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第82話 ― 動乱(魔導札?)

 取り急ぎ必要そうなものを全てアイテム袋から出し、倒木の上に並べ置く。ミームとシルフィードに頼んだ素材を待ちながら、『お札(魔導詩)』の文章とフォントなどをどう仕立て上げるかに意識を集中させた。


 しばしの思案を巡らせ、ようやく構想が固まり、文章は、


『この者に仇なす全ての厄災に 等しく滅びを』


 とした。これであればツノ魔ダニもさることながら、病気や怪我などによる感染症なんかも防げるはずだ。なにしろキングはこの村にいる唯一の雄個体なのだから、不測の事態はどうあっても防がなければならないのだ。


 しかしながら、このような用途の魔導詩は初めて書くから、本当に効果があるのか? という不安もある。今の私には『今できることを思いつく限りやる』ことしかできない。

 しかも今まで書いてきた魔導詩のように『対象に巻き付ける』ことを今回はしない。そんな逸脱した使い方をして大丈夫なのか? という思いがいまだ払拭できないけど、やらないとわからないのだ。


 ほどなく二人の声が背後から聞こえてきた。振り向くとミームは両手に消毒用の葉っぱを抱えている。一方のシルフィードは指定通りに様々な葉っぱを、風の制御で器用に運んでいた。


「せんせえ、これくらいで足りる?」

「うん、これで充分足りると思うよ。ミームありがとう」

「うん! わたしがんばったもん!」

「そっか頑張ったんだ……でもねミーム。こんなことがあった後だからってわけじゃないけど、頑張らなくていいんだよ?」


 優しい表情を作りながらそう言うと、ミームは、なにかを思い出したかのように頭を弾かせこちらに顔を向けた。


「……がんばらなくて……いい?」

「そうよ。だって頑張るといずれどこかで無理が出ちゃうから。だから『頑張らない程度に頑張る』のが一番」

「……がんばらないていどに……がんばる?」

「うん、つまり『ほどほどに頑張る』ってこと、かな?」

「……うん、わかった」


 そう答えるも、どこか納得しきれていないようなミーム。まぁまだ子供には難しいのかな。


「お話中失礼しますエイミー様。仰せの通り、いくつか見繕って参りました。エイミー様のご要望に沿うもの(葉っぱ)があればいいのですが」

「結構いろんな種類あるね……大変だったでしょシルフィー。ご苦労様」

「いえ、造作もないことです。ですが……ありがとうございますエイミー様」


 さっそくシルフィードから受け取った葉っぱをひとつずつアイテム袋に収納し、有用な葉っぱがあるかを精査する。

 いくつか目を通すと、まさに今回のためにあるような葉っぱが見つかった。


 そのアイテム名は『ウチワオオクマザサ』と記されていた。


『大陸全域の森林地域に自生する、イネ科ササ属の植物の一種。非常に大きなその葉は、様々な疾患に効く薬草として知られている。主な効能としては、殺菌・消炎・止血など。また、防腐・防虫効果もあり、乾燥させた葉は食品を包む用途に用いることで、長期保存が可能になる。学名:Ventusasa panacea』

→取り出す

←しまう


 すぐにそれを取り出し、シルフィードに追加で集めるように指示を出すと、あっという間に森へと消えていった。しかし見ればみるほど大きな葉だね。これなら……。


「じゃあミーム。私と二人で、消毒の葉っぱを、このおっきな葉っぱの上で擦り潰そうか? 石はここにあるから一緒にやろうね」

「う、うん! がん……ほどほどにがんばる!」

「そ、ほどほどにね?」


 本当ならこの擦り潰すという作業もシルフィードに任せようかと思ったのだけど、それだとミームに仕事がなくなってしまう。きっと彼女は『疎外感』を覚えてしまうだろう。まぁミームはこの葉っぱのことを知っているから、どのくらい擦り潰せばいいのかもわかってるはずだ、任せて大丈夫だろう。


 取り出しておいた水袋――これは暑い日差しのなかで毛刈りをするためにジムさんからいただいたものなのだけど、それで二人で手をざっと洗い、ごりごりと葉っぱを擦ると、瞬く間にペースト状のものが出来上がる。清涼感のあるその香りは、いかにも()()()()だ。


 ちょうどウチワオオクマザサの採取を終えたシルフィードが戻ってくれば、矢継ぎ早に更なる指示を出す。


「前にバルサミントを粉末状にしたでしょ? このササをあれくらい細か――」

「このくらいでいかがでしょう」

「もう早すぎるんだってばシルフィー! ……まぁいいけど」

「申し訳ありません、エイミー様」

「す、すごいフィーちゃん……なにもみえなかったよ……」


 ミームは禍魔威太刀カマイタチで固形物を粉砕するの、見たことないんだからとシルフィードを諭すと、少ししょんぼり項垂れた。

 そしてお皿代わりに敷かれたウチワオオクマザサにたんまり積まれた緑の粉末を触るミーム。理想的な細かさになってるね。


「さて。まず消毒の葉っぱが擦り潰せたから……シルフィー、次にさっきやったみたいに患部をすべて切り取って。そのあと血を拭き取って消毒をするのだけど……これはミームにお願いしようかな? できる?」

「う、うん! できるよせんせえ」

「いい返事です! 先生はその間に魔導詩を書いちゃうから、終わったら次の指示を出します。じゃあ、各自行動開始、です!」

「うん!」

「では始めましょうミーム様」


 ふわっとミームを風で持ち上げるシルフィード。その顔はどこか妹を見守る優しいお姉さんに見えたのは私だけだろうか。なんにせよこの二人コンビは頼もしくも可愛いね。


 よし! 私も魔導詩を書かなくちゃ。ステータスの数値をそのまま信じるなら、私の『魔』はもう2しかないけど、出し惜しみしてる場合じゃない。


『この者に仇なす全ての厄災に 等しく滅びを』


 あっという間に書き上がった魔導詩。今後のことを見据えてB5大の魔導紙に書いたそれは、なんというか予想はしてたけど『魔導()』の様相で、実に禍々しい。書いたの私だけど。

 まず通常のそれ(魔導詩)と違うのは、紙いっぱいに同じ文章を繰り返し書いた、ということだった。そして今回選んだフォントは、


『古印体・文字色は黒の縦書き』


 である。古印体というのは、その名の通りに『古い時代、寺社で使用されていた印鑑の文字を模したフォント』である。なんとなく札に合うかなという理由でこれにしたのだ。本当なら篆文フォントがよかったのだけど、勉強不足で私には書けないんだよね……まぁいいでしょう。


 なんて色々考えてると、頭上に居るミームとシルフィードから、


「……きらきらして素敵」

「です……」


 と称賛めいた言葉が降ってきた。私は自覚がないのだけど、魔導詩を書く私って光ってるんだよね? どれだけ光ってるのか見てみたいよ。


「せんせえーしょうどくできたー」


 と、ミームとシルフィードが目の前に降りてきて、魔導詩を手に取りすごいすごいなんて言いながら角度を変えて眺めている。いや角度変えても一緒だよ?


 この魔導詩、一体何て呼べばいいのかな。

 まぁ名前なんてどうでもいいのだけど、『魔導呪符』とでもしておこうかな。


「よし! じゃあ次は薬……って言っていいのかわからないけど、それを作るよ」

「せんせえどうやってつくるの……?」

「……なるほど。さすがですエイミー様。そんなことを考えていたとは驚きを禁じ得ません」

 

 また頭の中覗いたなシルフィードめ。まぁいいか、説明する手間が省けるし。  

 でもミームには説明した方が今後のためになると考えた私は、二人に改めて次の作戦を伝えるのだった。

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