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第30話 ー 大きな竹とんぼ

 もうこれしかないでしょう!? というくらいの勢いで、指を立てながら職人さんたちに言った。


「竹とんぼ、作りましょう!」

「「「「……は?」」」」


 ですよね、そうなりますよね。ではでは説明いたしましょう!


 私は席を立ち、黒板に竹とんぼをサッと書いた。実は私、文字を書くのはうまいけど、絵を描くのはそんなに上手じゃない。まぁそれはさて置き。


「えっと、まず、大きな竹とんぼを作る、と考えてください。そうですね、大きさは一つの羽の長さは70cm、くらいを想像してください。竹とんぼの羽は二枚ですが、今回作るものは三枚羽にします。あと、そんなに大きな竹はないと思いますので、素材は木材が良いかと。木材を何にするのかは――」


 木材、と私が発言した途端、これはとジャンさんが挙手する。


「では、それならいくつかの素材で試作して、良さそうな木材を決める、でよいかと」

「そうだな、じゃあ各工房で違う木材で試作することにしよう」

「じゃあ、うちはハカランダの在庫がまだあるから――」

「いやいや、回転させるなら軽めの材が――」


 方向性が決まると途端に皆さん職人モードにチェンジ、あれやこれやと話が進んでいくのだけど、こういう話になると皆さん顔がとても真剣で、さすが職人さん、と言うほかない。こうなってしまうと私には入る余地はないし、お任せするしかないのでしばらく静観することにしたのだけど――


 あれ? でも私、大きな竹とんぼを作る、とは言ったけど、意図を理解してるのかな? ではこの隙に、私は黒板に詳細な図でも書いておきますかね。


 ようするにやりたいことは、『扇風機を作る』だ。


 この世界には団扇うちわはあるけど電気を必要とする扇風機はない。だったら作っちゃえばいい。ただ、前世で私も使っていた、一般家庭にあるような普通の扇風機では作業の邪魔になると思うので、今回作るのは、オシャレなカフェとかバーで見るような『シーリングファン』、つまり天井から吊り下げる扇風機アレを想定した。


 そして肝心の動力なのだけど、それはもちろん私の『風の魔導詩』!


 大きな竹とんぼを作る目的や設置場所などをざっと話してから、最後に声高々に皆さんにそれを伝えると、ピートさんはそれまでとは違う強張った面立ちに変わる。


「い、いや、先生、さすがにそれは拙いだろ。先生の魔導詩がすごいのは知ってるけどよ。ほら、その……」


 ……あー、そうなりますよね。この前の大惨事ですよね。えぇ、私もあれはちょっとやり過ぎたと反省してます。修理に来た皆さん、唖然としてたもんね。というか神様がちゃんと警告してくれればよかったのだけど。


 ちなみにどのくらいの被害が教室に及んだかというと、足が折れた長机一脚、椅子が三脚、剥がれかけて浮いてしまった床が二箇所。カーテンレールに至っては完全に取れてしまった……ってこれだけの被害なら職人さんたちの腰が引けてしまうのも無理ないか。

 今はここにいない議題の主、トムさんも「一体何があったんだ? まるで台風が去ったあとみたいじゃないか」と言っていたけど、「実は『風の魔導詩』が暴走して……」と返したら結構ドン引きされたから、ピートさんの「それは拙いだろ」も当然だよね。


「えーっと、あれは私のミスであぁなってしまったので……。今回の『風の魔導詩』は慎重に書きますし、文章もちゃんと考えてあるので、そこは私を信じてください、としか今は言えません……」


 皆さん、うーんと首を捻ったり、目を瞑って上を向いたまま動かなくなったりしている。このままでは先に進まないので、続けて私の考えを話した。ちなみにこうなるのは私は想定内でしたよ。


「で、ではこうしましょう。まずはひとつ作ってもらって、この教室に設置して試しましょう。それで皆さんには安全の確認をしていただいて、そのあとにトムさんの工房に設置、というようにしたらどうでしょうか?」

「先生がそれでよければ俺たちは構わないんだが……お前たち、どうだ?」


 ピートさん、本当はまだ懐疑的なようで、他の皆さんに伺うように見回して言う。それはそうだよね、今までこの世界になかった扇風機という未知の物体を、しかも私の『風の魔導詩(大惨事の元凶)』で動かすのだから、それは懐疑的になるのも当然なわけで。

 

「僕はそれがいいと思います。たとえ失敗しても、また考えればいいんですし。せっかく先生もこう仰ってくださってるので」


 さすがジャンさん、この人なにげに話をまとめるのが上手だよね。他の職人さんたちよりも年下だけど、そのぶん頭が柔軟なのかな。ジャンさんは普段、木肖像という芸術性の高いものを作っているから、新しいものにも敏感なのかもね。


「……そうだな、ここでウダウダしてるより、まずは作っちまえ、ってか?」

「あぁそうだ。今回は竹を使わんようだから、俺はもう少し羽の角度や形状なんかを練り直すとするか!」


 デニスさんザックさんもどうやら賛成してくれてるみたいだね。ではでは。


「よし、じゃあ今日はここまでにして、それぞれ作業に移るとしよう! 先生には悪いんだが、『風の魔導詩』だったか? それを用意しといてくれ」

「もちろんですよピートさん。それならすぐにでもご用意できますので、そこはお任せください! 私もですけど皆さん、作業はもちろん安全第一ですよ?」

「言われなくても俺たちは職人だぜ? そこんところはよーく理解してるさ。ま、俺はもう引退してるけどな!」

「えー? 村長そんなこと言って、もう目が作る気満々じゃないですか?」

「ば、馬鹿野郎、そんなことな……くもねぇな。ハハッ、実はちょっとうずうずしてるな」

「「「さすが村長(親バカ)……」」」


 うわー、ごつい男性(ジャンさん除く)のジト目って初めて見たけどこんななんだね。


「ち、違うぞお前ら勘違いするなよ俺はミーム(可愛い孫)のためにって思ってるだけだ全くなに言ってやがるんだトム(息子)なんざそこらに転がしておけば――」


 あぁ、ピートさんもう顔真っ赤だから皆さんその辺でやめてあげて!

 

しょうがない、ここは勉強の時みたいに――


「はい! 皆さん会議は終了です! それぞれのご担当、よろしくお願いします!」


 教壇で普段子供達にやるように、掌をパン! と叩いて会議を終了させる。

 

職人さんたちはあれやこれやを話しながら帰って行った。なんかいたずらを企んでるみたいな顔で、なんだか可愛いな。というか男の顔を見て『可愛い』って思う私は、もう女性そのものじゃないか。


 さて、それはそれとして。


 私も『風の魔導詩』、準備しましょうか!

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