十一話
順調にオリエント州を南下し、オリエント州最大の都市、ポート・ヴァルド市にも問題なく通過した。
「アドリアノヴァに行きたいんですけど。」
「何しにいくんだ。」
「仕事です。」
「冒険者か。ならパスポートは不要だ。ただ、国境関税として5ギラン必要だ。
アドリアノヴァだったよな。
だったらヴァルガス家監視塔で旅券とか許可証を発行してもらえ。
アドリアノヴァへは知っての通り商業連邦制の国だ。ギランからアドリに両替しておけよ。」
商業連邦制なんて知らなかった。
そもそもそんな国聞いたことない。
通貨も違うのか。
「ルミオールは使えないんですかね。」
「使えることには使えるが、こっちと一緒で商取引や公約束はできないぞ。
そーいや、君は冒険者か。だったらルミオールでも問題ないか。」
はははと笑っている。
ちょっと馬鹿にされてるか。
「教えていただきありがとうございます。」
関所の役人の元を離れて馬車に戻る。
「ヴァルガス家監視塔ってところに行ってパスみたいなもの貰わなきゃいけないらしい。」
「ヴァルガス家ですか。」
「ん?」
エレナが一言つぶやいた。
「ここポート・ヴァルド市の領主様のお家ですよ。
そうか、ヴァルガス家が国境管理を任されているんですね。」
「ヴァルガス家ってのは偉いのか。」
「あなた、本当に何も知らないんですね。
公爵家ですよ公爵家。今は内陸部だから実感ないかもですけど、ここポート・ヴァルドは湾口都市です。
貿易でも栄えていますし、東との玄関口を担っている都市でもあります。
そこを任されていると考えてくださいよ。」
それは偉いってことになるのか。
日本はかなり東京一極集中かつ、江戸時代とかは外様大名とかいたじゃん。
首都から遠いと偉くないって感覚になるんだよな。
「うーん」
エルノーラが1人唸っていたのを聞いていた人はいなかった。
***
行政手続きをしに監視塔まで来たのはいいが、
「現在、重要貨物の輸送につき越境できません。」
と、突き返された。
どれくらいかかるのか聞いても、渋るばかりで返答は得られない。
なんで重要貨物なのに日程がわからないのかと文句を言ってやりたかったが、仕方ない。
「冒険者様ですよね?
だったら一度ギルドで依頼を受けられてはいかがですか?」
なんて提案もされたし。
仕事しに行くって言ったけどさ。
しかし、することもないため一度ギルドに向かうことにした。
ついた先、突如腕を掴まれる。
受付さんか?
「緊急依頼があるんですよ。かなり多くの冒険者を集めて欲しいとのことでして。」
話を聞くと、領主様からの依頼らしい。
地方行政府からの依頼なんてなかなかない。
そもそも腕っぷしだけなら私兵を使えばいいのだ。
そんな中わざわざ俺たち冒険者に話が回ってくるのは、厄介ごとの匂いがぷんぷんしやがるぜ。
「依頼はどうしようか。」
「私は受けてもいいと思うよ。足止めくらってるし、やることもないしね。
報酬も見た感じ結構よくない?」
「それはそうですが姉さん。領主様のお家の依頼なんて、ちょっと物騒ですよ。違和感というか。」
「違和感か。私は腑に落ちたな。
2日前ポート・ヴァルド市に入った時、妙に兵士が多いなって思っててさ。
その違和感の正体がこれだったと思うんだよね。
3人は馬車の中にいたから気づかなかったと思うけど。」
エルノーラ曰く、他の州では見ないほど兵士が忙しなく馬を走らせていたと。
大金をやるから馬車を譲ってくれとも言われたらしい。
その時は丁重に断ったそうだ。
なぜそんな話をしないのか。
「監視塔でも輸送があーだこうだ言われたし、蛮族な感じの奴らに狙われてたりするのかな。」
「冒険者が蛮族みたいなもんなのにね。」
「ひどいな。」
でも、公的な武力集団じゃなく、荒くれ者集まる冒険者にそんな大切な、それも越境封鎖するくらいのものを守らせるのも不思議な話だ。
「お前らも緊急依頼受けるのか?」
ギルドの一角で話していると、知らない男に話しかけられた。
見るからに、別の冒険者だろう。
「まだ悩み中ってところだな。」
「だったら受けてもいいと思うぜ。こんな依頼なかなかないしな。
他のパーティーと協力することも滅多にない。
面白いもの見たさに、な?」
そんな軽いノリで仕事受けるべきだろうか。
「少しだけ、考えとくよ。」
4人でギルドを出る。
外で、1人の女性と目が合った。
嫌な予感がしたので急いで目を逸らして進む。
違う、こっちになんて近づいてきていない。
「君、冒険者だろ。」
「はい、さーせんした!」
「もちろん、緊急依頼は受けるよな?」
「わかりません!」
「私からの依頼なんだぞ。受けるよな?」
「わかりま、え?」
私からの依頼?
そう言われて声の主をよく見る。
この世界には似つかわしくない手入れされた長髪。
明らかに立場の偉い人の、あのときの勲章の男とは似ても似つかないオーラ。
凛とした、切長で綺麗な目をした女性。
ごっつべっぴんさんやないか、痛い痛い。
「腹ひねらないで!!」
「なんか嫌なこと考えてる気がした。」
右左の腹がジンジンする。
爪立てただろ。
絶対跡になるやつだ。
「ん? 私を知らないのか。」
なんすかその自信。
知ってないとおかしいくらい有名人なんすか。
すいません、俺最近こっちにきたんで。
「私はセレナ・ヴァルガス。港防衛隊副司令だ。
で、受けるよな?」
「いやー、チョットヨクワカラナイ」
「お前から強者の匂いがする。受けるよな?」
どんな匂いですかそれ。
女の子から匂うとか言われると、結構傷つくな。
「ああ、それと、私は国境関税の徴収と、旅券検査の監督もしている。」
「なに」
「それって」
「つまり」
「もしかして」
今国境を越えられないでいるのは、この人が止めているからなのか。
「一つお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「むう? なんだ。」
「私たちはアドリアノヴァに行きたく、この街ポート・ヴァルドまでやってきました。
しかし、重要な輸送品があるらしく、現在は越境できないと言われました。
越境できないことと、今回の依頼はなにか関係がありますか。」
そういうと女性、セレナは少し苦虫を噛み潰したような表情になった。
「それは、依頼を受けたものだけに答えられる。」
なにかあることはわかった。
案外エルノーラの予想も当たるものだ。
「いたい、いたい!
エルノーラさん足踏まないで。」
「失礼な気配が。」
そりゃ悪かったって。
「3人とも、こりゃ受けなきゃダメそうじゃないか?」
「そうだよね。なにか困り事を解決しながらでも問題ないよ?」
「私もです。」
「でもエレナ」
「姉さんが一刻も早く私を助けたいと思っていることは承知してますよ。
でも、私は大丈夫ですから。ゆっくり進んでいきましょう!」
今回の旅の目的である2人がそういうのであれば。
セレナからの依頼を受けるか。
「わかりました。その依頼を受けましょう。」
「うむ、私はそう言ってくれると信じていたぞ、強者たちよ!」
別に俺は強くないんだよな。
他の3人はまじ強いよ舐めたらあかんよ。まじで。
「実はな、私直轄の部下を緊急で探していて、お前たちに引き受けて欲しいんだ。
強い奴が、冒険者の中にいなくてな。」
この人結構ひどい!!
皆さん、この人感覚バグってますよ。
あまり頼りにならないレーダーだよ。副司令殿。
「他の兵士の方は」
「私が自由に動かせる兵はいないな。」
「レオくん、、」
カンナに裾を引かれる。
あれ、言わせちゃまずいこと言わせちゃった?
でも確かにご令嬢に私兵がいないなんてのはおかしいって感覚があるのか。
これはワンアウトだな。
あとツーアウトでリーダーを3人のうちの誰かに代わってもらおう。
「3人ともどうする?」
「内容にもよるけど、たぶん、こんなところで話せることじゃないんだと思うよ。
副司令殿、場所を移して説明していただけませんか?」
エルノーラの提案に、セレナ一つ返事で了承した。
***
「まずはじめに、今回の依頼についてだが、」
「副司令!!」
ドアが勢いよく開き、息を切らしながら1人の兵士が部屋に飛び込んできた。
「どうした!」
「魔物の群れが!」
「!」
そう言われて窓を丁重に開き外を眺める。
しかし、特段おかしな様子はない。
「上、です。」
そう言われて空を見る。
まるで裂けた傷口のように歪んだ裂け目から、無数の魔物が、黒い蜘蛛の子のように這い出していた。
羽毛のようにふわりふわりと舞いながら地に着くと、手当たり次第破壊の限りを尽くす。
「くそ、一歩先を行かれたか。」
「すでにギルドには戦闘開始するように伝えております。是非とも副司令にも戦闘に参加していただきたく。」
「当然だ。悪いな4人とも。これから話って時に。
どうやら、仕事の方がやってきたらしい。
もうわかるだろ?
実は数日前に魔人族と思われる反応が、国境を越えてここポート・ヴァルドに潜伏しているとの情報を得ていてな。
それで、炙り出そうとしていた分けだが、なんて手際がいいんだか。」
セレナは窓から右手を高く掲げると、掌から眩く、青白い光が収束する。
空が張り裂けるような轟音とともに、人が出しちゃダメなビームを解き放つ。
あまりの光景に、空いた口が開かなくなる。
「波動砲!!」
裂け目から飛び降りてきていた魔物たちは、光の奔流に抗えず、断末魔を上げながら灰となり散っていく。
そのままの勢いで裂け目の入り口に波動砲を向ける。
容赦ないな。
空の歪みすら揺らぐほどの威力。
輝く軌跡が魔物を次々と消滅させていく。
灰は降り積り、地面には焦げた残骸が、地上の魔物に降り注ぐ。
「私はこれから戦地に急行する。君たちも来てくれ。」
「な、、なんて、威力だ。」
「これが、ガロネシアを支える公爵家。」
エレナが一言ぽつりと呟く。
あまり実感はなかったが、同じ人なのだろうか。
バランスおかしくない?
急足で監視塔を後にし、港へと向かう。
移動中、たくさんの兵士や冒険者が魔物と戦っており、石畳はめくれ、煙と埃が空を覆う。
倒壊した家屋の中から聞こえてくる悲鳴。
炎が揺らめく中、魔物は今なお破壊の限りを尽くす。
地面には血と瓦礫が散乱し、空からは尚も魔物が降り注いでいる。
「アイスランス!!」
水魔術の派生魔術を使った淵上。
空を飛んでいるコウモリの羽に蛇のように細長い体をもつ魔物を正確に射抜く。
落下してきた魔物をエレナが剣で切り伏せる。
首を両断。
「やるな。」
「セレナさんは力を温存してください。
何が起きているか状況把握が先です。」
「セレナ副司令!!」
「カイか!!」
「報告遅れました。」
「いい、お前の部下がさっき息を切らしてきた。」
「どうやら魔人族は例のアレを完成させたようです。
そのためこのような状況になったものかと。」
「嘘だろ。完成していたのか!!」
「でなければ、これだけの数の魔物移動できないでしょう。
地獄の門を作ったのでしょう。」
地獄の門というのはキーワードだろう。
覚えておこう。
それより、魔人族って言ったか?
センワヤみたいなやつが、もしかしたら、あいつがきているかもしれない。
「まてまてまてよ。あいつは、こんなところに来てるのか。」
「坊主、なにか知っているのか。」
「確信はない。ただ、魔人族の中にはどれだけ傷をつけても、致命傷を与えても瞬時に肉体を再生するやつがいる。」
「お前、どこでそれを!!」
「魔将クラスがでている可能性があるのか、、。」
やばい奴が来てる。
それは間違いなさそう。
「カンナ、エルノーラとエレナと行動してくれ。」
「どうして、ちょっと待ってよなにがどうなってるのか。」
「俺のスキル知ってるだろ?
剛体化がなきゃ太刀打ちできない化け物が来てるかもしれないんだ。」
「一人でなんて、そんなのって」
「一刻を争う事態かもしれない。」
仮にもし、もしもセンワヤが来ていたら。
今にも寒気がする。
あいつのあの異様な体質。
魔術の威力。禍々しい剣。
その全てがトラウマを刺激するように、全身に危険信号を発信している。
正直、もう淵上とは離れず一緒に行動していようと思っていたために、こんなところでまた別行動なんてしたくないが、そんなこと言ってられない。
「セレナさん、3人を頼みます。」
「ちょっと君、待て」
『剛体化Ⅰ』を使い、『加速Ⅱ』フル稼働。
ソニックブームを発生させて天高く舞い上がる。
空中で拳を振るいながらどんどん魔物を倒す。
あいつがいるなら、必ず目立つやつを狙う。
そんな気がする。
「アサルト・パレード!!」
この声、この気配。
瞬時に『無反応性化』を使って魔術に備える。
赤紫の光線が俺に直撃し、そのままの勢いで内陸部まで吹っ飛ぶ。
「がああああああ」
木々を薙ぎ倒し、地面を抉りながら、止まない衝撃。
『加速Ⅱ』で速度を調節して停止する。
眼前まで迫っていたセンワヤに拳を振るう。
「久しぶり! レオ!」
「センドルワヤァァァァ!!!!」
勢いのまま、二人の拳の衝突で空気が揺れる。
木の葉が舞い上がり、センワヤの腕はひしゃげる。
「相変わらずの防御力に攻撃力。」
「ぬぬぬぬぬああああああああ」
そのまま左でも拳を振り抜きセンワヤの顔面を粉砕する。
タイヤの破裂音にと似た音が俺の目の前で発生する。
「べろべろべろべろばああ!!」
むくむくむくむくと肉が生成されながら、瞬間回復。
目の前には憎たらしい笑みを貼り付けながら俺を見据えている。
「今度はこっちの番!!」
左足を大きく振りかぶると俺の腹に目掛けて膝蹴り。
『剛体化Ⅰ』でノーダメージであるが、その威力や、『剛体化Ⅰ』を使っている俺が高速で宙に投げ飛ばされる。
蹴った方であるセンワヤの左膝からは止めどなく血が溢れ、折れた金棒のようになっているが一度360°回転すると何事もなかったかのように元の形状に治る。
「また戦えると思っていたぞ!!!」
背中から翼を広げて急上昇し、俺の目の前で指を向ける。
「アサルト・パレード!!」




