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四人の魔女の物語  作者: nyaa
小国
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05 アリル姫の夢

前)イレア姫の憂鬱

 城の書庫の木窓を開けてアリル姫は外を眺めた。

 風に吹かれた青い髪を左に寄せて撫でつける。

 書庫に訪れる者はあまりなく、今ではアリルの部屋のようなものである。



 お父様はよく一緒に書庫で過ごしてくださった。

 二人だけの内緒の話もしてくれた。

 このところは天気も良いし体の調子も良い。

 お父様が亡くなるとき、私は立ち上がれなくて最期に立ち会うこともできなかったのに。

 今になって元気になってももうお父様はいないのに。


 イレア姉様は取り寄せた本の中に絵本を見つけると私に譲ってくれる。

 妹も外の国の言葉を少しでもわかるようになりたいと思っていることを知っているから。

 魔女の力が使えない分、それでも何か出来ることはないかと書物を読んだり人に話を聞いたりしてきた。


 いつか、人のために、このプリエラのために、何か私ができることがあればよいのにと思う。

 そういう夢をほのかに抱き続けている。

 けれど体調悪く寝込む日も多い私には人の役に立つようなことが何もない。

 人の手を煩わせるばかり。

 母様が運命の相手を探してきて結婚したとしても、こんな私に子なんて産めないかもしれない。

 いっそ、見つからなければいいと思ってしまう。


 イレア姉様の目は何でも瞬時に読んでしまうけれど、私にはわからない。

 母様は人を繋ぐ糸を見たり、自分や人の姿を変えたりできるけれど、私にはできない。

 青い髪はあれど、金の目はない。

「魔女の力は目に遺伝するのだろう」

 ということになって誰も私のことは魔女と呼ばない。

 魔女の力はイレア姫に、王家の呪われた血はアリル姫に継がれたのだろうと皆言っている。

 けれど。

 もしかしたら、私は呪いの力を持った魔女なのかもしれない。


 小さい頃、母様の部屋から抜け出して城の廊下で大臣の一人が父様を馬鹿にしているのを聞いてしまったことがあった。

(許さない!)

 と思った瞬間、大臣は苦しみの声を上げた。

 追いかけてきた母様に声をかけられなければ、殺してしまったのかもしれない、と思うと今でも恐ろしい。

 怖くなって必死に助かりますようにと祈ったけれど、私自身も熱を出してしばらく寝込んでしまって、大臣は一命を取り留めたとは聞いたけれど、その後は城で姿を見ることもなかった。


 それからは人を憎んだりすることのないよう、負の感情を強く持たないよう、いろんな本を読んだり笑顔を絶やさないようにして心を落ち着けることをずっと意識してきた。

 あの時のあれが、もし本当に魔女の力だったなら、私こそが呪いの魔女ではなかろうか。

 私が心を乱し誰かに負の感情を持つととんでもないことを起こしてしまうのではないか。

 そう思うととても怖い。


 もっとも、本当に私は魔女の力を欠片も受け継いでいない可能性もある、あるのだ。

 姉さまと母様の二人の魔女のやりとりを羨ましく思うこともあるけれど、そうならそれでいい。

 呪いの魔女であるよりも、呪われた血を持つ役立たずの娘である方がよい。



 そもそも呪われた血というけれど、呪いの魔女は本当に王を呪ったりしたのかしら。

 本を読んだりパレチアに外の国の話をたくさん聞いているうちに絵本の話の順序を疑うようになってしまった。


 プリエラ王家の系図を見ると、ある時代に集中して親族での婚姻を繰り返しているところがあった。

 それが100年より少し前のことだ。

 もしかすると呪いの魔女が来るよりも前に、王家はすでに体の弱い者が多かったのではないかしら。

 大陸なんかでも王家の気高い血統を守るためとか、王家の財産を散逸させないためとかの理由で親族同士の婚姻を勧めるような国もあったというし。


 魔女のような力を受け継ぐわけでなくても血を重視する人々もいるのだ。

 けれど、親族婚を繰り返すことで体の弱い部分が強く受け継がれて、虚弱な王から次の代に繋ぐことができず王制を終えた国すらあるということだった。



 そして系図には百年ほど前、黒く塗りつぶされている部分がある。

 名前を消された王妃に何があったのか。


 その頃に日照りや大雨で不作に見舞われたのはこの国だけではない。

 だからこそ、西の国で戦があった。

 西から来たという呪いの魔女は戦から逃れてきた者だったのではないか。

 王が呪われたというその時に一体何があったのか。


 このあたりの記録を見ると、大臣たちも次々と入れ替わっている。

 よほど混乱していたのだろう。

 物事の記録がない空白の時代。

 きちんと残そうとしなければ本当のことは後世に伝わらないのだ。

 百年前のことすら、はっきりわからないのに。

 建国の話など本当のところは誰にもわかるわけがない。


 アリルは墨摺りの絵本と色つきの絵本を並べてページをめくっていた。

 墨摺りの本の最後のページに封をしたままの一通の手紙が挟んである。


「この絵のお父様はとてもよく似ていて昔から好きだけど、色がつくとなおさらね」

 優しくて、大好きだったお父様。

 少しさみしそうな目で母様を見ることがあった。

 もともと母様はモジュのことが好きだったのかしら。

 それなのにお父様と糸がつながって。

 そしてお父様もそれを知っていたのかしら……。


 手紙を色つきの絵本に挟みなおしアリルはため息をついた。




次)王国と幸せと

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