第31話 ー 商品レベルの竹とんぼ
翌朝。
昨夜うちに来た会議のメンバーと、それに加えてさらに何人かの職人さんたちが意気揚々とやって来た。よく見ると、デニスさんの手にはすでに出来上がった扇風機が抱えられている。ついでにそれを見てニコニコしてるミーム。
「……もうできたんですか?」
「当たり前だろう、こういうのはな、『善は急げ』なんだよ」
「それはそうですが……ピートさん、それにしても早すぎですよね?」
「エイミー先生、我々の仕事は、実は早いんですよ」
ジャンさんがいつもの冷静な面立ちとは違う誇らしげな顔で言う。皆さんの仕事が早くて綺麗なのは私も重々知っているのだけど、昨日の今日、しかもまだ朝10時を回ったくらいだよ? 皆さんちゃんと寝たのかな?
信じられないといった顔の私にデニスさんは、どうだとばかりに扇風機を私に見せる。
えーっと、これもはや試作レベルじゃないんですけど。明らかに商品レベルですよね? しかも三枚羽って提案したのに五枚羽になってるし。そのうえ羽はもちろん軸まですべてハカランダ製だから、もうこれ家具ですよね?
よーく見ると、羽の一枚には小さくトムさんの似顔絵が装飾彫りされてるし。これジャンさんでしょ彫ったの? どうりで誇らしげなわけだね。
「あの後、すぐに竹で小さい模型をいくつか作ってみたら、これが一番良さそうだったんでな、先生の提案を無視して五枚羽にしちまった、悪いな」
ザックさんは少し申しわけなさそうに言うけど、私はこういうのは専門外だし、なによりあれだけ高く飛ぶ竹とんぼをあっさりと作るザックさんの設計なのだから、問題なんかあるわけもないし、正直これは嬉しい誤算ですよ!
「よし、じゃあ早速設置しちまうか? 先生、邪魔するぜ。行くぞお前ら!」
「「「「「「「「おー!」」」」」」」」
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それから20分後。
滞りなく設置が完了し、最後に私が適切であろう場所に『風の魔導詩』を巻きつけた。
肝心の『風の魔導詩』の文章は、先日すでに書いて我が家で使用中の、火・水の魔導詩と同様の文脈で、
『風よ 我に従い 吹き抜けよ』
にした。もちろんそのフォントも、熟考を重ねて、
『LM-OKL・横書き・緑文字』
で、決定。やっぱりプレーンな明朝体はとても綺麗で読みやすいし、風のイメージならこれ、と最初から決めていたのだ。ちなみにこれは、皆さんが帰っていったあとにすぐ書いたもので、悩むことなく一発で書き上げましたよ。さらに、教室の竹とんぼでも軽く動作確認していたので、ノントラブルも確認済。なのでこちらの準備は万端だったのです!
「では実験しますけど、どなたかやってみたいという方、いますか?」
はい、皆さん後ずさりしてるね。これも想定内ですよ。じゃあ私がやりますと告げて、天井から吊り下がる扇風機の真下に立つ。まぁ実は真下じゃなくてもある程度の距離ならどこでも作動するのだけど。
周りに立つ皆さんをぐるっと見回すと、全員息を飲んで今か今かと待っている。よし、では始めましょうか。
「風よ吹け」
本当は、声に出さなくてもきちんと作動するのも確認済なのだけど、最初はわかりやすく声を出して作動させた。
すぐにゆっくりと五枚の羽は回転運動を始め、風を切る。とはいえまだ皆さん少し、いや、かなり警戒されてるようなので、実際は微風程度の回転をイメージして回してみた。いきなり強い風だとびっくりさせてしまうからね。
安全であることを確認してもらったあと、今度は皆さんにも実際に試してもらった。念のため、『自分の望む風量をイメージして手をかざしてみてください』と一言添えるのも忘れませんでしたよ。じゃないと、万が一暴走しちゃうと色々と拙いですから。それでも皆さん、いざ自分で試すとなると及び腰になったのだけど、まぁこれは慣れてもらうしかないし、そもそも暴走なんてしません!
さて全員での動作確認が終わり、安全運用ができるのがわかると。
……あれ? なんか皆さん見たことのない表情なんですけど。なんかお気に召さなかったのかな? ジャンさんは扇風機を見たまま微動だにしないし、ザックさんは口が開きっぱなし、デニスさんは俯いたままだし、ピートさんに至っては両の拳を握ったままわなわな震えてる。大きな体と相まって、もうめっちゃ怖いんですけど!
(えぇぇ、なんかやっちゃったかな? どうしようどうしよう!)
LM-OKLとは、細明朝オールドスタイル大かなのことで、ライトミンチョウオールドカナラージ、ですね。なので、太い明朝でかながニュースタイル、で小かなになると、BM-NKSになります。このフォントのシリーズは字形が非常に美しく、個人的にはどのメーカーの明朝フォントより好きです。早くデジタル化してほしいものです。待ってますよ写○さん!




