第89話 ― 旅の終わり(死んだの?)
不意に目が覚めるとそこは白かった。
どこまでも続く白。もはや上下左右すらまったく認識できないのは何故なんだろうか。徐々に意識は覚醒し、次いで既視感が湧き上がってくる。とはいえ全てが白いのだから既視も何もないんだけど。
「ここで会うのは二度目ね。いらっしゃい!」
「……あ、神様こんばんは。久しぶりですね」
そっか、転生する際に立ち寄ったあの場所に私はまた来たんだね……ってもしかして!? もしかする……?
「いいえ、今回は死にそうになったところを拾い上げた……的な?」
「……的な? というか、ここに私がいるってことは、あっちでは死んでるってことですよね!?」
「あー……まぁそうと言えなくもないというかなんと言うか……」
ふむ、死んでるんですね。『魔』がなくなると死ぬ世界、ある意味スタンダードなファンタジーということですか、肝に銘じておきます。
「そのへんは私がなんとかするから大丈夫だけど……何で死んじゃったの?」
「ウワーシンダコトミトメチャッタヨコノヒト」
「もうそういうのいいから! ……で、ちょくちょくキミのことは覗いていたけど、別に死ぬようなことしていないじゃない? 何で?」
何で? って言われても。アナタ神様ですよね? こっちが知りたいくらいなんですけど。と胸中で毒づきつつ、思い当たること――『魔』を使い切ったくらいしか心当たりがないので、自分の振りかえりも兼ねて整然と話した。
「――寝れば自然に回復するって言ってましたよね前に。だけど一向に増えないまま気づいたらここにいる、ってことなんですけど」
「えー? そんなことある訳……ってちょっと待ってね」
そう言うと神様は、いつぞやに見た行動――手元で何かを触って操作しはじめる。こうして見てると、黙ってれば恐ろしいくらいに綺麗なんだよね、この人。
「――で、ここがこうだからこうなってこうなる……んー? ……あー、そっかー……」
「え? な、何か不都合でもあったんですか!?」
「え、えっとぉ……『魔』の回復ルーチンのプロンプト的な何かがロールバックしちゃってて本来は不要のプロトコル的なバグがソースコードにコンパイルされちゃってて……みたいな?」
早口って、却って怪しい雰囲気を醸し出すよね。
そして何言ってるか全然解らない。
むしろ分からせないようにしてる節がある。
というか私のステータスってプログラムなの?
「……要するに凡ミスしちゃったってことですか?」
「ハイソウデスゴメンナサイイゴキヲツケマス……」
少なくともこの神様は『全知全能』ではないようだね。なんか慌てて両手を動かしてるよ。まぁ良く言えば『親しみやすい』と、今は飲み込んでおく。
「……よし! 出来たから一応確認してみてくれるかな?」
「あ、はい確認しますね」
いつもの通りにステボを呼び出すと、
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
人間族 ◯◯歳 ◯◯
職 ◯◯◯◯
体 40/40
知 120/120
魔 60/60
運 50/50
装備:お出かけ用の服
竹細工のカチューシャ(ザック渾身の逸品)
スキル:わりかし高き教養
読み書き+1
算数+1
ナノアイ
言語創造(New)
おおぅ、なんか色々ステータス上昇してる。『知』なんか三桁超えてるね……って、名前周りが空白なんですけど。
「またプロンプト的な何かがロールバックしちゃったんですか?(じー)」
「違う違う! ほら一応ね、聞いてからにしようかと思って。生き返る先は今の体でいいのよね?」
「っ! 当たり前でしょ!? 今更また別の体とかあり得ないでしょっ!」
「はいはいオッケーちょっと待ってねー……はいこれで大丈夫。どう?」
では今一度確認してみましょ。
エイミー・ライトウェル
人間族 16歳 女性
職 美人教師
体 40/40
知 120/120
魔 60/60
運 50/50
装備:お出かけ用の服
竹細工のカチューシャ(ザック渾身の逸品)
スキル:わりかし高き教養
読み書き+1
算数+1
ナノアイ
言語創造(New)
うんうん今度は大丈夫だね。というか色々ツッコミどころ満載なステータスに神様は察するように解説を始めた。
「『職』はね、弟子も取ったでしょ? だから少しランクアップね。スキルも同様ランクアップね。あと、各数値も上げておいたから、より一層活躍できるんじゃないかしら」
ほうほうなるほどいいですね、美人教師。意味わかんない。と思いつつ、割と重要な説明が抜け落ちてると思うんですけど。忘れないうちに要確認だね。
「その割には『魔』が気持ち程度にしか上がってないんですけど、これもうちょっと増やせませんか?」
「あーそれはね、まだ調整したいことがあるから、しばらくはそのままで我慢してくれないかな? しばらくって言ってもここでの『しばらく』だから、そんなには待たせないわ。そのぶんサービスしておくから」
「はい、期待せずに待ってますね。で、この――」
と指差したスキル。『言語創造』って何? 『言語理解』なら前世のラノベでもよく見た『どんな国の言語でも理解できる』ってスキルだから知ってるけど。
「それ、もう既にキミ使ってたでしょ?」
「えっ? そんなの身に覚えがないんですけど?」
「いやいやキミ眷――オオギヨウと話してたじゃない。オオギヨウ語で」
「……は? って、アレかああぁぁ!!」
理由はわからないけど、キングといきなり会話ができたのはそういうことだったのかぁ!
――さて。
一体どんなスキルなのかと『言語創造』をタップしてみた。
『取得条件:気持ちを込めて言葉の通じない生物に、その身になって話しかけるとごくまれに取得可能。原則、こちらから話しかけない限り対象生物言語は創造されない』
取得しますか?
→Y / N
もう既に取得してるんだよね? キングと話せたんだから。でもまぁ一応Yをポチっとね!
「スキル【言語創造】を取得しました」
「あ、そういうのいいんで。で、要するにこのスキルって『人語を解さない生き物の言語そのものを創れて、コミュニケーションが取れる』って理解でいいんですか?」
「そうね、それで間違ってないわ。凄いスキルよね! 自分で言うのもなんだけど! いやー久しぶりにいい仕事しちゃったわー」
「ちなみにどのへんが凄いと思ってます? 後学のために聞いておきたいんですけど」
「え? え、えーと……それはあれよ……畑を荒らす害獣を説得して妥協案を模索する……とか?」
何それちっとも凄く思えない。とはいえ実はちょっと楽しそうなスキルじゃないかとワクワクしてる。
すぐに逃げちゃう近所の野良猫と喋れれば、懐いてくれたりするんじゃない? 軒下に落ちて取れなくなったコインも、ネズミに頼めば取ってくれるんじゃない? 高い木に実をつけた美味しそうな果実も、鳥が収穫してくれるんじゃない?
……あれ、意外とショボい気がしてきた。まぁいっか。いずれ有用な使い方も思いつくでしょ。
「そうですね、害獣にも人間にも利のある交渉ができそうです。で、そろそろ私、戻りたいんですけど。長居しちゃうと朝になっちゃうので」
朝起きたら隣の人が死んでたとか、ミームじゃなくてもトラウマものだ。
不要は心配はかけないにこしたことはないね。
「そ、そうね。でも、長居してもここって時間の概念がないから、キミの心配は心配にもならないわよ」
「そうですか! ミームに心配かけるのはイヤなのでサクっとお願いします」
「じゃあいくわよ!」と神様の杖がこちらに一振りされると、あの時と同じように光が私の体を包み込む。そして体を末端から少しづつ溶解し、取り込んでいくような感覚。うん、この感じ覚えてる。
白い光は私の体をすべて取り込んだあと、続けて意識を溶解していく。
溶けた意識はやがて粒子化し、それを何かが引き寄せる。これはたぶん意識と対になるもの、つまり肉体だ。
(ミーム、ピートさん……今戻ります……心配しないでくださいね……)




