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六話 書類仕事

 事務仕事の山をルーファスは文句を言わず淡々片付けていた。

 アロラは『面倒』の一言で消えてしまったし、クレアは『習ってない』と戦力外通告だ。ルーファスは書類仕事をしながら、その書類の内容で劣等感を刺激されていた。


(この施策……俺が自分で考えて提出したものか。それが全て却下されて優秀な施策が上がってきて、それを無能な俺が採用するのか。本当にミッドガルは良い人材が揃ってる)


 自分より優秀な人物は沢山いる。

 最初は良かった。思いつく限り強くて、格好良くて、理想の英雄騎士をやってれば拍手喝采で、尊敬された。しかし今は求められるハードルが上がり、『ルーファスの知識と経験』が通用しない。


 所詮は一般人の凡人上がりである。

 貴族のエリートや、専門職を目指して頑張った人間には到底及ばない。そもそも現状維持に精一杯で頑張れないから一般人なのである。

 できるやつがいるなら、できる人間に任せれば良い。と自ら学ぶことを放棄するのは早かった。


 しかし、できるやつをみると嫉妬するし、気分が悪い。ちゃんと頑張っている光の人間たちに対してそんな醜い感情を抱く自分が情けなくて嫌になる。だけど奮起できるほど強い人間でもない。


 だから神祖の下賜するものに逃げて、ストレスと折り合いをつけていく。

 自分の無能を仕方ないと諦めて、それはそれとして神の使徒の仕事の報酬でガス抜きを行う。それで回ってしまう低い人間性にも笑ってしまうが、効果的だから諦めるしかない。


(書類仕事も慣れたな……最初は補佐官に教えてもらいながらやってた)


 そんな自分に、過去と比べて成長したのでは? と思うも、否定的な思考が割り込む。


(これだけ恵まれた環境なら、誰でも成長するか。嫌になるな、本当に。慣れて手癖でできるようになったから余計なことを考えてしまう)


 書類仕事を片付けて、固まった体をほぐす為に肩を回しているとアロラが戻ってくる。

 ルーファスは優しく声を掛けた。


「お帰り、アロラ。暇潰しはできたかい?」

「ええ、いろいろとね。土産話とお土産あるけど、いる?」

「頂こう。ん? 話題と物質、両方あるの?」

「ええ、迷宮都市でもらった流行りの自決爆弾」

「理解ができないな。迷宮都市で買ってきた?」

「ええ、ぱっといってぱっと帰ってきたわ。私達を受け入れ先の血の女王様とも謁見して、お話して帰ってきたの」


 ルーファスはアロラのぶっ飛んだ話が、冗談か真実か分からなかった。


「嘘じゃないわよ。ほらこれ。血の女王勢力まで飛べる転移アイテムよ。まぁそれは置いておいて、面白いのは土産話の方よ」

「そ、そうか。聞かせてほしい。どんな話なんだ?」

「ふふ、それはね。迷宮都市で巨大な爆発が起きたらしいの。迷宮都市って、ダンジョンが産業じゃない? それぶっ壊してやろうって勢力がいたのね。ダンジョンで生まれるモンスターの制御を行っていた施設を巨大なエネルギーで丸ごと、ボン!」


 アロラは、ケラケラ、と笑いながら言う。そして、大仰な動作とオペラのように歌い上げる。


「空より迫るは蒼き光。聖なる者を喰らい、悪しき者を滅する断罪と暴虐の弓矢。おお、天から降り注ぐ。怪物を産む母胎を必滅し、邪龍を貪り糧とする罪人は焼き消える。それは正に全てを正す聖なる光。月の女神による慈悲の涙なり……ですって」

「吟遊詩人によるその語りがあるならば生き残りはいたのか」

「そうね。ギルド連合、血の女王勢力、そして反生命組織ジェノバ。この三つの三つ巴ね」

「ギルド連合は冒険者の集まり、血の女王は安息の地で人間と吸血鬼の共存を目指した勢力、反生命組織ジェノバは……反生命組織ジェノバ???? 反生命組織?」


 そのルーファスの反応に、アロラは楽しそうに手を叩く。そして言う。


「そうそう笑っちゃったわ。反生命組織ジェノバは、この世に存在する全ての生命を抹殺し、未来を閉ざす。そして過去へ戻っていって、星の創世記まで遡り、星を喰らうことで生命が存在した残滓すら残らず必滅することを目標とした組織よ」

「化け物過ぎる、な、な、なんだそれは? もうみんなで潰したほうが良いだろうそんな組織」

「それがね、強いのよ」

「強いのか」

「強いの、フィジカルが」

「なら概念系の異能使いを集めて潰せば」

「概念系の異能使い達が協力すると思う?」

「……ダメか」


 概念系の異能……目には見えず実体がない、人には干渉できない世界を縛るルールや法則に作用できる力。

 つまり、妄想や理想を現実にできる現実改変能力者達だ。そんな者達にも基本的に弱点がある。意識外から初見殺しの概念系能力で殺害することだ。


 概念系の能力者とは言われるものの、その本質は現実改変能力の得意不得意が異能と呼ばれるだけであり、自我や自意識を消してしまえば殺せる。

 自動発動型や因果逆転という例外はあるが、少数派だ。


 なので、必然的に奇襲するのが先手必勝となる。そんなリスクを抱える能力者達は、顔や素性を隠す。そして常に不意打ちを警戒する人間不信達だ。あとは単純に現実改変が重複すると、世界が予期せぬ方向性で歪む。


 そんな異能者が協力して任務に参画することは不可能だ。原則として概念系能力者は群れない。


「神祖様から通達がないから迷宮都市で、研究組織リユニオンを壊滅させるのは続行か。気が滅入るな」


 ルーファスはため息をつくと、アロラはルーファスの背後に回り、ゆっくりと抱きしめた。


「頑張って、ルーファス」

「ありがとう、アロラ」

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