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第46話 ー シルフィードのティー

「おはようございます、エイミー様」

「……うーん、おはようシルフィー」


 えっと、今日は……そう、木の日だから予定だと図書館なのだけど、それは中止にして、昨日のアレの続きをしよう。アレとは『バルサミント』のこと。

 一晩かけてシルフィードが頑張って乾燥させてくれた葉っぱをこれから試飲するのだけど、さあ一体どうなってるんでしょうね、楽しみです!


「私はキッチンに戻って準備をしますので、お着替えください」

「了解。じゃあ先に降りて待ってて」

「御意」


 また、寝てる間に私の記憶覗いたなあの娘。「御意」って。色々知識を得たいのはわかるけど、ほどほどにして頂戴ね。変なこと覚えないように。


 パタパタと階段を降りキッチンに入ると、そこは爽やかな香りに満たされていた。その香りを深く鼻で吸い込みながらテーブルに目をやると、葉っぱの小さな山がいくつも置かれていて、よく見ると葉っぱの細断の細かさや色も異なっている。

 粗く細断された乾燥葉をひとつ摘んで匂いを確認してみると、なんとも言えない清涼な香りが鼻孔を通り抜けた。そのまま葉っぱを二本の指で擦ってみると、カサカサと乾いた音がする。うん、どうやら充分乾燥はされているようだね。


「うわぁ、シルフィー随分頑張ったのね、ありがとう」

「恐縮です、エイミー様。ですが、大したことではありません」

「ううん、すごいよシルフィー。で、この山ってどういう風に区分してるの?」

「はい、ではこちらから説明いたします――」


 ここまでの仕事をシルフィードがやっていたとは驚きだった。まず乾燥時間を『高温度で短時間』『中温度で中時間』『低温度で長時間』で検証、葉の細断も『粗・普通・粉末』にして、合計九種の茶葉をシルフィードは用意していた。

 どれも香りが微妙に違うのだけど、いずれも「いい香り」であることは間違いない。あとはこれらをひとつずつ実際に試飲するだけ。


 一通りの茶葉をすべて試したのだけど……正直お腹がタポタポです!


 でもいずれの茶葉も風味・味は違えど美味しいのは間違いない。なにしろ飲み口がとても爽やかで、これは肉料理なんかには相性がいいんじゃないかな。

 これなら白狼亭で商品として出しても大丈夫だよ、きっと。


「シルフィー! これ、どれも美味しいよ。お手柄だね」

「恐縮です。エイミー様」

「でね? 乾燥時間なんだけど、どのくらいかかったのかしら。数時間とかだと大変よね、作るのが」

「いえ、そこまで時間はかかっていません。それぞれ15分・30分・45分です」

「……え? たったそれだけ?」

「はい」


 もうね、すごすぎて突っ込む気も起きない。もう先生辞めてお茶屋さんになっちゃおうかな。それくらいにこのお茶は美味しかった。

 仮に白狼亭でこのお茶を出すことになったら、名前とか決めておいた方がいいのかなと、あれやこれやと葉の山を眺めながら思案する。

 バルサミントティーだと、なんか長いよね。ミントティーだと普通すぎるし、バルサティーだとなんかお堅い雰囲気だよねぇ……。


 名前はさて置き、バルサミントって今の時期はたくさん自生してるみたいだけど、寒い時期でも生えてるものなのかな。白狼亭で出すことになるのであれば、通年で確保できないと、だよねぇ。


 と、考えていると、私の思考を読んでいたらしいシルフィードが、ほんのちょっとだけ得意げな顔を浮かべて教えてくれた。


「エイミー様。この植物ですが、寒くなったら収穫量は減りますが、そのぶん収穫場所を増やせば充分な量は確保できると思います」

「へえぇ、そうなんだ。でもその収穫場所を探すのが大変そうだけど」

「いえ、もうすでに深夜のうちに調査済で、収穫場所も問題ありません」

「え? この葉っぱの乾燥もさせて、そのうえそんなことまでしてたの?」

「はい、こういうことも想定されましたので、独断先行で調査いたしました。許可を得ずに動いてしまい、申し訳ありません」


 ううん、大丈夫だよ、むしろ謝るのは私の方だよ。ただの思いつきなのにここまで私を手伝ってくれたんだもの。だから感謝しかないよ。こんなに一生懸命なこの娘(シルフィード)にしてあげられることってなにかないかな。


  ……あ、そうだ。このお茶の名前『シルティー』にしよう。これだけシルフィードが頑張ってくれたんだもの、名前にして残してあげたいな。


「ねぇシルフィー。このお茶の名前なんだけど」

「名前、ですか……。緑茶グリーンティーではだめなのですか? 色も緑ですし」

「うーん、それだとこの世界の人には馴染みがないと思うのよね。私も考えたんだけど、『シルティー』って名前がいいかなって。どう思う?」

「どこか私の名前に似ていますが、どういう意味でしょうか?」


 シルフィードの頑張りを褒めてあげたあと、名前の由来なんかを一通り話すとシルフィードの羽衣がふるふると震えている。どうやら嬉しいみたい。これで明日、白狼亭に持って行っても名無しのお茶じゃなくなるね、よかったよかった。


「……なるほど、シルフィードのティーを略した名前なのですね」

「そうそう、だから『シルティー』。いい名前だと思わない?」

「……私のことを労っていただいたうえでのこの名前、私も大変嬉しいです……………………『しるティー』、いい名前だと思います」

「こらこら誤字しないの。『しるティー』じゃ美味しく聞こえないでしょ」


 私、最近すっかり忘れてたけど元校正士だからね。そこらへんはこれからもちゃんと突っ込んでいくからねシルフィー!

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