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第87話 ― 旅の終わり(土の魔導詩ver.02)

 思った通りの効果が出ないと言われて、興味本位で買った『土の魔導詩』。


 その文章は『土よりもたまれ』という、一見するとなんのことやらで、これを使うと土がボコッと盛り上がり、『道の舗装をする』という本来の目的が発現しない『不良品』。


 で、ジムさんの喋り口で頻繁に聞いていた『そんよか』。ピートさんが「よかよかウルセェわー!」と叫んだ結果、急性難聴を引き起こす遠因になった『よか』。


 この旅で私は『よか』は『よりも』と同義なのだと知った。


 小難しく語ってしまったが、つまり何が言いたいのかというと。


【『土()()()たまれ』は本来『土()()たまれ』と書かれるべきなのでは?】


 そんな荒唐無稽な推測を、半ば強引にねじ伏せて書いたのが『土の魔導詩ver.02』なのだ。


 ただ、結果書いたのは『土()()()()たまれ』で、これは単純に、土よりも固まれば車輪の摩擦による劣化、天候の変化などにより強くなるのではないか? と書く寸前に閃いたから。偶発的副産物として、は元々の文面である『よりも』も取り入れつつ私がより良くアレンジ、所謂『原作リスペクト』になったこと。まぁこれは結果論だけどね。


 そんな経緯で生まれた『土の魔導詩ver.02』をなぜここで使ったのかというと、これも単純に『報酬額多すぎ』にお返ししたかったから。道が綺麗に舗装されれば、商品出荷や旅の馬車運行も格段に楽になると思う。


 うまくいかなければ笑って誤魔化すつもりの『土の魔導詩ver.02』。うまくいったのかなと伏せていた双眸を道に向けると。


「……あれ?」

「なにもおきないねせんせえ」

「よく分からんですけど〜失敗ってことですか〜」

(エイミー様に失敗という文字はありません! なんてことを言うのですかこの◯◯◯◯!)


 いやいや、なんてこと言ったのはシルフィーでしょ! そんなはしたない言葉は使っちゃダメです!


「ま、まぁ単なる思いつきで書いてみただけですので? 私も失敗することはあるんですよアハハハ――」と笑って誤魔化した刹那。


 地面に押し付けていた『土の魔導詩ver.02』がそのまま地面にごくりと飲み込まれる。そして、ドン! と地中から突き上げる強い振動。不意の出来事に、しゃがんでいた私はつい尻もちをついてそのまま仰向けに倒れてしまった。この偶然が、このあとに放たれた強烈な閃光を見ないで済んだのだ。


 一方で、直接閃光を見てしまった三人は口々に、


「せんせえ目のまえがまっしろでなにもみえないよ〜!」

(何が起こったのですかエイミー様っ! ご無事ですか!?)

「目ば留守になってしまいました〜っ!」


 え? 目? バルス? ム◯カかな。


 そんなことはどーでもいいんだけど、さて身を起こし道に目をやれば、いつの間にか道の両端を、光の線が凄いスピードで尾を引きながら走っている。それはやがて小高い丘を越え見えなくなってしまった。

 そして『土の魔導詩ver.02』を飲み込んだ足元からはさきほどとは対照的に、柔らかな幅広の光が這うように尾を引いて蛇走する。やがて徐々に光は収まり、どうなったのかを確認するべくしゃがみなおして手を路面に置いた。


「……あー……」

(エイミー様、分かります。こういうのを『やらかし』と言うのですよね?)


 や……やらかし言うなあぁぁ! いや確かにやらかしちゃったよ! えぇ認めますとも! これどう見ても『アスファルト』じゃないかあぁぁ!

 確かにね? 固くなれば轍もできないし泥濘(ぬかる)まないから固くなればいいなって思ったけど! ……こうじゃない。こうじゃないんだよーっ!


「せ、せんせえこれなに? なんかかちんこちんになってるよ」

「ほおぉ〜これは馬車が揺れなさそうですなぁ〜」

「はい……安全かつ快適な馬車の旅を提供できますよアハハハハ……」


 この世界に存在していいものなのかなこれ。アスファルトなんか一度も目にしたことないよ。この世界で見たことあるのは土の道と街中の石畳だけ。

 うーん、どうやって誤魔化そう。


「……えっと、たぶん土の中に含まれる石と砂利が土といい感じに混ざり合って固くなったんじゃないでしょうか……?」

「はぁ〜なるほどそげなこつがあるんですなぁ〜でもこれだと固すぎてかえって痛そうでげすよね〜」

(っ! またエイミー様の偉大なる功績に土をつけるとは! 失礼千万です!)


 なんかシルフィードがうまいこと言ってるけどそこはスルーして。

 確かに固いと歩くのはいいとして、馬車だとお尻痛くなりそうだよね。この世界の馬車にはサスペンションなんかないし――


 路面をコツコツ叩きながらそんなことを考えていると、それに応えるかのようにまた道に光が灯る。さきほどと同じ光が再び蛇走、光が収まると、指先に柔らかさを感じた。これって……。


「……えー……」

(『やらかしver.02』ですね、さすがですエイミー様!)


 や……やらかし言うなあぁぁ(二度目)! 輪をかけてやらかしちゃったよ! えぇ認めますとも! これどう見ても『クレイ舗装』じゃないかあぁぁ!


「あれ? ちょっとやわらかくなったねせんせえ」

「こんなら馬車も揺れんで腰も(いと)うならんでしょ〜エイミーさんは凄き人ですな〜」

(今頃気付いたのですね、なら先ほどの言葉は不問といたしましょう!)


 そう、これなら適度なクッション性もあるから、膝も痛めないしいいでしょうね〜……ってそうじゃない。


 クレイ舗装っていうのは、学校の校庭とかテニスコートなんかに使われているアレのことで、メリットといえば『適度な弾力がある』『土埃が舞わない』『水捌けがいい』なんかが挙げられる。元々の土壌も利用したりするから、ある意味環境に優しい、とも言えるもの……だった気がする。


「で、ですね〜これで私の思う理想的な道になりましたよ〜アハハハハ……」


 まぁ元の土色とほとんど変わらない仕上げだから、よしとしようかな。もうやらかしちゃったあとだし。いざとなったら全力ですっとぼけます!


「メエエエエェェェェ!」


 背後からの不意な鳴き声に振り向くと、のそりと立ち上がったキングがこちらにゆっくり歩いてきた。あの巨躯の歩行だから、ほんの少し足元に揺れを感じる。


「きっと魔ダニ駆除のお礼がしたいのですわ〜あやつは賢いやつなんです〜」

「そうですか。ミーム、お別れの挨拶しようか」

「はーい!」


 こちらからも少し歩み寄ると、キングはその場に立ち止まり、まるで二人を待ち受けてるようだ。大きいけど、今はもう怖くない。うん、慣れって凄いね。

 狂気に満ちた赤い目も、今は穏やかなものになっていた。顎の下あたりから頬にかけて優しく撫でてあげる。


「すっかり()くなったみたいだね。もう私たちはここを発つけど、いずれまた会いに来るね。身体には気をつけて」

「おうさま! つの、少しもらっちゃったけどだいじにするからね。またあおうね!」

「……メェ?」


 そう鳴きながら首を傾げるキングを見て、この大きさにも関わらず可愛い、なんて思ってしまう。言葉は多少理解してるのだろうけど、細かいことまでは伝わらないよね……。


「メメメメメェメ、メェメェメメーメ(また会おうね、元気でね)」


 そんな気持ちを込めながら、冗談混じりでオオギヨウっぽく言っ(鳴い)て――


(っ! うわ、何これ、急に目眩が……旅の疲れかな)

(……カンシャスルヒトノコヨ)


 っ! なになに、なんか頭に響いてきたんだけど。シルフィードじゃないよね? あの子はこんな口調じゃないし。誰? というか何!?


(ワレダ。キコエテイルカヒトノコヨ)

(き、キング? あ……あなたなの? 私の言葉がわかるの?)

(ワカルモナニモ、ソチラカラワレノコトバデハナシテキタデハナイカ)


 あ……さっきの「メメメメメェメ、メェメェメメーメ」が通じた、ってこと?


(ソウイウコトダ。ヒトノコヨ、ソロソロシュッタツシナクテモヨイノカ? ミナガマッテイルゾ)

(あ、ちょっとこれどういうことなの? あなた何か知ってる?)

(アルジニキクトヨイゾヒトノコヨ……デハマタアオウ)


 そう最後に一言告げて踵を返すキングの大きな背中を見守る。一体なんでこんなことができたの? さっきの目眩に関係してるのかな……主って言ってたから、あとでジムさんに聞いてみよう。


「せんせえのメェメェ、かわいかったよ!」

「! い、いやもしかしたら通じるかもなーって……えっと、挨拶も済んだし、帰りましょうか、()()()に!」

(ではそろそろ私は空調管理に戻ります、エイミー様)

「さぁさぁ乗ってつかぁさいよ〜帰るまでが旅行なもんでね〜」

「「はーい!」」


 こうして長かったバカンス旅行も終わり、一路私たちはハカランダ村に帰るのであった。

第51話の伏線、やっと回収できました。長かった……

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