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四人の魔女の物語  作者: nyaa
戦い
28/47

28 後から来た者

前)ノヴェスト村

 橋を越えると丘の上にデント爺の姿があった。

「ルトラ!もどって来ちまったのか!」

「爺さん!大変だ!敵が来るんだよ」

 ルトラは坂道を駆け上った。


「どうも平地の様子がおかしいと思ってここから見とったんじゃが……そういうことか」

 デント爺は深いため息をついた。

 丘には他にもこのあたりに住む者たちが集まっていた。

 イレアの馬車一つだけでは皆を乗せることはできない。

 子どもや老人も多く、歩きで城まで逃れるには相当時間がかかるだろう。

(この人たちを守りながら敵を迎え撃たないといけないのね……)

 イレアは戦う方法を考え出そうとしていた。


「あれ?もしかしてそこにいるの王妃なの?テイニー!あたしよあたし!」

 背の高い、頭を布で巻いた女が手を振った。

「え!うそミルビーナ姉さん?てっきり魔女の森にいるものだと」

 王妃は懐かしい顔に笑顔になる。

「え?ミルビーナさんて魔女だったの?」

 こんな近くに魔女がいるなんて、ルトラはこれまで考えもしなかった。

「ああ、ノトラおかえり。実はそうなんだよ」

 ミルビーナが髪を覆っていた布を取ると豊かな青い髪が現れた。


「わしは戦うぞ」

 デント爺が言い、ミルビーナや他の村人も頷く。

 子どもを抱えた者などはただ不安そうにそれを見ていた。

「ロルギニス兵を追い返してやろう」

 あらためてデント爺が言うと、イレアたちは頷いた。

「そうと決まれば作戦会議ね。ちょっと待ってて」

 イレアは側にいたプリエラ兵に指図をする。


「あの、そういえば俺の家は……」

 ルトラがおずおずと王妃に問いかけた。

「あ、ああ!大丈夫よルトラ。ちゃんとあるわ」

 今の今まですっかり忘れていたテイニーは慌てて弁明した。

「おばあさんが亡くなってベッドもすぐ手放さなくちゃならなかったみたいな話してたでしょう?あなたが家を出てそのままだったら家の中の物とかなくなっちゃうんじゃないかと思って目隠しの魔法をかけたのよ。今解いて……」

「母様待って、そのままにして」

 イレアが王妃の前に立つ。


「ここには子どもや老人もいるわ。万一のことを考えると、彼らは見えない家にいた方が安全よ」

 かつて家があった草地で、イレアは何もない場所をつかんで引いた。

「お邪魔するわね」

 それはルトラの家の扉であったらしい。

「あ、俺の家!」

 外見は草木があるだけの空き地なのに、唐突に扉の中の部屋が見えた。



 イレアはルトラの家の小さな机を借り、今ノヴェスト村にいる者と王妃のロルギニスから魔女の森での状況の確認をして紙にペンを走らせていた。

「母様の話だとロルギニス兵は日が暮れてから村に来るのよね。それじゃまず敵が来たら母様には竜になってもらって……」


「え?無理よ?」

 イレアの話を王妃が遮る。

「は?」

「え?」

 親子はお互い不思議そうに顔を見合わせた。


「なんで?母様さっきなってたじゃない竜に!」

「さっきなったから無理なのよ!一日に何度もできるようなことじゃないんだから!」

「はぁ?なんで早く言わないのよ!母様が竜になれると思えばこそ私たちここで敵を迎え撃とうと残ったのに!前提が崩れちゃったじゃない!」

「そんな!私ちゃんと逃げましょうって言ったじゃない!何か他の策があるんだなーと思ってたのに何?私を当てにしてたの?無茶言わないでよ!」

「だって私の魔法は見るだけなんだから母様が何とかしてくれないと!」


「あーはいはいストップ」

 ミルビーナが呆れ顔で親子げんかを止める。

「あんたがた母娘が意思疎通上手くいってないのはよくわかったわ」

 周りの者たちも不安な顔でそれを見ていた。


「でもそれこそテイニー、昔は数分竜の姿で飛んだだけで何日もぶっ倒れてたのに、何?魔女の森で大暴れしてそっからだいぶ飛んで?えらく元気じゃない?」

「さては……モジュに持たせた回復の石は全部母様に使われたのね」

 娘のじっとりした視線が王妃にのしかかる。

「じゃあやっぱりちょっとくらい行けるんじゃないかしら?」

「むりむりむりさすがに無理よ!」

 王妃は首を振る。


 腕組みをしたミルビーナが唸る。

「敵を動物に変えることなら少しは出来るけど、あたしの魔法はテイニーほど強くないし何十人もなんて無理よ?もちろん竜になんてなれないし」

「どうしよう……プリエラ兵の数も少ないし」

 イレアの眉間のシワは深く深く刻み込まれつつあった。


「はったりでも何でもいいのよ母様!飛ばなくていいからちょっと竜になりなさいよ!」

「だから無理なものは無理だって!そんなに言うならあなたがやってみなさいよ!」

 美しいはずの母娘は酷い顔でにらみ合う。


「はったりでいいのなら……」

 後方から声が聞こえた。

「私にできるかもしれません」

 それを聞いてデント爺が言う。

「あんたも、やっぱり魔女じゃったか」

 黒髪の女は頷いた。


「ヘイゼさんも魔女なの?青い髪じゃないのに」

 ルトラが驚く。

「東の魔女の髪は黒じゃった」

 デント爺の視線の先、黒髪の魔女ヘイゼが続けた。

「ええ、中央の魔女は皆青い髪と聞きますが、東の方では黒髪でした。北は赤、西では金の髪だったとか……」

「黒は聞いたことあったけど、金の髪の魔女もいるの?」

 イレアも驚いた。




 作戦が固まり、ルトラ達は資材置き場で使えそうなものを見繕っていた。

 ルトラの背を見ながらフレリオが静かに言った。

「俺、ノトラがあんなに怒るの初めて見た……」

 歳も近く、フレリオはノトラがいじめられるのを昔からよく見ていた。

 ノトラが来る前にいじめられていたのは自分だったし、ノトラが来てからも彼のいない学校では相変わらずだったから。

 ノトラはどうして石を投げられても耐えられるんだろう、そう思っていた。

 そのノトラが声を荒げて平地の人間を非難するのをみたのはさっきが初めてだったのだ。


 ルトラは少し考えてから言った。

「だって敵が来るって報せもせずに置いていって、村長たちはこっち側の村人がどうなると思ってそんなことするんだろうって……」


(でも、それだけじゃない。もしかしたら俺は少し、わがままになったのかも知れない)

 ルトラはノヴェスト村に戻って、自分がノトラと呼ばれるたびに感じる気持ちに自分で驚いていた。

 これまでずっと皆からそう呼ばれていたのに。

 城に行ってからはアリルが何度も何度もルトラと呼んでくれたから。

 優しい声で、愛おしい笑顔で。


「俺……名前、ノトラじゃなくてルトラなんだ」

 申し訳なさそうな顔をして名前を訂正するルトラに、フレリオはちょっとびっくりした顔をして言った。

「そっか、そうだな。すまなかったルトラ。でもルトラはやっぱり、自分のことでは怒らないんだな」

 フレリオは笑って言った。


「ルトラたちはたぶん俺のことを平地のあいつらと一緒だと思ってるだろ?でも俺は平地の『はずれ』の人間なんだ。俺の家は爺さんの代でこの村に来たけど、中央のやつらには今でも余所者扱いされてるよ。俺は家族も亡くしちまったから、馬車に乗って中央の奴らと一緒に逃げても、次に何かあれば真っ先に切り捨てられるのが俺だ。それがわかってるから行かなかった」


「まぁ、平地の、中央のやつらの気持ちもわからんでもないさ」

 後ろで聞いていたミルビーナはフレリオの肩に手を置いた。

「あたしは魔女の森では元々いた人間、中央の奴ら側だった。だから、そういう気持ちも知ってる。森でのあたしは後から来た人間を、村の当たり前のことを知りもしない奴らだって、今までうまく行ってたことをひっくり返して村の平穏を壊す奴らだって嫌ってた」

「後から来た者は、元々いる者にとっては敵なのか」

 ルトラはうつむいた。


「監視の魔術師の嫌な話なんか聞かされてたからね。魔女に子どもだけ産ませて連れて行ったりさ、魔術師はロクでもない奴らだ!なんて」

「でも、お城で会った魔術師のモジュさんはいい人だったよ?」

 ルトラの口から懐かしい名前を聞き、ミルビーナは目を丸くしたあと笑った。


「ああ、そうだ魔術師の皆が悪いわけじゃなかったさ。そうだよ!モジュなんかそりゃあ良い奴だった。アレを袖にして王妃になるなんてのはあたしですらどうかと思ったもんなテイニー」

 後ろを振り向くと王妃がふくれていた。

「……だって運命だったんだもん」


 ミルビーナの顔色が変わる。

「そうか、運命か……そうだったのかい。すまないテイニー、今のはあたしが悪かった」

 なんとか笑顔を作るテイニーを見ながら、ミルビーナは苦い顔をして続けた。

「あたしの運命も聞いてやってくれ。あんたが王妃になった後、なんと私は森から出る運命だったんだよ」

「あ……」

「そうさ、嫌でも出てかなきゃならなくなって、仕方なくこの村に流れてきたけどまぁ全く余所者に対して冷たくしてた罰が当たったと思ったね。だから仕方ないんだよ。立場がひっくり返らないと気がつきもしない。そんなもんさ」


 湖の光が消えていき、いよいよ日が暮れようとしていた。



次)炎と魚

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