第55話 ー 神様とこれの別れ
(……嘘でしょ?)
貴兄ちゃんが、近いうちに過労死する運命にあるって神様が言うんです。確かに今日の貴兄ちゃんの顔色は少し良くなかったのは知ってるんですけど、まだ死ぬような年齢じゃないですよ。
「貴兄ちゃんもまさかの死亡なんですね……。私と違って貴兄ちゃんは健康なのに……人って儚いんですね」
「えぇ、そうね……。でね? 私がアナタの意識に来た理由なんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「アナタは三日後に死んでしまうのは確定しているの。で、だったらアナタを転生させてあげる、って誘いに来たのよ」
「ふむふむ……。それって生き返るってことですか?」
へぇぇ、私生き返るんだ。あ、でも虫とか魚とかそういうのじゃいやですね。嫌いなわけじゃないけど、やっぱり次も人間がいいですね、健康な。
「そう、生き返るの。でもね? 今アナタが生きている世界に転生はできないのよ。だから、別の世界……アナタの世界では『異世界』っていうのかしら。そこに転生することになるんだけど、それでいいのなら生き返らせることができるわ」
「へぇぇ、すごいですね……。じゃあ、そうしようかな……。あ、でも」
異世界だとなんか大変そうですよね。私、如何にもな異世界転生とかあまり興味ないんですよね。だって、とかく異世界の女性キャラって露出がアレなことが多いじゃないですか? あんな格好で街中を歩くとかあり得ないんですけど。とはいえ、そういう露出の多い女の子キャラのイラスト、しょっちゅう描いてたんですけどね。でも自分で着るのはいやです。
「どうせ生き返るのなら、貴兄ちゃんがいる世界で、貴兄ちゃんに会いたいですね。貴兄ちゃんも転生できるんだったら、わたしも同じ世界で生き返りたいです」
「……うーん、ちょっと待ってね。調べてあげる」
そう言って、なんか神様が光る板みたいなのを徐に弄りはじめました。なにしてるんでしょうね。私が使ってたタブレットPCくらいの大きさの板を、難しそうな顔してなにやらタップしたりしてますね。
それにしても、女性の私から見てもすごく綺麗な人……あ、神様でしたね。羨ましいなぁ、綺麗でスタイルもいいなんて、ズルいです。私も見た目は可愛いって貴兄ちゃんにはいつも言われていたけど、なにしろ病人だから、スタイルは全然です。やせっぽちで、ちっとも年頃の女性らしくないんですよね。
なんて、羨望の眼差しを送る私に、神様はこちらに向きなおって言います。
「会えるかどうかはわからないけど、その、貴兄ちゃん? っていう人と同じ世界に転生できるようにしたけど、どうする?」
「っ! ほ、本当ですか!? はい、それならむしろ大歓迎です。というか今死んでもいいです!」
「もちろん今すぐに転生させることもできるんだけど、少しワタシの話を聞いて、それからいろいろ決めましょうか?」
そう言うと、神様はいろんなことを教えてくれました。
前世の記憶をどれだけ持っていくかとか、性別とか、つまり前世の私をどれだけ転生先の私に反映させるか、そんな内容でした。
私はとにかく『健康な体で貴兄ちゃんとずっと仲良く暮らしたい』ことが希望なので、正直それ以外はいりません。貴兄ちゃんにはお世話や心配をかけっぱなしだったから、次の人生は、私が貴兄ちゃんをお世話したり力になってあげたいんです。
なので、私は神様にこんな風にお願いしました。
●名前と年齢は捨てるけど、性別は女性がいい
●私の特技、つまり『絵の上手さ』だけは持って行きたい、他はお任せ
●とにかく病気知らずの健康な体がいい
●できれば貴兄ちゃんの近くに転生したい
●貴兄ちゃんのことは覚えてなくてもいいけど、ある日不意に思い出したい
希望を一通り神様に告げると、どれもオーケーみたいです。あえて『貴兄ちゃんのことは覚えてなくてもいいけど、ある日不意に思い出したい』とお願いしたのは、この方がなんか劇的じゃないですか? 病院生活が長かった私になかったもの、それは『刺激』なんです。だったらこのチャンスを活かして、これ以上ない『劇的』を体験してみたいんです。
しばらく待っていると、神様の準備ができたみたいです。
「準備はできたから、そろそろ転生させるわね、心の準備はできた?」
「はい、もう大丈夫です。いつでもどうぞ」
「うん、じゃあ、頑張ってね!」
『頑張ってね!』って言われて嬉しかったの初めてです。言われて嬉しいのなら、私も言っていいですよね。
「……はい! 頑張ります!」
なんか自分が消えていくような感覚があります。意識も少しずつ薄くなってきました。
でも、死ぬわけじゃないんです。生まれ変わった私、どんなだろう。楽しみだな……。




