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青空と爆弾  作者: 108
6/10

e6:炎上

 街に朝が訪れる前の薄暗い時間、アキトは自室の窓辺に座っていた。


 昨日のデモの余韻は、街だけでなく彼自身の心をも焼き尽くしていた。

 灰色の街灯が揺れ、割れたガラスや焦げたプラカードの残骸が遠くに見える。

 胸の奥でまだ鼓動が高鳴り、手のひらは冷たく汗ばんでいた。


 スマートフォンが震え、画面を開くとニュースの見出しが飛び込んできた。


「デモ暴徒化、若者たちの挑戦は失敗に終わる」

「ギタリスト少年、扇動の疑いで炎上」

「SNSで拡散、若者の暴走が加速」


 アキトの指先が震える。

 〈これが現実か…〉

 声を上げただけなのに、世界は一瞬で牙をむいた。


 リョウが部屋に入ってくる。

「大丈夫か、アキト…」

 その目には、昨夜の戦場をくぐり抜けた者だけが持つ疲労と決意が滲んでいた。


「大丈夫じゃない…みんな、巻き込まれたんだ」

 アキトの声はかすれ、胸の奥で痛みが膨れ上がる。

 〈平和を求めただけなのに、どうして…〉


 ユウタがドアを開け、眉をひそめる。

「ニュース見たか? 右翼団体が街を襲ったらしい。動画もSNSで拡散されてる」

 彼の声は冷静だが、手には兄を失った過去の影が揺れていた。

 〈俺たちが掲げた理想は、こんなにも簡単に壊れるのか〉


 電話が鳴った。マネージャーのゲンだった。

「アキト、落ち着け。無理はするな。街の声は大事だけど、君の身も仲間も危険だ」

 ゲンの声は、静かだが鋭く心に響いた。


 しかし、ニュースは止まらない。

 記事、SNS、動画――全てが彼らの行動を「暴力」と断じ、批判の嵐を作り上げる。

 仲間の名前も晒され、家族の安全まで脅かされる始末だった。


 昼過ぎ、街に出ると、破壊されたデモ現場に報道陣が群がっていた。

 カメラのレンズは冷たく、アキトたちの恐怖を映すだけだった。

 市民の視線は好奇心と批判が入り混じり、街の空気は重苦しく沈む。


 突然、背後で怒号が響く。

 右翼団体の一部が、暴力を伴った脅迫を続け、通行人も巻き込む小競り合いが発生。

 リョウがアキトを抱きかかえるようにして避け、ユウタが盾となる。

 ギターを抱いたアキトは、弦に手をかけるが、音を出す勇気すら奪われそうになる。


 仲間のひとり、ナオミが腕を負傷する。

「アキト…助けて…」

 その声に、アキトは胸を締め付けられた。

 〈理想を掲げることは、誰かの痛みを伴う〉

 その現実を、彼は初めて突きつけられる。


 夕暮れ、街の空は血のように赤く染まる。

 建物の影が長く伸び、割れた窓ガラスが夕陽を反射する。

 アキトはギターを抱え、座り込む。

 胸の奥の熱が冷めず、涙が頬を伝う。


 リョウがそっと肩に手を置く。

「アキト、俺たちは負けてない。声は消えない」

 ユウタも頷き、ナオミの包帯を支えながら言った。

「炎の中でも、心の火は消さない」


 アキトは小さく息をつく。

 ギターの弦が震え、彼の手の中で温もりを取り戻す。

 〈この痛みを、未来への力に変える――〉


 街は炎上し、理想は崩れかけていた。

 だが、アキトの心には小さな火種が残った。

 希望はまだ、灰の中でくすぶっている。


 夜が深まる。

 窓の外、遠くでサイレンが鳴る。

 アキトは静かにギターを抱き、囁く。

「俺たちは、まだ戦える…まだ、終わっていない」

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


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