第65話 ー 画力
お土産屋に行こうというミームの提案に首肯し、動きやすい服に着替え休憩もほどほどに、半ば強制的に部屋から連れ出されてしまった。
渡り廊下で繋がった別棟にある、お土産屋兼資料室に連れて行かれると、50平米くらいだろう部屋に到着する。そこにはオオギヨウに関する様々な資料が展示されていて、なるほどなるほどと感心しながら見て回った。
想像通りオオギヨウは『肉・毛・乳・革を利用するため』に改良された家畜で、野生種との違いなどが紹介されていた。
紹介、とは言っても文章は相変わらずアレなのが読んでて辛いのだけど、どうにか『脳内校正』をフル活用して読み解いていく。
(……ふむふむ、野生種は白地に黒の斑紋ね。ダルメシアンみたいな感じ? 後染めしやすいように無斑紋個体を選別してるのかな? でも雌雄の構造からして真社会性っぽいから時間かかりそう……で、体長・体高もオオギヨウの半分ほど、かぁ。……って改良種とはいえ倍近い大きさにまで改良できるものなの!? いや……もしかしたら倍数体っていう可能性もあるか……「…んせえ、せ……えってば!」って、は、はいぃっ!?)
オオギヨウの脳内分析中にミームの声に気付いて思わず大声が出る。
いけないいけない、ついイキモノ好きスイッチが入ってしまって、ミームの呼びかけを完全に無視しちゃった。ごめんねミーム。しょうがないんだよ、私フォントとイキモノ大好きなんだから。
前世を思い出してみれば、平日はともかく、週末はフォントとイキモノに時間を費やすのが常というくらいに好きだった。例えば午前中にネットで新しいフォントを眺めて、午後からペットショップや動物園・植物園・水族館にフラッと出かけたり、イキモノに関する書籍を読み耽ったり……。住んでいた賃貸アパートはもちろんペット不可だったから、余計にそんな過ごし方が多かった。ちなみにこっそりミドリガメを飼ってたのは内緒だ。しかも名前は『カメ吉』とド直球である。
わずかに頬をぷくーっと膨らますミームは、私とお土産コーナーを一緒に見たいらしく、そちらに手を引かれる。
お土産コーナーを見回せば、ウール……じゃなかったヨウルのセーターや帽子や小物、革で作られたベルトやベストと、おおよそ考えつく加工品が整然と展示販売されている。へえぇ、膠なんかもあるんだ……。
と、その中に少し私の目を引くものを発見、手に取った。
それは革で作られたコースターで、中央にはオオギヨウのデフォルメされたキャラがエンボス加工された、いかにもお土産然としたもので、値段もお手頃。これ家用に買おうかな。あ、ダフィーにも買っていこう。
そしてこれを見てあることをフッと思い出す。友人のイラストレーターに昔、『似顔絵を似せる方法は、特徴をデフォルメして大袈裟に描くことだ』と聞いたことを。
それに倣えばこのオオギヨウのキャラは実にその特徴を捉えていて、しかも『可愛いキャラ』にしっかり落とし込まれていたのだ。とはいえなんというか、どうにもこの世界には合っていないように感じる。妙に前世チックというか。
不思議な感覚に陥りながら、雄のキャラのコースターもあるんだ、なんて思いそれを手に取ると、ミームがなぜか嬉しそうな眼差しで覗きこんでくる。
「せんせえそれかうの?」
「えぇ。見てこれ、可愛いじゃない? 先生とお揃いで買おうか? 弟子入りの記念に好きな方買ってあげるよ」
「っ! ほ、ほんと!? かってくれるのせんせえ?」
「うん、いいよ」
「やったぁぁぁぁぁ! うれたー!!」
私の可愛い弟子はその場でぴょんぴょんと跳ねながら、小さな体で喜びを発散させる。金色のおさげ髪もそれにリンクしてぽよぽよと跳ね、まぁなんと可愛いこと。……って、売れた? 嬉しいじゃなくて?
と、ここでふと『この国 の歴史』が頭によぎった。
このキャラを描いた人があの本の挿絵を描いたらどうなんだろう。これだけ上手くデフォルメできる技量があれば、挿絵チックなタッチも描けるのでは、と。
「あ、そういえばせんせえ」
「ん、なーに? ミーム」
「そのやぎの絵、わたしがかんがえたんだよ!」
「……え? え、えええぇぇぇぇっ!?」
はい、このキャラを描いた人、目の前にいました。ってほんと!? 前からミームは絵が上手いなぁと関心していたのだけど、ここまで描けるとは全く知らなかった。いやいやそれよりも歳不相応なくらい上手なんですけど。あ、だから『売れたー!!』って喜んでたのか。
呆けた私に、両手を腰に当ててすごいでしょーポーズをとるミーム。あらあらめっちゃドヤ顔ですね。それにつられて頭をよしよしと撫でる。
「ふっふーん、すごいでしょー?」
「うん、凄い! 上手だね。……ってほんとにミームが描いたの?」
疑うわけじゃなく単に好奇心で聞くと、ぐいぐいと部屋まで私の手を小さな手で掴んで連行するミーム。ガサゴソと自分の荷物の中から紙束を差し出してきた。どうやら私が疑っていると思っているのか、ミームの頬はまた、ぷくーっと膨らんでいる。今日二度目のぷくー頂きました。
その紙束はミームのスケッチブック代わりのもので、彼女はそれを常に携行している。私もだいぶ前に一度だけ見せてもらったことがあったのだけど、その時見た絵は、年齢の割には絵の上手な子供、くらいの画力だった覚えがある。
どれどれと紙束を捲ると、以前見た絵が続く。捲るにつれ、画力が少しづつ向上しているのが見てとれた。
あ、この辺りから見たことない絵だね。……って、なんか画力の上がり方が尋常じゃないんですけど。驚きのあまり、紙を捲る手が自然と早くなる。っと、これもしかして私!? いい具合にキャラっぽく、というかこれ完全にアニメキャラっぽいタッチじゃない!? しかも右手に分厚い本を開いて持っていて、左手は遠くをビシッ! っと指差しながら何かを叫んでいる。これもう完全に魔法詠唱してますよね? この世界、魔導詩で魔法『っぽい』ことはできるけど、魔法そのものっていうのは見たことがないし、魔法なんてないよね? ……ないよね?
「じょ、上手だねミーム。これって私? これ何してるところなの?」
「えへへ〜、にてるでしょ? で、これはねー、みんなにおべんきょうおしえてるところ!」
……えー。私が勉強教えてる時って、こんな強面かなぁ。私、時には厳しく言うけど、基本優しくニコニコしてると思うんだけど(当社比)。あ、そうか。『時には厳しい』をデフォルメしてるのか。そっかそっか、うんうんそういうことにしておこう。




