e6:炎上
街に朝が訪れる前の薄暗い時間、アキトは自室の窓辺に座っていた。
昨日のデモの余韻は、街だけでなく彼自身の心をも焼き尽くしていた。
灰色の街灯が揺れ、割れたガラスや焦げたプラカードの残骸が遠くに見える。
胸の奥でまだ鼓動が高鳴り、手のひらは冷たく汗ばんでいた。
スマートフォンが震え、画面を開くとニュースの見出しが飛び込んできた。
「デモ暴徒化、若者たちの挑戦は失敗に終わる」
「ギタリスト少年、扇動の疑いで炎上」
「SNSで拡散、若者の暴走が加速」
アキトの指先が震える。
〈これが現実か…〉
声を上げただけなのに、世界は一瞬で牙をむいた。
リョウが部屋に入ってくる。
「大丈夫か、アキト…」
その目には、昨夜の戦場をくぐり抜けた者だけが持つ疲労と決意が滲んでいた。
「大丈夫じゃない…みんな、巻き込まれたんだ」
アキトの声はかすれ、胸の奥で痛みが膨れ上がる。
〈平和を求めただけなのに、どうして…〉
ユウタがドアを開け、眉をひそめる。
「ニュース見たか? 右翼団体が街を襲ったらしい。動画もSNSで拡散されてる」
彼の声は冷静だが、手には兄を失った過去の影が揺れていた。
〈俺たちが掲げた理想は、こんなにも簡単に壊れるのか〉
電話が鳴った。マネージャーのゲンだった。
「アキト、落ち着け。無理はするな。街の声は大事だけど、君の身も仲間も危険だ」
ゲンの声は、静かだが鋭く心に響いた。
しかし、ニュースは止まらない。
記事、SNS、動画――全てが彼らの行動を「暴力」と断じ、批判の嵐を作り上げる。
仲間の名前も晒され、家族の安全まで脅かされる始末だった。
昼過ぎ、街に出ると、破壊されたデモ現場に報道陣が群がっていた。
カメラのレンズは冷たく、アキトたちの恐怖を映すだけだった。
市民の視線は好奇心と批判が入り混じり、街の空気は重苦しく沈む。
突然、背後で怒号が響く。
右翼団体の一部が、暴力を伴った脅迫を続け、通行人も巻き込む小競り合いが発生。
リョウがアキトを抱きかかえるようにして避け、ユウタが盾となる。
ギターを抱いたアキトは、弦に手をかけるが、音を出す勇気すら奪われそうになる。
仲間のひとり、ナオミが腕を負傷する。
「アキト…助けて…」
その声に、アキトは胸を締め付けられた。
〈理想を掲げることは、誰かの痛みを伴う〉
その現実を、彼は初めて突きつけられる。
夕暮れ、街の空は血のように赤く染まる。
建物の影が長く伸び、割れた窓ガラスが夕陽を反射する。
アキトはギターを抱え、座り込む。
胸の奥の熱が冷めず、涙が頬を伝う。
リョウがそっと肩に手を置く。
「アキト、俺たちは負けてない。声は消えない」
ユウタも頷き、ナオミの包帯を支えながら言った。
「炎の中でも、心の火は消さない」
アキトは小さく息をつく。
ギターの弦が震え、彼の手の中で温もりを取り戻す。
〈この痛みを、未来への力に変える――〉
街は炎上し、理想は崩れかけていた。
だが、アキトの心には小さな火種が残った。
希望はまだ、灰の中でくすぶっている。
夜が深まる。
窓の外、遠くでサイレンが鳴る。
アキトは静かにギターを抱き、囁く。
「俺たちは、まだ戦える…まだ、終わっていない」
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