそうだったから割って入ったけど、だめだった?」
「アサルト・パレード!!!」
声のする方へと赤紫の光線を放つが、高速回転する魔剣がすべて弾く。
「やめてちくびー。ちょっといきなりアサルト・パレード僕に向けて撃つのやめないー?
セレナちゃんじゃないんだからさー。」
「はは、すごいじゃん!
これはどうかな!!」
センドルワヤーが声の主、一人の長身の男へと猛スピードで突進する。
立てられた爪が男の肉に、、、触れない。
センドルワヤーは2本の魔剣に挟まれていた。
「っか、なに?」
意味がわからず呆けているセンドルワヤー。
「だーかーらー、いきなり襲いかかって来るなっていってるだろーもー。ひどいなー。そんなに下ネタ嫌いなのー。思春期の乙女かー?」
急いで魔剣から逃げて距離をとったセンドルワヤー。
あまりにも異様な男の登場に衣笠は困惑していた。
が、チャンスと思い、セレナに治癒魔術をかける。
「お前、只者じゃないな。」
「そりゃみたらわかるでしょ。」
そう言う男の周りには、合計8本の魔剣が浮いていた。
その中には、セレナが使っていた氷顎もある。
「名前は?」
「名前、あー、名前ね。カイエン、カイエン・トラス。それじゃ、あとは適当にやるか。」
周りを飛んでいた魔剣が一斉にセンドルワヤーへと襲いかかる。
その光景に、衣笠は茫然自失。
「っち、来るのが遅い。」
「えっと、あの人は?」
「あれは、この国の最強だ。」
ローレン州の公爵家であるトラス家もまた、ヴァルガス家同様相伝のスキルがある。
ヴァルガス家が波動関連の相伝スキルを持つのと同様に、トラス家にも関連したスキルがある。
それが魔剣だ。
あらゆる魔剣系列のスキルがあるが、その中でも最強とされる『魔剣操作』を持って生まれたのがカイエン・トラス。
セレナの元同級生であり、ガロネシア最強の男。
「かあ」
「僕弱いやついたぶる趣味とかないからサクッと殺したいんだけど、めんどくさい再生能力だなー。」
切っても切っても死なない魔人族に飽きたのか、あくびをしながらセレナの元に歩み寄る。
そんな中でもセンドルワヤーは魔剣に切り付けられていた。
その態度に、センドルワヤーは怒りが頂点に達した。
「お前、お前、お前!!!
真面目にやれ!! ふざけているのか!!
戦いを、神聖な、殺し合いをなんだと!!」
「あーまじでめんどくせーなあいつ。
お前が弱すぎるんだよ。それに、切っても死なないんじゃ、何やったって同じだろ。
文句があるなら強くなって言えよ。」
「おのれ、、、、」
「セレナちゃん見て、アイツ多分ダイエット失敗してきてるんだろうなー。だって見ろよ、肉を落とした側から再生してるんだもん!!」
「貴様アアアアアアア!!!」
まったく、この男が現れるとどんな戦場でも緊張感がなくなるなとセレナは感じていた。
魔力の込めた拳でカイエンの脛をぶん殴る。
「ああああああああ」
「お前、何してたんだ。遅いぞ。」
「いやー途中で美味そうなスイーツ屋さん見つけちゃってさ。つい。」
「頼むから仕事を優先してくれ。」
「でも先に僕の部下がきてただろ?」
「それは助かっている。」
二人の会話を、8本の魔剣に切り刻まれながらセンドルワヤーが聞いていた。
「あいつまじで無限再生じゃん。あの調子なら、僕に怒っててもすぐ平常心も再生したりして。」
「煽るなぼけなすばか。」
「いたい、いたいから、拗ねて脛殴るのやめて!」
「ああああああああ」
「あいつうるさいな。」
「だね。」
「僕うるさいの苦手だからここ離れていい?」
「そしたら誰がセンドルワヤーの相手するの。」
「ん? ああ、めんどくせえし、魔国の領土まで送り返すよ。」
「へ?」
一般の魔剣が天高く登っていく。
別の魔剣が剣の平らな部分でセンドルワヤーを空中に打ち付ける。
待っていたとばかりに思いっきりセンドルワヤーを叩きつける魔剣。
「ま、待て待て待て待て待て待て待てええええええええ!!!!」
「ホームラーン!!!」
センドルワヤーが見たことない速度で飛んでいく。
「ばいばいき〜ん!」
「カイエンはさっきから何を言っているんだ。」
「んあ? いや、合うかなって。シーンに。」
「訳のわからん擬音だぞ。」
「そうかな。僕の感性だと、共感の嵐ってところだったんだけど。」
「全くもって理解できないよ。」
「そりゃ、そうか。」
「でも、ありがとう。おかげで助かったよ。」
「そうか、あとは僕一人で十分だから。任せとけ。」
***
言葉の通り、カイエンは各地で魔獣を蹴散らしていった。
魔剣を両足で乗り高速移動。
そしてバッサバッサと魔獣を殺していく。
そんな時だった。
「セレナちゃーん。おおかた片付いたよー。」
「カイエン、あれ。」
突如現れた鯨の化け物に流石に絶句する。
しかも何かを魔法陣から降らせながら街へと近づいてきているのだ。
どうして気づかなかったのかとセレナは戸惑った。
実は、センドルワヤーが認識阻害の結界を張り、ウェーブルスの進行をバレないようにしていたのだが、そんなことは知らない。
ウェーブルスは何人かに攻撃をされていた。
中には見知った顔がいくつか。
レオと、異常な強さを見せていた四人組。
「やばいやばいやばいやばい止まらない。」
「八神、お前後で説明しろよ。」
「わかったから今はウェーブルス止めるの手伝ってくれええええ。」
大型の魔獣、ということで、カイエンはセレナを見る。
「私はもう魔力がない。」
「あ、」
そーっと、逃げようとするカイエンの手首をがっしりと掴む。
「どこにそんな力が残って、」
「魔力寄越せ」
「があああああああああああああああ」
「まったく、酷い目にあった。」
倦怠感が残るなら、魔剣に乗ってウェーブルスに近づく。
「おーい君たち、さっさとそこを離れなさーい。」
「だれ?」
「なんか魔剣になってるんだけど。」
「いいからー。てか逃げてー。」
「だめだろ状況見ろ!!!
この化け物が街にたどり着いた日にゃ!!」
仕方ないか。
「巻き込まれるぞ。」
強引に魔剣で5人を引き剥がす。
「くるぞ、波動砲が。」
「今日一番のでかい波動砲だ!」
建物の上で待ち構えていたセレナが、あの時見た波動砲の、およそ6倍、素の波動砲の24倍ほどの威力で射出する。
あまりの威力に、レオたちはあいた口が塞がらない。
「な、に、あ、れ、」
「これが、セレナさんの本気、、、、」
「やっぱり、セレナ・ヴァルガスだな。」




