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四人の魔女の物語  作者: nyaa
大国
17/47

17 第一王子の執務室

前)猫面の第二王子リュゼス

 夜会の後、ロルギニス第一王子ルシウムの執務室に呼ばれた第三王子ラフィは緊張の面持ちをしていた。

 整った清潔な部屋の中央にはテーブルがあり、天板つきのオイルランプの上でポットから静かに湯気が上がっている。


「それで、どうだった?外の国は」

「はい、こちらにまとめておりますので目を通していただければと……」

 紐綴じした紙束を弟から受け取りながら、第一王子ルシウムは微笑んだ。

「ここに書けなかった感想を聞きたいんだよラフィ。まあそう畏まらずに」

 ルシウムは優雅な所作で二つのグラスに酒を注ぐ。

 食前や寝る前によく飲まれる軽い薬草酒だ。

 ラフィは第二王子のリュゼスとは長く一緒に暮らしていたが、これまで第一王子とはほとんど交流がない。

 二人きりで面と向かって話すなど初めてではなかろうか。



「なぁ、弟よ。この国の王のやり方は長く続けていけると思うか?」

「それは……」

(この部屋には二人しかいないと思ってはいるが、迂闊なことを言った途端に兵が湧いて出て反逆罪で捕らえられないとも限らない)

 部屋の端を気にしたラフィの目線にルシウムは気が付いた。


「お前は第二王子のことが好きだろう?」

「それはもちろん!」

 清々しいほどの即答ぶりに目を丸くした後吹き出したルシウムは笑いながら言った。

「だから私は今から王の悪口をおまえに言おうと思うんだよラフィ。リュゼスに心を許しているお前なら、私を捕らえて王に突き出したりはしないだろう?」

「あ」

 ラフィ王子は自分の危惧が第一王子にとっても同じであることを理解した。



「愛されてるね第二王子は」

「本人がそれに気づいてくれるといいんですけどね」

「もっともだ」

(リュゼス兄さんはルシウム第一王子は王にふさわしい立派な人間だと何度も言っていた。信じますからね、兄さん)

 すすめられたグラスを手に取り、一口飲んでからラフィ王子は口を開いた。


「僕は、このままではこの国は滅びると思います」

「なるほど。今後のことを考えると私たちもお互いを知っておいた方が良いだろう。悪口は自己紹介になると言うし、今日は思う存分言いたいことを言ってくれ」

「……悪口は自己紹介。あー」

 自分が今まで王の悪口をどの角度から言っていたか、そして自分が他の者からどう評価されてきたか、思い当たる節がありすぎてラフィ王子は目を閉じた。




 大陸のこと、王を持たなくなった国や、この国の貴族の腐敗などについてひとしきり話した頃、ラフィ王子はベロベロに酔っぱらっていた。

「ラフィお前……こんな軽い酒を一杯だけでこれか?」

「そうれふよ。わはは。僕はいつもこんなもんれす」

「そんなんで今まで夜会やらはどうしていたんだ?」

「あぁそへならエヒカ姉さんが作ってくへたこの手袋にこう……」

 これで飲まず酔わずなんとかやり過ごしていることを一度自慢してみたかったのだ。


「ああ!そうらこれエヒカ姉さんからウシウム兄はんに預かってきらんらった」

 ラフィはポケットから取り出した銀色のアクセサリーのようなものをルシウムに渡した。

「なんだこれは?」

「うふふふ、秘密の鍵れすって」

 怪訝な顔をしてルシウムは銀色に光る不思議な物体を手のひらの上で転がした。


「我が妹君エフィカ姫は病弱と聞いているが……そんなに色々なものを作れるのか?」

「ぁ」

 ラフィの血の気が引いた。


「いや、その手袋、前にリュゼスもしていたな。もっともアイツは幾らでも飲める質だが。信用ならぬものに注がれた酒はその手袋で避けていると言っていた」

「あーウゼス兄はんもウシウム兄はんに自慢したんら!……いあ。いあ姉は病弱でれすね。病弱なんれすよ!」


「そうか、なるほどなぁ。じゃあリュゼスが嬉しげに自慢してた刃入りの髪飾りやら時と方角がわかる腕輪なんかもエフィカ姫作だったんだな」

「あ……えあ」

「ああ、今日リュゼスがつけていた愉快な面もそうか」

「……あい」



 姉の秘密まで第一王子に知らせてしまったことに動揺しているラフィに、ルシウムは自分で茶を入れすすめた。

 ラフィは王子がそんなこともするものなのかと、その逐一美しい所作に見惚れていた。

 自分は何をするにもそんなにきちんとした動きなど出来ていないだろうし、そもそも一人で茶を入れたことなどないのである。


「普段はこういうことをすると怒られるのであまりやらないんだがな」

「ありがとうごらいます」

「自分で入れる方が自分の好みにできて良いと思わないか?」

「そっか……そうれすね」

「自分の好みの茶がでてくるまでカップを割り続けるような人間もいる」

(それは父君ですね)

 と、ラフィは思ったが口には出さなかった。



 眉間を押さえて長いため息をついた後、ルシウム王子は笑顔を作った。

「ところでお前縁談が山程来ているだろう?そろそろ決めてもいいのではないか?」

 不意打ちにラフィは茶を吹きそうになる。

「へえとあの、第二王子もまだれすので……」

「あれはエフィカ姫とできてるんだろう?」

 これはさすがに茶を吹いた。


「私はてっきり病弱なエフィカ姫にリュゼスが一方的に熱を上げているものかと思っていたんだが。そうでもなさそうで良かったよ」

「あの……あ、姉は病弱なんれす!」

「ああ、安心しろラフィ。私はエフィカ姫をどうにかするつもりはないよ。血は繋がってなさそうだし良いんじゃないかと思うんだけどなぁ。まぁ父君が簡単に認めるとも思えんので今は難しかろうが。リュゼスには幸せになってもらいたいんだよ。お前もそうだろ」

 ラフィはもはや頷くしかなかった。



「ラフィ、そう不安そうな顔をするな。そうだ、お前にも一つ秘密をやろう。今、わが妻エディーナは故郷に帰っていてな」

 ルシウム王子の妻はソアレ侯爵の娘である。

 もともとエディーナは一国の姫だった。

 つまり、この国に飲み込まれた小国の一つである。

 姫を差し出し国の名を捨て、その地の一部を侯爵領とすることで大国に組み敷かれながらもその民を守ろうとしたのである。


 当初は国王の六番目の妃にという話もあったというが、婚約者を病気で失っていたルシウム王子の妻となった。

 いかにも政治的な結婚であったが、二人は仲睦まじいと評判である。

 ちなみにその後、国王はエディーナ姫よりも若い娘を妃に迎え、昨年第四王子ロレルが誕生している。

「さっき侯爵夫人が急病で危篤とお聞きしましま」

「うむ。まぁ危篤なんだが夫人はじき回復するよ。そうとでも言わないと故郷に帰してももらえないからねエディーナは」

「あぁ……」

 つまり、未だ立派な人質でもあるのだ。



「そして、とっておきの秘密だ。次の夏には我が子が産まれる」

「え、おめれとうございます!」

「ここはいわば敵地だ。気が休まりもしないだろう?愛される者に囲まれて穏やかな環境で子を産んでもらいたいんだよ。正直なところ、私もいっそあちらで暮らしたいくらいだ。だから王にも知らせていない。くれぐれも内密にな」

 唇に指をあて微笑むルシウム王子を見て、

(この人はきっと良い親になるんだろうなぁ)

 と、ラフィは思った。

 自分の両親とは天と地の差だと。



 渋い茶を飲みようやく酔いも覚めてきたラフィにルシウム王子はあらためて問う。

「それで誰か意中の者などいないのかい」

「ははは…そうですね」

 これからの身の振り方だ。

 出かけている間に山積みになっていたらしい縁談のどれかを受けて国内の令嬢と結婚すれば貴族のゴタゴタと付き合い続けることになる。

 いっそ海の外で何かないかと思ったが、これという出会いもなければ、あちらはもはやこんな島の王家との縁談など必要としていなさそうだった。

 正直いっそ王子などやめて田舎に引きこもりたい。

 考えれば考えるほど淡い金色の、幼いあの子の顔が浮かぶ。


「あの……ですね」

「お、なにか思い当たるところが?」

「えへへ、プリエラ王国に婿入りしたいな〜なんて」

 半ば冗談のつもりで笑いながら口にしたが、第一王子は予想外の真顔になった。


「お前それは……だからか!それでリュゼスが血相変えて反対してたんだな」

「へ?」

 ラフィ王子はまだ何も知らなかったのである。




次)呪いの魔法石

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