第十二話
八神玲央が飛び出したのち、残された淵上環奈とエルノーラ、エレナはセレナと共に魔物との地上戦を繰り広げていた。
「くそ、流石に数が多すぎるな。」
セレナ・ヴァルガスはこの国ガロネシアでも指折りの魔術士である。
ガロネシアという国は『魔法貴族君主制』の国。
爵位を与えられている貴族の家々には、それぞれ相伝のスキルが存在する。
その優位性で爵位が決まる。
ヴァルガス家は『公爵家』。
そのヴァルガス家にも、たくさんの相伝スキルがある。
その数ある相伝スキルでも、一際価値があるとされるのが、セレナが宿して生まれた『波動砲』と呼ばれるスキルだ。
『波動砲』は、見る人が見ればレールガンや、宇宙戦艦に取り付けられるような主砲に映るだろう。
建物であれ、生き物であれ、魔法でできた障壁であれ、『波動砲』はこれをいとも容易く貫通する。
破壊力でいえば、この国最強クラスの、破格のスキルである。
それゆえ、大型の魔獣や、一対一の戦いにはめっぽう強く、多くの魔獣を相手にするのは苦手である。
「副司令殿、さっきの波動砲は使わないんですか?」
「あれは、使い勝手が悪すぎる。それに、今の状況で使えば味方に当たる可能性も捨てきれない。
撃っている間私は無防備になる。
君たちに守られなきゃ撃たないのに、撃つためには仲間を遠ざけなければならない。
魔剣で戦う方がマシだ。」
魔剣・氷顎は同級生から借りているものだ。
一振りで空気を凍らせ熱を奪う。
魔力を流せば流すほど刀身の温度は下がっていく。
常に氷顎の刀身には水滴がついていた。
「これはこれは、手こずっていると聞いて飛んできてみれば、お嬢様方ばかりじゃないか。」
魔獣と戦う四人の目の前に、一人の魔人族の男と思われる人が現れた。
背丈は高く、筋肉量や立ち昇る魔力の波を感じ、嫌な汗が背中を伝うのを、セレナは感じていた。
直感で、動いた。
「ははっ、見てから動いてたってことじゃないな。勘が鋭い女の子は嫌いじゃないよ!!」
爪を立ててセレナの首目掛けて突撃してくる。
それを氷顎を一振りして捌く。
セレナの直感に任せた一振りで、魔人族の男の爪が凍りつく。
「あっちゃ〜、人間相手だからって油断しちゃったぁ〜。いっけないな〜ぼくったら。俺ってばつい人間を見下しちゃうんだよね〜。私の速さに反応する人間なんてなかなか居ないから。こりゃセンドルワヤーの言ってた人間かな? でもそいつは男だって話だったけど。」
よく喋るな、と四人は思った。
しかしそこに一切の隙はなく、気を緩めれば殺されると理解しており、誰一人として間合いを詰めるものはいなかった。
「一番、弱い奴からか!!」
そういうと、魔人族の男は淵上に目掛けて飛び出す。
「波動砲!!!」
淵上の目の前を淡く輝く水色の光の柱が突き抜ける。
淵上の目と鼻の先まで迫っていた魔人族の男の体が吹き飛んでいく。
違和感を、セレナは感じていた。
光が消え、男の姿が顕になる。そこにいたのは全身が焦げた人型のナニカ。
焦げた皮膚がポロリポロリと剥がれ落ちると、先ほどと同じ人間が、蛇の脱皮のように、新鮮な肉体を生み出して現れた。
「っぱ君強いね〜。さっきの防いだのも、仲間を守る判断力。それに正確なまでの術の使い手。ぼく本当に驚いているんだ。驚いているんだ。
君は人間なのかな。すごいなぁ。すごいなぁ。
偏差も織り込み済みとはなぁ。織り込み済みだもんなぁ。知りたいなぁ。もっと君を、知りたいな。」
淵上、エルノーラ、エレナに見向きもせず、セレナだけを見据えている魔人族の男。
弱者は歯牙にもかけないと言われているようだった。
これがチャンスだとエルノーラが風魔術を繰り出すが左手で空中を薙ぐと、魔術は消失した。
実力の差に呆然とするエルノーラに向けて、今度は魔人族の男がドス黒い物体を放出する。
ゆらりゆらりと空中を進みエルノーラへと接近する。
危険を察知して、淵上が結界を張る。結界にドス黒い物体が衝突すると、突然あたり一体が燃え盛り出す。
慌ててセレナが氷顎を振り、火を鎮火させた。
それが、魔人族の男の狙いだった。
隙を見せたセレナの足を狙って飛びつく。
「波動砲!!」
男の顔面に波動砲を叩き込むが、焦げたそばから再生し、ずんずんと進み、セレナの肉を断つ。
「ああああああ!!」
獣化したエレナが肉弾戦を仕掛ける。
獣化したエレナの身体能力は飛躍的に向上していた。
それこそ、圧倒的なまでの実力を見せていた魔人族の男と互角並みに殴り合えるほどに。
「いいねいいね。君はなかなか筋がいい。
力もスピードも、あのセレナと比べると、一歩劣るね。でも、素晴らしい連携だね!」
水魔術で魔人族の男の指を粉砕した淵上と、その隙を見て顔面に拳を叩き込んだエレナ。
飛んだら跳ねたり転がりまわっている魔人族の男。
口からは血を流し、ゆらゆらと立ち上がった。
「あぼがまだりよかだながりこ」
歯がズタボロであり、舌もうまく動かせないのか、喋りが覚束ない。
畳み掛けるように風魔術を繰り出したエルノーラにより、肉が切り裂かれ全身から大量に血を吹き出している。
動脈も切れたのか、雨上がりの水たまりのような血の広がりが。
「波動砲!!!」
近寄ってきていた魔獣を蹴散らすセレナ。
そのほんの僅かな時間でも、魔人族の男が回復するには十分な時間だった。
収縮し、小さな丸い肉塊になると膨張し、薄気味悪い笑みを貼り付け、目はまるで子供のように輝かせて四人を舐め回すように眺めていた。
「みんな、みんなすごいや。強いや強いや!!
四人とも、お名前を教えてよお名前!!」
そういうと、屈託のない笑みで四人の返事を待っている。
あまりの純真な表情に、今まで殺そうとしていた人なのかと疑いかける。すぐに頭を切り替え、相手はどれだけダメージを与えてもすぐに回復する化け物であると認識し直す。
「あっれ、おかしいな、センドルワヤーは名前を教えてもらったって言ってたのに。」
「会話をするつもりはない。魔人族はただ殺すだけ。お前をここで切る。」
「そう言わずに、可愛い女の子なんだから、なんだから。」
距離を詰めたセレナと同じだけの速度で衝突する。
氷顎と相対するは深緑色の短剣。禍々しい紋様が浮かんでおり、さながら人の苦しむ表情のようであった。
二つの刃物が衝突する音は、人の悲鳴や絶叫にとても似ており、君が悪い、と四人は感じていた。
「魔剣の女の子、あなたのお名前は?」
「魔人族なぞに名乗る名はない。」
鍔迫り合いから、右足で魔人族の男の腹を蹴り飛ばす。
そのまま手のひらから波動砲を放ち魔人族の男に熱光線を浴びせる。
それでもなお、立ち上がり四人に立ちはだかる。
セレナの中の焦りがどんどんと膨らんでいく。
今なお空を見上げれば魔獣が湧いて出てくる。
早く目の前の敵を片付けて仲間の元へと向かいたいが、簡単に倒せる相手でもない。
時間が経つほど、彼女の思考が狭まる。
「あそっか! 俺が名乗ってないからか!!
だっから名前、教えてくれなかったのね。
まじかぁ、完全に忘れてたよ。忘れてたよ。
でもさ、でもさ、ぼくの名前聞きたいって、聞きたいって、言って欲しいな。」
「黙れ!!」
「ありがとう!! 私の名前はカトリゼリュファ。仲間には、カトリーゼって呼ばれてるの。呼ばれてるの。女の子、女の子にはそう呼んで欲しいな。」
聞いてもないのに、本当よく喋るものだ。
「ここには魔将として魔獣を連れてきたんだけど、人間が思ったより強くて、強くて。
こうして来たってわけ。君は、どんな名前のどんな立場の人間なのかな。」
魔将、その言葉でセレナは絶望した。
12人いる魔王には、それぞれ3〜5人ほどの、魔王直轄の部下を持つ。
それが魔将。
そのうちの一人が来ている。
命尽きたな、と淵上以外の3人は感じていた。
エルノーラは膝をつき、エレナは尻餅をついた。
二人の反応を見て、淵上は後退りする。
「やっぱりこうなるか〜。魔将なんて名乗らない方がいいとはわかってるんだけど。認めた相手には、相手には、名乗るのが礼儀だって魔王様が言うんだもんなぁ。言うんだもんなぁ。」
「貴様が魔将だというのは、私が退く理由にはならない!!!」
「うーふー! その意気や良し!!」
バク転で回避しながらエレナの首筋を切り裂く。
脈が切れたのか、体力の血を流して失神した。
「エレナアアアアアアア!!!」
急いで駆け寄り治癒魔術をかけるエルノーラ。
そこに、狂人が笑みを貼り付けて迫り来る。
二人を襲う、その間に割り込むように淵上が盾となって切り裂かれる。
「カンナ!!!」
「3人目!!」
「させるか!!」
氷顎を地面に突き刺すと、高速で氷柱が生成され、魔人族の男、カトリゼリュファの肉体を貫く。
泣きながら治癒魔術をかけているエルノーラへと近づくセレナ。
「二人を頼むぞ。」
「セレナさんは」
「あの野郎を、ぶっ殺す。」
声はとても低く、あまりの剣幕にエルノーラは味方であるのにも目を逸らしてしまった。
身動きが取れなくなっているカトリゼリュファに向けて両手のひらを向けて詠唱を開始する。
「永遠の名にて 力の神 集ひて 前のものを破りたまへ み空の先に 波の劔をひらき 天と地を越えて 都を守る 力のしるしをあらはしたまへ」
今までの波動砲より4倍ほど大きな光の柱が地面を抉りながら天へと高速で駆け上がる。
光線の中からカトリゼリュファの絶叫が聞こえてくる。
セレナの目からは血の涙が流れ、腹で何か炸裂したような痛みも感じていた。
『波動砲』はスキルであるため、詠唱は必要ない。
しかし、詠唱により威力が増幅された『波動砲』をゼロ距離で浴びたカトリゼリュファが、ただで済むわけがなかった。
***
八神玲央のクラスメイト、出嶋春也と沼隆と廣川燈と石原哲也と衣笠雄斗は、国王からのからの申請で、首都パラスから遠方の都市ポート・ヴァルド市まできていた。
魔人族が国内に侵入している可能性があり、能力の高い彼ら異世界人が抜擢されたのだ。
他のクラスメイトたちはというと、クラスカーストの下位に存在する彼らに仕事を押し付けて、自分たちは魔王討伐のためのお手伝いをするとし、首都から離れない。
魔人族が出てきたかもしれないのに向かわないのは矛盾なのではと5人は思ったが、発言権が存在しないため黙って従ってきた。
のだが。
「聞いてた話だと、ここは湾口都市だよな。」
出嶋春也が一言つぶやく。
眼下には火の海となり果てた街の景色があった。
魔物が暴れ、兵士と冒険者が戦っている。
「あの光はなんだ。」
天に立ち昇る光の柱。
石原哲也が指差す先が主戦場とみた5人は急行することにした。
向かう途中で襲いかかってくる魔獣は、異世界人である彼らには強敵とは言えなかった。
どんどんと蹴散らしながら進んでいく。
「火炎放射!!!」
廣川が炎で魔獣を焼き払う。
一瞬で丸投げになる。
他の四人も驚異的な異能の持ち主。
どんどんとあの光の発信源へと突き進むに連れて、異様な空気と戦いの余波が5人の頬を撫でる。
「はぁはぁ、くほぁ。」
「うーん、魔剣使いといえども、限界はこんなものか。」
「あれは、」
5人が目にした光景。
聞いていた、魔人族と思われる男と一人の女性。魔剣を握る腕は弱々しいが、その瞳にはまだ闘志を宿している。
獣人族の少女が二人の傷ついた少女たちを必死に治癒していた。
その中に、見知った顔が一人。
「気のせいか、俺は淵上さんに見えるんだけど。」
「おあいにくさまだね。隆くん。淵上さんに似てる。」
「ていうか淵上さんだよ!」
そういうと衣笠は走って獣人族の少女の元へと駆け寄る。
するとすぐに治癒魔術をかける。
酷い傷であったが、だんだんと容体が良くなっていく。
しかし、完治するほどではないと衣笠は感じていた。
「なんかわからないけど、あの魔人族をやればいいんだな。」
沼隆のメインスキルは『腐食』だ。
手のひらから粘液を発生させ、粘液が触れた場所から腐っていく。
ジワジワと腐食が進むため瞬間的な攻撃力には欠けるが、負けない能力である。
身体強化と併用して魔人族の男の顔に右手を被せる。
「腐食液、いけええええ!!!」
「ん? 液体、うあ、があああああああついあついあついああああああ!!!」
「ナイス、火拳烈弾・極!!!」
炎を灯した拳で魔人族の体を何度も殴る。
廣川燈のメインスキルは『火属性操作』。
さらにコモンスキルによる『火属性強化』の併用で威力は並の魔物では瞬殺できるほど。
魔術に火拳烈弾などと言うものはなく、彼オリジナルの技だ。
「おーい、そこの魔人族さんよぉ、お前は一体誰なんだ!!」
骨がぐちゃぐちゃになり、原型を留めていない魔人族の男へと石原が呼びかける。
瞬時に肉体を再生するとその質問に答えた。
「ぼくかい? 俺は魔将、カトリゼリュファだよ。男には興味ないから死んでくれないかな。死んでくれないかな。
女の子は私が殺したいんだ。消えてくれないかな。消えてくれないかな。」
「お前だ!」
氷顎を振り抜きカトリゼリュファの右腕を切り落とす。
が、すぐにつながって左腕から繰り出された拳を腹に受けた魔剣使いの女性。
大木に激突すると嫌な音を立てて倒れる。
それでも立ち上がり剣先はカトリゼリュファを見据えている。
「そうか、お前魔将なら金持ちか。」
「んあ?」
「俺の名前は石原哲也!!
メインスキルは『革命家』!!
金持ちには、めっぽう強いぜ!!俺!!」
ユニークスキル『平等化』を使ってステータスを自分と同じまで引き下げる。
さらに、自分は『革命家』の能力で金持ち相手に能力を底上げできる。
金持ちへの絶対的な特効。
さらに、サブスキル『資本主義の敵』により相手を殴るたびに相手の力を奪い、仲間へと再分配する。
「金持ちほど俺には勝てない。」
「やっぱ石原って。」
「赤いな。」
仲間からも奇色の目で見られているが、実際強いため放置しているし、役にも立つため攻めはしない。
それに何より面白いやつだから。少し思想が強いくらいはどうでもいいらしい。
「ぐぼ、えぐ、なんだこの鉛のような体は。鉛のような体は。」
「これが! 俺の、スキル!!!」
「炎槍・疾風!!」
「捕まえたぞ。」
石原、廣川、沼の3人の息のあった連携攻撃に、手も足も出ないカトリゼリュファ。
「大丈夫ですか。すぐに直しますから。」
淵上とエルノーラを治癒して魔剣使い、セレナの元へと駆け寄る衣笠。
すぐに患部に触れて治癒魔術をかける。
「うっ」
「安心して、彼らはとても強いので。」
「うむむ、くは」
「大丈夫ですよ。僕らのことはあの魔人族には見えてません。仲間の一人が『光学迷彩』ってスキルを持ってて、遠目では透明に見えるんです。
だから安心して治癒されてくださいね。」
優しく微笑みかける衣笠。
「そうか、ありがとう。」
「いえいえ、気になさらず。僕はこれくらいしかできないので。」
「そうか? 君が一番強烈な匂いが、、、、」
「ん?」
「いや、気のせいか。突然匂いがなくなった。」
「嗅覚が、、、鼻を重点的に治癒しますね。」
息のあった連携で、追い詰められるカトリゼリュファ。
「ぁ、くはぁ、ああ。くそ、なんでだ。なんでだ。
ぉまえら、本当に人なのか! 人なのか!!」
「トドメだ。」
背後に回っていた出嶋が『光学迷彩』を解除して剣を振り抜く。
コテン、と頭が胴体から離れて地面に落ちる。
「ああああああああ、なんてことだ。なんてことだ。あああああああ!!!!」
喚きながら倒れる魔人族の頭を見下ろす。
肉体は灰となって消えていく。
違和感。
頭だけは残り続けている。
「頭も潰すのか。」
廣川が拳に炎を宿した時だった。
「うあああああああ!!、」
首の下から骨が、肉が、血管が、神経が、皮膚がモリモリと生えてきて背中にらコウモリのような翼を生やし、全裸で飛んでいく。
「き、今日のところは、見逃してやるからなああああ。絶対にがさないからなああああああ!!!」
「逃すか!!」
回復していたセレナが『波動砲』を放つ。
翼を1枚剥がすと森の中へ落ちていく。
「四人とも追いかけて!!」
「おう。」
衣笠の頼みに四人は走り出すのだった。
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