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青空と爆弾  作者: 108
2/10

e2:爆弾の音色

 夜は深く、路地に薄い霧が漂っていた。


 アキトはギターを抱え、倉庫の古いドアを押し開けた。

 木の床は軋み、埃っぽい空気が鼻を突く。

 しかしその中には、彼の胸を熱くさせる何かがあった。

 それは、前日出会ったリョウとユウタとの約束――自分たちの音で街を揺さぶること――の残り火だった。


 「おう、来たか」


 リョウの声が響く。

 肩にかけたギターの弦が光を反射し、まるで夜空の星のように瞬いた。

 「今日は新しい曲を試そうぜ」


 ユウタがベースを手に、軽く弦を弾く。

 地面に響く重低音は、まるで地下から街全体を揺さぶるようだった。


 アキトは目を閉じ、弦をかき鳴らした。

 音は混沌とした街の夜に溶け込み、かつて戦場で聞いた爆撃の音や泣き叫ぶ声を呼び起こした。

 しかし今、音は悲しみではなく、生きる力の象徴になった。

 〈俺は、まだ戦える〉


 セッションが続くうちに、倉庫には次第に他の若者たちも集まり始めた。


 絵を描く少女、DJの青年、ラップを口ずさむ少年たち。

 彼らは言葉ではなく、音で心を通わせることを知っていた。

 「爆弾少年」と呼ばれる小さなムーブメントの芽が、ここで生まれつつあった。


 アキトはギターのリフを弾きながら、ふと思い出した。

 母の優しい声、父の笑顔、そして消えた兄の存在。

 すべての思いを音に変え、弦に込める。

 音は怒りにも、悲しみにも、希望にも変わった。


 その夜、街の片隅で、小さな事件が起きた。


 警察のパトカーが倉庫の近くに停まり、ライトが倉庫の窓を照らす。

 若者たちは慌てたが、アキトは決して弦を止めなかった。

 音楽で心を通わせるこの瞬間こそ、自分たちの戦場だと思ったからだ。


 「止めるな……音を止めるな!」


 リョウが叫ぶ。

 ユウタが応え、さらに低音を響かせる。

 アキトのギターは怒りの火花を散らし、窓を震わせた。

 パトカーのライトは消え、夜は再び静寂を取り戻した。


 倉庫の外に出ると、夜風が彼らの汗と興奮を冷ます。


 「俺たち、音で何かを変えられるかもしれないな」


 アキトの声に、ユウタもリョウも力強く頷く。

 街の闇に反抗する、無言の戦士たちの誓いだった。


 翌日、SNSや口コミで「爆弾少年」の噂は広まり始めた。


 「聞いたか? 夜の倉庫で爆音セッションしてる奴ら」

 「本当にヤバい音だったって」

 街の若者たちは、共感と興奮を胸に、その動向を追った。


 しかし、同時に一部の大人やメディアは警戒を強めた。

 「若者の不穏な活動」として、報道や監視が始まる。

 音楽は自由の象徴でありながら、社会的な衝突の火種にもなり得ることを、アキトたちはまだ知らなかった。


 夜の倉庫で、アキトは一人屋上に登った。


 遠くに光る街の灯りと、天高く輝く星々を見比べながら、彼は思った。

 〈この音で、誰かを守れるかもしれない〉

 〈この音で、誰かの孤独を打ち破れるかもしれない〉


 そしてギターを抱え、静かに弦をかき鳴らした。

 音は夜空を裂き、街を包み込む。

 その響きは小さな爆弾のように、人々の心に静かな衝撃を与えた。


 アキトの胸に、新しい感情が芽生えていた。


 「俺たちの音は、もうただの音じゃない……」


 倉庫の中、仲間たちの目もまた、希望に輝いていた。

 夜の風が三人の髪を揺らし、星の光がギターのボディに反射して、未来への小さな道を照らしていた。


 街の闇に、音楽の火花が確かに散った瞬間だった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


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