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27話:仕事だから

 ミッドガル聖教皇国の超超遠距離加速射出装置から放たれた神の使徒ルーファスは、星の砕けるような速度で古代遺跡タワーに突進する。


 タワーの迎撃システムは、ルーファスを敵と見なし、即座に反応する。漆黒の虚空に浮かぶタワーの表面から、無数の兵器が獰猛な咆哮を上げる。


 ミサイルの群れは尾を引きながら螺旋を描き、レーザー砲台は空間を切り裂く赤熱の光条を放ち、小型追尾ミサイルは蜂の巣を蹴散らしたような狂騒でルーファスを追う。


 タワーの外壁は、ナノマシンで編まれた防御層が蠢き、侵入者を分子レベルで解体しようと輝く。空気は焼け、電磁波が大気を歪め、迎撃の嵐は大洪水を体現するかのように全てを呑み込もうとする。


 ルーファスは、しかし、動じない。彼の不老不死の肉体は、神祖より賜ったエネルギーを纏う。全身から迸る青白い電弧は、神の神経そのものが具現化したかのようだ。ルーファスが両腕を広げると、雷光は網の如く広がり、彼を包む球状のバリアを形成。


 ミサイルがそのバリアに触れた瞬間、電磁パルスが誘爆し、火球と金属片が虚空に散る。レーザー砲台の光条は雷の網に飲み込まれ、屈折し、拡散し、タワーの外壁を焦がす跳弾となる。


 小型追尾ミサイルは、雷性エネルギーの高周波振動に制御回路を狂わされ、互いに衝突し合い、尾を引きながら無秩序に爆発する。


 ルーファスの周囲は、電光と爆炎の嵐が交錯する戦場と化し、彼はその中心で冷たく微笑む。痛みも恐怖も、彼の神聖な使命の前では無意味だ。


 タワーの迎撃システムはさらに激化する。外壁から突き出た無数のガトリング砲が、プラズマ強化弾を毎秒数千発吐き出し、空間を弾幕で埋め尽くす。


 ナノマシン防壁は形状を変化させ、ルーファスを捕らえようと無数の棘を生やす。だが、ルーファスの雷性エネルギーは、それら全てを嘲笑うかのように焼き払う。 バリアの表面で電弧が炸裂し、プラズマ弾は蒸発、ナノマシンは分子結合を破壊されて霧散する。彼の突進は止まらない。


 タワーの外壁に到達した瞬間、雷光が一際強く閃き、衝撃波がタワーの装甲を抉る。ルーファスは肉体そのものを雷の槍と化し、外壁を貫通。


 爆音と振動がタワー全体を揺らし、内部に侵入した彼は、破砕された鋼鉄と火花の雨の中を突き進む。

 タワー内部では、セーファーが待ち受ける。


「来たか、ルーファス」

「さぁ、アルファを返しもらおう」

「それは不可能だな。俺が守っている」

「ならお前を倒して連れて帰るさ」

「いい啖呵だ。相手になろう」


 どうやらタワーに遺された遺産を食らって自己強化をしているようだ。

 今のセーファーの装甲はミッドガル聖教皇国の技術を凌駕する旧世界の遺産の恩恵を持ち、その動きは機械の精密さと獣の獰猛さを併せ持つ。


「聖剣よ、福音を鳴らせ。|草薙聖剣・雷霆墜ちる世界に邪悪なし《クサナギブレード・ケラウノス》」


 ルーファスとセーファーが激突する瞬間、空間は圧縮され、金属の悲鳴と雷鳴が共鳴する。ルーファスの雷性エネルギーは、セーファーの装甲に電流を流し込み、内部回路を焼き切ろうとするが、セーファーは自らのナノ修復機能で即座に対応。


 両者は一進一退の戦いを繰り広げ、タワーの内部構造を破壊しながら進む。

 その奥、アルファ――人質として囚われた存在は、神祖が施した自動防御システムに守られている。


 アルファの周囲を包む光の膜は、旧世界の技術と神聖な技術の融合であり、どんな攻撃も吸収し、存在そのものを「食われる」ことを防ぐ。


 ルーファスはアルファを目指し、雷光を纏いながら突進を続ける。タワーの迎撃システムも、セーファーも、彼の神の意志を体現する雷の前では、ただの障害物でしかない。


 ルーファスは使命と仕事に燃えていた。雷鳴が彼の進む道を切り開く。

 セーファーはルーファスの前に現れ、長刀を構えた。ルーファスは聖剣を抜いて応じた。セーファーの長刀がわずかに炎を纏い始め、ルーファスは聖剣を前に出して構えを取る。


「なんでそんなに格好つけるんだ?」


 セーファーが言った。セーファーは即座に空間跳躍を使い、ルーファスの背後に移動する。長刀を横薙ぎに振り、炎の軌跡を残して斬りつけた。


 ルーファスは振り向いて剣で受け止めたが、炎の熱が剣身を伝って手に伝わり、皮膚が赤く腫れる。ルーファスは後ろに跳んで距離を取ろうとしたが、セーファーは追撃で風を長刀から放ち、ルーファスの体を後ろに押し戻した。


「力は力。誰がどんなふうに手に入れようが関係ない。大切なのはその力の使い方だろう」


 セーファーが続けた。セーファーは長刀を振り上げ、氷の刃を地面から複数生成してルーファスに向かって飛ばした。


 ルーファスは盾を構えて防いだが、氷の刃が盾に突き刺さり、冷気が盾を通じて腕を凍らせた。ルーファスは盾を振り払って氷を落とし、剣を突き出して反撃したが、セーファーは空間跳躍で横に移動し、長刀に雷を纏わせてカウンターで斬り下ろした。


(怠すぎる。なんだこいつ)


 雷の衝撃がルーファスの剣に伝わり、体全体が痺れて動きが一瞬止まった。セーファーはアルファを指す。少女は鎖で繋がれ、地面に座らされていた。


「お前の仕事はアルファの奪還ではないのか? なんで格好良く勝とうとしている?」


 セーファーが言った。ルーファスは痺れを振り払い、剣を大きく振り回してセーファーに迫った。セーファーは風を起こしてルーファスの剣を逸らし、長刀で炎の波を放つ。


 炎がルーファスの胸鎧を焦がし、煙が上がった。ルーファスは後退しながら聖剣で炎を払い、足元を固く踏ん張って剣を突き刺そうとしたが、セーファーは空間跳躍で上空に移動し、落下しながら氷の槍を投げつけた。


 槍がルーファスの肩に刺さり、血が流れ出した。


「テロリストが力の振るい方を語るとはね。世界中の人を虐殺していて、よくそんな台詞を言える」


 ルーファスが返しす。セーファーは着地と同時に長刀を回転させ、雷の電撃を周囲に散らした。ルーファスは跳んで避けたが、電撃の余波が足を打って転倒する。

 セーファーは追撃で空間跳躍を連発し、ルーファスの周りを瞬時に回りながら風の刃を連続で放つと、ルーファスは即座に反応した。


(動きが面倒臭い過ぎる……しかもちょっと強くなってるし)


 風の刃がルーファスの鎧を切り裂き、皮膚を浅く裂いた。ルーファスは立ち上がって剣で風を切り払ったが、セーファーの長刀が炎を纏って直後に迫り、ルーファスの腕を焼く。


「分かっているさ。私は多くの無辜の人を犠牲にした。そこに正当性を主張するつもりはない」


 セーファーが言った。セーファーは長刀に氷と雷を交互に纏わせ、連続斬撃を繰り出した。最初の一撃は氷でルーファスの剣を凍らせ、次の雷で凍った剣を弾き飛ばそうと構える。


 ルーファスは聖剣腹で攻撃を受けて、衝撃で後ろに数歩下がった。セーファーは空間跳躍でルーファスの死角に入り、風を巻き起こしてルーファスの体を浮かせ、長刀で炎きを腹に叩き込んだ。


 ルーファスは息を詰まらせ、膝を曲げて耐えた。


「パンを焼いたり、荷物を運ぶ。そういう何でもない仕事をやる人々を守るのが俺の役目だ。世界を回すのは常に民衆。お前はそういった人を殺す。だから俺は倒す」 


 セーファーが続けた。ルーファスは反撃に転じ、剣を大きく振り上げてセーファーの長刀を弾こうとしたが、セーファーは空間跳躍で避け、即座に背後から雷の斬撃を放った。


 雷がルーファスの背中を走り、鎧が焦げて煙を出した。ルーファスは振り向いて雷性質のエネルギーを叩きつけたが、セーファーは風でルーファスの動きを遅らせ長刀の氷で足を凍結させた。

 凍った両足が重くなり、ルーファスの動きが鈍くなる。


「なるほど。俺を倒すか。ならお前は何だ?」


 セーファーが言った。セーファーは長刀を振るい、炎と風を組み合わせた渦を生成してルーファスを包んだ。渦の熱と風圧でルーファスの視界が歪み、体が熱風に煽られた。


 ルーファスは剣で渦を切り裂こうとしたが、セーファーは空間跳躍で渦の中に入り、雷を直接長刀から放ってルーファスの胸を打った。衝撃でルーファスが吹き飛ばされ、地面に転がる。


「なに?」


 ルーファスが返した。セーファーは追撃を続け、氷の刃を地面から生やしてルーファスの足元を封じ、空間跳躍で上から雷を落とした。


 ルーファスは転がって避け、剣を投げつけたが、セーファーは風で剣を逸らし、長刀の炎で剣を溶かしたのだ。。ルーファスは素手で聖剣を構え直したが、セーファーの連続空間跳躍で位置を読みきれず、風と氷の攻撃が体を何度も打つ。

 血が飛び散り、息が荒くなった。


「……クソっ」

「神祖から力を賜り、神の使徒として活躍する。ここまでは良いだろう。派手に戦うのも仕事の一つだろうし。しかし、この場面ですることなのか?」

「仕事だから、やるしかない」


 セーファーが言った。ルーファスは息を切らしたが、剣を拾い直して立ち上がった。セーファーの長刀が再び炎を纏い、空間跳躍の軌跡が残るように動き、ルーファスの周りを高速で回った。


「…………」


 ルーファスは黙った。セーファーは長刀を構え直し、空間跳躍を繰り返してルーファスの周りを回った。最初に風でルーファスのバランスを崩し、次に氷で足を滑らせ、雷で動きを止めた。


 ルーファスは聖剣で防ごうとしたが、炎の長刀がルーファスの聖剣を貫通し、肩を深く切った。


「アルファは世界の命運を握る少女だ。それを奪う奪われる瀬戸際で本気を出さずにどうするよ」

「確かにその通りなんだけどさ!! こっちも立場があるんだ!」


 セーファーが叫ぶ。セーファーの攻撃が続き、ルーファスは防戦一方になった。長刀の炎がルーファスの肩を何度も掠め、熱で皮膚が剥がれ、風が体を押し倒し、雷が剣を弾き、空間跳躍で位置を変えながらの氷が足を凍らせて動きを封じられてさまう。


 ルーファスは血まみれになり、ついに膝をついた。セーファーの長刀がルーファスの首元に止めを刺すように構えられた。


 ルーファスは首切られるも、膝をついた状態から立ち上がり、聖剣を握り直す。不老不死だから死なないのだ。


(首を切られるの痛いんだよ)


 剣身が輝きを増し、周囲の空気が震えた。


「ならば、本気で見せてやる!」


 聖剣に、破邪を祓う草薙の剣の特性と、全てを焼き尽くす全能神の雷霆の破壊力が付与された。


 剣から青白い光と雷鳴のような音が漏れ、地面が焦げ始める。ルーファスは聖剣を大きく振り上げ、セーファーに向かって振り下ろした。


 剣の軌跡に雷霆のエネルギーが走り、周囲の空気が焼け、地面が割れる。セーファーは空間跳躍で移動し、呼び寄せたアルファを自分の前に引き寄せて盾にした。


「アルファを盾に……いや、自動防御の破壊を俺に!」

「全く、滑稽だ」


 アルファの体は自動防御のバリアに覆われ、薄い光の膜が張られた。セーファーはそのバリアを破れないと知っていたが、ルーファスのエネルギー出力ならば破壊可能だと判断していたのだ。


 ルーファスはセーファーの意図に気づき、聖剣の方向を急変させた。剣を横に逸らし、地面を叩きつけた。だが、エネルギーの余波が広がり、アルファにも被害を及ぼす。


 アルファの自動防御のバリアが砕け散り、アルファの体が衝撃で震え、皮膚が裂けた。


「愚かだな、ルーファス。さて、アルファ。食らわせてもらう」


 セーファーはアルファに近づく。「させない」ルーファスは聖剣を投擲した。聖剣が回転しながらセーファーに飛ぶ。セーファーは長刀で聖剣を弾き飛ばし、体勢を崩して後ろに下がった。


 その隙にルーファスはダッシュでアルファに近づき、アルファを抱きかかえて後ろに引き戻した。アルファの体は血まみれで、腕の断面から血が流れ続けていた。


「腕を……引きちぎってたのか」

「正解だ。まさか奪い返されるとは思わなかった。やるな」 

「それはどうも」


 セーファーが称賛した。しかしセーファーの手には新鮮な腕が握られていた。抱きかかえたアルファを見ると、右腕が引きちぎられ、血が噴き出している。アルファの顔が痛みで歪んだ。

 ルーファスは優しく声を掛ける。


「すまない、アルファ。すぐに終わらせる。耐えてくれ」


 ルーファスはアルファを地面に優しく置き、全身にエネルギーを纏わせた。体が雷のように輝き、高出力エネルギーが皮膚から噴き出していく。


 草薙の剣の逸話から派生した破邪を祓う力が周囲の空気を浄化し、全能神ゼウスの宇宙を焼き尽くす雷霆が体を包んだ。


 ルーファスの筋肉が膨張し、目が光った。対して、セーファーはアルファの腕を口に含み、噛み砕いて喰らった。


 血が口から滴り、セーファーの体が震え始める。皮膚が鱗状に変わり、背中から翼のようなものが生え、爪が伸び、手足がドラゴンのように変形した。


 体全体がドラゴン人間のような姿になり、目が爬虫類のように細くなった。


「素晴らしい力だ。これが黒龍ウィルスに適合した末に手に入る力。それを越えた超人の力か。全身喰らえばどれほどの力が手に入るか楽しみだ」

「それは不可能だ。俺はお前に倒される」

「では、試してみろうか」


 ルーファスとセーファーが激突した。ルーファスは拳をエネルギーで纏わせて突進し、セーファーの胸を殴った。


 衝撃でセーファーの体が後ろに下がり、鱗が剥がれた。セーファーは長刀をドラゴンの爪で強化し、空間跳躍でルーファスの横に移動して斬りつける。


 ルーファスは雷霆のエネルギーで爪を弾き、破邪の力でセーファーの翼を焼く。セーファーは炎を口から吐き、ルーファスの体を包んだが、ルーファスは高出力エネルギーで炎を押し返し、拳でセーファーの顔を打った。


 セーファーの鼻から血が飛び、空間跳躍で距離を取ったが、ルーファスは追撃で跳躍し、膝をセーファーの腹に叩き込む。


 地面が陥没し、二人の体が絡み合って転がった。セーファーの爪がルーファスの肩を切り裂き、ルーファスの雷がセーファーの体を痺れさせた。

 両者とも血を流し、息を荒げながら立ち上がる。



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