第25話 ー 風には気をつけてね
……はい、現場のエイミー・ライトウェルです。今、私は台風により甚大な被害を受けた、ここハラカンダ村の民家にお邪魔しています。かつてない規模の台風だったことは、目の前に起きている惨状をみるだけでありありと分かります。では住人の方にインタビューしたいと思います。
「……神様。こうなること知ってて端っこにいたでしょ?」
「ソンナコトナイデスヨ」
明後日の方を向いた神様が、ギギギギギと油の切れた工業機械のような音を首から鳴らすが如くこちらを振り向いて答える。うん絶対知ってたねこれ。
「こうなることわかってたんですよね!?」
語気を荒げて神様に詰め寄る。知ってたなら普通止めるでしょ。普通止めるよね、私が神様なら止めるもの絶対。というかこの惨状、どうしたらいいの。
「えーっと……えぇ分かってたわよ。黙っててごめんさない」
「おかげでこんな有様じゃない!」
自分でも驚くほどの怒りをぶつける私。そもそも前から神様には少しイラっときてたこともあったから、ここぞとばかりに言いたいことを言ってやろう。
奥歯をギリリと噛み締めて、次に何を言ってやろうかと言葉を探していると、
「……そうね。酷いことをしたと思ってるわ。ごめんなさいね」
この台詞は正直意外だった。明らかに『いつもの神様の調子』じゃないのだ。心底申し訳ないといった佇まいを見せる神様は続ける。
「……言い方は悪いんだけど、キミには『失敗』してほしかったの」
(……え? どういうこと?)
「もう何度となく言ってるはずだけどキミが書いたら必ず『魔導詩』になってしまう。しかも効果も絶大になってしまうの。だからこそキミには失敗してほしかった。だって、キミもわかったでしょ? とても危険だって。だからね、これからは慎重に間違えのないようにしてほしいの。幸いこの世界には大きな争いもないし魔物もいない。だとすると、いき過ぎた効果の『魔導詩』は必要ない……でしょ?」
確かに神様の言うことは正しい。こんな危険な力を持つ魔導詩を簡単に書けるなんておかしいし、ただの『少し勉強ができる小娘』には過ぎた能力なのだ。要するに神様は、私にある種の警告をしてくれた、と、そう解釈することにした。したけどどうも納得がいかない。というか大きな争いも魔物もいないんだ。つまんないの(不謹慎)
「言いたいことはわかったけど、だったら初めから言ってくれればよかったじゃないですか?」
「そこはほら、えーっと……『習うより慣れろ』って言うでしょ?」
「ヨクソンナコトバシッテマシタネ」
「まぁキミ自身には怪我もなかったし、良かったじゃない?」
私は無傷だけど、教室がもう重症患者なんですが。というか反省してるのかな神様。部屋の惨状など意に介さないような言い草だし。
そして神様は部屋の様子をぐるっと見回して、
「ちなみにね、この『風の魔導詩』、本当はもっと威力があったんだけど、私がどうにか抑え込んでいたからこれで済んでるんだからね」
「えー……、ちなみにお聞きしますけど。抑えなければどうなってたんですか?」
「数秒で家全部持ってかれてたわね」
「えぇ……」
その言葉は私に戦慄という、この世界で味わう初の感情を叩きつける。使い方ひとつで便利にはなる。しかしながらそれが過ぎた効果になるのなら、それは『危険極まりない』し、下手したらこの世界から排除、つまり魔女狩りされて処刑まであるんじゃないか。私はそんな目的でこの世界に来た――というより飛ばされた――わけじゃない。
この世界に来てたったの三週間。ではあるけれど、自分にとっては濃密な時間で、思うところもあった。それは――。
言い方は適切じゃないかもだけど、私は『この世界でエイミー・ライトウェルという女の子を演じる』ために来たのだ、と。この世界には不釣り合いの『闖入者』を優しく迎えてくれたこの世界で、穏やかに暮らしたいのだ。
だから私は演じたい。村人や慕ってくれる子供達、友人のダフィー、そしてこれから先の出会いや出来事のために。
この世界の『モブ』で私は充分だ。世界を救うなんて大層なことも考えていないし、それ以前にこの世界は大きな争いもないのだ。だからこのまま穏やかに暮らしたいのだ。
「でも、キミにはこれからも『魔導詩』を書き続けてほしいの。何も大袈裟な効果じゃなくていいの。つまりね、この世界を少しだけ幸せにしてほしいのよ」
「そうですね、私も『ここがこうなら便利なのにな』ってところがいくつかあるから、まずはそこからのんびりやろうかなって思ってます」
「うんうん、自分のペースが一番よ。でも、風には気をつけてね(ププ)」
「っ! ちょ、な、なんなのよもう!」
せっかくいい話で纏めようと思ってたのに、話の腰バッキバキに折っちゃったよ神様。




