表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青空と爆弾  作者: 108
10/10

e10:爆弾の果てに

 街は、まだ夜の余韻に包まれていた。


 アキトは高層ビルの屋上に立つ。

 冷たい風が髪を揺らし、遠くで光る街灯やネオンが雨上がりの路面に反射して、まるで星屑の海のように輝いていた。

 胸の奥で、音楽と政治、言葉と希望――すべてが渦巻き、彼の心を押し広げる。


 あの日、〈爆弾少年〉として鳴らした音が、街の若者たちの心を揺さぶった。

 しかし、その衝撃は賛美だけでなく、批判と暴力も生んだ。

 メディアのバッシング、右翼団体の襲撃、仲間の負傷。

 理想と現実の狭間で、彼らは何度も打ちのめされ、音楽も仲間も失った。


 だが、ゲンの言葉が、いつもアキトを支えた。


 〈力は、音だけではない。言葉もまた、人を動かす武器になる〉


 ステージで叫んだ日々。

 街角で演説を重ねた日々。

 人々の笑顔も、涙も、怒りも、すべてがアキトの胸に積もった。


 そして今。

 屋上でギターを抱え、アキトは深呼吸を一つする。

 音楽の力で心を揺さぶり、言葉の力で未来を示す――その二つを手に、彼は再びステージに立とうとしていた。


 その瞬間、仲間たちの声が脳裏に響いた。


「アキト…俺たちもいる!」

「諦めるな!」

「音楽も、言葉も、俺たちの武器だ!」


 彼らの顔が次々と浮かぶ。リョウの真剣な瞳。ユウタの熱い拳。

 仲間たちの存在が、静かな夜に光を灯した。


 アキトはギターの弦に手を置く。

 音を鳴らす前の静寂。

 全身の感覚が研ぎ澄まされ、鼓動が耳の奥で響く。


 そして、指が弦をかき鳴らす。


 音は、ただの旋律ではなかった。

 街に向けた叫びであり、希望であり、怒りであり、愛だった。


 「俺たちは諦めない! 世界を、街を、未来を変える!」


 声は屋上を越え、街の隅々まで届くようだった。

 ギターと声が共鳴し、光と影を越えて、未来を切り拓く波動になった。


 観客も、仲間も、街の人々も、彼の声に共鳴し、共に叫んだ。

 その瞬間、アキトは確信した。

 世界を変えたのは、音楽でも、言葉でもなく、信じ続ける力、そして人々の共鳴だったのだ、と。


 雨上がりの街を照らす朝焼け。

 アキトは屋上で微笑む。

 ギターケースを背に、仲間たちと肩を並べ、彼らの影は長く伸びて、新しい世界の道標となった。


 音楽と政治、言葉と感情、希望と絶望――すべてが交錯し、爆弾のように炸裂した日々。

 その果てに辿り着いたのは、静かで、確かな平和だった。


 アキトは空を見上げ、そっと呟く。


「ありがとう…俺たちの音も、言葉も、届いたんだな…」


 風が頬を撫で、遠くで街のざわめきが小さく響く。

 すべては、ここから始まる。


 爆弾の果てに――真の平和が、静かに、しかし確かに、芽吹いていた。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


ぜひ『ブックマーク』を登録して、お読みいただけたら幸いです。


感想、レビューの高評価、いいね! など、あなたのフィードバックが私の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ