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四人の魔女の物語  作者: nyaa
大国
23/47

23 反乱軍

前)決別

 第二王子リュゼスは牢の奥へ進み立ち止まった。

「ストレタ。話をさせてくれ」

 中にはやつれた若い男が一人、壁にもたれて座っていた。

「この者は?」

 問うルシウムにリュゼスが答える。

「かつて金狼隊にいた男だ。俺たちを捕らえて牢に入れたのは金狼隊にいたベリントス公爵の息子だ」

「ベリントスの……そういうことか」



 レアギン王の最も近いところにいるベリントス公爵。

 近年の国策のほとんどは公爵が王を唆したものではないかとも言われていた。

 公爵のみならず、その息子や親族も国の中枢で幅をきかせている。

 そしてその五男は、かつて第二王子が金狼に入るのに公爵の息子ともあろうものが黒兎とはどういうことだと叱責されて無理やり取巻き数人と共にリュゼスのところにねじ込まれたのだった。

 もちろん金狼隊にいたところでなんだという働きはしなかったらしいが。


「ああ、ベリントスの……名前忘れたな。あの男も正直気の毒だとは思う。公爵が王への忠誠を示すのに使われたわけだし」

 上に何人も兄弟がいて、父親からは一人ぐらい欠けても構わないと思われていたのだろう。

 リュゼスはため息をついた。

「しかし、あのとき助けなかったのをこれほど根に持たれていたとは思わなかった。そもそも何で俺に助けてもらえると思っていたのかさっぱりわからないが」

「あの男はクソだ……」

 牢の中のストレタが小さくつぶやいた。


 実力も覚悟も何もないが態度ばかりは大きかったベリントス派の連中は、他の者たちにとっては正直邪魔でしかなかった。

 そして、この無能な貴族たちは、隊の中で弱い立場の者、ストレタや他の田舎から出てきた若者などを押さえつけることで自分たちの力を演出しようとしていたのだった。

 それは第二王子に対してすらそうであった。

 王の子でないらしい第二王子より、王の側近の息子の方が上だと。



 が、リュゼスは実力も体躯も圧倒的に勝っていたため彼らの嫌がらせもさほど効果はなかったのである。

「あの隊の中であんなクソな奴らに振り回されながら、それでも俺たちがやっていけてたのはあんたのおかげだったよ……昨日は、いや、その前も、すまなかった」

 小さく謝罪するストレタにリュゼスはしゃがんで笑顔を見せた。

「そうか、ストレタ頼みがある。反乱軍のことを教えてくれ」




 牢から出されたストレタによると、反乱軍と言われてはいるがどうもきちんと組織立ったものとも言えない集まりのようだった。

「そんなものか……」

 これではあてにできないかとルシウムは思案した。


「だから反乱軍を名乗るただのゴロツキみたいな奴らも多かったんだな」

 街の警戒にあたる中でよく出くわしていたのはそういう者たちだった。

「もちろん真剣に国を良くしようと思う奴らもいる。とにかく国や王を恨んでるやつらもいる。一枚岩とは言えない」

 ただ、中心になっている者はいるという。


 静かに語る男に、ルシウム王子は言った。

「ストレタと言ったね。お前の意見を聞かせておくれ」

 ストレタはすぐに言葉を返せず、少し悩んでから話し始めた。



「反乱軍の中心になっているのはバルスルトという熊のような大男だ。その人は、俺を殺そうとした人だ。その……その顔の傷をつけた」

 ストレタは猫の仮面に目をやった。

 一瞬動揺して仮面の飾りが揺れたが、リュゼスは穏やかに言った。

「大丈夫だ。続けて」

「……故郷で、家も家族も公爵のせいで失った俺を反乱軍に誘う奴がいたんだ。はじめは集会で出される食事目当てでついて行ったんだ……」



 いつしか頻繁に通うようになった反乱軍の集まりで、最近になって初めてバルスルトに会った。

 その男の母は魔女らしく、その男は魔法石を扱えるのだと聞いた。


 バルスルトはストレタを見るなり明るい声でこう言ったという。

「おお若いの!あの時は殺し損ねてすまなかったな!」

 その男はあの戦場でのストレタのことも、その後の家のことも知っていた。

 そして、王の首を取るのかと周りに聞かれたときには、

「ああ、首なんざいらんいらん」

 と虫を払うように手を振って言った。



 俺が王になりたいわけでもない。

 ただ世の中がマシになりゃそれでいいんだ。

 ただ、ほかの奴らはそうじゃないかもしれないことは覚えておいた方がいい。


 俺は身体がでかいだろ?

 だから俺に従ってる奴らが多いだけのこと。

 俺の中身なんか気にしちゃいないんだよ普通の奴らは。

 見た目や地位で「こいつなら安心そうだ」ってついて行く奴を決めて、いちいち物事なんか考えない。

 自分の立場が安泰ならあとはどうでもいい。


 そんな「普通」の人間が多いんだよ世の中は。

 本来王ってのは、そういう無責任な奴らも含めた、国の民すべてを取りこぼさないように考えなきゃいけないんだよ。


 今のレアギン王とベリントス公爵のやり方はよろしくない。

 だからやつらをその座から引きずり下ろしたい。

 けれど、ただ王の首を取ればこの国が良くなるわけではないだろ?

 替わりの、真っ当な王を据えるのが今この国では一番犠牲が少なく済むんじゃねぇか?



 そして、こう言ったという。

「新しい王には俺をかばった第二王子が良いのではないかって」

 ストレタは向き直って姿勢を正し、頭をさげた。

「俺もそれが良いと思う。お願いします」

「それは買いかぶりすぎだ。俺は王の器ではないから断るよ」

 リュゼスは即答した。



「なるほど」

 ルシウムは暗闇に光が差すのを見た心地がした。

(私が認められるかはともかく、闇雲に反乱を起こして己が上に立とうなどとは考えない男が中心にいるのならあるいは)

「よし!お前たち、彼らに話をつけてくれないか。どうか私を担いでくれ」



次)戦う者たち

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