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第58話 ー ごらいあすあんとごーと

 いつものように勉強が終わった昼下がり。


「せんせえ〜、らいしゅうってひま?」

「ん? どうして、ミーム?」


 子供達が帰ったあと、一人残ったミームが唐突に聞いてきた。

 暇と言えば暇、になるのかな? というのも、この村を始めとした近隣の町や村は、来週から二週間ほど、前世でいうところの『バカンス』に入る。それぞれが帰郷をしたり、旅行に出かけたりして楽しむのだ。


 私にとっては初めての長期休暇になるのだけど、私はなにしろ転生者だから、帰る故郷もこの世界にはないのだ。帰れるものなら前世の世界に帰って温泉にでも行きたいところ……いや、たぶん仕事しちゃうんだろうなきっと。


 とはいえ、じゃあこの世界で二週間もの長期休暇をどう過ごすのかというと、実はまったく予定らしいものはなかった。この二週間は勉強もない(子供達もバカンスだから)から、あえていうなら『この国 の歴史』の校正でも進めようかな? くらいの予定しかない。


 ふわっとしたバカンスの予定を考えていると、ミームが私の顔を覗き込むように言った。


「えっとね、うち、みんなで『けがりまつり』にいくんだけどね、せんせえもどうかなって、ママがいってたの」

「え? けがりまつり? それってなにかしら?」

「えっとねぇ、けがりまつりっていうのはね――」


 ミームが言っている『けがりまつり』というのは『毛刈り祭り』のことらしい。詳しく話を聞いてみると、私たちの住むハカランダ村から、二日ほど馬車で行ったところに『オーヴィス村』という、牧畜を生業にしている村があるらしく、そこで来週から行われる祭りのことらしい。ちなみにミームのお母さんのジェシーさんの故郷でもあるとのことで、いわば里帰りの側面もあるみたい。


 それはさて置き、祭りの名前から察するに毛を刈るのがメインの祭りのようだけど。なんにせよ、とりあえずの疑問をミームに投げてみた。


「私が知ってる毛刈りは羊なのだけど、その祭りも羊の毛を刈るのかしら?」

「ううん、ちがうよ。うーんと……やぎだよ」

「へぇ、山羊なんだ。でも、毛を刈るほど山羊って毛が生えてたかしら?」


 私の知識――といっても前世の曖昧な記憶なのだけど――だと、家畜における山羊って、せいぜい乳用か、一部の地域では食肉用だったと思う。私が知らないだけかもだけど、毛を使う、つまり羊毛ウールのような用途はほとんどないんじゃなかったかと記憶してる。

 でも、こちらは異世界だから、山羊が羊の替わりになっているのかもだし、そもそもミームが山羊と羊を勘違いしてる可能性もある。


「うん、もこもこのけがはえてて、ぐるぐるのつのがはえてて、すっごくおっきいんだよ!」

「ぐるぐるの角? 大きい?」


 ミーム、それ全然イメージできなくなっちゃったんだけど。ぐるぐるの角の山羊だと、ビッグホーンっていうのが前世にはいたような覚えがあるけど。でも、家畜の山羊ってそんな角じゃなかったような気がする。しかも、もこもこの毛なんだよね? もう羊にしか思えないんだけどなぁ。


「そう! おっきいんだよ。えっとね……なまえなんていったっけなぁ? ……あ! おもいだした! ぐら……げら……! そうそう、ごらいあす……あんとごーと? っていうんだよ!」

「ゴライアスアントゴート?」


 前世でも今世でも初めて聞いた名前だけど。その妙に長ったらしい名前に、なんとなく想像がついた。


 ゴライアスって確か大きい生き物につく名称だったよね。前世だと、世界一大きいカエルが確かゴライアスガエルだったし、ゴライアスバードイーターっていう掌以上の大きさの蜘蛛タランチュラがいたよね。

 ゴートはそのまま山羊だけど、アントってなんだろう? 蟻のこと? 蟻みたいに真っ黒いとかなのかな。うーん、聞けば聞くほど謎だらけだね。


「あ、それでねせんせえ。ママがね、もしよかったらせんせえもいっしょにいきませんかっていってたの」

「え? 私も? いいのかな私が行っても」

「うん、なんかね、やぎのおうちにせんぷうきをつけるようじもあるんだって。だからせんせえもいるとありがたいってじいじもいってたんだー」

「山羊のおうち? あぁ、厩舎に設置するんだね……?」


 なるほどなんとなくわかってきた。扇風機をつける時に、オーヴィス村の皆さんの不安を解消するための説明をして欲しい、ってことなんだね。そういうことなら参加しないわけにはいかないね。それがきっかけでもっと扇風機が普及すれば、村の収益にもつながるしね。そういうことなら是非協力させていただきましょうか!


「うん、だからね、せんせえもいっしょにいこ!」

「えぇ、わかったわミーム。私も行きますってお母(ジェシー)さんに伝えてくれるかな?」

「やったー! じゃあわたし、そろそろかえるね」

「はい、気をつけて帰るんだよ」


 千切れんばかりに手を振るミームの姿を見送って、さっそく旅の準備にとりかかるべく、寝室へと移動した。

正確に言うと、ゴラ(以下略)より大きい蜘蛛は『ピンクフットゴライアスバードイーター』で、見た目はほぼ変わりませんが、脚の裏がピンク、で見分けるそうです。このお話では、そこまで正確に書いてもしょうがないので、ざっくりとゴライアスバードイーター、としています。

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