表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/101

第70話 ー キングオオギヨウ

「先生冷や汗かいちゃったよ……突然あんなことするんだもん」

「しんぱいかけてごめんなさい、せんせえ」

「でもいつもやってるんだよね?」

「うん、やってるよ……でもねてるときにしかやらないよ」


 ミームのクイーンオオギヨウ登山。


 いつもやってるとは言うけど、初めて見た私はもう生きた心地がしなかった。あんなに大きい生き物の背中に乗るなんて、ミームはなかなかの豪胆だなぁ。先生には絶対無理だよ。……自身の名誉のために行っておきますけど、決してビビりじゃなくて、慎重なだけです! ……嘘ですビビりです。


「大丈夫だって言うのなら、そこはミームを信用するしかないのかな……」

「でもせんせえがだめっていうならもうしないけど……」

(エイミー様、いざとなったら私が風のクッションを構築・保護します)

(あ、そういうこともできるんだね。わかったシルフィー、よろしくね)

(お任せください、エイミー様)


 さすが私のシルフィードだ、ミームまで護衛してくれるんだね。なら……。


「うーん……ま、いいかな。でも、ちょっとでも危ないようならすぐ止めるんだよ。それなら先生、許可します」

「わかりました!」


 シュタッと額に手をかざして敬礼すると、その小さな歩みはキングの厩舎に向かう――のだけど。

 さっきまでの意気揚々とした歩みは鳴りを潜め、何かに警戒しているように、厩舎入り口から決して中に入らず、そっと覗き込むミーム。


「どうしたの? 中に入らないの?」

「しっ! おうさまにあうにはなるべくしずかにしなきゃだめなの。うるさいから」

「そうなんだ……うん、わかった。小声で話すようにするね。って、煩い?」


 キングオオギヨウって、要するにこの村にいるオオギヨウ唯一の雄個体、ってことだよね。そんなに雌雄で性格が違うもの? メスは放牧地の個体は大人しかったし、クイーンに至っては、睡眠中とはいえミームが体を登っても起きないし。

 アリやハチみたいってことは大きさもクイーンほどじゃないのだろうし、そこまで警戒するもの? というか煩いってなに?


 抜き足でキングの厩舎にお邪魔すると、当然のように大きな――どうやらクイーンよりも一回り小さいようだ――毛むくじゃらの生き物が、クイーン同様頭を奥にして鎮座していた。一回り小さいとはいえ、あくまで体長約10mのクイーンと比べてだから、どちらにしろ大きいことには変わりない。やっぱり少し怖い。


《あ〜エイミーさん、おはよ〜ござります〜これがキングですやんな〜今はさかりのちょい前なもんでね〜ちょっこし、気ぃが立っとるでの〜音ば静かにしてつかぁさいの〜》

《はい、わかりました。気をつけます》


 小声で話すジムさんに、私も小声で返す。

 盛り、つまり発情期ってことだけど、どんな動物も発情期〜子育て期って親は気が立つから、これは当たり前の習性だ。


《そんよかエイミーさん、キングもでこいやろ〜。角なんぞもみてみっかい〜?》

《えっと……『よか』?『でこい』? ってどういう意味でしょうか?》


 ジムさんの訛りが、実は時々わからないことがある。いつまでもわからないままだと、齟齬が生じる可能性もあるから、思い切って聞いてみた。


《……そうですね〜、確かにここの訛りは分かりづらいですよね〜。これは失礼しました〜。さっきのは『それよりもエイミーさん、キングも大きいでしょう? 角も見てみますか〜?』って言ったんです〜》


 やっと私にもわかる言葉で話してくれたよジムさん。でもイントネーションは変わらないんだね、なんかちょっと面白い。


《角ですか! ぜひ見せてください》

《わたしもみる〜》

《じゃあ〜くれぐれも大きな音を立てないように〜ゆっくり行きましょう〜》

《はい、わかりました。ミームも静かに、ね?》

《うん、わかったー。せんせえもくしゃみしちゃだめだよ?》

《おっとミーム、フラグ立てないようにね》


 張り詰めた空気を縫うように、できる限りの抜き足でゆっくりとキングの横を通り抜ける。やがて前身が見えてくると、ミームの言っていた通りのものが姿を現した。


 恐ろしいまでの大きさを誇るキングの巻き角。ぐるりと巻いたそれは、見様によっては禍々しく、そしてキングの威厳そのものを誇示している。先端も鋭く、あんなもので突かれたらひとたまりもないだろう。が、その先端は前世で知っていた『ビッグホーン』とは違い、上を向いていた。


《角、大きいでしょ〜あれ、本当はね〜先端は少し切り落として丸く研ぐのですが〜今年はなぜか角を触らせてくれなくてね〜あのままなんですよ〜》

《確かにあのままだと危険ですよね……》

《まえみたつのよりおっきくなってる〜》

《まぁ基本大人しいから〜大丈夫だと思いますよ〜》


 すると後ろから付いてきたジェシーさんがここで口を開く。


《ジム兄ちゃん、そんよか先に魔導詩でしょ?》

《そかそか〜でもな〜せっかくだからそんよか先にエイミーさんに角ば見せてやりたいもんね〜》

《いやそんよか魔導詩やろもん、折角寝とるんやき》

《待ちぃよ〜今もう近うにいるんだで〜魔導詩よか角じゃろ〜》


 私としては、割とどうでもいいその優先順位を言い合う前に、サクッとどちらかに決めて欲しいのだけど、それを近くで見ているピートさん、すごくイラついている。これやばいんじゃ……。


「……うるせぇぇぇぇ!! よかよかよかよかウルセェわーーーー!!」


「「「「「あ……」」」」」 


 大声出しちゃった。まさかのピートさんが盛大にフラグを立てる。本人もすぐに気づいて慌てて口を覆う。

 しかし時すでに遅し、キングは覚醒し、のそりとこちらに振り向き私と目があった。その刹那、大きく息を吸い込んだキング。


「せんせえ! みみ!」


 え? 耳? 耳がどうしたの――


「メ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"エ"エ"エ"エ"!!!!」


 キングの凄まじい音圧を孕んだ咆哮が、厩舎中に響き渡る。厩舎がミシミシと鳴き、大気がビリビリと震えた。


(これは威圧……?)


 と思うが矢先、その現象に体が耐えきれず尻餅をつき、そして意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ