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第26話 ー 勉強の時間です!

「今日も暑くなりそうね……」


 この世界に来て早二ヶ月。来た当初の心地良い季節が過ぎ、どうやら暑い季節――前世でいうところの夏――が訪れているようだ。


 今は水の日の朝。今日は子供達の授業がある日だから、少し早めに起きて庭に作った花壇に水をやっている。前世では花はそれほど興味がなかったのだけど、家の庭があまりにも寂しいのもあって、ご近所さんからいただいていた花の種を蒔いて育てている。いただいたのもそうだけど、おそらくは『性別が変わったことで趣味嗜好が女性らしくなった』ことが大きいと思う。花っていいよね。


(たったの二ヶ月なのに色々あったよね……)


 まだかろうじて爽やかと感じる朝の日差しに照らされながら、いろいろと思い起こす。


 転生してきたこと、白狼亭のこと、図書館のこと、そしてあの『風の魔導詩(大惨事)』のこと……。本当にいろいろなことがあった。


 ちなみにあれから『風の魔導詩』のことはさて置いていた。やっていたのは主に家の中にあったいくつかの粗悪な魔導詩の書き直しという名の校正で、蛇口に巻かれていた元々の水の魔導詩『水 てろ』を『水よ 我に従い 流れ出よ』と書き直して、水量調節できるようにしたり、コンロに貼ってあった火の魔導詩も『炎よ 我に従い 燃えさかれ』に書き直して火力調整できるようにしたり。

 それ以外にも、街に出かけて生活雑貨の買い足しとか勉強の方針を考えたりとか。つまり『この世界に存在する私』としての忙しさが、『風の魔導詩』に優っていたのだ。


 でも、魔導詩に関してちょっとした発見があった。水の魔導詩でそれは分かったのだけど、「水って流れるものだよね」と思いつき、実験のために二枚の魔導詩を用意してみた。


 ひとつは『教科書体で横書き・黒文字』

 もうひとつは『スクリプト体で縦書き・水色文字』


 書いた文章は同じにしたのだけど、結果は明らかに『スクリプト体で縦書き』の方が良かった。水量は変わらなかったが、『スクリプト体で縦書き』の方が綺麗にまっすぐ流れ出たのだ。それだけならまだしも、水の味自体も美味しくなったのだった。なめらかで柔らかい味わい、まさに前世で飲んでいたミネラルウォーターそのもの。これは面白いといろいろ試行錯誤の末、火の魔導詩は、


『ゴシック体(B)で横書き・赤文字』


 が一番効果があることがわかった。こんなことをやっていたので、『風の魔導詩』のことはすっかり後回しにしていた。

 決して忘れていたわけではなく、あれこれと考えてはいたのだけど、『使用方法が思いつかない』という大きな壁が手を鈍らせて、未だ手付かずでいる。


 花壇の半分ほど水を撒くと、ぽつりぽつりと子供《生徒》達が姿を見せはじめる。背中から聞こえてくる挨拶はいつもの通り、


「せんせえおはよ〜」

「はい、おはよう」


 今日も一番乗りはミーム。ミームの家は私の家から一番近いから当然だと思うけど、彼女は授業30分前には必ず来て、自主的に私の家のことを手伝ってくれている。「教室で予習してていいのよ?」といつも私は言うのだけど、「せんせえとあそぶの楽しいもん!」と言っては教室の掃除や水撒きなんかを手伝ってくれる。なるほど彼女にとっては『遊び感覚』なんだね。


「あーっ! せんせえこっちにつぼみができてるよぉ〜!」

「あら、本当ね。ミームがいっぱいお世話してくれたからだね」

「そうかなぁ〜」


 少し恥ずかしそうにモジモジするミーム、可愛いね。


「そうだよ、ミームのおかげよ、ありがとう」

「うん!」


 年は離れているけど、妹がいたらこんな感じなのかな。そんなことを思いながら私は水を撒き、そばに居るミームは小さな手で雑草むしり。そしてまた背中に向かって元気いっぱいの挨拶が飛んでくる。


「「先生おっはよーー!」」

「ノエル、リアム、おはよう」


 見事にシンクロした挨拶をするのは双子の兄弟、ノエルとリアム。この村一番の腕利き工務店『クーパー工房』の子供達だ。二人の父親である若棟梁のデニスさんは、『名は体を表す』を地でいくような恰幅のいい元気な人で、私の家もデニスさん渾身の一作だったりする。それにしてもなんで工務店なのに『クーパー』なんだろう? 元々タルを作ってたのかな? それとも体型?


「「先教室行ってるね! 外暑いんだもん!」」


 ほんとノエルとリアムは息ぴったりだね。よく喧嘩もしてるけど。

 二人はあっという間に教室へ向かって走り出した。


「せんせえもう草むしりおわっちゃった〜」

「そっか。じゃあ教室に行きましょうか? 外は暑いから」

「うん! わかったー」

「ちゃんと手を洗ってから教室に行くのよー」

「はーい!」


 授業がなければ日陰で涼みながらのんびりお茶でも、と言いたいところだけど、今日はこれから勉強なのだ。

 

 タオルで汗をさっと拭って、肩掛けの水筒をカタカタ鳴らしながら教室へ向かうミームの背中を追うように私も教室へ向かった。


 今日も張り切って、勉強の時間です!

『スクリプト体』は、本来欧文フォントなので、縦書きには使用しないのですが、そこは『お話』だから、というふうに解釈していただければ。ゴシック(B)の『(B)』は、ボールド。フォントによっては複数の太さ(ファミリーといいます)があり、ELエクストラライトUウルトラまで用意されているものもあります。

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