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唐突に異世界

唐突だが、人生において数学が役に立ったと思える場面にどれほど遭遇したことがあるだろうか。


ここで言う数学というのは、『たかしくんはリンゴを3個、つよしくんはリンゴを7個買ってきました。さて、リンゴは合計何個になったでしょう』などという日常生活で必要不可欠となるようなレベルのものは除外、そもそもそれは算数の領域である。


流石の俺もそこまでケチをつけるつもりはないのだ。


いや。数学にはケチをつけているではないかと思われると、真実ではあるのだがまるで駄々を捏ねている子供のようでどこか癪に障る。


三角関数だとか微分・積分、確率などと言われる、所謂“アレ“である。


何故勉強しなくてはいけないのか、きっと周りの大人に尋ねたことのある人もいるだろう。



『大人になったら役立つ時がくる』

『将来の為だから』



そんな言葉、教師が自分の学生時代に言われた言葉を答えの見つからないまま、ただ今の世代に繰り返しているだけに違いない。


「くそ、俺が神だったら真っ先に数学という存在を消している…!」


そう。いきなり何故このような話をしているかというと、本来学校という牢獄から解放される筈の時間帯だというにも関わらず、その忌々しい数学の問題に悪戦苦闘真っ只中だからだ。


既にいつも下校する時間から1時間ほど過ぎており、教室にも廊下にも俺以外の人の気配は感じない。


━━━ただ1人を除いて。



「こーら。そんな現実逃避するんじゃなくて、ほらあと3問。裕翔のせいで私まで居残りになっちゃったんだから早くしてよね」


頬杖をつきながら俺に文句を言うのは幼馴染で同級生である琴里ましろ。


成績優秀でテストでは毎回上位。

そのため教師からの信頼も厚く、周りの人間からも何かと頼りにされる。そんな絵に書いた様な優等生だ。


「居残りに“なっちゃった“って、お前が勝手に残ってんだろ?俺は一言も残れだなんて言ってないぞ」


「仕方ないでしょ。こんなに雨が降るなんて思わなくて、傘持ってきてないんだから。どうせ家隣なんだし裕翔の傘に入れて貰おうと思ってたのに、まさか補習とはね…」


そう言いながら全力で不満を訴えかけるような表情でましろは俺を見てくる。

チクチクと視線が痛い。その目をやめろ。


「別に俺じゃなくても、傘を持ってきてた奴なんて沢山いたろ。ほら、同じクラスの高橋とか。アイツましろが傘を持ってきてないって知った時目を輝かせてたぞ」


俺は右手で持っているペンをクルクルと回しながらそう答える。


なにせましろはモテるのだ。

先程言った優等生ぶりに加えて面も良く、黒髪ロングにすらっとした体型。

しかし男として出て欲しいところはしっかりと出ていて、これでモテない方がおかしいレベルだ。

本人にその自覚がないのが、より一層まひろの魅力を引き出しているのだろう。


「高橋くん?あーでも男の子の傘に入れてもらうのは相合い傘みたいでちょっと恥ずかしいじゃん…?」


俺は良いのか、俺は。

そんなことを心の中で呟きながら俺は最後の1問を解き終えた。


「よし、終わった。待たせて悪かったな。で、俺は待って頂いたお前へのお礼に図書館へ寄ればいいのか?」


頂いた、の部分を強調しながら俺はましろにそう告げる。

ましろは驚いた表情でこちらを見ていた。


「凄い、なんで私が図書館に行きたいって分かったの?付き合わせちゃうのも悪いし、家に帰ってから私だけ行こうと思ってたのに…」


「ここ数日お前が読んでた本に付いてる栞の紐がさっき見たら最後のページに綴じられてたし、今日は金曜日だ。ましろの性格上、何事もすぐに片付けたいタイプだからな。休館日である土日は挟まずに今日返しに行くんだろうと思っただけさ」


淡々と答える俺にましろは驚いた表情を続けながらも笑みを浮かべた。


「やっぱり裕翔凄いよ、天才!いつもその持ち前の推理力で当ててくるんだもん。将来の夢は探偵かな?」


「今の世の中、探偵でなんか食っていけるわけないだろ。それに、推理力なんて大層なものじゃなくてただの観察力。人間関係においてそんな力、そいつの知りたくないような一面まで知っちまう。お陰で俺は万年ぼっちだ」


自分で言ってて悲しくなってきた。


そう、観察力が秀でたところで特別何の役にも立たない。先程の数学の話と一緒だ。

大学入試の面接試験でそんなありふれた力をアピールしたところで『はぁ、そうですか』で終わる。

それなら誰でも着いていきたくなるようなカリスマ性や、一回見たら覚えるような記憶力など、何か特別な力が欲しかった。


「うーん。本当に凄いと思うんだけどなぁ。もし探偵する事になったら言ってね、私助手するから!」


「そんな馬鹿なこと天地がひっくり返っても有り得ないから安心しろ」


そう言いながら俺は教室のドアに手をかけた。




「…………は?」




教室を1歩出たそこは


━━━━━所謂いわゆる異世界と呼ばれる場所だった。



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