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3話:仕事の顔合わせ②


 会議室の空気は、なおも張り詰めたままだった。クレアの困惑した声が響いた後、彼女はさらに言葉を重ねた。


「ルーファス様もアロラも、凄い人材ですよね。そこに私が入るのは、いくら才能溢れる私でも厳しい気がするのですが」


 その言葉には、自信と不安が奇妙に混ざり合っていた。クレアの目は、ルーファスとアロラを見比べ、どこか自分の存在を測りかねているようだった。 神祖は穏やかに、しかしはっきりと答えた。


「そうだね、君は二人に及ばない。様々な観点から考えても不要だろう。だけど、君は『黒龍』の血を引いている。『黒龍』の血はそれほど珍しくないし、適合するのも珍しくない」

「なら、なぜ?」


 クレアの声には、わずかな苛立ちが滲んだ。


「君は、普通に強いからだよ。優れているのも考えものでね。特にルーファスとアロラは派手になりがちだ。雷で敵を皆殺しにするのは得意したり、魔力で虐殺するのは得意だけど、寸止めは苦手だろう?」

「はい」


ルーファスは即座に、真っ直ぐに答えた。


「つーん」


 アウロラはふざけた調子で、軽く舌を出す。 神祖はそんな二人を一瞥し、クレアに視線を戻した。


「そこで、ちょうど良い君に白羽の矢が立つわけだ。最低限の才能に、魔剣騎士としてちゃんと強いけど、ぶっ壊れてはない。それに黒龍の血を共鳴させて見つけるのが役割もある。そこの塩梅が最高でね、君を選出させてもらった」

「ありがとうございます」


 クレアの声は低く、どこか渋々といった調子だった。プライドが高いのだろう。神祖の言葉は彼女の自尊心を微妙に傷つけつつ、しかしその役割を肯定するものだった。彼女は苦々しく頷いた。


「あとは聞きたいことはあるかな?」


 神祖の問いかけに、アロラが手を挙げた。彼女の声は、鋭くもどこか好奇心に満ちていた。


「では、もう一つ。どうして迷宮都市を攻め落とさないの?」


  その質問に、会議室の空気が一瞬重くなった。ミッドガル聖教皇国の力は圧倒的だった。


 第二太陽と星命炉という二つのエネルギー源を背景に、技術と資源で他を凌駕していた。

 第二太陽は、地球の日本が特異点となり、上位次元と接続したことで生まれた無尽蔵のエネルギー供給源。


 星命炉は、地球の生命力を吸収し、それを人類が利用可能な資源に変換する装置だった。だが、生命力の吸収は有限であり、過度な搾取は星そのものを死に至らしめる危険を孕んでいた。


  そのため、第二太陽と星命炉を併用することで、ミッドガル聖教皇国は異世界の土台を家畜化し、持続可能な繁栄を築き上げていた。


 他の地域が大崩壊の傷跡から這い上がるのに苦心する中、ミッドガルは地球の遺産を最大限に活用し、新世界における覇権を確立していた。


 平民で構成された強化兵士、貴族で構成された魔剣貴族騎士団、そして神の力を与えられた神の使徒。圧倒的な軍事力と、神祖教皇を中心とした聖教による団結力。そして、無限に近いエネルギー資源。

 それらが揃っていながら、神祖は世界征服を選ばなかった。


「無駄だからだよ。制圧は用意だ。しかしその後の統治が駄目だ。いくら市民が信仰心があっても、善意が行き過ぎて暴走するか、末端が腐る。あるいは反発され、革命される。上から目線で支配する神に叛逆を、ってね」


 神祖は、ルーファスの疑問に即答した。数千年生きた存在とは思えないほど、その声には人間らしい諦観と皮肉が混ざっていた。


「資源や技術はある程度隔絶している。他の地域は未だにモンスターに手こずる有様だ。しかし生き残っている。それは先天的な異能を持つ者達がいるからだ。だから、必要なのは才能ある優秀な人材なんだよ」


 神祖の言葉は、どこか熱を帯びていた。


「壊れたら直す、穴が開けば埋め合わせる、それができないのが人材の痛い部分でね。いつ、どの時代でも人材不足には悩まされる。そして優秀であれば優秀であるほど、安定した支配を許さない傾向にあるから、僕を認めない。みんな頑張りやさんだから、明日を目指して飛翔するのさ」


  その口ぶりは、自愛と達観が交錯するものだった。まるで、長い年月を生き抜いた者だけが知る、人の可能性への信頼と諦めがそこにあった。


「世界の危機ではあるけど、禍根を残してぐだぐだ内戦するのも面倒でね。下手すれば数百年続いてしまう。やはり平和的な解決が一番だ。つまり特殊チームが秘密裏に潜入し、速やかに研究機関の本部を破壊する。彼らの研究データも欲しいけど、これは欲だ。やめておくこと」

「了解です。そういえば研究組織の名前はなんというのでしょうか?」


 ルーファスが尋ねると、神祖は即答した。


「リユニオン。作戦が困難な場合は空から地球貫通と炎で焼き払うよ。ここにいる面子は不老不死だし、吸血鬼も再生するから平気さ」


 その軽い口調に、クレアが即座に突っ込んだ。


「私は違うんですけど!?」

「冗談。みんな退避させて投下させるよ。タイムリミットは一週間かな。時計を用意しているから、作戦開始と同時に起動させて確認するように」


 静寂が会議室を満たした。質問が尽きたことを確認した神祖は、軽く手を叩き、解散を告げた。 会議室に残された三人は、互いを見つめ合った。ルーファス、アロラ、クレア。


 初対面の三人には、どこかぎこちない空気が漂っていた。だが、ルーファスは理想の騎士を演じることに長けていた。彼は柔らかな笑みを浮かべ、女を惹きつける魔性の魅力を滲ませながら口を開いた。


「自分は、ルーファスで神の使徒をしている。能力は雷を生み出し、操作することかな。大物狩りは任せてほしい。2人も自己紹介してほしいけど、構わないかな?」


 最初に応えたのはアウロラだった。長い深紫の髪を揺らし、彼女は軽く笑って言った。


「私はアロラ。厄災の魔女なんて呼ばれているけど、人を傷つけたりするのは嫌いよ。平穏な毎日が一番だと思う。強いし、特別ではあるとは思うけどね」

「そうか、貴方のような心優しい女性と共に戦える事が出来て嬉しいよ。俺も人を傷つけるのは嫌だ。できるだけ穏やかに任務が終わることを目指そう」

「え、えぇ、そうね」


 アロラは、ルーファスのあまりにまっすぐな言葉に一瞬戸惑ったようだった。彼女は彼をじっと見つめ、探るように言った。


「貴方は厄災の魔女に思うところはないの?」

「そうだな、噂は知っているよ。数千万人を虐殺し、拷問し、国家錬成陣を用いた儀式によって無敵の力を得た魔女。彼女のいる場所は必ず破滅する。故に厄災の魔女……だったかな?」

「ええ、それを知っていて、その対応? 危機感足りないんじゃない? わからないわ」


 ルーファスは穏やかに笑った。


「今は神が選び、チームを組んで同じ任務に挑む仲間だ。過去に何をしていたかなんて重要ではない。勿論、背中を討つつもりなら許しはしないが……少なくともその時までは仲間だ。信じるし、頼る。そして助けるよ」

「…………これも信仰の賜物かしら。貴方みたいな人は初めてよ。でも、うん、信じても見てもよいのかもしれない」


 アロラは小さく頷いた。ルーファスは優しい笑顔で彼女の頭を撫でた。その瞬間、アロラの表情に、微かな幸福感と安心が広がった。


「貴方は頑張ってきたんてすね。俺は貴方を守ります。そして君も俺を助けてくれ」

「ええ、勿論」


その光景を、クレアは冷ややかに見つめていた。そして、ぽつりと呟いた。


「二人で任務やれば?」


 その一言に、会議室に微かな笑いが広がった。


「私はクレアよ。以上」

「そうか、わかった。共に頑張ろう、クレアさん。目指すはパーフェクトゲームだ。文句無しの最高得点を目指そう」

「ええ、そうね。頑張ってね」


 そう言ってクレアは会議室を後にした。

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