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四人の魔女の物語  作者: nyaa
小国
13/47

13 ロルギニス王国

前)国と金の目

 やわらかな木漏れ日と揺れるプリエラの花。

 王妃の部屋の窓から聞こえる小さなアリルの泣き声。


「エフィカ姉さまはリュゼス兄さまとつながってるのよ!」

「ふふ。イレアったら。私と兄様は兄妹なのよ」

 赤い髪の少女がイレアを抱きしめながら笑う。

「イレアの糸は誰に繋がっているのかしら?」

「わたしの糸はねぇ!ラフィ兄さまに繋がってるの!」

「あら!じゃあ私とイレアはいつか本当に姉妹になれるわね!」


 黒髪の少年が小さな弟を肩に乗せてやって来る。

「兄様!ラフィ!イレアの運命の糸はラフィに繋がってるんですって!」

「そうなのか!良かったなラフィ」

「運命の糸ってなあに?」

 肩から降ろされながら問う弟に少女は微笑んだ。

「いつかイレアがあなたと結婚してお妃様になるのよ」

「あ、こらラフィ危ない」


 兄の肩から降りそこなってべしゃりと転げた弟はそれでも笑顔だった。

「ほんとう?イレアぼくとけっこんしてくれるの?」

「うん!」

「もうラフィったら。ボタン取れちゃってるじゃない」

 赤い髪の少女は弟の服についた土を払った。


「きれいねぇ」

 落ちたボタンを拾い上げ、しげしげと眺めるイレアに黒髪の少年が言う。

「ああそうか、この国には海がないから貝のボタンはめずらしいかもしれないね」

「うみ?うみにはこんなきれいなものがいっぱいなの?」

「貝もきれいだけど海もキラキラしてきれいなんだよ。イレアにそのボタンあげる。いつか一緒に海に行こう!」

「ほんとう?約束ね!じゃあ……あなたには私のお守りをあげるわ!」




 出立の日の朝、イレアは子どもの頃の夢を見た。

 幸せな目覚めだった。

 けれど。

「ああ、思い出したら憂鬱になってきたわ……」

 イレアは顔を覆った。



 あの後、彼らの従者たちがやってきた。

 そして、やたらと大きな男たちは嘲笑いながらイレアに言った。

『お前のような小国の田舎者がうちの王子に嫁げるわけないだろう!』


 あの時あの兄妹や他の従者は怒ってくれたけれど 、馬鹿にされ笑われたことは何年経とうが鮮明だ。

 かなり小さな頃のことだし、記憶なんて不確かなのではないかしらと時々思いながら、何度も、何度も思い返してしまい、そのたびに胸を痛めている。

 もともと私は魔女なのに青い髪も持っていないし、糸を見る力だって中途半場なのだろうと、王になるため強く保とうとする自信すらすり減ってしまう。


 あの糸が本当に運命の糸であったとしても実際大国の王子をこの国にくださいとは簡単に言えない。

 私はプリエラの王になる運命なのだから。


 大国、ロルギニス王国はプリエラにとっては恐ろしい存在だ。

 この十年だけでも小さな王国が次々とロルギニス王国に飲まれた。

 国境は広がり、プリエラにどんどん近づいている。



 イレアは傍らの机の紙束を手に取った。

 ドリン大臣がまとめてくれたロルギニス王国の資料である。

 これまでの思惑が甘すぎるものであることをイレアは痛感していた。



 ロルギニス王国の王子と姫はプリエラに来た三人だけではない。


 一番目の妃と姫はずいぶん前に事故で亡くなられてしまったそうだ。

 おととし亡くなられた二番目の王妃は大陸から嫁いで来た人で子が二人。

 二番目の姫は大陸の大きな国の公爵夫人になったとか。

 第一王子は島国の姫を妃に迎え、その国名は今は地図から消え、ロルギニス王国の侯爵領になっている。


 三番目の妃は第二王子を産んだ時に亡くなっている。

 その王子がかつてプリエラに来たリュゼス兄様。

 従軍されて数年前に大怪我をなされたとか。

 そして、四番目の妃の子が、三番目の姫エフィカ姉様と、この数年大陸に渡られていたラフィ第三王子。


 その後にも五番目の妃には姫がいて、六番目の妃が昨年第四王子を出産と……。



「この新しいお妃様は私と歳が変わらないじゃないの!」

 イレアは慄いた。

「それにしても、うちと違って王国維持は安泰そうだわね」

 イレアの眉間のシワが深くなる。


 プリエラの王と王妃は別れの時まで仲睦まじく、愛し愛されるものは幸せなのだとイレアは思っていた。

 だからこそ、モジュと王妃の間に光る糸が見えていても、それがそういう意味の糸だとは到底思えなかった。

 王国を維持しようと思えばこそなのだろうが、ロルギニスのようなやり方で、王はともかく妃たちの人生は果たして幸せなものなのだろうか。



 大国はなにもかもこの小さな国とは規模も質も違う。

 そのうえ王は大の魔女嫌いとある。

「大国まで行って王に会ってしまったら、魔女嫌いならそれだけでもうどんな目に会うかわからないじゃない」

 魔女と知られれば殺されるかも知れない。

 とはいえ、うっかりただの若い姫として見初められでもしたらそれはそれでお終いだ。

「とにかく王には会いたくないけど……母様はどこまで行く気かしら。城まで乗り込んでないといいけど」



 国境近くまで行って、王妃に会えなければ旅商人パレチアの戻りを待てば直接第三王子と会える方法を教えてもらえるのでは。

 いや、だから、第三王子に会ったところでこの小さな国に来てくださいって言える?

 言えないでしょう?



「ああ……考えれば考えるほど気が重いわ。母様がまだ国内にいますように」

 イレアはため息をつきながら立ち上がり、一呼吸ののち大きく背伸びをした。



次)第三王子ラフィ

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