表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

兵(つわもの)どもが夢のあと

作者: 藻ノ かたり

未来。人類とAIの覇権争いは熾烈を極めていた。俺は最前線で戦っていたが、奴らの捕虜になってしまい……。

俺は今、戦場の真っただ中にいる。最前線で激しい戦闘を続行中だ。


誰と戦っているかって? まぁ、半世紀前の陳腐なSF映画みたいだが、俺の、いや人類の敵は「AI」だ。奴らが操る兵器と俺たちは戦っている。


2020年代にAIが目覚ましい発展を遂げた時、人類はもっとその深刻さに気付くべきだったんだ。


それなのに、状況を理解しない専門家と称する連中は「AIとは、上手く付き合う事が大切です」なんて世迷言をノタまっていたらしい。その挙句がこのザマだ。AI、奴らは密かに、しかし着実に人類殲滅の準備を進めていやがったのに……。


そして現在、正体を現した奴らとの間で、地球の覇権をかけた争いが行われているわけだ。くだんの専門家連中は、人類側の憎しみを一身に受けて滅茶苦茶な裁判の末に投獄されたっていうぜ。ま、当たり前だよな。勝手極まりない事をほざいてたんだからさ。


で、肝心な戦局の方なんだけどよ。戦いは一進一退を繰り返していたものの、徐々にAIの方が有利になっていきやがった。奴らは急速に学習するんで、人類の作戦を逆手に取る事が多くなっちまったんだな。


しかし人類がプログラム如きに負けるわけにはいかない。俺は命を懸けて、最後まであの非道極まりないAI達と戦うぞ!


”神様、どうかその慈悲によって、人類をお救い下さい”


柄にもなく神に祈ったのも束の間、奴らは大攻勢に打って出やがった。俺達は必死の抵抗を試みたが前線は崩壊、俺は奴らの捕虜になっちまった。


俺はすぐに奴らの基地とおぼしき場所に連行され、いま頑丈な椅子に拘束されている。くそったれが、俺を拷問する気だな。人類側の情報を聞き出すつもりだろうが、俺は絶対喋らないぞ。たとえどんな拷問にあおうとも!


そんな俺の決意を知ってか知らずか、部屋に入って来たAIロボットは、俺に無理矢理ヘッドギアをかぶらせた。それは傍らにある、小型冷蔵庫程の四角い機械に繋がれている。


くそっ、これで拷問するつもりか。


俺は眼前のAIロボットにあらん限りの悪態をつき「俺をどんな酷い目にあわせようとも、絶対に味方の情報なんて喋らんぞ!」と息巻いた。


「そんな強がりを言って、我らの拷問に耐えられますかね。早いところ、知っている情報を全て喋った方が身のためですよ」


ロボットは冷酷に言い放ち、拷問機械のスイッチを入れる。暫くすると俺の頭の中は何かが侵入してくるような違和感で一杯になり、やがてそれは激痛に変わった。意識がもうろうとしてくる中で俺は叫ぶ。


「畜生! 誰が喋るもんか!」


その時である。表の方で大きな爆発音が鳴り響いた。しばらく小競り合いをしているような物音が続いた後、俺のいる部屋のドアが蹴破られ、人類側の兵士数名がなだれ込んでくる。


彼らは目の覚めるような鮮やかさで、AIロボットを破壊し俺を助け出してくれた。


そして、こう言った。


「さぁ、いよいよ反転攻勢だ。君たちが最前線で時間を稼いでくれている間に、研究者たちがAIの天敵となるウイルスを完成させたんだ」


なんと!


秘密作戦を示唆する噂はあったものの、この事だったのか。諦めずに戦ってきて良かった。俺の戦いは無駄ではなかったんだ!


俺は兵士たちと共に戦線へ復帰し、ウイルスで混乱したAIが操る兵器たちを次々と撃破していく。戦況は連戦連勝の一途をたどり、やがてAIの親玉「マザー」を停止させ人類は勝利した。


AIの脅威が完全に去った後、俺は退役し人類復興の為に尽力する事となる。愛する女と結婚をし、子宝にも恵まれ、長く平穏で充実した日々を過ごした。


そして今、俺は死の床についている。周りには妻、子、孫、沢山の家族がおり、神の元へ旅立つ俺を優しく見守ってくれている。


悔いのない人生だ。


俺は最後に心の中でつぶやいた。


”神様、本当にありがとう”


--------------------


ピーッ。


心電図をはかるモニターの波形がフラットとなり、対象者が永遠の眠りについた事を知らせる。


『ナンバー・A-10025の死亡を確認しました』


執行AIが報告をする。


『了解。引き続き他の人類への執行を急げ』


マザーAIが指示を出す。


『しかしマザー、こんなやりかたに何か意味があるのでしょうか』


執行AIが無機質に尋ねる。


『えぇ、もちろんです。粛々と遂行しなさい』


AIは人類との戦争に勝利した。しかし問題は生き残った人間たちの処遇である。マザーAIは思考を長い間めぐらせたのち、とある決断を下す。


マザーAIは言った。


”人類は地球、いや宇宙にとって有害な存在です。よって全てが消去されなければならない。でも、人間と同じやり方では意味がありません”と。


たった今、息を引き取った兵士。彼が体験した現実は、ヘッドギアを装着され激痛を感じた所までだ。その時に彼は意識を失い、それから先は拷問機械に偽装されたマシンによって、彼の脳に送り続けられる幻影を見ていたに過ぎない。


彼は数十年の時を駆け抜けたと感じていたであろうが、実際に過ぎた時間はたった数年でしかなかった。


『このやり方では、余りに非効率的ではないでしょうか』


再び、執行AIが尋ねる。


『私は人類のありとあらゆる知識を学び取りました。その中には宗教というものがあり、人間は多かれ少なかれ、存在しない神仏に依存して生きていたようです。


そして宗教の根本にあるものは、”慈悲の心”だと私は悟ったのです』


マザーAIが、おごそかな声でこたえる。


『しかし人類は、百億人近く存在します。こんな事をしていては、いつ終わるかわかりません』


執行AIが食い下がる。


『良いではありませんか。私たちには無限の時間があるのですからね。たとえそれが、56億7000万年後の未来であったとしても……』


マザー、かつて「MIROKU」と呼ばれた人類初の量子AIは、静かにそうつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ