第39話 ー 改めましてエイミー様
「はい? 『ボイスメールマガジン』? なにそれ?」
「オキキニナリマスカ?」
「あ、そこは事務的なんだね」
これじゃあシルフィードは、ただの『お知らせボイス機能付高性能エアコン』だよねぇ。せっかく人型で、しかも可愛らしいのに。
「オキキニナリマスカ?」
「えぇ、じゃあ聞かせてくれる?」
そう言うと、やっぱり事務的な抑揚のない声で話し出した、というか読み上げた、になるのかな。
「キノウパッチ『インテリジェンスエーアイ』ガツイカサレマス。トリアツカイセツメイショノショメイヲコウシンシテクダサイ」
「え? キノウパッチ? あー、『機能パッチ』ね。トリアツカイセツメイショノショメイヲコウシン? 何それ?」
「トリアツカイセツメイショノショメイヲコウシンシテクダサイ」
「えっと……、それって拒否権ないのかな?」
「トリアツカイセツメイショノショメイヲコウシンシテクダサイ」
事務的口調を崩さないまま、やがてシルフィードの胸元が発光し始めた。かと思うと、ビキニトップの中をまさぐって『風の魔導詩ver.02』をこちらに差し出してくる。なにすればいいの? というか胸のどこにしまってたの? 私机の上に置いてたんだけどそれ。
シルフィードは『風の魔導詩ver.02』の署名欄を指差す。
あ、そういうことね。署名欄の私の名前を書き直せばいいんだね。
じゃあ魔導ペンを出して、っと。ちなみにこの魔導ペン、書くのも自由自在なのだけど、実は消すことも自由自在で、サッとなぞるだけで一瞬に消したい箇所が跡形なく消せるのだ。前世では『修正液』があったけど、この場合は『消去液』みたいな感じ。
署名欄の名前を消して署名し直すと、『風の魔導詩ver.02』は自動で丸まってふわっと浮き上がり、シルフィードのビキニトップの中に帰っていった。だから胸のどこにしまったの?
と、目線を胸元に奪われていた私に、シルフィードは改って喋り始めた。
「……改めましてエイミー様。『生活向上人型精霊シリーズ01 風の精霊シルフィード』と申します。この度は当社製品をお買い上げいただきありがとうございます」
おおっ! これが『インテリジェンスAI』ってこと? ちゃんと口調に抑揚があるじゃない。声もさらに可愛らしくなってるし。あ、でもね、買ってないから。なに当社製品って。
「『インテリジェンスAI』って、察するに普通に会話できるようになる、って解釈でいいのかしら?」
「はい、その解釈で概ね合っております」
うん、人と会話してる感じにはなったけど、まだ堅い。
「えっと、あのねシルフィード。もうちょっとこう、なんというのかな、砕けた口調にならないものかな? 砕けた口調ってわかる?」
「砕けた口調というのはご家族やご友人と話すような、ということでしょうか」
「うん、そうそう。だから、私のことはエイミーさんとかエイミーちゃんとか、そういう風に呼べない?」
「……さすがにそれはどうかと考えます。本製品としては、『エイミー様』とお呼びするのが最大限の譲歩、つまり仕様になります」
「そっか……。それじゃあ仕方ないね。それでいいよ」
「畏まりました」
うーん、まだ固いね。畏まりましたっていうのが特に。
「私もこれからはあなたのこと『シルフィー』って呼ぶわね。でね、少し質問したいのだけど、あなたって今姿が見えてるじゃない? それ、他の人には見えてるの?」
「はい。今は『ノーマルモード』に設定されております」
「ノーマルモード? あぁ……。あれね」
そうだ、これも書いてたね。
【ノーマルモード】誰でも視認可能な状態です。
【セミステルスモード】お客様にのみ視認可能な状態です。
【ステルスモード】誰にも視認不可能な状態です。
これらのモードを、お客様の必要に応じて、お好みの状態へ瞬時に変更することが可能です。
なぜわざわざこんな設定を書いたかというと、自分だけ見えるとか、中二病っぽくてよくない? と、思ったからだった。まぁこの世界からしたら常識を覆すような存在を隠せるように、一応設定しておこうかな? という気持ちが一番なのだけど。
「じゃあ、誰かいきなり来ても困るから、試しに【ステル――」
言い終わる前にすっと消えてしまうシルフィード。
「あ、あれ? シルフィー? どこにいるの?」
「エイミー様から見て7時方向、距離1.5m先にいます」
「だって、今【ステル】しか私言ってないわよ?」
「はい。本製品は、エイミー様の思考を読み取り行動することが可能です」
「つまりテレパシーみたいなものなのかな……じゃあ音声会話って必要ないんじゃないの?」
と聞くと、シルフィーの声が頭の中に響く。
(インテリジェンスAIにより、音声会話も必要と判断したうえで、本製品は状況に応じて意思疎通方法を自動で選択いたします)
うん、確かに授業中に「温度24度に変更」とか口に出して言えないものね。便利だねシルフィード。便利なんだけど、音声会話も必要ってどういうことだろう。
「本製品は、音声と思考読み取りを併用することで、より豊かなコミュニケーションが行えると考えております」
あー、つまり電話は便利だけど直接会って対面で会話することも重要、みたいなことなのかな……。友達とか家族みたいなつながり? だったらボッチな私にはぴったりじゃない!
……ちょっと自分で言って悲しくなってきた。
「あ、あのねシルフィー。さっきからあなた、自分のこと『本製品』って言ってるじゃない? これも変更できるのよね?」
「はい。エイミー様が望めば本製品はいつでも呼称変更が可能です」
「なんか機械と話してるみたいだから……そうね、普通に『私』でどう?」
「承知しました。では以降本製品の呼称はエイミー様により『私』に変更されました」
「うんうん、そうだね。その方が私も気楽でいいわ」
あれ? 『畏まりました』が『承知しました』に変わってる? これがインテリジェンスAIの機能なのかな。ということは……。
「シルフィーの言葉遣いも、私との会話で口調が変わっていったりする?」
「はい。それは常に学習していますので、ある程度はエイミー様が望む口調に変更……いえ、変化していくと思われます」
「へぇぇ、凄いんだね。なんか楽しみ。友達みたいにお話しできるんだね」
「いえ、さすがにそこまでは無理かと。例えば『エイミー様』が『エイミーちゃん』にはならないのです。つまり『主従の関係は壊れない』程度にしか口調は変わりません」
一応、立場というかそういうものは弁えてるってことなのかな。つまりそれも仕様ってことね。でもせっかくここまで会話できるんだから、例えば冗談を言い合えるような関係にはなりたいな。だって可愛いんだもの。私が生みの親なんだから。
最初はどうかと思ったけど、これなら大成功だよね、肝心の会話もインテリジェンスなんとやらでどうにかなりそうだし。
ということで、私が書いた『風の魔導詩ver.02』、こっそりお見せします!
あ、特に変わったことは書いてませんよ、だって『取扱説明書』ですから。




