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第72話 ー 毛刈り祭り(騒動)

  昨日とは違う、外の喧騒が耳を突く。


 今日はこの旅のメインである『毛刈り祭り』の初日だ。カーテンを開けると、そこかしこに観光客や村の人々がせわしなく動いているのが見てとれる。私もはやく参加したいと早々に着替えを済ませた。傍のシルフィードも心なしか嬉しそうで、いつもよりも纏った羽衣が、大袈裟に揺れている。


 さて、ミームを起こすと、


「せんせえ、おはようございます……」


 昨日泣いたせいか少し瞼が腫れている。これじゃあせっかくの可愛い顔も台無しだね。


「おはようミーム。はやく『毛刈り祭り』行きましょうか?」

「はーい! すぐにきがえるね」


 寝巻きを脱ぎ散らかしてあっという間に着替えるミームを横目に、私はといえば、鏡台に座り簡単に髪の毛を整える。今日は人も多いから、女性としての身嗜みは整えなくちゃね。ってこれもシルフィードに言われたからなのだけど。


 傍らでその様子を見守るミームも髪の毛が爆発しているので、入れ替わりにそのまま鏡台に座らせる。相変わらずミームの金髪は驚くほど綺麗で羨ましい。


「ミームも女の子なんだから、今日はいつも以上に可愛くしようか?」

「っ! せんせえがやってくれるの?」

「えぇ、もちろん」


 まずは絡んだ髪の毛を優しくブラシで梳かし、いつも愛用している椿油を少しだけ馴染ませる。まぁ愛用とはいっても、これもダフィーに勧められるままに買ったもの。でも香りもいいし、顔にも使えて便利だから気に入っている。

 おかげでミームの髪はいつもより艶やかになる。三つ編みのおさげがミームの定番だけど、今日は趣向を変えてサイドツインテールにしてみた。なぜなら、前世の頃から妙にこの髪型が好きだから。可愛いよねサイドツイン。


「わぁ……なんかいいね、せんせえ。こんどからこのかみがたにしよっかなぁ……わたし、にあってる?」


 鏡越しの目線で問いかけるミームは、新しい髪型に戸惑いながらも嬉しそう。


「うん、もちろん似合ってるよ。ミームに似合わない髪型にするわけないじゃない? だから大丈夫。とっても可愛いよ」

「ほんとっ!? じゃあこれからはこのかみがたにする!」


 次に顔を洗い、さっきの椿油を今度は顔に馴染ませる。ミームはまだ子供だから必要ないんじゃないかと思ったのだけど、どうも私と同じことがしたいらしい。小さな掌に少しだけ椿油を滴らしてあげると、私と同じようにして顔に馴染ませた。私と暮らし始めたら、おしゃまさんになっちゃうかもね。


 さて一通りのことを済ませ外へ出ると、さらに人は増え、さながら一大観光地の様相。毛刈り体験の受付には長い列ができていた。出店も沢山あり、村人のそれ以外にも、近隣の村から参加している出店もあるみたいだ。ざっと見るだけでも、オオギヨウの肉串焼き屋、オオギヨウのミルクセーキ屋、皮加工製品屋、刈った毛を好きな色に染色してくれる染め屋などなど……。


 いずれの出店も盛況で、人々の楽しそうな声がそこかしこから聴こえてくる。


 出店を一通り眺めていると。


「おーい先生」


 出店の列の奥の方から聞き慣れたピートさんの声がする。なんだろうと声を頼りに歩を進めると、ピートさんも店を出していて、しかもそれは『扇風機』の出店だった。


「えっ? ここで扇風機を売るんですか?」

「あぁ。まぁものは試しにな。ここでは注文だけ受けて、あとから納品するんだけどな。でも、素人でも付けられるように実は改良してあるんだぞ」

「そ、そうなんですね!? ちゃんと扇風機も進化してるんですね」

「あぁもちろんだ」


 出店の商品台に乗せられた扇風機をよく見ると、ある程度のパーツに分割されていて、購入者が簡単に組み立て〜設置まで簡単にできるようになってる!


「ちゃんと扇風機の体験もできるように、食堂に今朝設置したの、気づかなかったか?」

「あ、今日は出店で食べようかと思って食堂には寄らなかったんです」

「そうかそうか。もう何人か客も来てな、さっそく食堂に向かったぞ」


 なかなかに商魂逞しいね。これで扇風機が広まれば、この世界も少しだけ快適になるだろう。それの発信元が我らがハカランダ村だなんて、ちょっと誇らしい。


「これも先生のおかげだな。いやー先生が村に定住してくれて大助かりだ」

「いえいえ、ピートさんが定住の許可をしてくれたからこそです」

「そういやそうだったな。ならここはお互い様ってことだ」


 話もそこそこに切り上げ、とりあえず朝ご飯にしようかとミームに提案すれば、サッと私の手を取り、今来た道を引き返す。どうやら途中で目星を付けていたようだ。目的の出店に着くとそこはサンドウィッチ屋だった。


 用意されていた簡易テーブルに着席、二人してサンドウィッチをパクつく。

 ちなみに私はベーコン&目玉焼きサンド、ミームは季節のフルーツサンド。お互いのサンドウィッチの味見をすると、「わたしもそっちにすればよかった〜」とミームが羨望の眼差しを寄越す。


「じゃあ半分こしようか?」

「やったー! ありがとーせんせえ」


 軽めの朝食を済ませたら、やっと今回のメインイベント『毛刈り』だ。先に体験している観光客を眺めていると、好きなだけ刈ることはできるけど、もらえる毛は一定量のようだ。まぁ確かにこれだけ大きなオオギヨウの毛を、オーヴィス村の人たちだけで刈るのは無理だろう。だから毛を刈らせる料金から考えたら、かなりお得な量の毛をもらえるのは客としても嬉しいし、村からしたら格安で毛を刈る人員を潤沢に確保できるのだ。つまりウィンウィンなのだと思う。


(エイミー様。少しよろしいですか?)

(ん? どうしたのシルフィー?)

(毛刈りなのですが、私にも少しお手伝いさせていただけませんか?)

(えっ? 手伝うって?)


 不意に手伝いたいと言い出したシルフィード。


(もちろんそれは構わないよ。というかどうやって?)

(エイミー様は毛を狩る仕草だけしていただければ、私が『禍魔威太刀カマイタチ』で刈り取ります)

(!? だってアレ(禍魔威太刀)、ノーマルモードじゃないとできないじゃない!?)


 そう、あまりにも殺傷能力が高い禍魔威太刀は、シルフィードが実体を現す、つまりノーマルモードでなければ使用できないのだ。うちの中ならともかく、ここはいつも以上に人の多い『毛刈り祭り』の会場だよ?


 そんなの許可できるわけないじゃないと考えると、


(大丈夫ですエイミー様。私に考え(アイディア)があります)


 私の思考を早々と読んだ風の精霊が、スーっとオオギヨウに近づくと、その豊かな体毛の中に入り込んでしまった。


(ははぁ〜なるほどね、昨日のミームを見て思いついたんでしょう?)

(ご明察です、エイミー様)


 昨日、ミームが見せた『クイーンオオギヨウ登山』。

 どうやらシルフィードはそれをヒントにしたらしい。

 それなら確かに誰にも姿を見られることもないし、そもそも実体があってないような存在なのだから、オオギヨウにも気づかれないよね。なかなか考えたねシルフィード。というかもしかしてシルフィードも『毛刈り祭り』楽しみたい? ならちょっと手伝ってもらおうかな。


 でも、これが明日以降、とんでもないことになろうとは、私にも、もちろんシルフィードにも、さらにミームですら思いもしなかったのだった。

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