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四人の魔女の物語  作者: nyaa
小国
3/47

03 王様と魔女

前)ふたりの姫

「母様はそもそも王妃になるつもりで城に来たわけではないはずよ。そうでしょ?」

 イレアに問われたドリン大臣はひげを撫でながら目を閉じる。

「そうさの」

 隣にいる魔術師モジュは遠い目をしている。

 これまで絵本の話しか知らず、別れのその時まで仲睦まじかった父母を恋物語の主人公たちのようだと思っていたアリルにとっては初めて聞く話である。


 その後、ドリン大臣の話した内容はこうだ。

 魔女の力を借りようと言った魔術師は、そもそもその血を王家に混ぜようなどとは思っていなかった。

 なぜなら自らがその魔女に恋をしていたから。

 その娘が王の役に立つことで、森に閉じ込められている彼女やほかの魔女たちの境遇を少しでも良くして、あわよくば、王にも魔女にも恩を売りつつその娘と生きていくことができればという期待を抱いていた。


 娘にはいくつかの力があったが、中でも尊ばれていたのは縁をたどる力だった。

 そう、人の縁、運命をつなぐ糸が見えるというのである。

 初めは魔女の森でだけ知られていた力が、王都に戻った魔術師などから話が広がり、いつしか王都や他の村から魔女の森に二人の仲を確認しようとする恋人たちが訪れるようにまでなっていた。


 そうして、その力をぜひ王にもと魔女は森から出されたのだった。

 山ほどの妃候補の待ち受ける部屋に通された魔女の驚きと困惑は想像に難くない。

 まっすぐに自分から王座へ伸びる糸。

 しかしそこには「我こそが」と信じるきらびやかな宝石たちの期待がみすぼらしい娘を責め立てるように取り囲んでいたのである。

 言えるわけがない。

 送り出されるとき言われた言葉はおとぎ話の通りである。

「城へ連れて行かれたらその先何をされるかわからない。王も魔女を憎んでいるはずだから。かわいそうに。条件の合う娘はお前しかいないのだからどうかこらえておくれ」


 本当のことは言えないが、さりとて嘘もつけない。

 震える娘に浴びせられたのは、

「魔女だなんて言っても本当は大した力などないのでしょう?」

 という嘲りの言葉だった。

「本物の魔女じゃないのでは?」

 という誰かの言葉を端に、目深にかぶったフードをはぎ取られた娘はそこでようやく王の姿を目にしたのだ。


 王が恋に落ちたのは本当。

「ひと目見てあなたに心を奪われました」

 と差し伸べた王の手に娘ははじめから応えたわけではない。

 当然その場にいる誰もが大反対したのだった。

 ある大臣は王家の血に汚れた魔女の血を混ぜるのかとまで言った。

 ただ別の大臣は賛成の声を上げた。

 魔女の血が入ることで王家の呪いが消える可能性はあるのではないかと。


 誰より困惑したのは魔術師である。

 自分が娶るつもりの魔女を王妃にするだなんて、そんな事があっていいわけがない。

 娘に駆け寄り糸の行方を正直に話すように促したのである。

 誰とも繋がっていない、あるいはここに居ないものに伸びているのだろうと。

 それがとどめだった。


 知り合いの魔術師の顔を見て安心した娘は本当のことを口にしたのだった。

「王様の糸が私につながっているの!私どうしたらいいの?」

 と。

 魔術師はもう何も答えられなかった。

 そして王は破顔し、彼女の手を引いた。

 賛成した大臣が、

「ではひとまず娘を私の養女にして妃教育を施しましょう」

 と名乗り出て、王もそれを喜んだ。


 我こそは我が娘こそはと集まった者たちがその光景をどう見たか。

 つまりはきらびやかな娘たちを蹴った王と、王を誑かした魔女を快く思っていないものもこの国には多くいる。

 そして。


「姉様、ま……まさかドリンおじい様がその大臣で、モジュがその魔術師なの?」

 青い顔で問うアリルに眉間にしわを寄せたイレアが頷く。


 気の毒な魔術師モジュはもはや地に伏していた。

「うむ。ちなみに、その絵本を作ったのもモジュだ」

「え……それは知らなかったわ。あなた色んな意味ですごいわね」

 イレアが絵本とモジュを並べて見ながら驚く。

 目論見はずれて恋する娘を王に取られてしまったものの、呪いの魔女以降続いていた魔女に対する偏見をなくすよう尽くし、森に閉じ込められていた魔女たちを解放したのは間違いなくモジュの手柄であった。

「あの、モジュ?絵本の……母様をとてもかわいく描いてくれてありがとう」

「……絵を描いたのは私ではありません……監修はしましたけども」

 アリルの心遣いは空振りし、イレアとドリンは首を振った。


「それにしても母様ったら本当に困ったもんだわ」

「あれはお前のように城で生まれ育ったわけではないからの」

 あらためて憤るイレア姫をなだめるようにドリン大臣は言った。

 小さくため息をつくとイレアは絵本をアリルに渡した。

「アリル、これはあなたが持っているといいわ」

「ええ、ありがとう姉様」

「本を届けてくれてありがとう。しばらく一人にしてちょうだい」

 ドリン大臣とアリル姫は頷いて、ようやく顔を上げた魔術師を引いて部屋を出た。



次)イレア姫の憂鬱

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