Break Time ー じぃじは思いを巡らせる
「じぃじはいつでしいりしたの?」
ある日の夕食。それまで静かにおかずを頬ばっていたミームが唐突に聞いてきた。
「じぃじは……確か10歳になってすぐ、だったかな?」
「そっかぁ……でしってたいへん?」
「そうだなぁ、覚えることも多いし、体力も必要だし、親父……ミームにとっちゃ曾祖父ちゃんになるが、おっかなかったしなぁ。でも、大変と思ったことはほとんどなかったぞ」
「どうして?」
「うーん……そうだな……曾祖父ちゃんみたいになりたかった、からだな」
そう答えてやるとミームはさらに聞いてくる。
「ひいじぃじってどんなひとだったの?」
「そうだなぁ……怖かったし厳しかったし、今思えば辛いことばっかりだったが、まぁなんだ、『かっこよかった』んだよ」
「かっこいい?」
「あぁ、かっこよかったぞ。あっという間に綺麗なタンスやら座りやすい椅子とかを作っちまうんだ。まだ子供だったじぃじにはそりゃかっこよく見えたもんだ」
俺の中では親父のことは『越えられない大きな山』、そう今でも思うくらいの腕前だった。その腕一つで家族を支える親父はとにかく尊敬に値する男だった。
「そっかぁ……かっこいいんだ……」
「あぁ、かっこよかった」
「……えっとね、わたし、きめたことがあるの」
いつになく、いや、こんな真剣な顔はおそらく初めてなんじゃないか。
そう思わせるくらいの真剣さを向けるミーム。ならばこちらもそれに向き合わなくてはならないな。
「なんだいミーム。何を決めたんだ?」
俺の言葉に、ミームとその両親――トムとジェシーも固唾を飲んでいる。
どうやら二人はミームが何を言おうとしているのか知っているらしかった。であれば、最後に俺にお伺いを立てよう、という心算なんだろう。
「えっとね……わたしね、でしに……なりたいの……」
「弟子? ミームはママみたいなお嫁さんになるのが夢じゃなかったか?」
「うん、それもゆめだけど、もっとおっきいゆめができたの」
「ほう? なんだ、言ってごらん」
ミームは日頃から『ママみたいなお嫁さん』を目指して、家事を率先してやってきたのを知っている。掃除に洗濯、料理も上手くなり、今ではちょっとした裁縫までこなすようになっていた。だから料理人や服の仕立て屋にでもなりたいのかと考えた。
――のだが。
「……わたし、エイミーせんせえのでしになりたいの!」
「何!?」
正直驚いた。いつもことあるごとに先生の話を楽しそうに話してくれるのだが、まさかこんなこと言うとはな……。だが、俺もそれは悪くないと考えた。
家業である家具作りも女性には大変だろうし、そもそもミームに継がせようとも思っていなかったのだ。
しかも師匠はエイミー先生だ。つまりミームは『教師になりたい』ということか。
俺もエイミー先生には一目置いているし、教師という職業もこれからこの国には必要なのではと、そう漠然とだが思っていた。
ならばミームの覚悟を見定める必要がある。
「どうして先生の弟子になりたいと思った?」
いつもミームに話す『じぃじ』を捨て、厳しい顔で尋ねる。
ここで怯む程度では弟子入りなど許せるはずもない。先生に迷惑かけてしまうからな。しっかりと覚悟を示してもらおうと、わざとらしく腕を組みミームと対峙する。
「……えっと、せんせえかっこいいしやさしいし……でも、いちばんのりゆうは、わたしもせんせえみたいにおとなになったら『子どもにおべんきょうのたのしさ』をおしえてあげたいの……だってね、リアムもノエルもみんなたのしそうなんだよ? もちろんわたしもたのしいし……だめ?」
「……おいトム。お前はどう思う?」
「俺か? 俺は賛成してるさ。自分でやりたいことを見つけたんだ。ミームの好きにしたらいいと思ったし、まだ九歳だから、いくらでもやり直しがきく」
「ジェシー。お前は?」
「私もトムと同じよ。話を聞くと先生のお宅に住み込んで頑張るって言ってるけど、先生のお宅は家から近いから、そこも心配してないわ」
なるほど二人も賛成か。なら。
「わかった。お前の好きにしたらいい……ただし! ひとつだけ条件がある」
「じょうけん?」
「あぁそうだ。それは『自分で先生に弟子入り』をお願いする、だ。どうだ、できるか?」
「……うん、わかった、じぶんでいう……」
「ならよし。自分の大事なことは自分で、だ。……先生がいいって言ってくれるといいな」
「うん! がんばってせんせえにいう!」
よしよしとミームの頭をわしわし撫でるとミームはホッとした様子で、またおかずをもしゃもしゃと食べ始める。
そういえば俺も、親父に弟子入り志願した時は緊張したことを思い出す。普通なら成人前の13歳あたりに弟子入りするのだが、俺自身が10歳で弟子入りしたのだから、それを棚に上げてミームを止めるのはおかしな話だ。ましてや自分でやりたいというのなら俺に反対という言葉はない。
それでいつ先生に言うつもりかと尋ねれば、夏の旅行に先生を誘ってその時に言うつもりらしい。ちょうどオーヴィス村には扇風機の設置という仕事もあるから、先生を誘う口実は充分だろう。これもミームが自身で考えたことのようだ。
(いつの間にかこんなこと言うようになるとはな……)
嬉しそうにおかずを頬張る孫の姿は、少しだけ頼もしく見える。
そしてその姿に俺はいつの間にか『じぃじ』の顔に戻っていた。
頑張れよ。ミーム。




