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7話 肩透かし


 アロラが取り出した転移アイテムの輝きが、ルーファス、アロラ、クレアの三人を包み込んだ。完全装備で身を固めた彼らは、迷宮都市への任務に備えていた。


「それじゃあ、出発ー!」


 アロラの明るい声が響き、光が弾けた。次の瞬間、三人は廃墟と化した空間に立っていた。


「これは……」


 ルーファスが周囲を見渡しながら呟いた。


「んー?」


 アロラが首を傾げた。


「転移に失敗したの?」


 クレアの声には苛立ちが滲んでいた。 しかしアロラは首を振って否定した。


「いや、座標はここで合っているわ。襲撃を受けたのかもね。反生命組織ジェノバか、ギルド連合かは分からないけど」

「まずは血の女王を見つけることが優先か」


 ルーファスは冷静に状況を判断し、廃墟の散策を始めた。かつて豪華絢爛だったであろう装飾は粉々に砕け、血が飛び散り、床を汚していた。だが、死体は一つも見当たらない。異様な静けさが漂う中、彼らは玉座の間にたどり着いた。 そこには、血の女王エリザがいた。


 心臓に杭を打ち込まれ、手足を切り落とされ、血が受け皿に溜められている。まるで何かの装置の一部として利用されているかのようだった。


「あ、血の女王」


 アロラが軽い口調で言った。


「ならすぐに助けないと……」


 クレアが駆け寄ろうとした瞬間、ルーファスは異変に気づいた。エリザはまだ動ける。瀕死の吸血鬼が取る行動——それは血肉を食らい、力を取り戻すこと。クレアを襲う可能性に、ルーファスは即座に反応した。


「クレア!」


  血の女王の腕が再生し、クレアを狙った。ルーファスは聖剣を振り、彼女の攻撃を弾いた。暴走状態のエリザは、紅い髪と瞳をギラつかせ、再生しながら三人に向かって襲いかかってきた。クレアを執拗に狙うその動きに、ルーファスは迎撃を続けた。


「待って、殺さないで」


 アロラの声が鋭く響いた。


「しかし! この状況では……!」


 ルーファスは歯を食いしばりながら、攻撃を躱し、時間を稼いだ。


「クレアちゃん、手を出して!」

「え?」

「早く!」

「分かった!」


  アロラの指示に従い、クレアが腕を差し出した。アロラは躊躇なくその腕を切断し、血の女王の顔面に叩きつけた。エリザベートは新鮮な血肉を食らうと、敵意が急速に薄れ、暴走状態が解除されていった。


「よし!」


 アウロラが満足げに言った。


「よしじゃないんだけど!? 人の腕に何してるのよ!」


 クレアは激昂し、アロラに蹴りを叩き込んだ。 アロラはすぐにクレアの腕を再生させ、にっこり笑った。


「ごめんなさい、はい、これで元通り」

「うわ、腕が元通りになった。気持ち悪! こわ! 本当に常識が通用しないわね、貴方達」


 クレアは呆れ顔で呟いた。 ルーファスはそんな二人を横目に、油断なく血の女王を見つめて、問いかける。


「血の女王、私の声が聞こえますか?」


  エリザは弱々しく答えた。


「ええ、聞こえているわ。ごめんなさい。迷惑をかけてしまったようね」

「大丈夫です。状況を聞いてもよろしいですか?」

「ええ、大丈夫」


 エリザは魔力で椅子を出現させ、皆に座るよう促した。彼女のボロボロだった姿は、徐々に修復され、元の威厳を取り戻しつつあった。


「私達は、謎の勢力に攻撃を受けたの。部下の人間や吸血鬼達も頑張ってくれたけど、壊滅したわ。私も参戦したのだけど、全て無効化され、消滅した。こちら側の攻撃が全て相殺されてしまったの。そして私は手足を切られて、磔にされた」

「攻撃の相殺……無力化、無効化……厄介ですね」


 ルーファスは眉を寄せた。


「ええ、魔力を用いた攻撃や、異能が通じないとなれば後は純粋なフィジカルが物を言うことになるわ。その点でも奴らは強かった」

「フィジカルが強い……ということは」


 ルーファスは一つの可能性に思い至った。


「反生命組織ジェノバ?」

「かもしれないわ。相手の攻撃の無効化能力は分からないけど……うーん」

「これは、バンカーバスターとナパームコースかもしれないですね」


 ルーファスが呟くと、アロラが頷いた。


「血の女王様も確保したし、それが無難かもしれないわ。とんぼ返りになるけど、一度、ミッドガルへ戻りましょうか。血の女王様もご一緒にどうです?」


  エリザは小さく頷いた。


「ご同伴に預かるわ」

「じゃあ、帰宅しましょう」


 再びアロラの転移アイテムが光り、四人はミッドガル聖教皇国へと戻った。 ミッドガルに到着すると、即座に神祖の親衛隊が現れ、エリザに「日光防御リング」を装着させた。


「日光防御リング……これで吸血鬼も外を歩けるようになるの? ミッドガルの技術はすごいわ」


 エリザは感嘆の声を上げた。


「ええ、神祖教皇のおかげで様々な技術が発達してますから」



 ルーファスが答えた。 親衛隊に案内され、四人は神祖と対面した。全員が膝を折り、血の女王エリザもまた、躊躇なく傅いた。


「お帰り、みんな。本当は迷宮都市で観光気分と任務で気楽に過ごして欲しかったんだけど、予想外の存在が生まれたようだね。反生命組織ジェノバ。彼らの使う相殺・無効化・無力化・消滅は厄介極まりない。なので、彼らとぶつからず、すぐに帰ってきた判断は最善だった」


 神祖は軽い口調で言った。


「既にバンカーバスターとナパームを搭載した機体を飛ばしている。反生命組織を語る彼らには文字通り消えてもらうよ。迷宮都市たるダンジョンも吹き飛んでいるし、あそこに価値はない」


パン、と手を叩き、神祖は続けた。


「と、いうわけで手が空いた君達のチームは、テロリストと戦って貰うことになった。詳細は追って報告するから、よろしくね。あ、血の女王ことエリザには手伝ってほしいことがあるから、研究所の方に案内してほしい。ルーファス、頼んだよ」

「お任せください」

「では解散」


その言葉で、場はお開きとなった。ルーファスはエリザを研究所へ案内する役割を担い、アロラとクレアは新たな任務の準備に取り掛かることになった。



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