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第60話 ー 小さな弟子の誕生です

「え? ……で、弟子!?」

「うん、そう! せんせえのでしになるの!」


 この唐突なお願いに、私は思わず身動いでしまう。それは当然のことで、ミームはまだ子供だし、そもそも私はなんの師匠なんだろう? というか弟子にしてくださいじゃなくて弟子になるって言い切っちゃったし。


 この予想だにしないミームのお願いに、両手をバタバタさせながら、


「え、えっとね? 聞きたいんだけど、私、なんの師匠なのかな?」


 慌てふためく私。そしてミームは迷いなく続ける。


「もじをよんだりかいたりするのをおしえてくれるししょう!」


 あ、そういうことか。でもそれって……。


「今ミームは私のところにお勉強を習いに来てるでしょう? それじゃ駄目なの?」

「それだとせんせえとせいとでしょ?」

「確かに……、っていやいや! そうじゃなくてね。師匠と弟子は、先生と生徒とは何が違うの? 似たようなものだと思うのだけど」


 うーんと小さな頭を傾げて少しばかり考えるミーム。そんな仕草も可愛いんだよねぇ……。っていや駄目だ、そんなことには誤魔化されないよ!


「いつもいっしょにいてわたしはせんせえのおせわもするの。ごはんとかおそうじとか」

「……えーっと、つまりそれって、私の家に住む、ってこと?」


 今、私たちのやりとりを、ミームの家族全員が聞いているのだけど、特に何を言うでもなくただ黙って見守っていた。まだミームは九歳だし、弟子とかどうとか言う前に、そんな小さな娘が家を出て我が家に住みこむなんて、許すはずもないよね。


 ――と、思っていた時期もありました。


「先生、ミームをよろしくお願いしますね」


 と、丁寧に頭を下げて言ったのは母親であるジェシーさんだった。えっと、なに言ってるのかなこのお母さんは? 結構、いやかなり重大な話ですけど? こんな即決でいいの!?


「えっと、ジェシーさん? 弟子の話はさて置き、これまで通りに自宅からうちに通う……では駄目なのでしょうか?」

「いえ、駄目ということはないんです。ただ、うちも家具職人の家ですし、すでに後継はいとこに譲るようにしてますので」

「まぁ確かに家具職人は女性には大変かも……って、そういう事ではなくてですね? 私は村の子供達に勉強を教えてるだけで、師匠とかそんな立派なものじゃないですよ? ましてやミームはまだ小さいですし、ご両親の元で育てた方がいいかと思うのですが……」


 個人的な事をぶっちゃけてしまえば、ミームが我が家に住むのは一向に構わないのだけど、世間一般的に(この世界では)それは許される事なのかな。もし何かあっても私では責任がとれるわけもなくて。そもそもこんな場所(馬車の中)で揺られながら話す内容なのかなという疑問もあるし。ミームには悪いけど、どう断ろうかと色々と思案を巡らすのだ。


「……先生」


 それまで一言も話さなかった村長のピートさんが、やっと重たく閉じた口を開いた。その顔は、厳しいのか穏やかなのか、私には推し量ることができない。


「確かにな、まだミーム(愛孫)は小せえ。本来ならもう少し……そうだな、あと三年くらいは待つのが通例なんだが、まぁいいだろ。俺からも弟子入りの件、頼めねえかな」


 はい、どうやらその表情は穏やかなものだったようです。というか、この世界ではこんな小さな子供が弟子入りとかするものなの?


「えぇっ!? 弟子と言ってもいままで通り、読み書きや算数を教えるしかできないのですが……」

「あぁ、もちろんそれで構わねえ。俺たちの村にしても他所の村にしても、どっちにしろ職人になるか、嫁に行くかしかないからな。職種によっちゃぁ女性職人もいるが、うち(家具職人)は体力をそれなりに使うし、先生の弟子になるってことはだ? このあたりじゃ聞いたこともない『教師』ってものになれる。それもいいんじゃねぇかって思ってな。なにしろミーム本人にやる気があるんだ、俺たちに止める理由もねぇさ。まぁ住み込みって言っても先生の家とうちの家は近いしな!」

「ピートさんがそこまで言うなら……。でも、本当にいいんですか? しつこいようですが私がミームにしてあげられることって、今まで通りに勉強を教えるしかできませんよ?」


 家長であるピートさんまで随分と乗り気なのだけど、もうこれ断ることできない流れになってるよね。確かに彼の言う通り、私の家とミームの家は目と鼻の先だし、なにかあればすぐにご家族に連絡もできる。言葉は悪いかもだけど、まだミームは子供だから、家が恋しくなったりしたら家に返せばいいとも言える。


(エイミー様、ここはあまり難しく考えずに了承してもよろしいのでは?)


 と、不意にシルフィードから念話が飛んでくる。


(……そうだね、わかった)


「……ミーム。先生ね、ちゃんとミームのお師匠さんができるのか自信ないけど、頑張るからね。こちらこそよろしくね」

「うん!!」


 嬉しさでぷるぷるしているミームの頭を優しく撫でれば、小さな肩を竦めて更に嬉しそうだ。更に更にそれを見ているシルフィードも嬉しそうだ。


 ……あ。


 肝心なこと忘れてた、シルフィードのことどうしよう……。


 ……ま、それはさて置き(ほんとはさて置けないけど)、今日から私はミームのお師匠さんになりました。大丈夫なのかな私……。

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