マークの塔 3話
「綺麗だ・・・」
「え?・・・」
「ほら、麦畑が黄金色に光っている・・・
この時期が一番見応えがあるんだ」
「そう」
マークの表情を伺い心底この風景に心を奪われているな、サラはそう思った。
この塔からは遥か東のロンロン村を見渡すことができる。
「ロンロン村があんなちっぽけに見えるね」
「あぁ、シンボルの願いの柱もあんなに小さいよ」
そういうとマークはくすくす笑った。
「俺さ、いつか旅してみたい・・・いろんなもの見てきたい。」
マークはそう言いすぐにうつむいてしまった。
「だけど・・・」
だけど・・・その続きはサラにもわかっていた。
お互い恐る恐る振り向き塔の西側の窓を覗いた。
そこには暗く、深い森が永遠と続いていた・・・。
広い世界へ旅をするには、この森を越えなくてはならない。
幼い頃から両親には散々言い聞かせられていた。
「あの忌まわしい森へは近づくな」と・・・
だから村を抜け出しこの塔まで来る事など本当はいけない事なのだ。
充分わかっていた・・・わかっていたが。
深い森をじっと見据えていたマークの瞳がかすかに光った、
サラはその一瞬を見逃さなかった。
「この森を抜けた人間がいる」
「まさか!」
あまりの発言にサラはハッとした。
「俺の知る限り・・・一人だけ・・・たった一人だけいる」
マークは自信に満ちた顔をした。
「まだ・・・まだ信じているの?」
マークにはそう言うサラから一滴の涙がこぼれたような気がした。
「だから・・・だから俺もいつかこの森を越えたい」
もうサラにはマークの顔がぼやけていた。
ただ深い森を睨んでいることだけはかすかにわかった。
そして数秒たった後にマークがいった。
「静かに!」
そういってサラの視界からマークが消えた。