第59話 ー えっとね、あのね……
寝室に戻り、タンスやクローゼットから旅行に必要な、主に衣類なんかを思案しながら選び出す。こんなに沢山の荷物、持っていけるのかと頭を捻りつつ大きめの鞄に纏めていく。でもまぁ、ステボのアイテム袋があれば大荷物だろうが関係ないよね。アイテム袋がどれだけ入るのかは不明だけど、大丈夫でしょ多分。
そんな私の思いが顔に出ていたのか、シルフィードは少しだけ困惑の顔を浮かべていた。
そんな顔を私に寄越すシルフィードに、私は少し声を張る。
「旅行っていっても、着替えくらいしか持っていくものないよね!?」
「そうですね、それで事足りるかと。敢えて言うなら、ある程度の長期旅行ですから、エイミー様がお暇にならないように、図書館で本を借りるのも良いかと」
「おおっ! なるほどね。それはいいかもね。じゃあ早速――」
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シルフィードのナイス提案に乗ることにして、私は今まさに図書館で、旅行に持っていく本を選んでいるところだ。
とはいうものの、ここには、というかこの世界には『小説・物語』の本が存在しないから、退屈しないような本というのがまた難しいのだ。ただでさえ私のアイテム袋には『この国 の歴史』があるわけで。
だったらこの本にしようかなということで、『米斗王里 おいJい方法』という、色々な料理のレシピや調味料、料理道具の解説などが書かれている本を借りることにした。というか、背表紙の『し』が『J』になってるのは、もはや突っ込みすらしたくない。これ絶対わざとでしょ? そもそも『料理』って文字も分解されてるし。
ちなみに私は料理をほとんどしないけど、料理そのものには興味はあるので、読んで損はないと思っている。一応キッチンには調理器具や食材なんかは揃えているし、やろうと思えばいつでもできるのだけど、村の皆さんが持って来てくれる料理がまたどれも美味しくて、自分で作る気がイマイチ湧かないのよね。
ところで、この世界にきてから数ヶ月経過してるけど、『ハカランダ村』と『バルサの街』しか知らない私は、今度の旅行先である『オーヴィス村』への旅行は実はとても楽しみだったりする。今の生活には概ね満足なのだけど、その生活にも慣れてきた今、旅行に行けるというのは、この世界の有り様を知るには絶好の機会だと考えていた。
とりあえずエルバさんに旅行のことを伝えると、本の扱いの注意を念押しされる。聞けばバカンスの間は、図書館も閉めて清掃期間なんだそうだ。
しばしのお別れをエルバさんとしつつ、そのまま白狼亭に向かう。ダフィーに旅行で留守にする旨を伝えるためだ。それ以外は特に用件もないのでそこそこに話を切り上げて、陽の落ちかかったバルサの街を後にし、家路を急いだ。まぁエルバさんとはしばらく会わなくてもどうってことないけど、ダフィーには伝えておかないとね。金の日なのにカレーを食べに来ないって心配させちゃうし。
これで旅行の準備は万端になった。あとは『この国 の歴史』の校正を頑張ればいいね。というかできるのかな。なんか普通に旅行をエンジョイしちゃいそうな気がして手につかなさそう。そんなワクワクを抱きつつ、今日は早々にベッドに入った。
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「今日は晴れてよかったですね」
「あぁそうだな。しかし先生すまねぇなぁ。せっかくのバカンスなのに、俺らに付き合わせちまって」
申し訳なさそうに頭を掻く村長のピートさん。バカンスに向かうメンバーは、ピートさんを筆頭に、家族であるトムさん、その奥様のジェシーさん、ミーム、そして私。ミームはなんだか嬉しそうにソワソワしながら私をじっと見ている。
そんなに私が来るのが嬉しいのかな? 私もこの世界で初めての旅行、しかも前情報が『毛刈り祭り』『ゴライアスアントゴート』くらいしかないから、一体オーヴィス村とはどんなところなのかわからないところも、この旅行が非常に楽しみな要因でもある。
順番に馬車へと入ると、やはり嬉しそうにミームはちょこんと私の隣を陣取った。
「ミーム、なんだか楽しそうだね」
「うん! だってせんせえといっしょだもん! すっごくたのしい!」
「そっか、私もすごく楽しいよ」
「いいかみんな! そろそろ出発するぞ!」
御者を務めるトムさんの掛け声とともに、馬車はゆっくりと走りだす。
オーヴィス村に続く長い道を走り出すと、お世辞にもいい道とは言い難かった。時折ガタンゴトンと馬車が上下左右に揺れる。これは『土の魔導詩』が必要なのも理解できる。この旅行で、『土の魔導詩』の抱える、舗装をしたいのに出来ない、という問題も解決できればいいなと思いを巡らせた。
確かオーヴィス村までは二日かかるという話だから、この道の状態が続くとなると結構厳しいかも。すでに少しお尻が痛い。でも、初旅行という一大イベントがそれを緩和してくれている気がした。
そのせいか、馬車の中ではみんなと他愛のない話をして退屈もしなかったし、夏の暑い日差しも馬車の幌のおかげもあってそんなに辛くない。いや、ほんとはシルフィードが馬車内の温度を、他のみんなに悟られない程度に快適にしてくれてるからなんだけど。
ただ一人、御者のトムさんは、ふぅふぅと顔の汗を何度も拭ってはこまめに水分補給をしている。一回熱眩みで倒れてるから気を付けてるんだね。
そんななんでもない会話の中、ミームがちょっと驚く発言をした。
「ねぇせんせえ? わたしね、せんせえにおねがいがあるの」
「ん? なぁにミーム? それって先生ができること?」
「うん! せんせえじゃないとできないの」
私じゃないとできない? みんなに出来なくて私にできることってなんだろう。文章を書くくらいしか出来ないんだけど、それに関係してること? でもミームは私のところに勉強に来てるからなぁ……。一体なんだろう。
ミームは両膝をもじもじと擦りながら続ける。
「えっとね、あのね……」
「言いづらいことなの? だったらオーヴィス村に着いてから二人きりで聞いてもいいよ?」
「ううん、だいじょぶ。えっと……わたし……」
「なぁに?」
「……わたし、せんせえの……でしになりたいの!」
は? な、なんですってー!




