e10:爆弾の果てに
街は、まだ夜の余韻に包まれていた。
アキトは高層ビルの屋上に立つ。
冷たい風が髪を揺らし、遠くで光る街灯やネオンが雨上がりの路面に反射して、まるで星屑の海のように輝いていた。
胸の奥で、音楽と政治、言葉と希望――すべてが渦巻き、彼の心を押し広げる。
あの日、〈爆弾少年〉として鳴らした音が、街の若者たちの心を揺さぶった。
しかし、その衝撃は賛美だけでなく、批判と暴力も生んだ。
メディアのバッシング、右翼団体の襲撃、仲間の負傷。
理想と現実の狭間で、彼らは何度も打ちのめされ、音楽も仲間も失った。
だが、ゲンの言葉が、いつもアキトを支えた。
〈力は、音だけではない。言葉もまた、人を動かす武器になる〉
ステージで叫んだ日々。
街角で演説を重ねた日々。
人々の笑顔も、涙も、怒りも、すべてがアキトの胸に積もった。
そして今。
屋上でギターを抱え、アキトは深呼吸を一つする。
音楽の力で心を揺さぶり、言葉の力で未来を示す――その二つを手に、彼は再びステージに立とうとしていた。
その瞬間、仲間たちの声が脳裏に響いた。
「アキト…俺たちもいる!」
「諦めるな!」
「音楽も、言葉も、俺たちの武器だ!」
彼らの顔が次々と浮かぶ。リョウの真剣な瞳。ユウタの熱い拳。
仲間たちの存在が、静かな夜に光を灯した。
アキトはギターの弦に手を置く。
音を鳴らす前の静寂。
全身の感覚が研ぎ澄まされ、鼓動が耳の奥で響く。
そして、指が弦をかき鳴らす。
音は、ただの旋律ではなかった。
街に向けた叫びであり、希望であり、怒りであり、愛だった。
「俺たちは諦めない! 世界を、街を、未来を変える!」
声は屋上を越え、街の隅々まで届くようだった。
ギターと声が共鳴し、光と影を越えて、未来を切り拓く波動になった。
観客も、仲間も、街の人々も、彼の声に共鳴し、共に叫んだ。
その瞬間、アキトは確信した。
世界を変えたのは、音楽でも、言葉でもなく、信じ続ける力、そして人々の共鳴だったのだ、と。
雨上がりの街を照らす朝焼け。
アキトは屋上で微笑む。
ギターケースを背に、仲間たちと肩を並べ、彼らの影は長く伸びて、新しい世界の道標となった。
音楽と政治、言葉と感情、希望と絶望――すべてが交錯し、爆弾のように炸裂した日々。
その果てに辿り着いたのは、静かで、確かな平和だった。
アキトは空を見上げ、そっと呟く。
「ありがとう…俺たちの音も、言葉も、届いたんだな…」
風が頬を撫で、遠くで街のざわめきが小さく響く。
すべては、ここから始まる。
爆弾の果てに――真の平和が、静かに、しかし確かに、芽吹いていた。
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