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第86話 ― 旅の終わり(土の魔導詩)

 後に付いてくるミームとシルフィードには、これから私が何をしたいのか理解の外だろう。いや、シルフィードは私の思念を読み取ることができるからもしかしたら解っているかもだけど。


 食堂に入ると、お(あつら)え向きに人の気配はなかった。付いてきた二人にそれぞれ扉と窓を見張るようお願いする。別に悪いことをするわけはないのだけど、なんか『魔導詩』を書いてる私ってきらきら光るらしいから、一応警戒ということで。


「せんせえなにするの?」

「えっとねミーム。この――」

「……なるほどわかりましたが、それをどうするのかが私にはわかりません」

「わかったのかわからなかったのかがわからないよシルフィー。というかあなた私の思念、読めるでしょう」

「そうなのですが、最近の私はエイミー様が何をするのか見守るのが、その……秘かな楽しみなので……だから滅多なことでは思念を読まないと決めたのです」


 楽しみ、ね。それは私も薄々気づいていた。それはシルフィードが『毛刈りを楽しんでいた』から。何かを楽しむってつまりは『感情が豊かになってきた』ってこと。私は彼女の感情がちゃんと育っている、ということを知るたびに喜びを感じるのだ。


 そんな会話をしつつ、手許(テーブル)には『真っ新な魔導紙(ハガキ大)二枚』と『魔導ペン』、そして『土よりもたまれ』の魔導詩。っとついでに鉛筆も。


「これってぽんこつのまどうしでしょ? せんせえなにかおもいついたの?」

「うん。じゃあちょっと書いてみようか」


 疑問を浮かべる二人に、本番に備えるため、無駄な魔力を使わないよう、まずは鉛筆で書いて見せる。何しろ私の今のステータスは、


体 25/25

知 80/80

魔 01/50

運 30/30


 もう『魔』の数値が……ってあれ? 『体』と『知』、増えてない? いやいや増えてほしいのは『魔』なんですけど。今度神様に聞いてみるかな。おかしいもんこれ。


 まぁそれはさて置き。


「まずは『土よりもたまれ』。これだと道を舗装……馬車とか人が歩いてでこぼこになった道をきれいに平らにすることを舗装、って言うんだけど」

「ほそう……ひとつべんきょうしちゃったね、フィーちゃん」

「えぇ、さすがミーム様です」

「で、この文章だと『土が少し盛り上がるだけ』だから……これを……こういう……って置き換えれば本来の効果になると思ったの。どう思う?」

「「……」」


 あ。これ褒められるやつだ。もう目がそう言ってるもん。


「エイミー様。私は今『なぜ涙腺が私にはないのか』、そんなことを強く感じました」

「せんせえやっぱりすごい……でしになれてうれしいってまたおもっちゃった」

「そ、そう?……ぁりがとぅ(赤面)」

「「せんせえ(エイミー様)かわいい(とても素敵です)……」」


 もう! そんなこと言われたら手元が狂っちゃうじゃないの。はぁ、ちょっと落ち着こう。集中集中。


 というか、ほんとこんなの(文章の僅かな修正程度)で適切な効果になるのかなと猜疑に囚われる。神様曰く『私が書けばそれは魔導詩になる』し、事実シルフィードも召喚できたんだから大丈夫なのかな。まぁ失敗しても土がボコボコするだけだし、書こうとしている文章もいつぞやの『風の魔導詩(未曾有の大災害)』みたいに物騒なところはひとつもない。


「じゃあこれから書くから、二人はそれぞれ扉と窓に移動、誰もいないのを確認したら合図を」

「「はい!」」


 そうしてシルフィードは扉、ミームは窓へと移動する。ちなみに扉にシルフィードを配置したのは、彼女が『物体をすり抜けられる』から。扉を閉めたまま食堂の外側も警戒できるっていうのは大きなアドバンテージなのだ。


 二人からの合図を受け取って、少し汗ばむ手で魔導ペンを握る。いざペン先をつける寸前、パチリと頭に電球が灯る。もしかしてこっちの方がさらに良くない? と、急遽文章を替えて、サラサラと一気に『土の魔導詩ver.02』というべきものを書き上げた。あとはこれがうまくいくか、だね――


 しかし。


 成否にこだわったばかりに、頭の中から大事なことが抜け落ちていたのをあとから気づくことになる。


『魔』の数値がゼロになるとどうなるのか、ということを。


―――――――――――――――――


 小走りに馬車へと戻ると、ジムさんは車輪にしゃがみもたれながら牧草をぶちぶち毟っていた。すいません時間かかっちゃって。


「いえいえ〜ただ毟ってたんじゃないんですわ〜牧草の調子と土の渇き具合を見てたんです〜で、エイミーさんの用事とやらは済みましたかいの〜?」

「はい、お待たせしちゃって申し訳ありません。実はこれを書いてきたんです」

「はぁ〜これは『魔導詩』ですよね〜これが今必要なんですか〜?」


「えぇ」と一言返してから、早速それを地面に置いた。普段ならくるくると筒状にして使ってた魔導詩だけど、今回は地面に置くのが効果的なのではと考えた。


 さて、私は一体どんな文章を書いたのかといえば。


 その前に、本来の目的でもある『道を舗装する』を鑑みて、フォントと文字色を先に言えば、


『ラインゴシック・文字の太さはH・色は赤墨で横書き』


 で、書いてみた。ラインゴシックというのはとにかく四角四面の字形で、ほぼ水平垂直かつ直線のみで構成されているのが特徴のゴシック体。『H』というのはヘビーの略で、かなり太いのだけど、このくらいゴツい方が『気分』だよね。

 横書きにしたのは言うに及ばず。縦書きだと壁になっちゃうもんね。


 道というのは『凹凸がなくできれば勾配がない』のが一番歩きやすいから、というのがほぼ直線で構成されたこのフォントを選んだ理由。色も、土っぽくかつ暗色の『赤墨』。もちろんこれも日本の伝統色から。

 まぁ勾配に関しては元々の地形を変えることはできないから気にしないようにする……まさか地形まで変わらないよね?


 とまぁこんな感じで仕上がった『土の魔導詩ver.02』に、触れるようにしゃがみ込み、ひとつ深呼吸をしてからそっと右掌を乗せる。


「せんせえがんばって!」

(成功をお祈りいたします、エイミー様)


 二人の期待と声援を一身に受けて、そのまま俯き目を伏せてこう呟いた。


「土よりもかたまれ」と。

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