24 戦う者たち
前)反乱軍
(どうしよう……どうしよう……)
プリエラの魔女王妃テイニーは頭の中で同じ言葉をぐるぐる回し続けていた。
図体は筋肉隆々の大男に変化させたまま、今はロルギニスの兵たちと共に馬車に揺られていた。
串屋台で出会ったひょろりとした若い男はコゼオと名乗った。
東の村から兵になるために国境の街まで来たという。
「俺、人を見る目だけはあるんだよ!」
と自称するコゼオはテイニーを気に入ったようで、
「あんたも兵になるんだろ?一緒に行こうぜ!なるべく人の良さそうな隊長のとこに入りたいよな?」
と肩を叩いた。
なすすべなくテインと名乗った王妃はそのままこのコゼオについて行き、いかにも人の良さそうな隊長の馬車へと乗り込むことに成功したのである。
というわけで、自分の国をこれから襲撃しようというロルギニス兵たちと共にプリエラに向かっていた。
10人くらいずつの兵を乗せた馬車が5台、並んで南へ向かっている。
聞けばすでにいくつかの馬車が先に出ているということだった。
(つまり、一刻も早くプリエラに報せに戻らないと……でも、どこに何をするつもりなのか話を聞いてからの方がいいのかしら……どうしよう……どうしよう)
人間悩みすぎると身動きがとれなくなるものである。
「はーこの甲は重すぎて首が痛くなっちまうんだよな」
隊長が銀の甲を脱いでコゼオの隣に座った。
「あー、この馬車に乗った皆さん。プリエラまでしばらくあるし、これから命を共にするものとして、えー、まぁ仲良くしましょうや」
およそこれから戦いに臨むとは思えないゆるさである。
「これ一個ずつ取って回しながら自己紹介でもしてくれや。そうだな、将来の望みを聞かせてくれ」
そう言って小さな袋をコゼオに渡した。
「俺はコゼオ。将来は軍の医療隊に入りたいんだ。俺たちの村には医者がいないからさ、軍で手当の方法とか教わりたくて……あ、これ砂糖菓子だ懐かしい!」
コゼオは中身を一つつまんで口に放り込み、袋をテインに渡した。
「あ、俺はテイン。望みは……」
私の望みは。
テイニーは王に言われたことを思い出していた。
『これからはテイニー、あなたの望むように生きて』
私は、王が長生きすることを望んだ。
そして、娘たちの幸せを望んでいる。
王は私が一体何を望んでいると思っていたのだろう。
そして今、今一番の望みは。
「……皆が平穏に暮らせればいいと思う」
砂糖菓子は甘く、口の中でほどけた。
袋を渡そうと隣を見ると、半分泣きそうな顔でふてくされている少年がいた。
アリルの糸の先にいた少年よりもずっと幼い。
「まぁ、ぼうず。気にせずあれこれぶっちゃけちまいな。誰にも言いやしないから」
隊長が声をかける。
「俺、街に連れてってやるってお袋に言われて二人で来て……それで、なんかアイツ金もらったら俺のこと置いてさっさと帰りやがった」
兵になる気などさらさらなかったのだろう。
「ま、入隊だけでも一時金がもらえるから子ども売りに来るやつもいるよな」
コゼオがうつむいたまま小声で言う。
「お前母親と二人で来たのか?そりゃお袋さん無事帰れりゃいいけど……」
奥にいる若い男が言い、その横の男が付け加える。
「俺たちも似たようなもんだけど、先払いの金をもらいに来るときゃ概ね村の人間がいくらかまとまって来るもんだぜ。女一人で金持って帰る奴を付け狙う輩もいるからな」
少年は強ばった顔から絞り出すように言った。
「もう親じゃねぇ。あんなの。あんなやつ……」
「うん。まぁその先は言わねぇ方がいいな。俺は言っちまったから未だに寝覚めの悪い時がある」
隊長が遮った。
「街で何か旨いもんでも食うつもりだったか?」
少年は頷いた。
「おし!帰ったら俺が喰わせてやる。楽しみにしとけよ!」
隊長は明るい声で言い、少年はもう一度頷いた。
テイニーは少年の背をなで、袋を渡した。
細く、骨の感触があった。
家族に金を残してやりたくて、という年かさの男もいたが、この馬車に乗っているのは若者が多い。
戦が終わって金をもらったら街で暮らしたい、学びたい、畑を買いたい。
望みはそれぞれだったが、一様に今の暮らしは貧しいらしかった。
一通り聞き終わって袋の口を閉じながら、隊長は言った。
「あんた方はやっぱりもともとオステオラの人らかい?」
(オステオラ?ロルギニスに取り込まれた東の国。コゼオも東の村からって言ってたけど……)
コゼオだけでなくほとんどが頷いていた。
「私らがこれからやることは、多分あんたらの国が昔されたことと一緒さ。乗り込んでって、火をつけたり、奪い取ったり……まぁ気分のいいもんでもないわな」
「正直、金があるなら反乱軍に入りたかったくらいだ」
奥の男がぽそりと口にし、数人が頷いた。
「東の戦争の時は王が早々に逃げた。残された俺らは抵抗したが、まぁ今回と違ってお偉い方のロルギニス軍もぞろぞろ出てきたからな。結局国はなくなっちまった」
年かさの男が言う。
「そうだな。戦の後もうずっと貧しいままなのも王が逃げたせいかもしれねぇ」
歳が違うと見えているものも違っているのかも知れない。
「ああ、そうだな……何というかまぁ、今回の兵の募集も雇用対策みたいなとこもあるらしいからな。でも今回も先行してるのはお偉い方の軍の皆様だよ」
隊長は言った。
(そもそも戦って何か訓練とかナシに村から出てきてポイッと放り込まれてやるものなの?戦いたくもない人たちがお金のために自分たちがされたのと同じことをするの?)
テイニーにはもう何もかもわからない。
「俺が軍に入ったのはお前らくらいの歳だったよ」
隊長が奥の若者を見ながら話し始めた。
暮らしていた北の国が戦に負けた後、暮らしは貧しくてとても次の冬を越せそうになかった。
それで東のオステオラ王国に行く軍に加わった。
お前達の国を襲った中に俺もいたんだよ。
その時の隊長に言われたんだ。
人でいたいなら武器を持たない無抵抗の人間を殺すな
職務に忠実だといつの間にか怪物になっちまう
できる限り逃げろ防戦じゃねぇんだから
俺たちゃどうせ消耗品だと思われてる
訓練も何もなく放り込まれる若いのなんか逃げたって構わねぇよ
逃げずにいたら人間じゃなくなっちまうんだよ
その隊長はいい人でな。
いい人だったから、若い奴をかばって死んじまったよ。
俺は今でもわからねぇ。
その後も他の仕事がなかったから軍に居続けている。
いい人じゃねぇからまだこうやって生きてる。
それで、だからな、お前達にも逃げてほしい。
逃げて望みを叶えてくれや。
隊長は伏せていた目を上げて皆の顔を見渡して言った。
「もちろん戦で成り上がりたい奴がいれば止めやしないさ。ただ俺の目標は全員生きて帰ることにさせてほしい。もちろん他の馬車や上の奴らには絶対内緒な」
「ほら、やっぱり俺は人を見る目あるだろ」
小声でテインに話しかけコゼオは得意げな顔をした。
テイニーはだまってそれを聞いていた。
馬車はプリエラ王国の国境に迫っていた。
「俺たちは日が暮れてから地図のここ、ノヴェスト村ってとこに入ることになってる。はじめに三隊が東側に回って、ほんで俺らはこっちから……」
「なんか焦げ臭いな」
「あ、あっちの方煙上がってますよ」
キョロキョロする若者たちに隊長は言った。
「あー、あれだな、魔女の森の方は昼からもう始まってんだ。ええと、どこまで言ったっけ?」
「どうしたテイン?」
コゼオが隣の様子を伺う。
「魔女の森が、すでに襲われてる?」
テイニーは立ち上がっていた。
(魔女の森が、乗り込まれて、火をつけられて、奪い取られて……?)
「え、ああ。どうしたんだテイン。座って話の続きを……おぇ?」
話しかけた隊長の目には信じられないものが映った。
「テイン?」
「どうし……」
「うわっ!何だお前!」
「えええっ!」
馬車は大きく揺れ、ただの大男のはずだったテインはその姿をとんでもないものに変えていた。
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