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15話:英雄扱い(鍍金)


 ルーファス、アロラ、クレアに与えられたチームメンバー用の控室。


『聖騎士ルーファスの大活躍! 研究所を襲ったテロリストを見事、殲滅!!』


 そういう見出しの記事を読みながら、果物を食べる。そばにはアロラがいて、彼女もソファーに座って何かよく分からないパズルを解いている。


 ルーファスを賞賛する国家情勢を確認しながら、自分が上手くやれた事に安堵した。


「やっと現実感が出てきたよ。ティルフィング隊長と対等に渡り合ったセーファーを撃破できたのは本当に良かった」


 神剣ティルフィングは神の懐刀である。その強さは絶対にして最強無敵。今のルーファスでさえ圧倒的な力の前に何もできず、地面に転がされるだろう。


 ルーファスの強みは、派手な見た目と、雷性質のエネルギー放出である。つまりそこに精神力や技術が介在する余地はない。だから雑に強くて崩しにいく利点がある。その反面、拡張性に乏しく限界がある。


 対して神剣ティルフィングはどうか?

 肉体の基礎性能はルーファスと同等くらいだ。与えられた異能もそれほど特殊でも無ければ、強いものでもない。しかし彼は、様々な事象を見ただけで技術的に再現することができるし、即興の思い付きを剣術で実現する得意とする。


 次元を割いた斬撃はセーファー戦で披露していたし、あるいは雷や炎を生み出すことも可能だろう。そして時間操作や因果律、空間支配などの概念自体に対しても、剣術でどうにかできてしまう。


 強い弱いを越えた天性の才能と、神と共に歩み神の剣として錬磨された剣術。不老不死となり絶大な力を得てからも無限の努力を続け、死線を越えた経験と、死んだら死んだで復活して神祖と反省会を行って、自分の敗因を学ぶ姿勢。


 それが神剣ティルフィングの強さであり、フィジカルと能力で無双するルーファスとは正反対の強さだった。

 そこまで考えて、ルーファスは凹む。


 情けない。神祖から割譲した力を得て、盛り上がって格好つけて敵を倒す。確かに問題はないし、衆生のテンションをあげる興行としては大盛況ではあるのだが……だが、もっと、こう、なんというか。


 ちゃんとした自分の力で敵を殲滅できればさぞ気持ち良いことだろう。だけど努力するのは面倒だし、苦労するのも嫌だし、怠い。


 はぁ、ティルフィング隊長と比べて自分は……。


「アロラ、ぱーんち!」


 ポコッ、と音を立ててルーファスの後頭部を軽い衝撃が襲った。後ろ見ると、腰に手を当てていかにも『怒ってますよ!』と主張するアロラが立っていた。

 ルーファスは戸惑いながら、問いかける。「な、なにかな。アロラさん」


「また一人で悩んで、病んでたでしょ」

「うっ、まぁ、はい」

「悩んだ反応を話して」

「はい」


 お怒りのアロラに、ルーファスは粛々と従った。


「俺の仕事は完璧でした。人々から褒められる活躍をした。そしてそれを受け取り、みんなが望む理想の騎士像を演じきった」

「そうね。エリザベートやアルファ達から話を聞く限りまさに英雄だったと聞いてるわ。エリザベートは特に貴方に熱入っている様子だったし」

「そうだったんですか? それは有り難いですが。ですがそれは、神による性能のアップデートのお陰で俺の頑張りは無い」

「まぁ、戦闘に関してはそうでしょうけど」

「ええ。反面、神剣と称されるティルフィング隊長は凄かった。あのセーファーを技術で圧倒していた。一度目の襲撃で倒さなかったのは再戦させて、俺に華を譲る為でしょう」

「ボロボロになりながら、気合と根性で研究所を守りきった聖騎士が、次の戦いでリベンジを果たす。そして今度は完璧に研究所を守り切る。そういうストーリーを神は望んでいたと?」

「ええ、恐らく」

「んー、そうねぇ」


 アロラは考える。

 神祖の考えを予測する。

 別にどっちでも良かったのではないか? と。

 最近の神祖はルーファスを育てることをメインとしている節がある。もちろん国を運営する仕事などと並行しているだろうが、凡人に才能を与えて運用するのは今まで無かったコンセプトだろう。


 ティルフィングなどは、才能ある存在に神の力を与えて、更に努力させて神の使徒の戦闘担当・神の剣に育て上げた。他にも色々と使徒には担当がある。それはつまりコンセプトが明確であるということ。


 凡人のルーファスは、謂わば新世代の神の使徒である。だからこそメンタルを揺さぶる試練を与えて、その反応や経過を観察している可能性も十分に存在した。 


 現在進行系で『神の使徒・広報担当』であるので、次の凡人を育てるノウハウを蓄積している可能性は十分存在する。するが、ルーファスほどの人材を使い潰すほど神の手駒が揃っているとは思えない。

 だが、確かなことはある。


「神は性格悪いからあり得るかも」

「不敬罪で首飛びますよ」

「大丈夫、大丈夫。不死だから」

「不老不死ジョークは使いところが限られますね。ブラックジョーク?」

「磔にされて、石投げられて、燃やされたこともあるし」

「ダウト。貴方がそんなことになるわけはない。むしろそういうことをしようとした相手を皆殺しにするタイプでしょう」

「正解。火炙りは嫌だし、害を与えてくるなら殺してやったわ。ざまぁないわね、私に逆らうから死ぬのよ」 


 ルーファスは嘆息する。


「怖い人だ」

「だって災厄の魔女だもん」

「怖すぎる。でもメンタル病んで自殺目指したり、封印されようとしたんですよね」

「なんで知ってるの?」

「神の使徒の情報閲覧権限の範囲にありましたけど」 


 アロラは大きくため息をついた。


「なんか、すいません」

「まぁ、良いけどさ。どーせ私は原初の人類やってる癖に雑魚メンタルの塵屑よ。その時代の人と関わるのが嫌で自己封印して時間飛ばそうとするし、そしたら封印が意外と解けなくて焦ることになるし、自殺の方法を調べたり、それを実行したら周囲を丸ごと巻き込んで被害甚大で、メンタル粉砕。ついた渾名が厄災の魔女よ。どう? 笑えるでしょ」

「笑えないけど、純粋に頭悪いなって思いますね。最初の頼れるお姉さん感がゴリゴリ減っていって、残念なお姉さん感が増していきます。なんか、全体的に情けない雰囲気あるんですよね、アロラさん」


 魔力の籠もった死の一撃が放たれた。ルーファスの後頭部へ直撃した。ルーファスのフィジカルは強いので、アロラの割と本気で殺す気だった一撃は弾かれて、アロラの拳が砕けるが、すぐに修復される。


「うわ、可哀想」

「心配を! しなさい!! この朴念仁!!」


 その光景を、少し前から見ていたクレアは呟く。


「仲良いわね、貴方達」


 クレアからすればあまりに遠い世界のじゃれ合いだ。だけど精神面は人間で、変な気分になる。

 世界を滅ぼせる魔法があったとして、その魔法の発動できる存在達が矮小だと不安になる。だって矮小だから、自分達の小さなミスや行動で、簡単に世界が滅ぶ可能性があるのだ。

 それは不安だし、もっと安全に管理できないかみんなで考えたいと思う。強い強大な個人に任せるのは最後で最終手段だ。


「ん?」


 端末にメッセージが送られてきていた。

 新しい任務だ。しかもタイトルに【重要】と入っているので、とても重要な任務である様子だった。

 クレアは、パンパン、と手を叩いて言う。


「はい、二人とも。新しい任務が届いたわ。じゃれ合ってないで、任務の内容を確認しましょう」



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