第43話 ー チャクラム射出
「さてと……、どこから手をつけていこうかな」
ぐるっと辺りを360度見回すと、膝ほどにまで伸びたイネ科であろう植物が裏庭の半分ほどを占拠、あとはいくつか見慣れない植物が、まるで裏庭を舞台にして陣地を奪い合うように群生している。
時間があればこれはなんという植物で、とか調べたいのだけど、この世界には植物図鑑なんてないんだろうな。あったとしてもアレだから余計にわからなくなりそうだけど。
あれこれ考えても仕方がないので、さっそく作業に取り掛かる。まずはイネ科を刈り取ろうかな。その場にしゃがんでシルフィードに後ろ手を伸ばす。
「シルフィー、鎌ちょうだい」
「……エイミー様。お気をつけてください。イネ科の葉は肌を切る恐れもありますのでご注意を」
「了解了解。手袋してるし大丈夫よ」
「いえ、それはそうですが、綺麗なお顔に傷がついては大変です」
……あら? なにこの娘、私のこと心配とかするようになったのね。
ちょっと揶揄ってみようかな。もちろんジト目のオプション付きで。
「へぇ〜、シルフィー、私のこと心配してくれるんだぁ〜?」
「もちろんです。エイミー様あっての私ですから。エイミー様がいませんと、所有者不明で回収されてしまいます」
「そっか、わかったわ。でも、心配してくれてありがとう」
あくまで私は商品ですと言わんばかりの模範解答だけど、犬の尻尾みたいに羽衣がブンブンしてるよ。私はそんなんじゃ誤魔化せないからね! というかどこに回収されるのよ……。
「はい、エイミー様。では、くれぐれもご注意を」
「はいはい了解。じゃあさっさと刈りましょうか」
ザクザクっと手際よく草丈の高いものから刈り進める。鎌を入れるたび、独特の緑の匂いが鼻腔をくすぐる。この匂い好きだけど、雑草を放置するのもよくないから、綺麗に刈り取らなくちゃね。虫が湧いたら子供達にも悪いかもだし。
刈り取った雑草は、その場に置いておけばシルフィードが風で隅に纏めて積んでくれるから、これなら意外と早く終わるかも。
ひたすら刈り進めると、イネ科群生地帯は制圧完了! この暑いなか、こんなに長い時間動いても汗をほとんどかかないのは、シルフィードが常に私を冷やしてくれるからなのだけど、冷やしながらも刈り取った雑草を風で綺麗に纏めてくれる。うんうん、これが『マルチタスク』の恩恵だね。いいタイミングでアップデートしてくれたものです!
「あ、そろそろお昼だね。ひとまず休憩にしようか?」
「了解しましたエイミー様」
―――――――――――――――――
「思った以上に早く終わるかもね。これもシルフィーがいたからだね、ありがとうシルフィー」
「恐縮です」
キッチンに戻って水分補給と届けてもらった食事を摂りながら、シルフィードと午後の作業の確認をする。
ちなみに、私は食事を自分で作らない。というのも、勉強の月謝をかなり安めにしたせいか、それでは申し訳ないと、親御さんたちが毎日昼食と夕食を無償で届けてくれるから。まぁこれも設定がそうなっているから、なのだけど。
おかげで食費はほぼゼロ(白狼亭のカレーと日頃飲むコーヒーと紅茶、おやつなんかは自腹)だし、家も土地ごと購入してるうえに、光熱費は魔導詩があるからここにもお金はかからない。これから訪れる冬の寒さも、シルフィードがいるから暖炉の薪も不要だと思う。なので意外と私は貯蓄がある。まぁこの世界で私は特に贅沢しようとか全く思っていないから、日々穏やかに楽しく過ごせるくらいの稼ぎがあれば丁度いい。
それはそれとして。お腹も満たされたし、そろそろ草刈り再開しましょう!
「残りは奥の方だけど、このぶんならのんびりやっても夕方には終わりそうね」
「いえ、もう少し早く終わるかと思います、エイミー様」
「え? そうかなぁ。結構まだ残ってると思うんだけど」
「大丈夫です、問題ありません」
えー……。シルフィーは指先でちょっちょっとやれば自分の担当は終わるんだろうけど、私はずっとしゃがんでザクザクするんだよ。結構腰にくるんだよこういうの。
ぷーっと頰を膨らましても、なんのことやらといった表情を浮かべるシルフィード。はいはい、私が頑張ればいいんですよね。
あ、そういえば……。
「ねぇシルフィー。今朝『チャクラム』は実際に見てもらった方がいいって言ってたけど、結局あれってなんだったの?」
「申し訳ありません、その……お見せするのを失念していました。では、このあと裏庭で見ていただいて、運用の許可をしていただければと」
「許可? そんなの必要なのね」
「はい、そうしていただければ」
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午後になると日差しも強くなってくるので、一応麦わら帽子をかぶって裏庭に向かう。それにしても『許可』か……。なんだろう。
「じゃあシルフィー。その『チャクラム』っていうの? 見せてくれる?」
「了解しました。では、準備いたします」
そう言うと、辺りをきょろきょろと見回すシルフィード。なんかやましいことでもあるのしらと、私にも少し緊張が走る。……すると。
「あーっ!? ちょ、ちょっと待って大丈夫!?』
「はい、周辺にエイミー様以外の人間がいないことは確認済です」
普段、シルフィードは【セミステルスモード】で過ごさせていて、この状態だとシルフィードの姿は半透明なのだけれど、一瞬で半透明を解除して、【ノーマルモード】に移行したのだ。驚く私とは対照的に、シルフィードにはどこにも慌てる様子はなかった。
「『チャクラム』ってノーマルモードじゃないとできないの?」
「はい、そういう仕様なのです」
「そっか、なら仕方ないね。じゃあ『チャクラム』とやらを見せて?」
「了解しました」
それまでのやわらかい表情のシルフィードが、キリッとした表情に変化する。
一体なにが起こるのかと見守っていると、両手を少し上げて掌を上向きにかざす。すると、それまで手首にあった風の渦の直径が広がり手首から抜けて、掌5cm上で静止した。ゆっくりと回転して浮かぶ二つのそれは、徐々に回転を早め、板状に薄く変形、そしてそれはギーンギーンと金属音を発し……なくて、シルフィードが自分で言っていた。いちいちやることが可愛い。
「チャクラム射出」
シルフィードがそう呟いた刹那。
目の前に広がっていた雑草が一気に丸坊主に刈られている。地面スレスレで刈られているようで、地面にはわずかな茎も残されていなかった。何が起こったのかまったく理解できない。まばたきする間もなくという言葉通りに、その現象を目で追えなかったのだ。
「ちょっ! 何が起きたのこれ?」
「はい、では説明しながらもう一度射出いたします」
……はい、よろしくお願いします。




