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四人の魔女の物語  作者: nyaa
小国
9/47

09 猫とお姫さま

前)変幻

「なんかデント爺さんはノトラが村を出たって言ってたらしいけど」

「爺さん以外は誰も見てないんだろ?そのうえノトラの小屋が忽然と消えちまったっていうんだからなぁ」


(俺のこと話してる……)

 とぼとぼ城に向かっていた猫はノヴェスト村から城下に向かう馬車の荷台に乗り込んでいた。


「まぁでも村長達もノトラには酷かったからなぁ。村を出た方があの子には良かったんだろうさ」

「でもノトラがいなくなったら今度は俺たちをあれこれこき使うんじゃ……」

「それだよなぁ……今まではノトラが何人分も働いてたからなぁ。しかも駄賃もナシでだぞ」

「逆らったら今の仕事も取り上げられちまいそうだし」

「うわーこえぇなぁ。帰ってきてくれないかなノトラ」

(ごめんなさい。ごめんなさいお城に行ったらまた戻ります)

 二人からは見えない荷台の端で猫は小さく伏せていた。


「でも、ばーさんはノトラのことルトラって言ってたんだろ?この村じゃデント爺さんしかそう呼ばなかったけど、本当にどっかの王族だったんじゃ……」

「だったとしても大国にやられたどこかだろ?戻るところはないんじゃねぇかなぁ」


(戻るところはない……)

 その一言がやけに重く心に響いた。



 日が傾き始めたころ、猫は小山のようにそびえる城を見た。

 はじめて来た城下町にはたくさんの人がいて、建物がひしめいていてにぎやかだ。


 馬車から降り、キョロキョロあたりを見回しながら歩いていたら子どもに追いかけられ、逃げるつもりがうっかり川に落ちてしまった。

「あははどんくさい猫ー!」

 他の子たちもわいわい集まってきて、伸ばされた木の枝に引っ掛かってようやく水から這い出た。

 不意に誰かを呼ぶ声がした。

「そろそろ帰るぞー」

 はーいと声を上げて子どもたちは駆けていく。


 後ろ姿に一礼して猫は反対に向き橋を渡った。

 小山のような城に踏み込む。

(山登りみたいだ)

 長く続く階段の横を水が流れており、所々で水車が回っていた。

 今日見る何もかもが新鮮だった。

 ようやく建物の入り口に着いた時、上の方の窓に青いものがちらりと見えた。


(青い髪の……)

 何やら下にいる者たちと話していたらしい青い髪の娘は手を振ると窓の中に消えた。

 近づくと何やら城働きの女たちの話し声が聞こえてきた。

「姫さま最近は体調も良さそうだよね」

「本当に。いつも臥せっていて気の毒だもんね」

「元気なときはあたしらのとこまで来て労ってくれてさぁ」

「本当に優しい姫さまだよ」

「あんな良い姫さまもやっぱり王様と同じなのかねぇ……」


(青い髪の姫、身体の弱い、優しい姫さま)

 魔女に会うよう言われた姫は皆から慕われているようだった。

 人のいるところを避けながら、猫は光る糸を追って建物に入る。


 建物の中の階段をさらに上り、静かな廊下の先の部屋の中。

 糸の先、静かな窓辺に青い髪の少女がいた。



 とても美しいものを見ていると思った。

 青い髪は日に柔らかく照らされて、少女は花咲く湖よりもずっと光り輝いて見えた。

(あの……)

 呼びかけた鳴き声に気づいて少女がこちらを見た。

「あら、猫が来るなんてはじめてだわ。ここにあるのは大切な本だから、いたずらしちゃダメよ」

 立ち上がりそばまで来てかがみ込む。


 その瞳は夕暮れが終わって夜が始まる前の空を思い出す深い深い青だった。

 見惚れていると、思わず体が震えた。

「あら、あなた濡れてるのね。ますますここにいちゃダメだわ」

 立ち上がり窓を閉めると少女は服が濡れるのも厭わず猫を抱え上げた。

 瞬間、パチリと何か光った気がした。


「あら?何かしら今の。まぁいいわ、早く乾かさなきゃ」

 少女に別の部屋に連れていかれた猫は柔らかい布で丁寧に体を拭かれた。

 逃げようと思ったけど、美しい白い手に傷をつけるのが怖くて動けず、猫は固まってされるがままにしていた。


「なにかしら」

 猫の首にかかっているメダルの紐の後ろには紙が結んであった。

「これ、何か手紙のようだけど、インクがにじんでしまっていて読めないわね。姉様に見てもらおうかしら」

 体を拭かれ終え少女の手から離された猫はカチコチになった体を振る。

 少女はすぐに戻ってきてまた猫を抱えると部屋を出た。



「イレア姉様。ちょっと見てもらいたいものがあるの」

「アリルあなたその猫!」

「あのね、これ濡れてしまっていて読めないのだけど、何かこの猫の飼い主のことがわかるかと思って……」

「アリル貸してちょうだい」

 ふやけた紙を手に取るとイレアはそれをじっと見ていた。

 顔がみるみる険しくなり、それを見ていた猫はおののいた。


「アリル、あなたその猫触ったとき何か変なことなかった?」

「え?ええ、何か一瞬光ったような感じがしたけれど……」

「これを書いたのは母様よ」

「え?母様?」

 イレアは紙から目を離すとアリルの顔をじっと見た。

 そして、次に猫をじっと見て、最後に外を見やってから言った。


「アリル、あなたの部屋に夕食を持って行かせるからすぐに食べて。猫の分は後で持っていくからとりあえずあなただけ急いで食べて。いいわね?」

「え、ええ。でもどうしたの姉様?」

 訝しむ妹をよそにじっと猫を見ながら言う。

「日が暮れたら二人とも部屋を出ずに待っていて。いいわね」

 猫はそっと頷いた。




「いったい何なのかしらね?」

 一人夕食をとりながらアリルは猫に話しかけた。

「あなた母様に会ったの?母様ね、私と姉様の結婚相手を探しに行ったんですって」

 猫はドキリとした。


「あなたの飼い主がそのどちらかの人なのかしら?でも私、運命の相手なんか見つからなければいいなと思ってるの。それに気に入らなければ追い出してくれるっておじい様も言ってたし……あら?どうしたの?ねむい?」

 いよいよ日が暮れようとしたころ、猫が打ちのめされていたのは言うまでもない。



次)昼と夜

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