第73話 ー 毛刈り祭り02(決意)
「すげぇ……なんつースピードだよ」
「あの娘、初めて見る顔だよな?」
「他所の村から嫁入りしてきたんじゃないか?」
「しかも動作とカットに一切無駄がないときてる……」
「まさに『毛刈り』のために産まれてきたといっても過言じゃない!」
「毛刈り姫……そう、きっと彼女は毛刈り姫に違いない!」
……なんだか外野の皆さんが好き勝手に言ってるようだけど。なんなのもう『毛刈り姫』って。そんな二つ名は謹んで辞退させていただきます。
――ようやく回ってきた毛刈りの番。最初は自分でやっていたのだけど、途中からシルフィードにバトンタッチしたのだ。まぁ思った以上に毛刈りという作業が体力を消費するので、早々と交代したのだけどね。ただ一応『私が刈っています』感は出さないと拙いので、オオギヨウの頭部の毛に隠れたシルフィードが『禍魔威太刀』で適切な長さを残してスパスパと切るのに合わせて、大きなハサミを持っただけの手を如何にも刈ってますよの体で動かしていただけ、というからくりだ。
それがどうにも他の人からは『とんでもないスピードと正確さ』に見えるらしく、刈り進めるたびにどんどんギャラリーは増え、気づいたらぐるっと360度取り囲まれていた。観光客だけじゃなく、村の人々まで騒ぎを聞きつけてやって来る始末。皆さんちゃんと仕事しましょうね?
「せ、せんせえ……、なんかすごく人があつまってるよ!?」
「う、うん、そうだね……一体なんでだろうね〜(すっとぼけ)」
こんな沢山の人に囲まれる経験は、私だけじゃなくミームも同じだろう。なにしろ生まれ育ったハラカンダ村には200人程度しかいないし、どう見積もってもそれ以上のギャラリーがいそうなのだから、ミームが怖気付くのも無理からぬことだ。
これ以上ミームを衆目に晒す――晒されているのは私だけど――わけにもいかないので、少し早いけど毛刈りは切り上げることにした。早いとは言っても、それは『時間』である。おおよその体感だと、通常の人より5倍の毛を刈ってるのは、足元に溜まった大量の毛からも一目瞭然。ま、成果としては充分すぎるし、改めてシルフィードが如何に優秀なのかわかったからよしとしましょうか。
「じゃあミーム、そろそろ他のところも見て回ろ――」
「エイミーさん〜なんて見事な手際なんでしょう〜さぁ一旦家まで戻りましょうか〜。ここではみんなにジロジロ見られちゃいますから〜」
いつの間にかギャラリーに紛れていたジムさんが助け舟を出してくれた。でも、なんか含みのある目なのが気になるけど、好意に甘えて宿舎へと向かった。
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「ねぇミーム……どうしよう?」
「うーんと……えんせえはいや?」
「ううん、嫌ってことはないんだけど……」
「じゃあどうしてなやんでるの?」
宿舎の部屋で、私たち師弟は、食堂でジムさんの提案(という名のお願い)について話し合っていた。とはいうものの、一方的に私が頭を抱えているだけで、ミームはむしろ嬉しそうなのだ。読み書きだけではなく毛刈りまで簡単にこなす師匠が誇らしかったようだ。
まさかこんな事態になるとは思いもよらなかったなぁ。というのも――
多数のギャラリーの衆目から逃れた後だった。そのまま食堂に通されて、ジムさんからの提案を聞いて驚く。
私の――というかシルフィードの、なのだけど――あまりにも手際のいい毛刈りの腕を見込んで、今日は『従業員として毛刈りを手伝ってほしい』という提案に。
(エイミー様が良いのであれば、私は一向に構いません)
(そう……というかシルフィー、楽しそうに刈ってたもんね)
(はい、エイミー様があまりにも楽しそうにしていましたので、私も楽しかったのです)
シルフィードは人ではなく『私の創造物』。でも今ではそれをまったくと言っていいほど感じないくらい、様々な感情を見せてくれている。だから『私も楽しかった』と言ったシルフィードの成長は嬉しい。だから彼女に応えるべく口を開く。いや、彼女じゃないね、彼女『たち』だ。
「ほら、私って体力ないから、それで却ってみんなに迷惑かけちゃわないかなって……。でもジムさんのお願いにも応えたいの。手伝ってくれる?」
「もちろんわたしもてつだうよ! だからせんせえはつかれちゃったらちゃんとわたしにいってね」
(それは私もまったく同じ思いです、エイミー様)
「……ありがとう(二人とも)」
ここで私のある想いが弾かれたように意識の前面に現れる。
【ここでシルフィードの存在をミームに明かすのはどうだろう?】と。
今、私はミームにいつになく真剣な表情で対峙している。彼女は急な私の表情の変化に、そして思念を読んだであろうシルフィードもまた、同様に気づいたようだ。
「せんせえ? どうしたの? なんかかおがいつもとちがうよ」
(エイミー様、ついにミーム様に明かすこと、決意されたのですね!)
そう言ったシルフィードは、サッと鏡台に向かい、身嗜みをチェックし始める。髪を手櫛で梳いたり、着衣の乱れなんかを入念に確認していた。
私の視線に(大丈夫です、いつでもお話しください)と小さく首肯する。
「あのねミーム……私ね、あなたに隠してることがあるの。聞いてくれる?」
「かくしてること? ……うん、もちろんきくよ」
「それでね。多分ミームは驚くと思う。でもね、先生はミームだから打ち明けるんだよ。そしてこれからもミームにしか打ち明けるつもりもないの」
「せ、せんせえ……それって……」
そうだよ、私を慕ってくれるあなただから言うんだよ。




