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四人の魔女の物語  作者: nyaa
戦い
30/47

30 日記

前)炎と魚

 ロルギニスの兵がノヴェスト村を後にし、夜が深くなっても、プリエラの兵や村人はまだ交替で見張りを出していた。

 残りの村人は家に帰る者もいたが、元々ルトラの家に避難した者たちは大事を取ってそのまま朝を待つことにした。

 ルトラはその家に一度戻り、祖母の本と日記を手にミルビーナの家の戸を叩いた。


「ああ、いらっしゃいルトラ。この椅子使いな」

「ありがとうミルビーナさん。イレア姫、この本なんですけど……」

 奥のベッドからは王妃の寝息が聞こえている。

「ええ、拝見するわね」

 イレアは本を受け取った。


 ルトラが手渡した本はプリエラの紙とは違う手触りで、製法がまるで違うようだった。

 そして、ルトラのお守りと同じ、セルヴェル王国の文字で書かれていた。

 イレアは赤い表紙に書かれた文字を読んだ。

「『英雄ルトラの物語』あなたの名前はこの物語から取られたのねきっと」

「物語……あ、てっきり国の歴史について書いてあるような本かと思って俺……」

「英雄譚も国の歴史の一つじゃないかしら。セルヴェルのものは国と共に沈んでしまったから、あまり他の国にも残っていないと聞いたわ。この本も貴重なものよ」


「そうか、あんたは英雄の名を託された王家の人間だったのか」

 ミルビーナが言う。

 ルトラは頷きながら、名をつけてくれた記憶にはない家族を思った。

「でもこの本をばーちゃんが読んでくれたことはなかったんです。手放すことなく持ってきたのに奥の方にずっとしまってあって。何で開かなかったんだろう……」


「もしかしたら、思い出すのが辛かったのかもしれないわ」

「あら、起きてたの母様」

「起こしてごめんなさい王妃」

 テイニーは起き上がった。


「敵が来るのをヘイゼと待ってた時にね、幻影魔法が使えるならこんな村に留まらずに街なんかで興行すればすごく儲けられそうなのにって私言っちゃったの」

「母様あなた……」

 イレアの冷ややかな目を避けながら続ける。

「ヘイゼはその魔法を東の戦の時に使ったらしいの。沢山の魔法石も作ったって。それで、思い出したくなかったんですって……沢山楽しい思い出もあったはずなのに、沢山失ったことを思い出すから辛いって、だから魔法を使う時も苦しそうで。歌が聞こえてきたらもう耐えられなくなったみたい」

「それで泣いていたのね……」


 あの後ヘイゼは東から来た兵たちに家族の消息を尋ねているようだった。

 直接知る者などはいなかったようだが、誰かが東の魔女ヘイゼがプリエラにいることを広めてくれれば、いつか会えるかも知れない。


「ばーちゃんも、思い出すのが辛いことが色々あったんだと思う」

 時折、子どものように泣きじゃくりうなされていた祖母の姿をルトラは思い返していた。

 それが西のことだったのか、東のことだったのか、今はもうわからない。


「私、魔女の森に行かなきゃ……」

 立ち上がろうとするテイニーをミルビーナがベッドに押し戻す。

「何言ってんの。あんたせめて朝までは休みなさい」

「そうよ。魔女の森も心配だけれど、母様が見ていた時点で兵は逃げたというし、モジュがいるならきっと大丈夫だわ」

 テイニーはイレアをじっと見た。


「イレア、あなた昔からモジュ贔屓よね」

「母様。むしろ母様はモジュを一体何だと思っているの?」

 イレアの厳しい目がテイニーを射た。

「う……」

「本当に、こんな母様と繋がっててモジュが気の毒でしょうがないわよ」


「イレア何て?」

「だからモジュが気の毒だって……」

「じゃなくて!あなた糸が見えるなんて……ていうかいつ見たっていうの!」

「いつって、ずっとよ」

「は?」


「そりゃ父様の糸に比べれば細かったけど、ずっと母様とモジュ繋がってたわよ」

「うそでしょ……だって……」

「別に母様の浮気を疑ったりはしてないわよ。私に見える糸は母様が見る運命の糸とはちょっと違うんでしょ?」

「イレア……あなたの目は私よりずっと」

「なるほどねぇ。はいはい、今日のところは寝なさい寝なさい。テイニーちょっとそっち寄って」

 頭を抱えるテイニーを転がし、ミルビーナは毛布をかけ自分もその中にもぐり込んだ。



「まったく。ごめんなさいねルトラ。では失礼して……」

 イレアはルトラの祖母の日記に手を伸ばした。

 日記は二冊あった。

「幼子よおやすみなさい、青の星の輝く夜に……あら、これは詩のようね」

「それ……ばーちゃんの歌ってた子守歌の詞なのかな?」

 詩を読み終えて、ぱらぱらとその先の数ページをめくったイレアはルトラを見た。

「これは、あなたの日記ね」

「俺の日記?」

「ええ、多分このノヴェスト村に来てからの。成長していくあなたの姿を誰かにいつか報告するためという感じね。再び他の家族と会えたときの事を考えていたんじゃないかしら」

「ばーちゃんは家族の迎えを待ってたのかな……」

「そうね、きっとあなたのために……こちらは随分古いわね」

 イレアはもう一冊の日記を開いた。


「ああ、やっぱりそうだわ。あなたのお祖母様はセルヴェル王国の姫だったのね。ん?おばあさま?……このページのこれ、家系図だわ」

 イレアは文字と線が書かれたページを開いてルトラに見せた。

「お婆様の名前はアミラ様だったわね。その名前がここで……あなたがルトラだから最後のここ。つまり、アミラ様は……お祖母様のお祖母様だわね。優に百歳を越えていたのではないかしら」

「ばーちゃんのばーちゃん?」

 つまり、ノヴェスト村に来る前のルトラには父母や祖母や曾祖父母などの家族も居たようだった。

 近い家族の名前を読み上げて貰っても、全く記憶にはない。

 けれど、たしかに家族がいた。

(父さんの名前は強そうで、母さんの名前は優しそうだ……)

 自分がひとりぼっちではないと思えてルトラは心が温かくなるのだった。


「セルヴェル王国を離れたのは随分幼い頃のようだけれど、だれも足を踏み入れることすらできなくなった国のことを、自分の知る限りのことを、残しておかなくてはと思われたようね」

「じゃあ、ばーちゃんは地図から消えた国に住んでたことがあったのか」

 頷きながらイレアはさらにページをめくってハッとした。

「プリエラ王国の事が書いてある……」


 ――

 幼い頃、いつも優しかった魔女の姉妹。

 あるときプリエラという国から王様がやってきて、姉の魔女は連れて行かれてしまった。

 後にプリエラの王妃になった。

 ――


「私、セルヴェルの魔女がプリエラの王妃だったなんて聞いたことがないわ。魔女が王妃なんて母様が最初だって皆言ってたし……」

「ヘイゼさんが西の魔女は金の髪だって言ってたから、もしかしてイレア姫の髪が金色なのも?」

「これってつまり、百年くらい前でしょ、西からって、もしかして呪いの魔女?無理矢理セルヴェルからプリエラへ連れて行かれたから王を呪ったというのかしら」


 ――

 妹の魔女はその後も一緒にいたけれど、父様が怖い顔でやってきたあの日からいなくなってしまった。

 やがて母様たちと一緒に東の国オステオラへ逃げた。

 ――


「東の国にセルヴェル王家の縁者がいたようだわ。それなりの従者も引き連れていたようね。そして東の国で結婚して、子をもうけて、ええ、それなりに裕福に暮らしていたみたいだわ。それから随分経ってあなたが産まれてから東の国で戦がはじまって。北側の縁者をたよりに東の国を離れたとあるわね。でもプリエラに来てしまったのはどういうことかしら」

「じゃあ、もしかしたら北側のどこかに家族がいるかもしれない……?」

 ルトラの胸に小さく明かりが灯る。

「ええ、ルトラ。きっとそうよ!ああ、でも今すぐには探しに行けないわね。プリエラもこの先どうなるか……」


「あなたたちも今日はこのくらいにしておきなさい」

 いつの間にか起き上がった王妃がイレアの肩をさすった。

「あら、母様起きてたの?」

 王妃の姿を見て、ルトラが真剣な顔で問いかけた。

「あの、俺、セルヴェル王国のルトラなら、アリル姫とこれからも一緒にいられますか?」

 テイニーは目を丸くした。

「なあに?どういうことルトラ?」


「なあにじゃないわよ母様。ルトラが不安になるのは当たり前じゃない。本当に何もわかってないんだからこの人」

「なによイレアにはわかるって言うの?」

 ふくれる母に背を向け、イレアの金の目はルトラの緑の目を真っ直ぐ見て言った。


「ルトラ、あなたはセルヴェルのルトラでもノヴェストのルトラでもプリエラのルトラでも、何でもないただのルトラでもいいの。どうかこれからもずっと、アリルの側にいてちょうだい。いてくれるわね?」

「……はい!」

 緑の瞳がきらめいた。


「あら、そんなこと気にしてたのルトラ?」

「そんなことじゃないでしょ!まったく母様は本当にいいかげんなんだから」

「ありがとうございました!じゃあ、俺見張りの交替してきます!」

 ルトラはいつもの笑顔になって部屋を出た。



次)迷子

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