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第62話 ー 異世界だからといって危険があるわけじゃないらしい

(ねぇシルフィー、どうしたらいいと思う?)


 普段ならとっくに寝ている深夜(時間帯)。周囲に気を向ければ、虫たちの合唱や、風に揺れる草木の擦れる音、時折遠くから聴こえるフクロウだかミミズクだか――この世界にいるのかはわからないけど――のホーホーという鳴き声、といった如何にもアウトドアな音達に満たされている。


 テントの入り口の隙間から僅かに差し込む月明かりも柔らかく、今日はなんだか心地よくてなかなか寝付けなかった。

 要するに、昂っているのだ。ほぼ生まれて初めてのキャンプ体験、初めてのこの世界での旅行、突然のミームの弟子入り。ちょっと色々なことがありすぎて、寝付けないのも無理はなかった。だから、シルフィードと少し話をすることにした。


 話と言っても、横にはミームが可愛く寝息を立てているから、念話なのだけど。ちなみにミームの寝顔は、これまたキュートだ。天使が寝てるのかと思ったよ。思わず柔らかそうな頬を突っ突いてみた。つんつん。


(質問を質問で返すのは失礼とは思うのですが、どうしたら、というのはどういうことですか? エイミー様)

(あぁ、それはもちろんシルフィーのことよ。流石にミームに、というか他の人には言えないでしょ?)

(そのことですか……そうですね、私にはそれは分かりかねます)

(そうよね……これまで通りにうちに通って勉強、ならよかったのだけど、うちに住むことになっちゃったから、隠し通すにも無理があるよね)


 どう考えてもシルフィードの存在を隠してミームと一つ屋根の下で生活するのは無理があるし、できるわけもないよね。別にミームに打ち明けるのは構わないのだけど、なにしろミームはまだ九歳で、その年齢からして、秘密を守れるのかという懸念がある。ミームを信用していないわけではないのだけど、(子供)の口に戸は立てられないし……。どうしたものかなぁ。


(そうですね……私はエイミー様がお決めになったことに従います。ですが、今はこの旅行を楽しむのが良いかと)

(……そうね、今すぐ解決しなきゃ駄目ってわけでもないものね)


 だけど、期限がない問題でもない。少なくともこの旅行中にはなんらかの方向性は決めなきゃいけないのは明らかなこと。


 とりあえず、今は明日のために寝ることが最良です、というシルフィードの助言を素直に受け入れることにして、念話を切って瞼を閉じた。


―――――――――――――――――


「……せ…、せ……え」

「……ん、んんん、……あぁ、おはようミーム」

「おはようせんせえ、もう朝だよ! ご飯できてるって!」

「……うん、わかった。じゃあ顔を洗いに行きましょうか?」


 ミームの手を取って水場に向かい、二人揃って顔を洗う。冷たくて気持ちいいねーと言うミームの顔を、タオルでわしゃわしゃと拭いてあげるとミームはえへへと嬉しそうに笑う。随分と手のかかる弟子だねと言うと、ミームはぺろっと小さな口から舌を出す。……か、可愛い……。


 顔も洗ってしっかり目が覚めた私たち旅の一行は、朝食を囲みながら今日の予定を確認する。


「朝飯の後、すぐにここを出発すればお昼にはオーヴィス村に着くな」

「えぇ、もう向こう(実家)にはそう伝えてあるから、準備してくれているはずよ」


 トムさんがそう言うと、奥様のジェシーさんが情報を付け足した。


 そういえば、旅立ちからここまで少し気になったことがあるのを思い出して、私は挙手しながらトムさんに聞いてみた。


「あの……ひとつお聞きしてもいいでしょうか?」

「ん? なんだい先生?」

「えっと、これまでの道中で、その……盗賊とか危険な動物とか、そういったものはないのかなって気になっていたのですが」


 そうなのだ。ここは私にとっては異世界なわけで、ラノベから得ていた知識に照らせば、例えば昨晩、テントが何かに夜襲されても不思議じゃないのだ。ただ私は自宅のあるハカランダ村とバルサの街しか知らないから、そういった危険要素がまったく予想できない。少なくとも私の生活圏内では、危険のきの字もない、実に平和な環境なのだ。


 そんな私の疑問を解いてくれたのは、それまで無言で朝食を食べていたピートさんだった。


「俺が小さい頃は盗賊……まぁ野盗だな、そういう手合いも多少はいたんだが、今はもうそんなことする必要がない。どこかしらの村なり街なりに行けば、なんらかの仕事があるから、わざわざ人に忌み嫌われることをする奴なんか、少なくともこの辺りじゃ居ない。とまぁそういう訳だ」

「そういえば野生動物もほとんど見ませんでしたよね?」

「動物も、人を襲うようなのはせいぜい狼や熊くらいだが、こんな街道には滅多に出てこないし、休息地も忌避剤を撒いておいたから大丈夫なんだよ。それでも襲われることはなくはないが、少なくともここ数年は聞いたことはないな」

「なるほど……私、旅行なんて初めてですから、実はちょっとだけ不安だったんです」

「ん? でもよ先生、ハカランダ村に来るまでは大丈夫だったんだろ?」


 あ。村に定住するまでは各地を旅していた(という設定だった)んだ! いくら気になってたとはいえ、ちょっと迂闊だったよ。


「あ、い、いや、それまでは乗り合いの大きな馬車で、大人数の移動でしたから……ちゃんと護衛の方々もいましたし……?」

「ハッハッハッ! そうかそうか。それなら危険じゃないもんな。初めに言っとけば良かったなぁ、これは悪いことした」


 ホッと安堵の表情を浮かべた私に、トムさんジェシーさんもうんうんと頷いて、より私の不安を取り除こうとしてくれているけど、違うんですごめんなさい。変に思われないか心配だっただけです。


「よし、じゃあそろそろ出発するから、みんな忘れ物のないように準備してくれ。俺は馬車を取ってくるから」


 よいしょと腰を上げてトムさんは馬車置き場に向かう。


 そして、今日はいよいよ目的地のオーヴィス村だ。一体どんなところなのか、もう期待しかない。旅行でテンションあがらない人なんていないでしょ?

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